#マーケティング #全体構想 #クイックウィン
日々の業務の中で、「大きな目標をどのように設定し、そしてどのように目標を達成すればいいのか」 という課題に直面したことはないでしょうか?
たとえば、全社的なマーケティング戦略やマーケティングの浸透は、短期では成果が得にくく中長期的に取り組む必要がある課題です。
今回は、三井住友海上のマーケティング部門の事例から、これらの課題にどのように取り組んだのか、具体的な戦略を紐解きます。
三井住友海上の CX デザイン部
三井住友海上火災保険が、その100年に及ぶ歴史の中で初めて、本格的なマーケティング専門部署 「CX デザイン部」 を設立しました (参考記事) 。
100年の歴史で初の本格的なマーケティング専門部署
2023年度に新設された CX デザイン部は、2024年4月の時点で約70名のスタッフを擁し、デジタルマーケティングから UIUX の改善、マスマーケティング、さらには海外市場への展開まで、多岐にわたる分野を手がけています。
CX デザイン部の主な役割は、顧客体験 (カスタマーエクスペリエンス (CX) ) の向上とその認知の拡大、さらにはデジタル、マス、そしてグローバルマーケティング戦略の総合的な推進です。
CX デザイン部では、異なる性質を持つ複数のマーケティング部隊が協力し合う体制が整っています。
デジタルマーケティング部隊は、マーケティング施策の ROI の向上を示し、上層部や他部署を説得する役割を担い、その成功が短期的な成果として現れます。一方で、マス広告やデータマーケティング部隊は、ブランドの認知度向上や市場浸透といった長期的な目標に向けた活動を続けています。
部署新設時の全体の戦略構想
CX デザイン部はスタート当初から、明確な全体戦略がありました。
短期と長期の二軸からなるもので、短期的な成果を生むデジタルマーケティングで時間を稼ぎつつ、長期に成果が出る CDP の構築、マスマーケティング、グローバルマーケティング、マーケティング人材の育成を同時に進めることでした。
戦略の実行
CX デザイン部が実行したことを詳しく見ていきましょう。
デジタルマーケティングで短期的な成果を上げる
CX デザイン部の発足初期は 「マーケティングで成果が出るのか?」 という懐疑的な目が社内にはあり、部の存在価値への疑問を払拭するためにも短期的な成果が求められました。
そこでデジタルマーケティング部隊を立ち上げ、その実績をもって短期間でマーケティングで成果が出すという方針としました。
デジタルマーケティングは短期で成果を出しやすく、少額の予算運用で ROI も高いという特性を利用して、社内の説得材料としたわけです。実績を認めてもらい、ブランドの認知や浸透率を上げるための本格的な統合型マーケティングコミュニケーション体制を構築していくという構想です。
CDP 構築
マーケティングコミュニケーションを展開していくにあたって、必要な基盤になるのが CDP です。
CDP (Customer Data Platform) は、顧客1人ひとりの属性や行動履歴などの様々なデータを収集、蓄積、統合、分析するためのプラットフォームです。
CDP は長期的な視野に立たないとつくれません。実際に三井住友海上では CDP 構築を完成させるのには1年半かかったとのことです。
実績と信用蓄積からマスマーケティングへの期待醸成
短期で具体的な成果が出せるデジタルマーケティングに比べ、マスマーケティングは短期間では成果が出ず、また、出たとしてもデジタルほど具体的には成果を数字で示しにくいものです。
そこで CX デザイン部はデジタルマーケティングの成功事例の積み重ねから、デジタルとマス広告を一元的に連結する重要性を説明し、マスマーケティングでも成功が期待できると上層部を粘り強く説得しました。
上層部に 「マス広告でも成功するんじゃないか」 と思わせるために、最初はデジタルマーケティングで YouTube 広告を使った実績を見せ、「映像のクリエイティブのうまさやおもしろさによって、こんなに反応が変わる」 とマーケティングの重要性について説明したそうです。
具体的な数字を挙げ 「これだけコンバージョンが上がります」 とか 「こんなに資料請求数が増えます」 と説明を重ねると、「同じ映像だったらマス広告でも成果が上がりそうだね」 となっていきました。
次第に 「CX デザイン部なら、マス広告を任せても成功するんじゃないか」 という期待が醸成されていったのです。
学べること
では、三井住友海上の CX デザイン部の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。
この事例が教えてくれるのは、「Think big, start small」 、すなわち全体構想は大きく描き (think big) 、具体的なアクションは小さく始めていくこと (start small) の重要性です。
Think big, start small からのアプローチは、大きなビジョンと具体的な初動の成果が組み合わさることで、長期的な目的達成と短期的な成果を同時に追求する方法です。
Think big
三井住友海上の CX デザイン部の設立から展開において、"Think big" に該当するのは短期と長期を織り交ぜた 「全社でのマーケティングマインドを浸透させていく戦略とロードマップ」 です。
他に CX 部の長期での取り組みは、CDP の構築と運用、マスマーケティングの実施と成果を出すこと、グローバルマーケティングの実行も長期的な視点に立っています。
いずれも短期間に成果を出すことが難しい長期的なプロジェクトです。時間を要するものの、企業の競争力を長期にわたって支える基盤となるものです。
Start small
一方の "Start small" はデジタルマーケティングへの取り組みです。CX デザイン部はデジタルマーケティングにいち早く着手し、短期的な成果を追求しました。
デジタルマーケティングは成果が出やすく、結果の数値を通じてその効果をすぐに示すことができす。CX デザイン部の内外や経営層に対して初期の成功を証明し、部署としての信用を構築することができました。
こうしたデジタルマーケティングからの短期でのクイックイン (quick win) を積み重ねていくことで、CX デザイン部への信頼獲得につながります。チームへの信頼を獲得する中で長期での戦略を実行し、長い期間を経て成果が出る打ち手を着実に取り組んでいけたのです。
クイックウィンが有機的につながり大きなことを成し遂げる
三井住友海上 の CX デザイン部が社内で存在感を増していけたのは、最初の small start で実現したクイックウィンが、長期的な取り組みへの足がかりとなり続けたからでしょう。
デジタルマーケティングから得られた初期の成功が社内全体にポジティブな影響を与え、CX デザイン部は社内で誰もが認める存在となれ、組織としての戦略的な価値を高めることに成功しました。
クイックウィンは CX デザイン部がさらに大きなプロジェクト (CDP 構築やマスマーケティングなど) に挑戦するための基盤を固めることに貢献したのです。また、クイックウィンが積み重なることで、長期的な目標に対する意欲も増すという相乗効果が生まれました。
各プロジェクトが連携し、短期的な成果と長期的な目的達成が一体となって推進されることで、全社的な変革が実現していきました。1つ1つの成果がバラバラで起こるのではなく、全体で点と点がつながり線となって長期的な取り組みに結びついたからこそです。
"Think big, start small" で構想と実行をし、small のそれぞれが有機的に紡いでいったところに、新しい組織や仕組みを社内で浸透させる成功のポイントがあります。
まとめ
今回は、三井住友海上の全社的なマーケティング部門である CX デザイン部の事例から、学べることを見てきました。
最後にポイントとして、「Think big, start small」 の観点でまとめておきます。
- 「Think big」 では、三井住友海上の CX デザイン部は、全社的なマーケティングマインドを浸透させる戦略とロードマップを策定。CDP 構築、マスマーケティングの実施、グローバルマーケティングの推進といった短期間で成果を出すことが難しいプロジェクトを実現させる構想を描いた
- 「Start small」 は CX デザイン部はデジタルマーケティングに焦点を当て、短期的な成果を追求した。デジタルマーケティングの成果は出やすく、効果を数値で示しやすい。クイックウィンを積み重ねることで、部門への信用が蓄積され、長期的な戦略と実行に対する期待と支持が得られた
- クイックウィンが有機的につながり大きなことを成し遂げた。最初の small start で実現したクイックウィンが、長期的な取り組みへの足がかりとなり続けた。1つ1つの成果がバラバラで起こるのではなく、全体で点と点がつながり線となって長期的な取り組みに結びついた
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