ビジネスの世界で、どうすればブランドと顧客が一体となって末永く良好な関係を築けるのでしょうか?
今回は、沖縄のオリオンビールが取り組んでいる SNS マーケティングの事例を取り上げます。
オリオンビールから、顧客ロイヤルティの向上に至るプロセスと、効果的な KPI 設計の方法を解説します。
オリオンビールの SNS マーケティング
会社としてのオリオンビールは1957年に生まれた沖縄初のビール会社であり、その2年後の1959年に 「オリオンビール」 が発売されました。
そんなオリオンビールですが、SNS マーケティングを展開しています。X ではフォロワーの数は28万4000人以上です。
沖縄県外の人々にもブランドを日常的に想起してもらい、継続的にお客さんとつながるために、SNS を積極的に活用しています。
沖縄県外の人に思い出してもらう
オリオンビールの SNS マーケティングの狙いは、沖縄県外のフォロワーに沖縄やオリオンビールのことを思い出してもらったり、熱量を高めることです。
オリオンビールの SNS 投稿情報によって、県外にいても沖縄のことが想起され、思わず自分でも SNS に沖縄のことを投稿したくなったり、まわりの人と会話が生まれることを目指しているわけです。
KPI は 「UGC」 の件数
オリオンビールの SNS マーケティング運用で注目したいのは、ユーザー生成コンテンツ (UGC) の件数を重要な業績評価指標 (KPI) として設定していることです。
沖縄好きの人々に、沖縄に関連するコンテンツを自ら投稿してもらうことで、ブランドへの愛着と参加意識を高めるという狙いがあります。UGC の増加は、ブランドに対する好意度の高いロイヤルユーザーが増えていることを示します。オリオンビールは積極的に沖縄愛のあふれるコンテンツの生成を促しています。
UGC を生み出す工夫
オリオンビールは、UGC を生み出すためにいくつかの工夫を凝らしています。
沖縄らしい風景やグルメなど、沖縄の象徴的な要素を含んだ投稿を促し、「沖縄に行きたい」 「沖縄に戻りたい」 という気持ちを喚起します。また、プロによる写真だけでなく 「素人っぽさ」 のある自然な写真や親しみやすいトーンの文章で、リアルな沖縄の魅力を伝えることにも注力しています。
他には、引用ポストや 「#オリオンビール」 のハッシュタグでの投稿をリポストしたり、コメントにリプライすることで、双方向のコミュニケーションを図り、フォロワーとの関係性を築いています。
魅力を伝える大使
こうした取り組みは、オリオンビールがただのビールブランドであるだけでなく、沖縄の文化や魅力を伝える 「大使」 であり続けようとするものです。
オリオンビールは沖縄の 「柔らかさ」 や 「自然体の雰囲気」 を伝えることで、県外の人々にも沖縄とオリオンビールに親しみを持ってもらえ、魅力を感じてもらうというブランディングです。
学べること
ではオリオンビールから、学べることを掘り下げていきましょう。
アフリカのことわざ
アフリカのことわざに、「早く行きたければ一人で進め、遠くまで行きたければ、みんなで進め (If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together) 」 というものがあります。
オリオンビールの事例は、ことわざの後半の 「遠くまで行きたければ、みんなで進め」 を SNS を使って体現しています。
UGC で 「みんなで遠くに行く」
SNS を使ったマーケティングの KPI を 「UGC 投稿数」 にしているのが象徴的です。
UGC をつくって投稿しあうことでオリオンビールは 「みんなで遠くに」 行こうとしています。
UGC 、つまりユーザー生成コンテンツはブランドとお客さんが一体となってブランドの価値や魅力を高める存在です。オリオンビールは沖縄という地域性を活かし、SNS ユーザーが自発的にブランドに関するコンテンツを作成し、共有することを促しています。
ロイヤルティの向上
UGC が起点となり、心理的ロイヤルティ、経済的ロイヤルティの向上へと波及していきます。
心理的ロイヤルティ
✓ 心理的ロイヤルティへの影響
- UGC 投稿→ 親近感や愛着の高まり
- 愛着の向上 → UGC 投稿
UGC の投稿は、投稿者自身のブランドへの親近感や愛着を高めると同時に、それを見た他のユーザーにも同様の感情を喚起します。親近感や愛着の高まりは、さらなる UGC 投稿を促し、ブランドコミュニティが強化されます。
このサイクルは、消費者とブランドの関係を深めていくことでしょう。
行動的・経済的ロイヤルティ
✓ 行動的・経済的ロイヤルティへの影響
- UGC 投稿 → 買いたくなる、飲みたくなる
- 買って飲んだ → UGC 投稿
UGC は、他の消費者に対しても 「買いたくなる」 「飲みたくなる」 といった直接的な購買意欲を生みます。
また、実際に商品を購入し、それをきっかけにした UGC 投稿は、新たな消費者の購買を呼び起こすというポジティブなループをつくり出します。
このように、オリオンビールは SNS での UGC を有効活用し、売り手だけではなく買い手とともに SNS での 「草の根活動」 を展開しているわけです。
消費者1人ひとりがオリオンビールというブランドの伝道師となり、その魅力を皆で伝えることで、ブランドはより遠く、広く伸びていくことができるのです。
KPI 設計への示唆
KPI とは 「この指標を上げることへの行動に注力し、追いかけていけば自ずと売上などの最終目標につながる」 というドライバーとなるトリガーや押しボタンです。
KPI の中でも 「先行指標 (先に起こり目指す目標につながる指標) 」 となる要素へのアクションに集中し、お客さんの買いたい気持ちや欲しい気持ちを生み出し、KPI の中での結果指標、そして KGI につなげることが大事です。
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先行指標 KPI → 結果指標 KPI → KGI
オリオンビールの場合、UGC 投稿数という KPI は、消費者の参加とエンゲージメントを高めることで、ブランド価値の向上という結果につながり、最終的には持続的な売上増加に貢献します。
まとめ
今回は沖縄のオリオンビールの事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- オリオンビールの SNS マーケティングには、アフリカのことわざ 「早く行きたければ一人で進め、遠くまで行きたければ、みんなで進め」 に深く根ざしている
- SNS で沖縄という地域性を前面に出し、沖縄やブランドの魅力を共有することで、UGC を促し、ブランドと消費者が一体となって遠くまで進むことを目指している
- UGC の増加は、心理的なロイヤルティ、行動的・経済的なロイヤルティの両方に影響を及ぼす。UGC で生まれる親近感や愛着は、さらなる UGC の生成を促し、これが強固なブランドコミュニティを形成する。また、UGC によって生み出される 「買いたくなる」 「飲みたくなる」 という感情から実際の購買行動が起こり、新たな消費者の獲得へとつながるポジティブなループを生む
- KPI の設計は、マーケティング戦略において重要な要素。オリオンビールは UGC 投稿数を KPI に設定。消費者の参加とエンゲージメントを高め、最終的にブランド価値の向上と売上増加に寄与する
- KPI を先行指標として利用し、消費者の態度変容や行動変容を刺激するアクションに注力することで、成果の KPI である結果指標や KGI の達成につなげる
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