新商品を市場に投入し成功を収めるカギは、初回購入者をいかに増やし、購買頻度を高めることにあります。
それを実現するためには、商品の認知度を向上させ、想定するお客さんに知ってもらい思い出されやすく、購入しやすい環境をつくることが重要です。
今回は、新商品がロングセラーになれるかの分岐点を解き明かし、ロングセラーを実現するためのマーケティングを解説します。
ロングセラーへの分岐点
初回購入と購入頻度
商品の売上を左右する要素は、商品の初回購入者数 (トライアル者の数) がどれだけ獲得できるかと、買ってもらったお客さんの購買頻度を増やせるかです。トライアルのお客さんの数を増やすためにはブランドの認知度が重要となります。
グリコでのロングセラー商品の検証
オーストラリアの経済学者バイロン・シャープ氏の書籍 「ブランディングの科学 - 誰も知らないマーケティングの法則11」 の監訳を担当した加藤巧氏が、インタビューで興味深い話をされていました。
加藤さんが、日本の江崎グリコに在籍されていたときの話です。
加藤 ロングセラーになった商品はどういう条件で生まれたのか、という研究はあまりされていなかった。そこで、グリコがデータを持っている、チョコやビスケットなどのお菓子ジャンルで、3年以上市場に存在した新ブランド商品がどういった条件だったのか、メディアデータ、プライシング (価格) データ、市場シェアのデータを調べた。引用した内容を整理すると、すると、3年以上残っている商品は、1年目に巨額の広告費を使っていることが多かった。逆に、消えていく商品は広告を打たず、低空飛行でスタートしていることが多い。あるいは、大々的にプロモーションを打ったが、最初の1カ月しかやっていなかった。
小売店への配荷の速さも重要だ。3カ月以内に、販売を想定している小売店で8 ~ 9割の配荷を完了していないと、後から伸びることはない。それを獲得するには、やはり何億円もかけて広告宣伝する必要がある。こういったデータ分析を基にした提案をしていった。
- 市場に3年以上残っている新ブランド商品は、1年目に大量の広告費を投じ、また販売予定の小売店での配荷を3カ月以内に最終的な配荷状態の8 ~ 9割まで到達していることが多い
- 一方、広告宣伝をほとんど行わないか、プロモーションを短期間で終了させた商品は市場から消える傾向にある (後から伸びることはない)
一言で言えば、新商品は発売後の立ち上げに、どれだけマーケティング活動と営業活動をやるかが大事であるということです。
ロングセラーへの初期投資
ではここからは、学べることをさらに掘り下げていきましょう。
学べるのは、知ってもらったり思い出してもらうための認知や想起へ投資、そして身近に目にしたり買える状況をつくる売場への投資の両方が必要であることです。
メンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティ
商品の成長を促すためには、メンタルアベイラビリティ (自社商品のことへの思い出しやすさ) と、フィジカルアベイラビリティ (商品やサービスが物理的に購入しやすい状態) を高めることが大事です。
メンタルアベイラビリティとは、お客さんがブランドを容易に思い出せることを意味します。お客さんがブランドのことを知っているだけではなく、使用するシチュエーションでブランドを思い出したり、ブランドロゴや広告を見たときに具体的な使用用途を頭の中で思いつくことです。
フィジカルアベイラビリティとは、商品が身近なお店に売られていて、商品棚の中で見つけやすく、実際に購入しやすい状態にあることです。
また、検索してすぐにでてくる、EC サイトで探しやすい、支払い方法がわかりやすく簡単にできるというのもフィジカルアベイラビリティの要素に含まれます。
新商品発売時の十分な投資
新商品を成功させるためには、発売初期においてメンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティを高める十分な予算を割り当てることが不可欠です。
広告費を投じてブランド認知を高め、また営業への予算も確保し、配荷や小売店での適切な棚割りを実現することで、お客さんが商品を購入できるようにする状況をつくります。そうすることによって、商品は市場にしっかりと根付くことができます。
新商品については、発売後の立ち上げ初期においては十分な予算をかけ、想起されるメンタルアベイラビリティと、買ってもらいやすい状況をつくるフィジカルアベイラビリティを高められるかが、その後のロングセラーの道を歩めるかの分岐点になります。
新商品を発売してそこで終わりではなく、むしろ発売後の初期段階の立ち上げフェーズでいかにロケットスタートするかが重要なのです。
成功を分ける判断
もし発売してその後にアクセルを踏まず投資を怠ることは、ロングセラーになるポテンシャルを持っていたとしても、自らその芽を摘んでしまうことになりかねません。
広告宣伝、配荷や棚割り確保への営業という両方への投資を渋ったり出し惜しみをすることによって、戦力の逐次投入という状態になり、結果として新商品が短命に終わってしまうわけです。
新商品の成功には優れた商品をつくるだけでは十分とは言えません。
想定するお客さんに商品の存在を知ってもらい、お客さんの文脈やシチュエーションで思い出してもらうための努力 (メンタルアベイラビリティへの投資) と、商品が身近に存在するようにし、容易に購入できるようにするための環境作り (フィジカルアベイラビリティへの投資) の両方が大事です。
まとめ
今回は、新商品を成功に導くためにはどうすればいいかを考察しました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 新商品の成功は、市場に3年以上残るためには、1年目に十分な広告費を投じること、そして3ヶ月以内に販売予定の小売店で8割から9割の配荷を完了させることが重要。新発売後に広告宣伝を行わない、または短期間で終了させる商品は市場から消える傾向にある
- ロングセラーを目指す新商品の発売では、初回購入者数と購買頻度を増やすために、メンタルアベイラビリティ (思い出しやすさ) とフィジカルアベイラビリティ (購入しやすい状態) を高めるための十分な初期投資が不可欠
- ブランド認知と想起を高める広告への投資と、商品が身近な場所で見つけやすく、購入しやすい環境を整えるための営業への投資を行う。発売後の立ち上げフェーズでこれらに注力することで、商品は市場で生き残り、長期的なロングセラーへの道を歩める
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