#マーケティング #新規市場の開拓 #顧客価値
変化する消費者の生活や価値観、そしてその裏に隠れている消費者が感じている不便や不満を見逃していないでしょうか?
今回は、火を使わない線香というユニークな製品の成功事例をもとに、顧客理解から新しい市場の開拓へのマーケティングを解説します。
常識を超える発想と、潜在的なニーズを掘り起こす洞察力が、ビジネスを変える可能性を秘めています。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
はせがわの火を使わない線香
仏壇・仏具を提供する株式会社はせがわが開発した 「ほのゆら 電気線香」 。火を使わずに本物の線香のような光の揺らぎを再現しました。
電気線香は、火の消し忘れや転倒による火災の心配もなく、煙や臭いも発生しないため、介護施設などでも安心して使えます。
リモコン操作で簡単に点灯・消灯の切り替えや光量の調節ができ、たとえば、遠くからでも座ったまま操作が可能なため高齢者や身体が不自由な方にも使いやすく、既存の香炉や火立 (ひたて) に入れて利用することもできます。
このように、「ほのゆら 電気線香」 という火を使わない線香は伝統的な供養の形を守りながら、現代の生活環境に適した新しい選択肢として消費者にもたらしています。
学べること
では、火を使わない電気線香の開発事例から学べることを掘り下げていきましょう。
顧客ニーズへの洞察
はせがわは、線香という伝統的な商品が売れなくなっているという現実を直視したところから、火を使わない線香の開発が始まりました (参考記事) 。
市場縮小の要因を、消費者やお客さんの生活や価値観の変化によるものと理解しました。
例えば、核家族化の進行や共働き世帯の増加により、家事や育児の時間が限られており、火を扱う手間を避けたいというニーズです。また、高齢化社会の進展により、安全性への意識が高まり、火を使わない選択肢が求められるようになっています。
一般的な線香での火を使う線香の不便さ、安全性の懸念、あるいは今の日常生活で火を扱うこと自体への心理的抵抗など、こうした消費者の 「不」 を発見し、解決策として火を使わない線香を商品化しました。
商品開発やマーケティングへの汎用的な応用として、次のことが学びになります。
- 消費者やお客さんが 「何に不便を感じているのか」 を常に観察し、解決策を模索する
- 売れ行きが悪化している商品や市場を 「衰退」 と見なさず、新しいニーズが隠れているのではないかという発想に変えてみる
- 社内外での観察や洞察から、表面的な 「要望」 ではなく、本質的な 「課題」 に焦点を当てる
自己カニバリゼーション (自社商品と自社商品の競合) を恐れない
新商品の開発では、ときとして 「開発する新商品が既存の自社商品の売上を奪ってしまうのではないか」 というカニバリへの懸念が起こります。
事実、はせがわの火を使わない電気線香の開発では、社員から 「通常の線香が売れなくなる」 との反対意見が多く出たとのことです。しかし、はせがわはカニバリを覚悟して開発を推進しました。
注目したいのは、はせがわが 「競合他社にシェアを取られるくらいなら、自社で新しい価値をつくり出す」 という発想をしたことです。
カニバリ覚悟での姿勢で火を使わない線香の開発を進めたことで、安全性を重視する新たな顧客層を取り込むことに成功しました。結果として、従来の線香よりも広い市場で受け入れられるようになりました。
ビジネスへの汎用的な応用として、新たな市場の創出を優先的に考えることによって新しいビジネス機会を見出せるということです。
その際に、既存商品のポジションを見直す工程を入れるといいでしょう。新商品の顧客価値が、既存商品の価値を凌駕するのであれば、市場全体で自社の占有率を拡大できると捉えるわけです。
また、社内からの反対意見があったとしても 「失敗しても学びがある」 という前提で推進するというのも、はせがわの事例から学べることです。
新たな顧客セグメントの開拓
火を使わない電気線香が成功した背景には、従来の線香を使っていたお客さんだけでなく、小さな子どもがいる家庭や高齢者世帯、他には介護施設など、今までは線香を使っていない消費者層を取り込むことができた点があります。
新商品が今までとはまったく異なる顧客文脈 (未顧客の置かれた状況やニーズ) を持つ層に受け入れられる可能性を見出すことが、自社ビジネスを拡大できるカギになります。
そのめたには、既存のお客さんとは異なる生活背景やビジネス文脈を持つ人々に目を向けるといいです。商品を利用していない層に対して、新しい使い方や利便性を訴求します。
新たな価値の提案
新しい市場を開拓するためには、その市場にいる消費者にとっての価値を提示することが必要になります。売り手にとっては、これまでとは違った新しい価値の提案です。
火を使わない線香は、従来の線香と基本的な機能は同じでありながら、さらに新しい顧客価値 (付加価値) を提供します。
火を使わないことにより安全性や手軽さを実現し、今までの火を使う線香にはない利便性をもたらしました。香炉の中に組み込まれた LED 照明や小型ファンの技術は、従来の線香ではなかった技術です。火を使う線香のような炎の揺らぎや香りの広がりを再現しました。線香の利用シーンや顧客体験を新しくしたわけです。
このように、はせがわの 「ほのゆら 電気線香」 は基本的な価値 (仏具としての機能) を維持しつつ、火を使わないことによる安全性やリモコン操作による手軽さなどの新しい顧客体験を加えることで、お客さんにとっての魅力を高めました。
得られる示唆
では汎用化できる示唆を整理してみましょう。
1つ目は基本価値と付加価値を分けて考えることの重要性です。基本的な商品機能に加えて、新しい体験を提供することで差異化を図るアプローチです。
2つ目としてストーリーを伴った価値提供という点も学べます。新しい価値提案が 「なぜこの商品を選ぶべきか」 という物語性を持つことによって、お客さんに共感と納得感をもたらすでしょう。
はせがわの事例に学ぶべき点は、変化を恐れず、顧客ニーズや課題を洞察し、新たな価値を生み出す姿勢です。
支えるのは 「自社で自社の商品を超える」 という挑戦への心構えと、市場の外に目を向ける 「Out of the box (思考している箱の外) 」 という発想です。こうしたアプローチを取り入れることで、新しいビジネスの可能性を広げることができます。
まとめ
今回は、はせがわの火を使わない 「ほのゆら 電気線香」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 消費者の生活や価値観の変化を観察し、置かれた状況での不便や不満を洞察する。表面的な望みにとどまらず、本質的な課題を深掘りする姿勢が大事
- 自社製品同士のカニバリを恐れず、新しい価値創出へ挑む姿勢は、市場を再定義する契機になる
- 既存のお客さんにとらわれず、新たな顧客セグメントへと視線を移すことで成長余地を切り拓ける。市場の外に目を向け (Out of the box) 、常識に縛られない発想の転換が新しいビジネスをつくりだす
- 異なる価値観や利用文脈を有する層を新しく注力顧客とし、顧客文脈に合った訴求により、潜在需要を取り込んでいく
マーケティングレターのご紹介
マーケティングのニュースレターを配信しています。
気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。
マーケティングのことがおもしろいと思えて、すぐに活かせる学びを毎週お届けします。レターの文字数はこのブログの 3 ~ 4 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。
ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。
こちらから登録して、ぜひレターも読んでみてください!