投稿日 2024/08/23

ノーパンで履けるズボン 「ととのうパンツ」 。PMF までの戦略的泥臭さ

#マーケティング #新規事業 #PMF

新しい事業を成功に導く過程では、何が大事なのでしょうか?

今回は、ノーパンで履ける 「ととのうパンツ」 (ズボン) の事例を取り上げ、アイデアの磨き込み、市場性の検証、そして事業拡大に至るまでのステップを解説します。

その中でも、PMF (Product Market Fit) という製品が市場に受け入れられるかどうかの成功のカギを握る、「地道な泥臭い取り組み」 の重要性を紐解きます。

ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

ノーパンで履ける 「ととのうパンツ」 (ズボン) 



ご紹介したい 「ととのうパンツ」 は、"ノーパンで履けるズボン" というユニークな商品です。サウナ後に快適に過ごすことを目的とした独特のズボンです。

パンツの表地はさらっとした肌触りのシアサッカー生地を採用し、内側には国内生産のダンガリーコットンを使用した、ふんどしと同様の作りのインナートランクスが付いています。

通気性が良いので蒸れにくく、二重構造で外から透けないようになっています。

ととのうパンツは、ロングタイプとショートタイプがあります。着用シーンは多岐にわたり、サウナや温泉に限らず、家でのリラックスタイムやちょっとした外出にも使えます。

価格はロングタイプとショートタイプで1万9800円と1万3200円という高価格帯にもかかわらず、月平均で300万から500万円ほど売れているとのことです (参考記事) 。

新規事業を拡大する流れ


ととのうパンツは、新規事業を生み、拡大 (スケ-ル) させていく成功例としてお手本となる事例です。

ゼロから生み出していくのは次のようなプロセスで進みます。

  1. 初期アイデアの磨き込み
  2. 商品コンセプトや仕様のブラッシュアップ
  3. 市場性の証明
  4. 事業拡大


順を追って見ていきましょう。

初期アイデアの磨き込み

ととのうパンツの開発を手掛けたのは、プラスチャーミング代表の中川ケイジさんです。

中川さんがもともと起業したのは、ご自身のうつ病の経験から、開放的なリラックス時間をつくる 「ふんどし」 に魅力を感じたことからでした。

ふんどしの特徴を商品開発に活かせないかという着想から検討を始め、夏はふんどしの上にショートパンツという自身のスタイルを踏まえ、ノーパンで履けるショートパンツの開発に取り組むことにしました。

サウナに入り、出た後にせっかく身も心もととのったのにもかかわらず、締め付けられる下着を履きたくないと思ったという中川さん自身の体験から、ふんどしのような快適さと開放感のある 「ととのうパンツ」 の商品開発につながりました。

初期段階ではいくつもの試作品を作り、快適性を追求し、局部の幅を調整するなど着心地にもこだわり、作っては試し、また作るというプロセスを繰り返しました。

商品コンセプトや仕様のブラッシュアップ

ととのうパンツを発売する前の2021年に、中川さんは市場調査として全国のサウナを巡って商品の手売りをしていました。

1000枚ほど手売りをする中で、履き心地やデザイン、ポケットの有無などサウナ好きの人たちからさまざまなフィードバックをもらい、商品に反映させていったのです。

お客さんからの直接の声を集めたことで、コンセプトの検証ができただけではなく、履き心地やデザイン、機能性 (ポケットの有無など) の改善を続け、顧客ニーズに合う商品へと進化しました。

市場性の証明

ととのうパンツの開発に着手してから約1年半後の2022年3月に、応援購入サイトの Makuake (マクアケ) で商品を公開しました。

応援購入の目標金額は約37万円と設定していましたが、結果はなんと20倍ちかい 1974% の約730万円と大幅達成を記録しました。

マクアケを使って 「ととのうパンツ」 の市場性を示すことができたのです。

事業拡大

こうした商品の初期段階の成功をもとに、プラスチャーミングは 「ととのうパンツ」 の販売チャネルを拡大しました。

具体的には、伊勢丹新宿店メンズ館です。ととのうパンツを 「伊勢丹サウナ部」 のメンバーに提案したことをきっかけに、催事イベントなどに出品できるようになりました。サウナ関連の催事に限らず、父の日などの催事にも出品しました。また、羽田空港のイセタン羽田ストアにも期間限定で展開し、インバウンド需要を獲得しました。

芸能人の後押しもありました。ふんどしを愛用している千原ジュニアさんや阿部サダヲさんが YouTube やラジオ、テレビで 「ととのうパンツ」 に言及したことで人気に火が付いたのです。

それまでは月の売上は100万円ほどでしたが、売上枚数が3 ~ 5倍に跳ね上がり、その後は増減はあるものの、現在は月商500万円前後に落ち着いているとのことです (参考記事) 。

成功ポイント


ととのうパンツの開発、発売後の人気、安定売上へのプロセスは順風満帆 (じゅんぷうまんぱん) のように見えるかもしれませんが、おそらく成功への道のりは決して平坦なものではなかったはずです。

マクアケでの応援購入に至る前の地道な活動が成功の要因でした。

1000枚の手売りと対話

ととのうパンツの着想と開発は、サウナから出た後にリラックスしたいというシンプルなニーズから始まりましたが、その成功の背後には、挑戦と努力がありました。

最初に直面した課題は、本当に自分たちのアイデアが市場に受け入れるかどうかでした。

検証のためにまずやったことは、プラスチャーミング代表の中川さんは自ら全国のサウナを巡り、直接1,000枚の 「ととのうパンツ」 を手売りをしました。

自分の手で売ってみて、その場でお客さんから履き心地やデザイン、機能面での感想を聞き、また実際に履いた様子を観察することで多くの学びが得られたはずです。このようなお客さんとの直接的な対話によって、製品の改善点が明確になり、反映を繰り返すことで顧客ニーズに応えるよう製品を磨き上げていったのです。

PMF の追求

商品やサービスの開発の初期段階において、その後のビジネスとしての成功を分けるのは、PMF (Product Market Fit) という市場性があるかどうかの検証をどれだけ徹底できるかです。

新規事業にゼロから着手したはじめのころは、取引顧客もなく販路もない状態です。

そこで PMF の達成には、あらゆるすべてのことを自分たちで行う必要がありますが、非効率で時間がかかるのでどうしても敬遠されがちです。しかし、実際には泥臭いまでの PMF への取り組みこそが、製品が市場に受け入れられるかどうかを成否のカギを握るのです。

1000枚の手売りで手応えを得て、次にマクアケでの応援購入サイトで販売をするという二段階の PMF 検証をやったことも注目したいです。

マクアケでは目標金額の20倍近い購入がありましたが、お金を集められたことに加え、PMF を確固たるものにできたことも大きいです。

その後の百貨店や空港などの販路拡大につながり、著名人が注目してくれ YouTube やテレビなどのメディアの紹介でバズったのも、PMF 達成への地道な取り組みがあったからこそです。

初期の 「泥臭く地道な取り組み」 が成否を分ける

ととのうパンツの事例から学べるのは、新規事業においては、製品開発の初期フェーズにおいては効率さを優先するよりも、泥臭さや非効率な取り組みが大事だということです。

1人ひとりのお客さんに直接会いに行き、ユーザーの声に耳を傾け、実際の利用シーンや顧客文脈を観察する。直接的・間接的なフィードバックを貪欲に集める。改善点を見極め、製品に反映する。文章にすると当たり前のことに見えるかもしれませんが、1つ1つを徹底できる企業や人は多くはないでしょう。

だからこそ、開発初期段階での PMF を追求できるかが、市場ニーズに応え、その後の事業の持続可能な成長につながるカギを握るのです。

まとめ


今回はノーパンで履けるズボンの 「ととのうパンツ」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

✓ 新規事業を拡大する流れ
  1. 初期アイデアの磨き込み
  2. 商品コンセプトや仕様のブラッシュアップ
  3. 市場性の証明
  4. 事業拡大

✓ PMF の追求
  • 新規事業では、特に初期段階では効率を目指すよりも、非効率な泥臭い取り組みが重要
  • 1人ひとりのお客さんに直接会いに行き、ユーザーの声に耳を傾け、実際の利用シーンや顧客文脈を観察し、直接的・間接的なフィードバックを貪欲に集め、改善点を見極める
  • 初期の 「泥臭く地道な取り組み」 が PMF (Product Market Fit) 実現の成否を分ける


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。