ブランドを語る上で、独自に持つ 「らしさ」 が重要な要素になります。
ブランドは人々やお客さんの頭の中に存在する 「記憶の総体」 のようなものです。この記憶を形成するのに、実は私たちの 「五感」 が深く関わっています。
今回は 「ブランドらしさのつくり方 (博報堂ブランドデザイン) 」 という本から、五感を通じてブランドの 「らしさ」 をどのように設計し、つくり出していくのか、その全体像を解き明かしていきます。
本書の概要
内容を一言で表現すれば、「人の五感に訴えかけるブランディング」 をどうやってつくるかが事例とともに解説されている本です。もっとシンプルに言えば 「五感ブランディング」 です。
五感とは、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の5つですが、五感ブランディングとは五感を効果的に商品やサービスの中に入れ、その商品や企業の 「らしさ」 をつくることで商品・サービスをブランドにするという考え方です。
五感というとフワッとした話になってしまいそうなところを、具体的に五感を使ってどうやってブランドをつくっていくかがわかりやすく書かれています。
本の後半では、「新宿駅のブランディング」 に当てはめられ、興味深く読めました。新宿駅を新たにブランド化するという架空の事例 (ケーススタディ) です。
架空とはいえ、実際の調査データや博報堂でのワークショップの中身も公開されています。データや分析は新宿と渋谷が比較されていておもしろかったです。ページ数も使っていて、五感に訴えかけるブランディングの具体的なイメージを持つことができます。
ブランドとは
では五感ブランディングについて見ていく前に、そもそものブランドからポイントを整理しておきましょう。
ブランドとブランディング
ブランドとブランディングは次のような関係にあります。
- ブランド: 商品や企業に対するポジティブな 「記憶の総体」 。他にはない独自の存在価値を持つ。その商品やサービス、企業の 「らしさ」 がある
- ブランディング: 中長期的な 「らしさ」 を創造する活動。意思を持って設計し戦略的につくる
ブランドは、五感での体験から得られた脳の中のネットワークでつながる良い連想やイメージ、記憶の総体です。記憶の集合体が大きく、かつ他にない独自のものであればあるほど、そのブランドは強いということです。
そしてブランディングは、その企業やその商品の 「らしさ」 を設計し、中長期にわたって創造し、維持・発展していくことを目指します。
ブランドへの誤解
よくあるブランドへの誤解は次の通りです。「✕」 が誤解、「◯」 はブランドへの正しい認識です。
- ✕ ブランドは高級なもの → ◯ 消費財や食品でもブランドは存在する
- ✕ ブランドとはマークや名称のこと → ◯ 記憶の総体。ロゴなども含めたブランド資産から成る
- ✕ ブランドは広告でつくるもの → ◯ 顧客接点での五感体験からつくられる
- ✕ ブランドは顧客のためにつくるもの → ◯ 顧客だけではなく従業員や株主のためでもある
五感ブランディング
では五感ブランディングについて詳しくみていきましょう。
五感ブランディングでは、五感の5つに訴え、豊かな顧客体験を通してブランドをつくります。
- 色 (視覚)
- 音 (聴覚)
- 香り (嗅覚)
- 素材 (触覚)
- 味 (味覚)
五感を活用したブランディングとは、五感を通してそのブランドならではの 「らしさ」 をつくり上げる活動です。
五感ブランディングについては、実際の例を知るとイメージが理解しやすいので、事例を1つご紹介します。
ポップコーンを使った五感ブランディングの事例
本書の例でおもしろいと思ったのは、カナダのビデオレンタルショップの事例でした。
このお店では、店内でポップコーンを無料で提供しています。来店客は、自由にポップコーンを取り、お店の中で食べながら借りたいビデオを見て回ります。
このポップコーンが五感ブランディングの肝になります。映画館の映画視聴体験を再現する役割を持っているからです。
アメリカやカナダでは、映画を観るときの定番アイテムはポップコーンとコーラです。バケツくらいある大きな入れ物に入ったポップコーンと、コーラを買って映画を見ます。カナダのこのビデオレンタルショップでは、ポップコーンの香りや味によってビデオレンタルショップでもあたかも映画館にいるような体験をつくっているのです。
このレンタルショップに行けば、映画館にいるような気分でポップコーンを食べながら選ぶという 「視覚」 「聴覚」 「嗅覚」 「触覚」 「味覚」 からの五感で楽しみながら、他のビデオレンタルショップではできない顧客体験ができるわけです。
五感ブランディングの全体像
五感ブランディングのアプローチの全体像は、次の3つのステップからです。
- [現状把握] 五感の要素に分けて現状を整理し理解する
- [理想描写] 商品・サービスの五感の要素を統合し、理想とする姿を描く
- [実行] 活動計画に落とし込み、五感での商品体験からブランディングを展開する。全体視点と中長期視点を持つ
新宿駅のブランディング
この本の後半には五感ブランディングの具体例が詳しく説明されています。
五感をフル活用し、新宿駅のブランド化という仮想プロジェクトです。
どのような進め方で五感ブランディングをするのかが1つ1つたどっていくことができ、興味深く読めます。
現状把握
五感ブランディングの1つ目のステップは、五感の要素に分けて現状を整理し理解するところからです。
新宿駅をブランディングしていくにあたっての現状把握では、新宿と渋谷を比較した調査を行いました。
2つを単純なアンケート調査回答で見比べても、特徴の違いは出ませんでしたが、新宿と渋谷に対して五感の視点で詳細に比べると、興味深い結果が得られました。
色のイメージ、音、におい、さわり心地、味をアンケートで尋ねた結果は、新宿の特徴を浮かび上がらせたのです。
コンセプトと価値の定義
現状把握の後にくる次のステップは、商品・サービスの五感の要素を統合し、理想とする姿を描くことです。
新宿と渋谷の五感でのイメージを比較し、5つを統合して俯瞰的に見ることで、新宿駅の目指すべきコンセプトができあがりました。
- 新宿駅の西口と東口からそれぞれ広がる新宿街並みは全く違う
- 矛盾する概念が内包されたエリアが新宿。具体的には、冷たさと温かさ、美しさと汚さ、新しさと古さといった一見矛盾する2つの要素を併せ持っている
- 新宿駅が果たしている役割は、西と東、そして矛盾をつなぐ 「トンネル」 である
こうした新宿や新宿駅の特徴から導かれた新宿駅のブランディングのコンセプトは、「矛盾の肯定」 でした。
コンセプトである新宿駅の持つ 「相反する矛盾の存在を肯定する」 という視点は、新宿駅への新たな見方を与えてくれます。
そして、コンセプトから落とし込まれた新宿駅の価値は、次のように定義されました。
- 機能価値: トンネルにより、人を今までとは違う世界にいざなう
- 情緒価値: ワクワクするような高揚感、新しい世界への期待感、新世界に降り立つ開放感
これらの価値をつくり出すために、本書では新宿駅のブランディングを実行に移すことを想定したブランド設計として具体的な 「五感設計図」 が提示されます。
五感とは “互感” である
本書のキーワードの 「五感」 について、本の最後のほうに 「五感とは “互感” である」 という印象的な言葉が出てきます。
ブランドとは、商品やサービスにまつわるイメージや直接の体験が組み合わさり、トータルとして結果的に 「お客さんの頭の中」 に価値イメージとしてできあがるものです。
五感での豊かな体験を通して、5つの感覚が相互でつながり “互感” となるわけです。全体として 「らしさ」 が生まれ、一本の軸が通ると強いブランドになります。
まとめ
今回は、書籍 「ブランドらしさのつくり方 (博報堂ブランドデザイン) 」 をご紹介し、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ブランドとは: ブランドは独自の 「らしさ」 にもとづく 「記憶の総体」 。ブランディングは、この 「らしさ」 を中長期的に設計し、創造・維持する活動
- 五感ブランディング: ブランド体験を豊かにする五感ブランディングは、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚を刺激して顧客体験を形成する。カナダのビデオレンタルショップでポップコーンを提供することで、レンタルショップ内で映画館を再現。映画館で映画を視聴したり選ぶような疑似体験からユニークな顧客価値を生み出している
- 五感ブランディングの全体像: ① [現状把握] 五感の要素に分けて現状を整理し理解する、② [理想描写] 商品・サービスの五感の要素を統合し、理想とする姿を描く、③ [実行] 活動計画に落とし込み、五感での商品体験からブランディングを展開する。全体視点と中長期視点を持つ
- 新宿駅のブランディング: 新宿という街にはさまざまな矛盾が存在し、ブランディングのコンセプトを 「矛盾の肯定」 とした。機能価値と情緒価値を設計し、五感の要素から新しい新宿の世界観を示した
- 五感とは "互感" である: ブランドの強さは、五感を通じた豊かな体験が互いに連携することで、全体としての 「らしさ」 を形成する 「互感」 にある
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