投稿日 2025/04/02

モスバーガーのアプリ。顧客理解と価値創出の両輪をまわす 「知る・つくる・届ける」 マーケティング

#マーケティング #顧客接点 #顧客理解と価値創出

多くの企業は、デジタルツールを導入して効率を追求していますが、デジタル化によって顧客体験に本当に深く向き合えているかはまた別の課題です。

ご紹介したいモスバーガーのアプリは、当初のマスマーケティングの方針から、顧客理解を深めるデジタル戦略へとシフトしました。

モスバーガーが挑んだデジタルを活かしての顧客体験を向上させる取り組みは、あなたのビジネスにもヒントを与えてくれるはずです。顧客理解の最前線で起きている、戦略転換からのマーケティングの進化とは――。

ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

モスバーガーの公式アプリ



モスバーガーが公式アプリの提供を始めたのは2015年のことです。

ただ2015年当時からしばらくは、モスバーガーはマスマーケティングに特化した施策を中心としていました。そのため個別のお客さんに向けたチャネルであるアプリは、それほど重要視されていませんでした。

転換点となったのは2020年です。背景には、モスフードサービス全体のデジタル戦略の見直しがありました。

具体的には、デジタルツールを活用して顧客データをより深く収集・分析し、一人ひとりのお客さんに対してパーソナライズされたサービスを提供する方向へと戦略を転換しました。

この転換により、顧客体験を高め、効率的なマーケティング活動を行うための基盤を整えました。デジタルツールを軸とした顧客データの収集と活用による、よりお客さん一人ひとりとの接点を強化する方針へと舵を切ったわけです。

アプリがお店の代わりに

モスバーガーが提供する公式アプリは、お客さんが商品を注文するツールにとどまらず、デジタル上で 「お店の代わり」 となることを目指しています。

アプリは、従来のプリペイドカード 「モスカード」 の機能を発展させ、ネット注文や会員機能の拡充、直感的な UI (ユーザーインターフェース) による利便性向上など、お客さんがより快適に利用できる設計がされました。

位置情報を活用した店舗検索機能や、過去の注文履歴からの再注文機能など、頻繁にモスバーガーを利用するお客さんにとって利便性を強化する施策も盛り込まれています。

デジタルで 「人情味」 を再現する試み

モスバーガーのアプリの特徴は、モスバーガーの 「人情味ある接客」 をデジタルでも再現しようという試みにも見られます。

具体的には、実店舗ではスタッフが常連客の好みを把握し、それに合わせたメニューを提案することがあります。これを再現するため、個別化されたプッシュ通知やおすすめメニューの表示など、お客さん一人ひとりに寄り添う取り組みが行われています。

実店舗でお客さんとの距離を大切にするモスバーガーならではの姿勢を、アプリでも体験できることを目指しています。アプリのデザインにモスのメインカラーである緑を基調とし、目に優しい配色を採用したり、ボタンにアイコンを多用して視覚的にも使いやすくしたりするという工夫です。

アプリ上でのおもてなしを実現するため、顧客データを蓄積・分析し、個別に最適化されたプッシュ通知やおすすめメニューを提示する CRM (顧客関係管理) の強化も進められています。

お客さんの文脈に合った情報やサービスが届けられ、アプリはお客さんとモスバーガーの接点を強化する役割を果たしています。

 「知る → つくる → 届ける」 のサイクル


では、この事例から学べるポイントを深掘りしていきましょう。

モスバーガーのアプリは、お客さんにとって価値を得られる接点となり、同時に顧客理解を深めるためにあります。

そこでモスバーガーのアプリを 「知る、つくる、届ける」 というマーケティングの基本的なサイクルに沿って、アプリがどのようにそれぞれの役割を担っているかを見ていきましょう。

[知る] 顧客データの蓄積と顧客理解

まず 「知る」 という面では、アプリはお客さんに関する膨大なデータを蓄積するプラットフォームとして機能しています。

ネット注文機能や位置情報、注文履歴などから、お客さんがどの店舗をよく利用し、いつの時間帯にどんなメニューを好むのか、さらには季節や時間帯によってどのようなメニューの需要が高いのかを、より細かく分析することができます。従来はモスカード会員に紐づく簡易的なデータしか得られなかったところを、アプリ経由でのデータ取得により、より広く、精緻な顧客理解が可能となるのです。

データを活用することで、マーケティングやプロモーションの最適化が図られ、お客さん一人ひとりのニーズに応じたサービスや商品を提供することにつながります。

[つくる] モスバーガーらしい体験設計

次に 「つくる」 という面では、アプリがモスバーガーならではの 「おもてなし」 や 「人情味」 をデジタル上で再現することに貢献しています。

アプリはお客さんが求める 「手軽に、おいしいモスバーガーを味わいたい」 という気持ちに応えています。また、モス WEB 会員としての会員ランクやポイントプログラムも、リピーターのお客さんにとっての 「特別感」 や 「お得感」 を生み出します。

アプリによって、モスバーガーが一貫して大切にしている人情味ある接客の雰囲気を、デジタルでも実現しようという具体的な工夫が随所に施されています。

例えば、注文画面における視覚的なわかりやすさを向上させるために、メニュー画像を大きく表示し、直感的に選択しやすくしています。また、頻繁に利用するお客さん向けに過去の注文履歴から素早く再注文できる機能や、位置情報をもとに近くの店舗を自動的に表示する機能などです。

こうした使い勝手を向上させるための取り組みが行われています。

[届ける] 適切なタイミングでの価値提供

そして 「届ける」 という面では、アプリはお客さんとの直接的な接点となり、必要な情報やサービスを適切なタイミングで届けます。

例えば、定期的なキャンペーンや新商品情報、クーポンをプッシュ通知で届けることにより、アプリ利用者の再来店を促すことができます。他には、データからのパーソナライズされた情報提供によって、過去の購入履歴にもとづいたおすすめ商品や、特定の時間帯に合ったメニューのプッシュ通知なども可能です。

こうした個別対応によって、お客さんは 「自分だけに用意されたサービスを受けている」 と感じ、モスバーガーへの愛着や信用が高まることが期待できます。

顧客接点強化による価値創出と顧客理解の好循環

モスバーガーのアプリは、顧客接点を強化し、顧客価値の創出と顧客理解の深化の両方が車の車輪のように相互に作用する仕組みです。

アプリはお客さんにとって使いやすいツールとなり、顧客データを収集して顧客理解によってマーケティングに活かせる基盤としても役割を果たします。

お客さんのことを 「知る」 、顧客体験を 「つくる」 、そして顧客価値を 「届ける」 というサイクルが自然とまわり、モスバーガーの価値向上に貢献しているのです。

アプリからの顧客接点の強化は、マーケティングにおける 「知る」 「つくる」 「届ける」 という要素が一体となって機能し、お客さんにとっての新たな価値の創出と、お客さんとのつながりを実現しています。

まとめ


今回は、モスバーガーの公式アプリを取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • モスバーガーの公式アプリは2015年に提供開始されたが、当初はマスマーケティング中心で一人ひとりのお客さんに向けた運用はされていなかった

  • 2020年にデジタル戦略を見直し、顧客データを活用してパーソナライズされたサービス提供へと転換。顧客体験の向上と効率的なマーケティング活動の基盤が整えられた

  • アプリはお店の代わりとなることを目指し、ネット注文や店舗検索などの利便性を強化。モスバーガーならではの 「人情味ある接客」 を再現し、個別化されたプッシュ通知やメニュー表示を通じてお客さんに寄り添う

  • 顧客を 「知る」 ことでデータを活用し、「つくる」 段階でモスバーガーらしい体験設計を行い、「届ける」 ことで適切なタイミングで価値を提供する

  •  「知る → つくる → 届ける」 のマーケティングサイクルは、顧客理解を深め、顧客価値の創出と顧客接点強化を促進する好循環を生む


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。