投稿日 2025/03/18

あえるわかめちゃん。成功のカギは顧客の 「プチストレス」 。顧客起点で社内の反対意見を乗り越える秘訣

#マーケティング #顧客理解 #プチストレス

自社の商品やサービス、もしかしたら気づかれない小さなストレスをお客さんにもたらしていないでしょうか?

商品開発やマーケティングでは、お客さんが日常で感じる 「プチストレス」 に着目することによって、ビジネスのチャンスになります。

今回は、表にはなかなか出てこない注力顧客の不満をいかに発見し、解決するかを具体的な事例から解説します。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

あえるわかめちゃん



理研ビタミンが2024年3月に発売した、水戻しが不要な味付きワカメ 「あえるわかめちゃん」 が人気です。

乾燥わかめの水戻しの手間がいらず、味付けもされていることで、袋から出して混ぜたり和えるだけで副菜が完成するという簡単さが特徴です。発売後1ヶ月で主力商品の月間販売量の3分の1にあたる10万袋を売り上げ、計画比2倍以上の売上を達成しました (参考記事) 。

開発の背景

開発の背景には、若年層のわかめの消費が減り、わかめが味噌汁や酢の物といった限られた用途でしか使われていない現状に理研ビタミンの課題意識がありました (参考記事) 。

そこで、理研はレシピ動画サイト 「クラシル」 との共同開発により、さまざまな用途で手軽に使える新しいわかめ商品を目指しました。開発では、クラシル利用者のフィードバックをもとに商品形態や味を改善し続けたとのことです。

顧客の声を聞く開発プロセス

最初の試作品では、乾燥わかめと調味液が分かれたキット形式を試みましたが、「混ぜるのが面倒」 という消費者の声があったため、最初から調味液にわかめが浸ったタイプに変更されました。

しかし、今度は 「液体に浸かっていると腐りやすそう」 と消費者からの印象が良くなかったため、これも不採用になりました。このように、お客さんの意見を反映しながら、段階的に仕様を改善し開発が続けられました。

開発の途中、水戻し不要というコンセプトについて、理研ビタミン社内から 「水戻しにかかる時間は数分で大した手間ではない」 という反対意見も出ました。

そこで、クラシルの利用者に再度意見を尋ねると、「水戻しにかかる待ち時間よりも、洗い物が増える、量の調整が難しいといったプチストレスがある」 との声が多く集まりました。水戻しの時間がかかるかどうかよりも、水戻しに伴う作業にストレスが発生していたわけです。

 「あえるわかめちゃん」 の味の決定もお客さんの声を参考にしています。ごま油とにんにくを効かせた 「ナムル風うま塩味」 が採用されましたが、この味はクラシルの利用者1400人に対し、ポン酢味やカレー味など10種類以上の候補を示してアンケートを行い、最も人気が高かったものでした。

味の選定プロセスでも、お客さんの声を反映させており、消費者ニーズに応じた商品が生まれました。

学べること


では 「あえるわかめちゃん」 の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。

プチストレスへの着目が新たなビジネス機会に

商品開発やマーケティングにおいて 「お客さんの声」 を反映させることは、選ばれる商品となり、顧客満足度を高めるために有効なアプローチです。

お客さんが商品を実際に使ってどのように感じ、どう使いたいと考えているかの顧客理解が重要です。ここでのポイントは、お客さんが 「何に不便を感じているのか」 や 「どのような使用シーンを想定しているのか」 といった具体的なレベルまで深掘りをすることにあります。

この文脈で、今回の 「あえるわかめちゃん」 の事例からの学びとしたいのは、注力顧客が普段感じている 「プチストレス」 に焦点を当てることです。

プチストレスとは、お客さんが日常の中で感じる一見するとささいなものに見える不便さや負担です。たとえ物理的な負担が小さくとも、繰り返され精神的な負担や不快感が蓄積すると、お客さんの商品利用時における満足度や次の購入意欲に影響を与えます。

今回の事例で言えば、わかめの水戻し作業がもたらす手間は、消費者はそれが少量でも余分な食器を使って水戻しをするので、終わったあとにお皿を洗う必要があり、乾かすのに置いておく場所も増えるので、他人が思うよりも本人にとってはストレスだったのです。

たとえ小さな負担であっても、注力顧客の生活習慣や動作プロセスにマッチしない手間や不便さを 「プチストレス」 とみなして着目することによって、お客さんにとってはまだ解決されていない問題が浮かび上がり、解決することで自社にとっては新たなビジネス機会となるのです。

アンケート調査やインタビュー、商品利用時の観察などから、お客さんの置かれた状況、利用方法、その時の気持ちを注意深く見たり耳を傾け、彼ら・彼女らが何を不満に感じているのか、どのような状況でニーズや不便さが発生するのかを明らかにすることが大事です。

そして、プチストレスを少しでも解決する商品やサービスを提供するという、細かな顧客ニーズの発見と解決が、自社商品・サービスの選ばれる理由となるのです。

社内での反対意見を注力顧客の言葉で乗り越える

商品開発やマーケティングの現場では、往々にして社内の意見と顧客のニーズが対立することがあります。商品開発者や企画担当者など、長年その分野に関わってきたメンバーは、時として顧客目線から離れてしまい、企業内の視点に偏ることがあるためです。

あえるわかめちゃんの事例では、わかめの水戻しが不要というアイデアについて、社内から 「水戻しにかかる時間は大した負担ではない。本当にそんな改善で商品は売れるのか」 との反対意見や開発への懸念が出されました。

こうした社内での一部の見方に対して、実際に想定する注力顧客から寄せられた声は 「わかめの水戻しのためだけにボウルを用意するのは手間」 「調理中の台所でボウルの置き場所に困る」 、「洗い物が増えるのが面倒」 といった、さまざまな視点でのストレスでした。

理研ビタミンは、具体的なお客さんの感じる不便さを、お客さんの言葉で社内に明示することによって、反対意見を乗り越えました。このように、社内の視点だけでは見えづらい 「日常生活におけるちょっとしたストレス」 を、実在するお客さんの声を通して明確にし、社内で顧客理解への共通認識とすることが重要です。

理研ビタミンは新しい商品のコンセプトを 「水戻し不要」 と打ち出すわけですが、これが意味するのは、理研ビタミンは 「お客さんが本当に求める価値」 が社内での意見よりも優先されるべきだという姿勢を貫いたということです。

外向き姿勢からの商品開発とマーケティング

ここから私たちが得られる学びを汎用化すると、社内で商品開発やマーケティングに関して異論が出た際には、実際のお客さんの使用体験や声などの顧客文脈に立ち返り判断をすることで、お客さんの実態とかけ離れることがない意思決定ができます。

お客さんはどう感じるのか、どのように使っているのかに焦点を当て、顧客インタビューやアンケート、テストマーケティングやクラウドファンディングからの顧客理解と結果などから定量・定性データを提示することにより、社内の意思決定が注力顧客の視点に立ったものになります。

それにより、反対意見を聞き流したり力ずくでつぶすというやり方ではなく、より顧客満足の高い商品にできるプロセスへとつながります。

このような顧客視点での意思決定は、結果として、社内のメンバー全体がお客さんのほうを向いた 「外向き姿勢」 になり、顧客理解への解像度を高める機会にでき、お客さんから選ばれる理由をつくっていけるのです。

まとめ


今回は、理研ビタミンの 「あえるわかめちゃん」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 商品開発やマーケティングでは、お客さんが日常で感じる 「プチストレス」 に着目するといい。一見すると小さな負担でも、繰り返されることで実は大きなストレスとなっていれば、新たなビジネスチャンスになる

  • 注力顧客の行動や感情を丁寧に観察し、表面化していない不満を発見する。お客さんがどのような不便さを感じているかを具体的に理解し、「不」 を解決する商品やサービスを提供する

  • 社内意見が顧客ニーズと対立する際、注力顧客の具体的な声を示すことが有効。定量と定性データにもとづく顧客視点の意思決定により、顧客ニーズにより即した商品開発やマーケティングになる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。