#マーケティング #戦略と実行 #顧客設定と顧客価値
市場の変化や競争の激化に直面し、どのように対応すれば良いのかは、多くの商品やブランドが抱える悩みです。
どうすれば、自社ブランドのマーケティング戦略をうまく機能させることができるのでしょうか?
今回は、エリクシールの成功事例から学べることを掘り下げます。エリクシールは 「誰に」 向けて、「何を」 提供し、「どうやって」 伝えるかという基本的なことを丁寧に行いました。
成功の秘訣をぜひ一緒に紐解いていきましょう。
資生堂の化粧品ブランド 「エリクシール」
資生堂の化粧品ブランド 「エリクシール」 は、ブランドの誕生当時は、出す商品が次々とヒットし、右肩上がりで売上が増加していました (参考記事) 。
日本国内だけではなく、海外でのブランド認知向上と合わせて国内外で絶好調でした。当初のお客さんのボリューム層は40 ~ 50代でしたが、2019年11月に発売された 「エリクシール シュペリエル つや玉ミスト」 が若年層を中心にヒットし、20代の女性も取り込み、ブランドは成長を続けました。
しかし、2020年頃には新型コロナウイルスの影響で顧客ニーズが二極化し、中価格帯ブランドであったエリクシールは売上に急ブレーキがかかってしまいました。
絶好調から急ブレーキの要因
エリクシールの売上不振に至った要因は、市場環境の変化とその適応にあったわけですが (参考記事) 、詳しく掘り下げていきましょう。
- 市場ニーズの二極化
- 市場変化への非適応
- 曖昧なターゲット設定
- 商品価値の訴求不足
順番に見ていきます。
市場ニーズの二極化
2020年に新型コロナウイルスの流行が広がる中、消費者の生活様式や価値観が変わりました。
この変化に伴い、化粧品市場も当然影響を受けます。顧客ニーズが低価格帯の商品と高価格帯の商品に分かれる 「二極化」 が顕著になったのです。低価格帯商品には節約志向の人が流れ込み、他方で高価格帯の商品には、自宅でのスキンケアを重視したい人が集まりました。
市場変化への非適応
中価格帯に位置するエリクシールは、低価格帯と高価格帯へのどちらのニーズにも合わず中途半端な状態になり、今までのお客さんを維持することが難しくなりました。
市場ニーズの二極化に伴う変化にすぐに適応できなかった点も、エリクシールの売上不振の一因です。
もちろん、資生堂は市場の変化を把握し、対応を進めていたとは思いますが、ブランドの戦略転換や商品ラインナップの見直しよりも市場や顧客の変化が早く、消費者の移り変わるニーズに対応することができなかったのでしょう。
とりわけコロナ禍での消費者の行動や価値観の変化は予測が困難であり、エリクシールはその突然の変化に対して十分な対策を講じることができませんでした。
曖昧なターゲット設定
エリクシールはそれまでは、全世代に向けた広範囲なマーケティングを展開していました。
一時期には成功をもたらしたものの、価格帯の二極化や顧客ニーズなどの市場環境が変わる中で、「全世代向け」 という顧客設定が曖昧なターゲットとなってしまったわけです。
ターゲット顧客像がぼやけてしまうと、マーケティングコミュニケーションは顧客層に響く魅力的なメッセージとはなりません。ブランドメッセージがお客さんのニーズや関心事に十分に寄り添えず、結果として次に見る訴求力が薄れてしまいました。
商品価値の訴求不足
エリクシールが提供する商品の価値を、消費者に十分に伝えることができなかったことも、売上不振の原因の1つです。
市場の二極化により、消費者はより明確な理由で商品を選ぶようになりました。低価格帯商品を選ぶ消費者は価格の安さやコスパで、高価格帯商品を好む消費者は品質や情緒的なブランド価値を重視します。
このような状況の中、エリクシールは自社商品の機能性や独自の価値を明確に打ち出せずにいました。
中価格帯のブランドとしては、価格の妥当性を訴えるだけではなく、商品が提供する独自の機能的な魅力や価値を強調する必要がありましたが、これが不十分だったため消費者の心をつかむことができなかったのです。
ブランド戦略と施策の見直し
こうした状況を克服するために、エリクシールはブランドの存在意義に立ち返ります。そして、「誰に (Who) 」 、「何を (What) 」 の基本に戻り、戦略と実行を見直しました。
- Who ターゲット顧客
- What 商品価値や訴求内容
- How 具体的なマーケティングコミュニケーション施策
では順に見ていきましょう。
[Who] ターゲット顧客
エリクシールは、市場ニーズの二極化と自身の売上不振に直面したことから、ターゲット顧客を再定義し、40代以上の女性を主なターゲット顧客と定めました。この年代の女性は肌のエイジングケアへの関心が高く、化粧品の品質に対する期待も高い層です。
より明確な顧客層に焦点を当てると決めたことで、顧客ニーズに合致した商品開発とマーケティングを展開することにつながります。
[What] 商品価値や訴求内容
エリクシールは、ターゲットとする40代以上の女性の顧客層に対して、エイジングケアに特化した商品の価値を伝えることを目指しました。
具体的には、エリクシールが持つ高い機能性です。特に肌の保湿やハリを保つ成分において、長年にわたる研究開発に基づく信頼性を強調しました。
エリクシールはこれらの商品価値を前面に出すことで、中価格帯でありながらも高品質で独自の価値を持つブランドイメージを確立しようとしました。
[How] マーケティングコミュニケーション施策
エリクシールはマーケティングコミュニケーション施策において、ブランドイメージ訴求、興味喚起、購入へとお客さんを導くために、テレビ広告、新聞折り込みチラシ、店頭展開という3つを連動させました。
- テレビ広告 (認知)
テレビ広告は広範囲の人たちに情報を届けることができ、ブランドの認知向上やブランドイメージの構築に有効。エリクシールはテレビ広告を利用して、ブランド全体での世界観を表現した。
エリクシールは40代以上の女性をターゲットとしたため、この年代がよく視聴する時間帯や番組を選定して広告を出稿した。 - 新聞折り込みチラシ (興味)
40代以上の女性が主要な顧客層ということで新聞を選び、ターゲット顧客に直接訴求した。
テレビ広告の放送と同時に新聞の折り込みチラシを利用。
テレビ広告によって認知度を高めた後、チラシで商品の具体的な情報や価値を詳しく伝えた。商品の特徴や使用感、価格情報など、テレビ広告でエリクシールのことを興味を持った人が、さらに知りたいと思うような詳細情報を新聞折り込みチラシで提供した。 - 店頭展開 (購入)
テレビ広告と新聞折り込みチラシを通じて興味を持ったお客さんを店頭での購入につなげた。
お店では、テレビ広告やチラシに合わせた店頭展開とすることで、商品を見つけやすくし購入意欲を高めることを狙った。
学びの汎用化
エリクシールの事例は、ブランドが直面する市場環境の変化や課題に対応する上で、「誰に」 「何を」 「どうやって」 のフレームワークを用いて戦略を立て、実行する大切さを教えてくれます。
まず 「誰に (Who) 」 では、ブランドがターゲットとする顧客層を明確に定義することから始めます。これにより、その後の戦略がより焦点を絞ったものとなり、効率的なマーケティング活動ができます。
次に 「何を (What) 」 においては、ブランドが提供する具体的な顧客価値を明確にし、お客さんがその価値を魅力的だと感じられるように訴求内容をつくります。
最後に 「どうやって (How) 」 では、定めたターゲット顧客と提供価値に対して、どのようなマーケティングコミュニケーション手法を用いて顧客価値を伝えるかを具体的に計画します。
このプロセスを通じて、エリクシールは市場の二極化とブランドの売上不振という状況を克服し、ターゲット顧客層に対するブランドの魅力を再確立することに成功しました。2023年にはエリクシールブランドで過去最高のシェアである 10.9% を獲得したのです。
エリクシールの事例から学べる汎用的な教訓は、変化する市場環境の中でブランドが持続的に成長するためには、お客さん中心のアプローチで戦略を設計し、戦略からの実行をやり抜くことの重要性です。
まとめ
今回は、資生堂の化粧品ブランド 「エリクシール」 の事例から、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- エリクシールの事例から学べる最初の教訓は 「誰に」 の問いに答えることの重要性。市場の変化やブランドが直面する課題に対応するためには、まずターゲットとなる顧客層を明確に決める。具体的なターゲット設定により、その後のマーケティングが効果的なものになる
- 次に 「何を」 提供するか。商品そのものに加え、自社商品がお客さんに本質的にもたらす価値を定義する。お客さんがその価値を本当に必要としているかを徹底して掘り下げる
- ターゲット顧客と顧客価値を見極めた上で 「どうやって」 という施策をつくる。マーケティング施策には、広告、販促、SNS 、店頭展開など様々な手法があるが、重要なのは全ての活動がターゲット顧客を中心に設計され、実施されること
- エリクシールの成功事例は、変化する市場環境の中でブランドが成長を続けるためには、顧客中心のアプローチで戦略を設計し、実行することの大切さを示している
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