#マーケティング #利用シーン #顧客インサイト
新しい商品を開発していく際、何を目指して進めていけばいいでしょうか?どうすればお客さんにとっての価値を生み出せるでしょうか?
今回は、森永製菓の 「in ゼリー」 の事例を取り上げます。
売り手にとっての 「未知の知らなかったお客さんの利用シーン」 にチャンスを見出すことで、今まで捉えきれていなかった新しい顧客ニーズに応える商品開発とマーケティングを解説します。
森永製菓 「inゼリー」
森永製菓の 「in ゼリー」 は、当初 「ウイダー in ゼリー」 として市場に登場し、2018年から現在の商品名に変更されました。
もともとのウイダー in ゼリーは、アスリートからの要望として 「スポーツをしている最中でも食べやすく、満足感があり、パフォーマンスを妨げないものが欲しい」 という声に応えて開発されました。新発売の当時 「10秒チャージ、2時間キープ」 というキャッチフレーズとともにテレビ CM が放映され、話題を呼びました (参考記事) 。
その後はユーザーは広がり、パウチタイプで片手で開けて飲める利便性は、アスリートだけではなく忙しいビジネスパーソンにも支持され、朝食代わりとしても利用されるようになります。
コロナで売上に打撃
しかし、in ゼリーがアクティブな屋外のシーンでの使用をメインに訴求してきたことが、コロナ禍により裏目に出ました。新型コロナウイルスの流行にともなう外出自粛によって生活が制限された際、in ゼリーの売上が大幅に落ち込む事態に直面したのです。
これを受けて森永製菓は、市場環境の変化に対応する対策を講じることとなります。
ソーシャルリスニング調査を強化
売上減に追い込まれたタイミングで、森永製菓は巣ごもりが続く生活様式に合うゼリー飲料の飲み方はどうあるべきかのヒントを SNS に求めました (参考記事) 。
SNS 上の in ゼリーに関する投稿の分析を行い、商品名に付随するワードの特徴や、どんな人がどのような興味を持って in ゼリーについて投稿や発言をしているのかなど、細かな分析を進めました。
ソーシャルリスニングにより、今、生活者の中で起きている事象をスピーディーに知ることができました。ときには、定性調査よりも丸裸な本音を垣間見ることができ、森永製菓が気づいていなかったお客さんの声を知り、新しい顧客理解につながったのです。
新商品の拡充
森永製菓は分析結果をもとに、2020年9月に 「inゼリー エネルギーブドウ糖」 を発売しました。在宅勤務中に必要なエネルギーを手軽に補給できるというコンセプトで、テレワークが普及している中でのニーズに応える商品となりました。
さらに2021年3月には、在宅時間が増加した10 ~ 20代の女性をターゲットにした 「in ゼリー フルーツ食感」 を投入。果物のような食感と味わいを楽しめるのが特徴で、気分転換やストレス解消のためにヘルシーなおやつを食べる機会が増加していることに着目しての商品です。
翌年の2022年9月には製品ラインを拡充し、「in ゼリー クリア」 というブランド初の機能性表示食品を出しました。そして2024年3月に、子どもの成長期に必要な栄養を提供する 「in ゼリー 成長期サポート」 を発売しました。
このように 、in ゼリーはさまざまな消費者層に対応する商品展開を進めてきました。
利用シーンの提案
森永製菓は、ソーシャルリスニングで見出した "あるあるな瞬間や気持ち" を参考に、喫食シーンの提案を入れるプロモーションも積極的に展開しています。
たとえば、in ゼリーの 「マルチビタミン」 は体調不良時のサポートとして、「マルチミネラル」 は美容男子に向けて、「プロテイン」 は間食をたんぱく質補給の機会としてなど、ソーシャルリスニングで得られた調査結果と洞察をもとにした提案です。
そして提案しただけで終わらず、提案 (プロモーション) が正しかったかを検証する一連のサイクルもまわしています。
当初、森永製菓は in ゼリーからエネルギーを必要とする人は運動や営業職などの会社員が中心と捉えていたそうです。しかしソーシャルリスニングで発見できたのは 「考えるというシーンでもエネルギー補給のニーズが高まっている」 ということでした。
受験や勉強、将棋をはじめとするマインドスポーツなど、こうした利用シーンも含めたコミュニケーションを強化した結果、売上を伴うようになりました。
学べること
では森永製菓の in ゼリーの事例から、学べることを掘り下げていきましょう。
使われるシーンを増やす
商品ラインナップを増やすときに、今回の事例のように 「使われるシーンを増やすため」 というのは有効なアプローチになります。
もし既存商品で想定するお客さんの利用シーンを捉えきれなければ、新しい商品を出すことよってこれまでと違う利用シチュエーションの受け皿にできます。
未知の利用シーンから得られた洞察
商品が利用されるシーンには、時には売り手が想定していなかった使い方、重視していなかった方法が隠れています。これはつまり、お客さんが独自で商品の使い方を自ら見出しているということです。
森永製菓は、新型コロナウイルスの流行により、生活環境と消費者の行動パターンが変化する中で、ソーシャルリスニングを活用しました。
それまで狙っていた使用シーンだけに限らず、消費者が独自にやっている使い方や、重視している点を発見することができました。具体的には、テレワーク中のエネルギー補給や、在宅でお家時間を過ごしている若い女性が求める 「気分転換」 や 「ストレス解消」 といったニーズです。
これらは、売り手側が当初想定していなかった利用シーンであり、生活者環境の変化によって生まれた事象です。
森永製菓はソーシャルリスニングを入口に、自分たちは知らなかったお客さんの利用シーン、その時にとっている行動や奥にある気持ち、深層心理である顧客インサイトまで発掘したわけです。
お客さんの利用シーンには、お客さんにとっての 「商品価値」 が詰まっています。
利用シーンを解像度を高く、深く理解することによって、お客さんの立場に立った顧客価値を理解することができます。
顧客理解からの商品開発とマーケティング
森永製菓は顧客理解を活かしました。
生活者がどのように商品を使っているのか、どんな新しいニーズがあるのかを把握し、それにもとづいての新しい商品の企画・開発につなげました。
さらに、森永製菓は新たに得た顧客理解をもとに、マーケティングコミュニケーションを展開しています。
顧客インサイトという 「人を動かす隠れた気持ち」 に沿っているからこそ、お客さんの心に響くコミュニケーションとなり、共感を呼べます。
たとえば、in ゼリーの 「マルチビタミン」 「マルチミネラル」 「プロテイン」 といったそれぞれの提案は、具体的な利用シーンや顧客理解にもとづくことで、受け手である生活者にはスッと心に入ってくる感覚が生まれることでしょう。
森永製菓の事例は、未知の知らなかった利用シーンから新しい顧客ニーズを発見、理解し、顧客理解にもとづいた製品開発やマーケティングの重要性を教えてくれます。
市場の変化に柔軟に対応し、お客さんや生活者との対話を継続することで、より幅広いシーンでの商品利用を促し、ビジネスの成長につなげることができるのです。
まとめ
今回は森永製菓の 「in ゼリー」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 自社商品が使われるシーンを増やすために、商品ラインナップを増やすのは有効なアプローチ。もし既存商品が想定するお客さんの利用シーンを捉えきれていなければ、新商品が今までとは違う利用シチュエーションの受け皿になれる
- お客さんの利用シーンには、お客さんにとっての 「商品価値」 が詰まっている。よって、生活者がどのように商品を使っているのか、どんな新しいニーズがあるのかの生活者文脈 (自分たちは知らなかったお客さんの利用シーン、その時にとっている行動や奥にある気持ち、深層心理である顧客インサイトまで) を解像度高く理解することが大事
- 未知の利用シーンから新しい顧客ニーズを発見、理解し、顧客理解にもとづいての製品開発やマーケティングを展開する。顧客インサイトという 「人を動かす隠れた気持ち」 に沿っているからこそ、お客さんの心に響くコミュニケーションとなり、共感を呼ぶ
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