#マーケティング #顧客理解 #価値実現

 「ファイトイッパーツ!」 のキャッチコピーで、がんばる人々を応援してきた大正製薬のリポビタン。

象徴的なイメージを持つブランドが今、時代の変化に合わせて変化を遂げようとしています。

今回は、リポビタンが錠剤タイプの 「リポビタン DX」 によるブランド再構築の事例を紐解き、お客さんから選ばれ続けるためのマーケティングの要諦を解説します。

リポビタン DX

出典: 大正製薬

リポビタン DX は、大正製薬が販売する錠剤タイプ (1回3錠が目安) の指定医薬部外品です。

疲労回復に効果的なビタミン B 群やタウリンに加え、睡眠中の疲労回復をサポートする成分を含み、ノンカフェインであることが特徴です。

大正製薬の調査によると、40 ~ 50 代の 9 割以上が日常的に疲労を感じており、その 2 人に 1 人が 「朝の持ち越し疲労」 を実感しているとのことです。また、約 3 人に 1 人は仕事に集中できないほどの重い疲れを抱えているにも関わらず、疲労予防を実践している人は少ないという現実がありました (参考情報) 。

こうした背景から、大正製薬は日中に疲れを残す慢性的な疲労感に着目し、「持ち越し疲労の回復」 という新たな訴求軸を打ち出しました。寝る前に飲んで朝を快適に迎える予防的なコンセプトへと軸足を移したのです。

* * *

では、リポビタン DX の事例から学べることを掘り下げていきましょう。

マーケティング活動の全体像

マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 です。

お客さんに選ばれるとは、商品を買ってもらえる、使ってもらえる、来店してくれる、指名されることです。こうしたことへの 「選ばれる理由」 をつくり、商品やサービスがお客さんから選ばれ続けることによって、商品は生き残っていけます。ひいては自分たちのビジネスも存続できます。

お客さんから自分たちが選ばれるのを偶然に頼るのではなく、ビジネスの文脈では自社商品やサービスが意図的に選ばれる確率を高めるのがマーケティングの役割です。

このようにマーケティングを捉えると、マーケティングは専門化された機能にとどまらず全社的に関わる活動だと言えます。

マーケティング活動をするのはなにもマーケティング部だけではなく、マーケティングにはマーケティング部以外の企業内のあらゆる人が関わり、かつ実践したい考え方とスキルなのです。

✓ マーケティング活動の全体像
  1. 注力するお客さんを決める
  2. そのお客さんのことを理解する
  3. 困りごとを解決する商品を用意する (なければつくる) 
  4. お客さんに商品の魅力を伝え、買ってもらう
  5. お客さんに商品を使ってもらうことで価値を生む
  6. お客さんに他ではなく自社商品を選んでもらえる状態をつくる

リポビタン DX のブランド再構築の軌跡

では、リポビタン DX の事例に当てはめて、順番に詳しく見ていきましょう。

[Step 1] お客さんを決める

最初のステップは、ターゲットとなるお客さんを明確に定めることです。

リポビタン DX は、注力顧客の再定義を行いました。

従来の主要な顧客層である 50 代中心の購買層から、新たに 30 ~ 40 代の働く世代、特に女性に注力することを決めました。仕事と家事・育児を両立する層や、慢性的な疲労に悩む現代のビジネスパーソンがターゲットです。

これまでのリポビタン D が 「頑張るビジネスマン」 に注力していたのに対し、リポビタン DX は 「疲労を予防したい現代人」 へと注力顧客をシフトしたのです。特に女性は男性の 2 倍以上 「仕事と家事の両立」 で疲れを感じているという調査結果から、女性を重要な顧客層として位置づけました。

[Step 2] お客さんのことを理解する

誰がお客さんかを決めたら、次はそのお客さんがどのような人々 (または企業) で、何を望み、どのような生活やビジネスをしているのかを深く理解することが求められます。

お客さんへの理解を深める過程で、どのような問題や困りごとを抱えているかを特定していきます。

大正製薬は、顧客理解のために多角的な調査を行いました。

イベント会場での来場者への直接インタビューや、「現代人の疲労感に関する調査」 という定量調査を実施。さらに EC サイトでの購入者レビュー分析や、対面でのリアルな反応観察も行いました。

当初、大正製薬は 「睡眠の質」 「細切れ睡眠」 といった軸で訴求していましたが、想定するお客さんからの反応は限定的でした。

より深く顧客を理解する中で、「日中に疲れが残る」 「朝起きるのがつらい」 といった慢性的な疲労感に悩む声が多いことに着目。これを 「朝の持ち越し疲労」 という、注力顧客が共感しやすい言葉でペインポイントとして言語化しました。

朝の持ち越し疲労は、40 ~ 50 代の 2 人に 1 人が実感し、約 3 人に 1 人が 「仕事に集中できないほどの重い疲れ」 と感じている深刻な困りごとでした。

[Step 3] 困りごとを解決する商品を用意する (なければつくる) 

お客さんの生活やビジネスシーンの中で問題を明らかにした後は、それを解決するための具体的な商品やサービスを用意します。

既存の自社製品で解決できそうになければ、新たにつくります。

今回の事例では、大正製薬は特定した 「持ち越し疲労」 というペインポイントに対し、既存商品である 「リポビタン DX」 が持つ価値をあらためて定義し、解決策として提示しました。

具体的には、錠剤タイプの指定医薬部外品として、「寝る前に服用し、睡眠中にケアすることで、翌朝すっきりと迎える」 という新しい習慣を提案。予防的疲労マネジメントという、これまでにない価値提供でした。

商品はノンカフェインで睡眠サポート成分を含んでいるので、夜に飲んでも安心です。日々の習慣にしてもらうため、製品開発段階から飲みやすさにこだわりました。ビタミン B 群特有の匂いを抑えるコーティング技術や、錠剤の小型化など、顧客がストレスなく続けられる工夫が施されています。

[Step 4] お客さんに商品の魅力を伝え、買ってもらう

商品が用意できたら、見込み顧客に知ってもらい、興味を持ってもらえ、購入への後押しをします。

ここで大切なのは、商品の特徴やお客さんにとってのメリットをわかりやすく伝え、相手が商品を自分ごと化でき、その価値にお金を払ってでもほしいと思ってもらえることです。

大正製薬のリポビタン DX は、従来の 「ファイト一発」 というブランドイメージにとどまらず、新しい価値を伝えるためにコミュニケーション方針を転換しました。

とはいえ、従来からあるイメージを書き換えるのはそう簡単ではありません。「リポビタン D = 疲れた時に即効性を期待して飲むドリンク」 というブランドイメージが、リポビタン DX」の 「夜に飲む予防ケア」 という価値の浸透を妨げているという課題に直面していました。

そこで大正製薬は、「持ち越し疲労」 という注力顧客が抱える困りごとを提示し顕在化してもらうことを狙いました。持ち越し疲労に、いつ、どうやってリポビタン DX を飲むといいかという文脈を丁寧に説明するアプローチです。

コミュニケーションはテレビ CM だけでなく多様なメディアを活用しました。

百貨店の新宿高島屋で 「お休み前の疲労ケア」 を体感できるイベントを開催したり、SNS 、EC レビュー、タレントの若槻千夏さんを起用し、若年層や女性層に提案しました。エナジードリンクとの違いを明確にし、「DX は慢性的な疲労に向き合う製品」 と訴求しました。

[Step 5] お客さんに商品を使ってもらうことで価値を生む

自社商品を購入してもらうことはゴールではなく、むしろスタートです。お客さんが実際に商品を使ってみて困りごとを解決でき、それによって商品価値を実感することです。

売り手にとっては商品を売って終わりにせず、その後の利用まで見届け、商品の存在や顧客体験に満足してもらうことが重要です。

リポビタン DX が目指すのは、購入して終わりではなく、新しい習慣として生活に根付かせ、価値を実感してもらうことです。

消費者は 「寝る前にリポビタン DX を飲む」 という行動を実践し、その結果として、翌朝に 「疲れが残っていない」 「すっきりと起きられる」 という持ち越し疲労の解消を体感します。これにより、顧客は商品の価値を実感し、満足度が高まることでしょう。

先ほど触れた 「お休み前の疲労ケア」 をテーマにしたイベントは、想定する使用シーンとリポビタン DX から得られる価値をお客さんに疑似体験してもらい、理解を深めてもらうための施策です。

実際の商品体験によって、商品がもたらす価値を伝えることにより、購入後の継続的な使用につなげています。

[Step 6] お客さんに他ではなく自社商品を選んでもらえる状態をつくる

マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 でした。

お客さんから選ばれるのを一度きりにせず、選ばれ続けることが重要です。

選ばれ続けるには、お客さんが他社の商品ではなく、継続して自社の商品を選ぶような状況をいかにつくれるかです。お客さんにとって代替ができないような、独自の価値を提供し続けることがカギをにぎります。

大正製薬はリポビタン DX 単体だけでなく、ブランド全体でお客さんから選ばれ続けるための戦略を描いています。かつての 「ファイトイッパーツ」 という気合の象徴から、現代の価値観に合わせた 「疲れを持ち越さない」 というセルフケアの象徴へと、ブランド全体の価値観をシフトさせています。

EC レビューやイベントで得た顧客の声を分析し、次のマーケティング活動に活かすというサイクルを回すことにより、お客さんとの関係を深めようとしています。さらに、即効性のドリンク剤、日々の予防ケアの錠剤 DX 、手軽なゼリーという 3 つの剤型を戦略的に位置づけています。

これにより、顧客の疲労の種類やライフスタイルに応じて、常にリポビタンブランドが解決策を提示できる状態を能動的につくり出し、他社製品に流れるのを防ぎ、長期的に選ばれ続けることを目指しているのです。

まとめ

今回は、大正製薬のリポビタン DX の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントのまとめとして、マーケティング活動の全体像です。

  1. 注力するお客さんを決める
  2. そのお客さんのことを理解する
  3. 困りごとを解決する商品を用意する (なければつくる) 
  4. お客さんに商品の魅力を伝え、買ってもらう
  5. お客さんに商品を使ってもらうことで価値を生む
  6. お客さんに他ではなく自社商品を選んでもらえる状態をつくる