#マーケティング #ジョブ #ワーカー
消費者が本当に求めているのは商品のスペックではなく、自分の 「片づけたい悩み」 を解決してくれることです。
今回は、理研ビタミン 「パッとジュッと」 の事例から、消費者の心の奥底にある気持ちを捉え、選ばれる商品を生み出す 「ジョブ理論」 を解説します。
下味冷凍用おかずの素 「パッとジュッと」
理研ビタミンが2025年3月に発売した下味冷凍用調味料 「パッとジュッと」 が、わずか3ヶ月で累計出荷数20万個を達成しました (参考情報) 。
冷凍肉をそのまま焼ける
一般的には、冷凍肉は一度解凍してから調理するものです。しかし 「パッとジュッと」 は、理研ビタミンの独自技術の 「肉ピタソース」 により、冷凍庫から取り出した肉をそのまま焼くことができます。
「パッとジュッと」 は、時間に余裕があるときに準備を済ませる下味冷凍用調味料です。
鶏むね肉に使う場合、まず、鶏むね肉を切り分けます。切った鶏むね肉は、「パッとジュッと」 の袋に入れ、中に入っている調味料に混ぜ込んだ状態で冷凍庫に入れて冷凍保存をします。
後日、袋から取り出して凍ったままの状態でフライパンで焼けば、献立のメイン料理が簡単にできるという優れモノです。特別なでんぷんを使用した乳化剤技術で肉の周りを覆っているので、肉汁の流出を防ぎ、パサつきやすい鶏むね肉でもジューシーに仕上がります。
価格は税込み200円前後で、味は鶏むね肉用の 「ねぎ塩麹チキン用」 と 「甘旨ヤンニョムチキン用」 の2種類があります。
開発背景
開発の背景には、消費者が抱える課題がありました。
週末に大容量パックの肉を買い、小分けして冷凍保存する 「冷凍ストック」 は、コロナ禍以降さらに広まりました。ただし、このやり方にはストレスが伴います。
解凍には時間がかかり、前もって献立を決める必要もあります。冷蔵庫への移し替えを忘れることも多く、電子レンジで解凍すると加熱ムラや肉が硬くなってしまうと調理が失敗する可能性もあります。
物価高騰で安価な鶏むね肉の需要は高まっているものの、パサつきやすい特性から調理できる範囲は限定的です。
下味冷凍用おかずの素である 「パッとジュッと」 は、こうした複合的な問題を一挙に解決する商品となることを目指して開発されました。
では、下味冷凍用調味料 「パッとジュッと」 の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
この事例は、マーケティングの 「ジョブ理論」 を当てはめると学びが得られます。
ジョブ理論
ジョブ理論は消費者や顧客の 「ジョブ」 に焦点を当てるマーケティング理論のひとつです。
ジョブとは
ジョブの定義は、「ある特定の状況で人が遂げたい進歩 (progress) 」 です。
ジョブには 「人が置かれた状況をどう変えたいか・より良く進歩したいか」 という視点が含まれます。
では、ここで話を下味冷凍用おかずの素の 「パッとジュッと」 に話をつなげ、ジョブ理論を当てはめて詳しく見ていきましょう。
まずは、具体的に誰が 「パッとジュッと」 必要としているのか、どんな状況でどのような進歩を求めているのかから掘り下げます。
顧客は誰か
理研ビタミンが注力顧客としたのは、共働き世帯を中心とした時間に制約のある消費者です。
週末にまとめ買いをして冷凍ストックする習慣があり、平日は仕事や家事・育児で忙しい。物価高騰の影響で食費の節約意識も高く、それでいて家族への愛情表現として手作り料理を重視する。こうしたライフスタイルや価値観を持つ人々が、「パッとジュッと」 の主な顧客層です。
どんな状況でどんな進歩を求めているか
次に、注力顧客の置かれた状況についてです。
- 平日の夕方、仕事終わりで疲弊し、子どもの世話も並行しなければならない。冷蔵庫は空っぽだが、買い物に行く気力はない
- 前夜に冷凍庫から冷蔵庫への移し替えを忘れることも多く、レンジ解凍はムラや失敗のリスクがある
- さらに、鶏むね肉をおいしくメインディッシュに仕立てるレパートリーも不足している
こうした状況下で消費者が求める進歩は多面的です。
具体的には次のようになります。
- 料理の段取りから解放され、思い立ったらすぐ調理開始できる状態にする
- メインおかずを短時間で失敗なく仕上げ、副菜も同時進行で作れることで達成感も得る
- 安くてヘルシーな鶏むね肉をちゃんとおいしく活用する
- 「自分はデキる」 「ちゃんと作った」 という自己効力感を得る
- いざという時のお守りを冷凍庫に常備しておくことで安心感を持てる
既存の商品や方法では何が解決しきれていないのか
ジョブ理論では、既存の他のワーカーが十分に働けていないという、何がまだ解決されていないのか、注力顧客の 「未充足ニーズ」 を捉える視点も大事です。
家庭での調理では、通常は冷凍された肉などを使って料理をする場合、冷蔵庫に数時間入れおくなどから解凍をしておく必要があります。
前の晩に解凍を忘れてしまい、仕方なく冷凍肉をそのまま焼くと肉汁が出てパサついてしまいます。解凍をしていても、一部分は凍ったままだったり逆に熱が通りすぎて硬くなったりするなどの解けるのにムラができるために、味わいや食感が良くないという問題が起こります。
他の代替手段にもそれぞれ問題点があります。惣菜を買ってきたり外食をすると支出が多くなり、手作り感も生まれません。レトルトや冷凍食品では満足感が低く手抜きをしたような罪悪感を伴う。簡単調理キットは、簡単とはいえ、下ごしらえの手間があります。
ジョブ理論を活用した価値実現
では、ここまでの 「状況」 と 「ジョブ」 という顧客文脈を踏まえ、下味冷凍用おかずの素 「パッとジュッと」 がどのようにして顧客のジョブを解決し、既存の方法を置き換えたのかを見ていきましょう。
代わりに何が "解雇" されるのか
自社商品が新たなワーカーとして雇われるためには、それまでお客さんがジョブを片付けるために雇っていた既存のワーカーを解雇する必要があります。
下味冷凍用おかずの素 「パッとジュッと」 のケースでは、まず解雇されるのは、従来の解凍方法です。前日からの冷蔵庫解凍は忘れずに済ませておく必要があります。電子レンジを使った解凍方法、加熱ムラや肉が硬くなる可能性もありました。
出来合いの惣菜や弁当も解雇の対象です。手軽ではあるものの割高で、手作り感や料理で家族に愛情表現をもたらしたいという顧客ニーズを満たせませんでした。
他の一般調味料や料理レシピも不完全なワーカーだったと言えます。鶏むね肉を柔らかくするには片栗粉をまぶしたりフォークで刺したりといった追加の手間がかかり、ヤンニョムのような人気の味付けは複数の調味料を揃えるのが面倒でした。
冷凍食品も解雇対象です。便利ではあるもののメニューが固定化され、焼く・炒めるといった調理の自由度が低く、揚げ物は後片付けが面倒という状況が発生していました。
最適なワーカーになる
下味冷凍用おかずの素 「パッとジュッと」 は、既存ワーカーの不満点を解消し、お客さんのジョブをよりスムーズに完了させる最適なワーカーとなり得ます。
解凍が面倒で失敗したくないという消費者心理に対しては、解凍不要という価値を提供します。事前の下ごしらえの手間も不要になります。
鶏むね肉をおいしくしたいという消費者ニーズには、独自技術の肉ピタソースがパサつきを防ぎ、簡単にジューシーな仕上がりを保証することで応えました。失敗したくないという気持ちに応えます。
手早く楽に作りたいという望みには、「パッとジュッと」 は袋に入れて揉むだけの簡単な準備で OK です。フライパンひとつで調理ができ、洗い物も少なくて済むのもうれしいポイントです。
手作り感や満足感へは、「パッとジュッと」 は自分で肉を切り漬け込むというひと手間かけた感覚をもたらします。調理中の約8分で 「ながら調理」 も可能なので、自己肯定感を満たすことでしょう。
他には、人気の味を手軽に楽しみたいというニーズには、トレンドの味付けをこれひとつで実現。調味料を揃える手間を省いてくれます。
いざという時の不安をなくしたいということには、冷凍庫にストックしておけばお守りになるという安心感を提供します。夕食を作るための食材がなかったり足りないという緊急事態を救ってくれる存在です。
注力顧客の 「進歩」 の実現
消費者は、下味冷凍用おかずの素 「パッとジュッと」 を雇うことにより、料理を取り巻く状況が進歩します。
以前は平日の夕食準備がストレスで、冷凍肉は解凍が面倒、鶏むね肉はパサつきがち、惣菜に頼るとどこか罪悪感があったかもしれません。
ここに下味冷凍用おかずの素 「パッとジュッと」 を雇えば、冷凍庫から取り出してすぐに調理を始められるので時間に余裕が生まれます。誰が作っても失敗なく美味しいメイン料理が食卓に並び、家族も喜んでくれる。ちゃんと料理をしたという満足感も得られ、日々のストレスが軽減されることでしょう。
「パッとジュッと」 が最適なワーカーになれるは、ただ単に便利な調味料をつくったからではありません。共働き世帯が抱える 「平日は時間がないけど、家族においしい手作り料理を食べさせたい」 という消費者ニーズに対して、ジョブの視点で捉え、技術と顧客理解の両面から解決したからです。
注力顧客が抱える 「状況」 と、その中で片付けたいと切望していた 「ジョブ」 を深く理解し、既存の解決策では満たせなかった不満を解消する最高のワーカーとして商品を設計・提案したことが、重要な要因です。
まとめ
今回は、下味冷凍用おかずの素 「パッとジュッと」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 顧客の 「ジョブ (遂げたい進歩) 」 に焦点を当てる。お客さんが本当に求めているのは 「ある特定の状況で遂げたい進歩」
- 商品やサービスは、ジョブを完了させるために顧客に 「雇われるワーカー」 として捉える
- ジョブが生まれる 「状況 (顧客文脈) 」 を理解する。ジョブは特定の状況という原因があって生まれる結果。お客さんに最適なワーカーとして繰り返し雇ってもらうためには、ジョブが生じる背景となるジョブの文脈を把握する
- 既存のワーカーの 「未充足ニーズ」 を見つける。新しい商品やサービスが選ばれるのは、既存の解決策 (ワーカー) では満たされていない未充足ニーズがあるから。自社の商品が新たに雇用されるためには、今ある何が解雇されるのかというリプレイスの視点を持つ
- お客さんにとっての最適なワーカーとなるために、「誰が顧客か」 「どんな状況でどんな進歩を求めているか」 「既存の方法の何が未充足か」 「どうすればジョブをスムーズに終わらせられるか」 という視点で商品やサービスを具体的に設計する
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