#マーケティング #パーセプションチェンジ #LTV
小学生のランドセルと聞いて、あなたはどのようなイメージを持ちますか?
おそらく多くの人が、「ランドセルは小学校入学時に買い、卒業までずっと使い続けるもの」 と思い浮かべるのではないでしょうか。しかし、ここ最近は子どもの成長に合わせた新しい選択肢が登場しています。
今回は、軽い布製のランドセル 「ラクサックジュニア」 を取り上げます。
消費者の認識 (パーセプション) や価値観をどのように変えていくのか、さらに、販売後もお客さんとの関係を深め、顧客生涯価値 (LTV) を最大化するためのヒントを掘り下げます。
布製ランドセル 「ラクサックジュニア」
フットマークの布製ランドセル 「ラクサックジュニア」 は、2020年に発売されました。
通学ならぬとにかく重いランドセルを背負った "痛学" から、小学生の子どもたちを少しでも楽にしてあげたいという思いから開発されたランドセルです。
今までのランドセルより軽い
従来の人工皮革や本革のランドセルの重さは 1.2 ~ 1.5kg が中心で、軽いものでも 1 ~ 1.1kg はあります。
それに対して、素材にポリエステルを用いたラクサックジュニアは、重さは 830 ~ 880g と軽量なのが特徴です。2022年に発売された 「ラクサックジュニア プラス」 は、かぶせ蓋の部分を合皮素材にし見た目を従来型のランドセルに近づけていますが、それでも 850 ~ 890g ほどと軽いです。
好みの色に変えられる
ラクサックジュニアは買い替えを前提にしているので、サイズだけでなく、色も変えられるのもうれしいポイントです。
たとえば、低学年では水色やラベンダーなどのかわいらしい色をまず選び、高学年ではキャメルや黒などのシックな色に変えるといった具合です。子どもの年齢ごとでの好みの変化にも応えられます。
買い替えても安くつく
買い替えの際に重要となる価格についても、布製の素材のおかげでリーズナブルです。ラクサックジュニアは9900円 ~ 1万1000円 (税込み) 、ラクサックジュニア プラスは1万6500 ~ 1万7600円と安価な価格です。
革製ランドセルの価格のボリュームゾーンが5万円から7万円ということを考えれば、ラクサックジュニアシリーズは2, 3回は買い替えできる価格設定です。
買い替えが当たり前になるか?
これからは、小学生の子どもの成長や好みの変化に合わせて、ランドセルを買い替えるというのが当たり前の時代になるのでしょうか?
ランドセルはこれまで、入学時に買ったランドセルを小学校の6年間でずっと使い続けることが前提でした。だからこそ、丈夫で長持ちする人工皮革や本革が使われてきたわけです。
子どもたちの身長は小学校の6年間で 40cm 前後は伸びます。6年生でも使えるランドセルを小柄な1 ~ 2年生が背負うことは、サイズや重さ、また体へのフィット感の面でどこかで無理が生じているはずです。
体に合ったランドセルを常に背負うことができれば、通学時の子どもたちへの負担は少なくなります。
学べること
では、フットマークの布製の軽いランドセル 「ラクサックジュニア」 から、学べることを掘り下げていきましょう。
マーケティングの観点からは、次の3つへの示唆を与えてくれます。
- 今までの常識を覆そうとする取り組み
- 消費者や利用者の既存の価値観を変える
- 商品を売って終わりではなく、末永い関係を築く
では、それぞれ順番に見ていきましょう。
今までの常識を覆そうとする取り組み
小学生が使うランドセルは、これまでは小学校入学時の1年生のときに買ったものを6年間ずっと使い続けることが当然とされてきました。
この常識を変えようとするのがラクサックジュニアです。子どもの体の成長に合わせて、その時々にあったランドセルを使い分けるという、ランドセルへの新しい価値観が芽生えることを期待しています。
今までの、小学1, 2年生にはまだ大きすぎるものを無理に使う、あるいは、高学年になり古くなったり好みの色ではなくたったランドセルを我慢して使うのではありません。小学校1年生の時よりもより進化した新しいランドセルを、数年後に買い替えることが当たり前となるランドセルの使い方を目指しています。
ランドセルは登下校で毎日使うものなので、仮に年間200日の出席日数があるとすると6年間でおよそ1200日使い続けることになります。
6年にわたって毎日使うランドセルへの耐久性を求めた結果、丈夫な作りになっていたわけですが、それが低学年の小学生には重すぎて肩や体への負担が大きくなるという弊害がありました。
近年はタブレットと称する分厚いパソコンを持ち運ぶことが普通になったため、紙の教科書やノートに加えてパソコン端末の重さが子どもたちの小さな体にのしかかっています。
こうした背景から、ランドセルの常識を覆そうとする取り組みは期待したいです。
消費者のランドセルへの価値認識を変える
作り手や売り手が常識を変えようとしても、利用者や消費者がそれを価値だと受け入れなければ意味がありません。
今はまだ、作り手も利用者もランドセルは6年間同じものを使い続けるという暗黙の了解が固定観念として存在します。ランドセルへの認識をいかに変えられるかがマーケティングの観点からは興味深いです。
マーケティングの専門用語を使えば、ランドセルへの 「パーセプションチェンジ」 を起こせるかです。
パーセプションは日本語では "知覚" や "認識" を意味しますが、マーケティングのパーセプションは商品やサービスへの価値への認識やイメージのことです。パーセプションチェンジという価値認識をより良いものに変えられるか、アップデートできるかを注目したいです。
買ってから始まる末永い顧客関係の構築
これまでの 「ランドセルは6年間1つのものを使い続ける」 というのは、売り手からすればランドセルをお客さんに売った時点で、そのお客さんとの関係は売った時点で完了していました。
しかし、ランドセルを数年おきに買い替えることが普通になれば、小学1年生の時に買ってもらってからも、何年後かにまたお客さんとして新しいランドセルを買ってもらうことによって、お客さんとの関係が長く続くことになります。
小学生になったときに初めて買ったランドセルに満足してもらい、次の買い替え時にもリピートするという顧客関係を築けるわけです。
1回買ってもらったものの、次にランドセルを買い替えるときには別の会社のランドセルにスイッチされるのを防ぐために、次回購入意向を高め、実際に2回目も自分たちから買ってもらえるにはどうすればいいのか。売って終わりではなく、むしろ買ってもらったところをスタートとし、そして長い関係を作ることが大事になります。
それが実現できれば、マーケティングの用語で言えば、ライフタイムバリュー (LTV (顧客生涯価値) ) という6年間での顧客価値を高められます。
まとめ
今回は、フットマークの布製の軽いランドセル 「ラクサックジュニア」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- パーセプションチェンジとは、商品やサービスに対するお客さんからの認識や価値イメージをより良いものに変えること
- ラクサックジュニアは、ランドセルを6年間同じものを使い続けるものという今までの常識から、ランドセルは子どもの成長に合わせて買い替えるものと認識を変えることを狙う
- 一度の販売で終わらせず、末永い関係を築くことが大事。商品購入後も継続的なサポートにより顧客満足度を高め、リピート購入につなげることで、お客さんにもたらす価値の総量である顧客生涯価値 (LTV) を高める
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