#マーケティング #思考の外 #言語化
自社のビジネスは、同じ市場にとどまり続けていないでしょうか?
従来の顧客層や、今の市場の枠組みに頼り続けることは、気づかぬうちに成長の限界を招くかもしれません。
新たな市場を創造し、ブランドの存在感を高めるためには 「Out of the Box」 という既存の枠組み (box) の外に目を向ける発想が必要です。では、いかにして未顧客層の注目を集め、新しい価値を打ち出すことができるのでしょうか?
今回は、建設現場の足場レンタル会社のユニークな取り組みから、常識を超える発想方法とその実践の重要性を紐解きます。
ASNOVA の企業変革
ASNOVA (あすのば) は建設用足場のレンタルと販売を手掛ける BtoB 企業です。
業界全体の課題と 「無関心の壁」
建設業界全体で起こっていた問題点は、建設現場の足場需要の高まりに対して職人の数が減少する状況です。また、若者が足場業界に関心を持たず、次の世代の人材確保が難しい状況にも直面していました。
これらは ASNOVA にとっても経営上のリスクです。世の中からの建設業界への 「無関心の壁」 を乗り越えるため、ASNOVA とロフトワークは外部の視点を取り入れたリサーチと新しいコンセプトの開発を進めました。
リサーチとコンセプト設定
具体的には、足場業界外の人々である消防士やライブペインターを対象にリサーチを行い、彼ら・彼女らの視点から建設の足場に対する関心や可能性を探りました。
調査結果と洞察によって、ASNOVA は足場の意味合いを再解釈しました。
足場のことを建設用の手段や道具としてだけではなく、新たな価値を生み出す 「仮設文化」 として足場を多面的に捉え直したのです。
この過程で 「カセツ」 という新しい言葉をつくりました。カタカナで表現するカセツには、建設での仮設と、仮の答えという仮説の意味も込めています。
コンセプトの言語化による価値定義
ASNOVA の新しい取り組みには、社内外で抵抗があったとのことです。
ASNOVA は抵抗を乗り越えるために、次のような工夫を行いました。
まずは 「カセツ」 を企業のパーパスとして位置づけたことです。カセツには 「仮に企画する仮説」 や 「新しい挑戦の土台」 という意味を込め、ASNOVA の事業活動そのものを象徴し、社内のメンバーが施策の意義を共有するための重要な支えだと位置づけたのです。
カセツという明確な言語化により、社内でのコンセプトの理解を深めるとともに、外部へのコミュニケーションでも役割を果たしました。
走りながら考える
また、ASNOVA は、あらかじめ全てを決めるのではなく、課題を発見したらすぐにプロジェクトを立ち上げて実践を重ね、得た知見を次の施策に反映させる 「動かしながら考える」 アプローチを採用しました。
例えば、イベントの開催においても、初めは小規模に試験的なイベントを実施し、得られた参加者の反応やフィードバックをもとに、次回のイベント内容を改善していくというふうにですた。
実践から得た学びを次の施策に反映させることによって、柔軟で効果的な活動を行うことができました。
情報発信とイベントでの新たな価値提案
ASNOVA はカセツというコンセプトを起点に情報発信も強化しています。
情報発信の一環として立ち上げられた Web メディア 「POP UP SOCIETY」 は、足場のことを 「仮設文化」 として捉え直し、アートやスポーツ、日常生活における活用方法など様々な視点からその可能性を発信する場となりました。
具体的には、ライブペイントでの足場の使用例やパルクールとのコラボレーションを通じて、足場が創造的な活動にどのように役立つかを紹介しました。
また、名古屋の繁華街にある久屋大通公園で開催されたパルクールと足場を組み合わせたイベントでは、訪れた約350人の若者やファミリー層に、足場の新しい魅力を体験的に伝える場を提供しました。
これらの取り組みは、若者層を中心に足場業界への新しい関心を喚起し、ASNOVA のブランドとして価値の向上にもつながりました。
学べること
では、ASNOVA の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
市場の外に目を向ける 「Out of the Box」 の発想
ASNOVA は、建設業界全体の問題として 「無関心の壁」 を解決することを全社的に注力しました。特に若年層からの建設業界への関心の低さへの対処です。
ASNOVA の事例から学べるのは、「Out of the box」 という視点を持つことの重要性です。
マーケティングに当てはめれば、既存の市場や今の顧客層だけに目を向けるのではなく、それらを超えた新たな市場を創出し、ブランドの価値をさらに広げていくことです。既存の枠組みを超えた発想や活動はビジネスの新たな成長につながります。
ASNOVA は足場のことを捉え直し、新しい価値を生み出す基盤として再定義することにより、「カセツ」 というコンセプトをつくりました。
コンセプトにしたカセツというメッセージを社内外に広く発信することで、ASNOVA は自社の存在意義を再構築し、これまで接点を持たなかった人たちにまでブランドを浸透させようとしています。ASNOVA は従来の足場の提供者という役割から、「創造性を支える企業」 へとポジションやイメージを進化させることを目指します。
このように、既存のマーケットを超えて無関心層にリーチするためには、製品やサービスの枠にとどまらない新しい価値の提案が大事です。ASNOVA の事例はその成功例として注目に値します。
従来の顧客層 (足場施工会社) だけでなく、既存市場の外にいる若者を新たなターゲットとして設定し、ブランドの認知と共感を広げました。既存市場だけに注力して縮小均衡に陥るのではなく、新しい市場を創造することが重要なのです。
コンセプト設定と言語化による新しい価値への注目の喚起
もうひとつマーケティングへの学びとして強調したいのは、言語化の力です。
ASNOVAは 「カセツ」 という言葉をつくり、企業全体でのコンセプトに昇華することにより、足場という製品に新たな価値を持たせました。
カセツというコンセプトによって、建設用具としての足場を 「創造的な基盤」 や 「仮設文化」 として新しい意味合いをつくり出しました。
言語化されたコンセプトは、ブランドの新しい側面を際立たせ、従来のターゲット層の外にいる顧客層 (無関心層) の関心を集めることへの土台となります。
ASNOVA は 「思考の外への着想 (Out of the box) 」 と 「言語化」 によってブランドの存在意義を拡大し、新たな市場でのお客さんへの価値実現を成し遂げようとしているのです。
まとめ
今回は、建設用足場のレンタルと販売を手掛ける企業である ASNOVA の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 市場の外に目を向ける 「Out of the Box」 の発想が大事。既存の枠組みを超えた発想や活動はビジネスの新たな成長につながる。既存市場だけに注力して縮小均衡に陥るのではなく、新しい市場を創造することが重要
- コンセプト設定と言語化により、新しい価値への注目を喚起する。言語化されたコンセプトにより、ブランドの側面を際立たせる。打ち出されたコンセプトは、従来のターゲット層の外にいる顧客層 (例: 無関心層) の関心を集める活動の土台となる
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