#マーケティング #広告 #顧客価値
今回は、アメリカの大手銀行が広告メディア事業に新たに参入したという事例を取り上げます。
既存の事業資産を活用し、いかにして新規サービスの強みに変えるかを事例から解説します。
JP モルガンチェースが広告メディアに新規事業参入
アメリカの銀行大手の JPMorgan Chase (JP モルガン・チェース) が設立した Chase Media Solutions (チェース・メディア・ソリューションズ) が、広告メディア事業に新たに参入しました。
JP モルガン・チェースの銀行アプリに表示される広告枠を、広告主である企業が安心して購入できるようにするというものです。
8000万人の顧客基盤
JP モルガン・チェースの顧客は8000万人にのぼります。保有する顧客基盤を活用し、自社のアプリユーザーと広告主企業のブランドを結びつけます。
ちなみに8000万人という顧客数はどれくらいかと言うと、2024年2月の The New York Times の総デジタルトラフィック数に匹敵します (参考記事) 。また、アメリカの主要メディアである TIME (タイム) 、VOGUE (ヴォーグ) 、People (ピープル) 、GQ (ジーキュー) 、Travel + Leisure (トラベル + レジャー) 、Golf Digest (ゴルフダイジェスト) を合計した購読者数の約10倍に相当します。
銀行という信用
JP モルガン・チェースは、アメリカ連邦政府から厳しく規制されている銀行なので、個人を特定できる情報や金融取引データを外部と共有することはありません。
JP モルガン・チェースが目指すのは、銀行という組織的な信用の上に構築される、身元が確かな消費者と広告主企業の安全性が担保された広告メディアです。
生活者と広告主企業への Win-Win
JP モルガン・チェースは、あらゆる業界での消費習慣を調べるために、自社の銀行サービスのお客さんの口座取引を使うことができます。これにより、生活者と広告主企業の双方に恩恵をもたすことにつながります。
たとえば、ペットショップで頻繁に買い物をする人へのペットフードの割引です。
他には、今までその航空会社を利用したことがない旅行者をターゲットにした旅行フライトのキャンペーンを打ち出すなどです。チェースが過去に特定の航空会社の購入履歴がある口座保有者を除外し、それ以外の人たちに魅力的なキャッシュバックキャンペーンを送るという具合です。
学べること
では JP モルガン・チェースが広告事業に新しく参入するという話から、学べることを掘り下げていきましょう。
既存資産の有効活用
事例からの学びを汎用化すると、「既存資産の有効活用」 です。ここに示唆があります。
既存資産とは、今回の事例で言えば、たとえば8000万人以上に上る JP モルガン・チェースの顧客基盤 (消費者リスト) です。
人数の規模だけではなく、各消費者に銀行での取引情報がひも付き、消費習慣がわかった顧客情報です。また、銀行取引を続けてきたことによる顧客との信用がベースになった顧客基盤情報です。
広告主の取引企業も JP モルガン・チェースの既存資産に含まれます。企業口座を開設し、これまでの取引があるので、ここでも過去の実績からの信用が蓄積しています。
多くの広告主に広告枠を提案できる営業力を持っているのも JP モルガン・チェースの既存資産です。
こうした既存事業で培ってきた事業資産が価値創出に有効活用される、つまり、JP モルガン・チェースが新たに広告事業が提供する価値の源泉となっているわけです。
消費者と広告主への顧客価値
それでは、JP モルガン・チェースの広告メディアの強みを整理してみましょう。
JP モルガン・チェースが新たに参入した広告メディア 「Chase Media Solutions」 において、広告に接触する消費者と、広告を出稿する広告主のそれぞれに提供されるユーザー体験と価値を掘り下げます。
消費者へのユーザー体験と価値
まずは消費者への恩恵からです。
- パーソナライズされた広告内容
JP モルガン・チェースのプラットフォームは、消費者の口座取引から得られるデータを利用して、個々の消費習慣や好みにもとづいた広告が表示されます。消費者は自分に関連のある、興味を引く情報を広告を通じて得られます
- お得な特典やキャンペーンへのアクセス
広告により、消費者は普段利用する商品やサービスに関する割引やキャンペーン情報を受け取ることもできます。たとえば、定期購入しているペットフードの割引や、新しい航空会社のキャンペーンなどがそれにあたります
- プライバシーの保護
JP モルガン・チェースは、個人を特定できる情報や金融取引データを外部と共有せず、消費者のプライバシーを保護します。これにより、消費者は安心してサービスを利用できます
広告主へのユーザー体験と価値
広告主にとっての便益についても見てみましょう。
- ターゲット精度の向上
広告主は、JP モルガン・チェースの顧客データにもとづいた、特定の消費パターンや嗜好を持つ生活者に広告表示を正確に絞ることができます。自社商品の情報を必要としている人に出せる確率が高まるので、ランダムに広告を配信する場合に比べて広告の出稿効率と効果が向上します
- ROI の最大化
広告主は、より関連性の高い顧客群にアプローチできることで、広告投資に対するリターン (ROI) を高められます。広告費の無駄を減らし、より効果的なキャンペーン実施が可能になります
- 安全で信頼性の高いプラットフォーム
JP モルガン・チェースの Chase Media Solutions は厳しい銀行規制のもとで運営されるため、広告主はデータの安全性や取引の信頼性について心配することなく、広告活動を行うことができます
これらの点から、Chase Media Solutions は消費者にも広告主にもベネフィットのある広告プラットフォームとなることが期待できます。
まとめ
今回は JP モルガン・チェースが広告メディアに新規で事業参入をしたという事例から、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 既存資産の有効活用: Chase Media Solutions が広告事業 (自社銀行アプリでの広告枠販売) に参入するにあたって、既存資産を有効に活用している。8000万人に及ぶ顧客基盤には、各顧客との長期にわたる取引関係から構築された信用、得られる顧客情報 (例: 生活者の消費行動) がある
- 消費者へのユーザー体験と価値: JP モルガン・チェースの広告メディアは、顧客の銀行取引データを活用してパーソナライズされた広告を提供することで、消費者が関心を持つ可能性が高い商品やサービスの情報になる。また、個人情報の保護という点からも、銀行としての厳格なデータ管理基準にもとづく安全な環境を消費者に保証する
- 広告主へのユーザー体験と価値: 広告主に高いターゲット精度と必要な人だけに関連性の高い広告情報を表示することで ROI の最大化を可能にする。銀行が運営するプラットフォームの信頼性と安全性は、広告主がリスクを気にすることなく、効果的なマーケティング活動をできる機会を提供する
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