#マーケティング #新規市場 #顧客価値
今いる市場ではなく、全く異なる市場での顧客ニーズに応えることができたら、商品の価値はどう変わるのでしょうか?
今回は、和菓子の 「ようかん」 が、スポーツ時のエネルギー補給のための 「飲むようかん」 という新しいカタチになり、独自の価値を創り出した 「ANDŌ (アンドゥー) 」 の事例を取り上げます。
この事例からは、新しい市場に参入することによって、競争相手や求められる価値がどのように変わるのか、そして新規の市場開拓を成功させることへの示唆が得られます。
ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
飲めるようかん 「ANDŌ (アンドゥー) 」
飲めるようかん 「ANDŌ (アンドゥー) 」 は、大阪市にある創業76年の和菓子店 「福壽堂秀信 (ふくじゅどうひでのぶ) 」 が2022年4月に発売したユニークな商品です。
ANDŌ は、北海道産の高級小豆と砂糖、寒天、でんぷん、水飴などの自然由来の材料を使用し、和菓子の良さを活かしつつ、飲みやすさにもこだわっています。味においては宮古島の塩を使用した有塩タイプと無塩タイプの2種類があり、1本で100キロカロリーです。
「さらっと飲めるようかん」 として、チューブ型で気軽に摂取できることを特徴としています。チューブ型は持ち運びが便利で、片手で簡単に開けて飲むことができます。スポーツ中でもすばやくエネルギー補給ができ、特にマラソンなどの長距離走のときにエネルギー補給がスムーズに行えます。
ANDŌは 「大阪マラソン 2024」 で補給食として配られ、使いやすさとあんこのおいしさがランナーから好評を得ました。ランナーが走行中に簡単にエネルギー補給をできる点が評価され、特に疲労時でも摂取しやすいことから満足度を得ています。
学べること
では、飲めるようかんの ANDŌ (アンドゥー) の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。
ANDŌ は、マーケティングにおける 「市場が変わること」 の意味を示し、どのように新たな市場で成功するかを考える上で示唆のある事例です。
伝統的な和菓子というカテゴリーから、スポーツ時のエネルギー補給という新しい用途に適応することにより、いかに価値を再定義したのという点で学びがあります。
市場が変わればお客さんの 「状況」 も 「ニーズ」 も変わる
和菓子のようかんと言えば、伝統的なお菓子で中高年層以上のお茶のお供としての和菓子というイメージが強いですが、ANDŌ は 「スポーツ中のエネルギー補給」 という全く新しい使い方を提示しました。
具体的には長距離ランナーやスポーツ愛好者が運動中に、手軽にエネルギーを補給できることを目的としたものです。ANDŌ はようかんの通常の用途とは全く異なるシーンでの利用を想定しています。
マーケティングの観点でこれを捉えると、新しい市場に進出することで、今までとは競う相手や提供すべき価値は大きく変わるということです。
これまでのようかんが注力顧客としていたのは、例えばお茶を楽しむシニア層でした。この市場での競争相手は他の和菓子、もしくはケーキなどの洋菓子です。
一方の ANDŌ が見出した新しい市場、すなわちマラソンやトレイルランニングといった 「長時間にわたるスポーツ時のエネルギー補給市場」 においては、お客さんの置かれた状況が異なります。長距離ランナーたちは、エネルギー切れをして自分のパフォーマンスが急激に下がり、走行スピードの低下やタイムの遅れを起こさないために、自分に合ったエネルギーを補給できる手段を必要としています。
この状況下では、「さらっと楽に飲める」 「走りながら補給できる」 「胃に優しい」 というニーズがあります。
ANDŌ はこれらの顧客ニーズに応えるために、形状をチューブ型で持ち運びやすく、開けやすいパッケージデザインを採用しました。また、液体に近く柔らかいので喉を通りやすく、長時間の運動中でも胃に負担をかけないように 「飲めるようかん」 になっています。
このように、市場が変わるとお客さんの 「状況」 と、その状況下で求められる 「顧客ニーズ」 も変わります。一般的なようかんの商品価値ではなく、スポーツ時のエネルギー補給という違う顧客ニーズに対応する便益 (ベネフィット) が求められるのです。
新しい市場には異なる競合が待ち受ける
市場が変わることで、もうひとつ意識すべきことがあります。それは、新しい市場での競合 (お客さんから選ばれる競争相手) も変わるということです。
ANDŌ が進出したスボーツ時のエネルギー補給市場では、競合は他のようかんや和菓子、洋菓子などではありません。
代表的なのはエナジージェルです。エナジージェルは、長距離ランナーやトレイルランナー向けに開発された製品であり、ランニング中にすばやくエネルギーを摂取できるようつくられています。携帯性や摂取の手軽さに優れています。また、他の競合にはバナナも定番としています。バナナは自然なエネルギー源として人気があります。
ANDŌ はこれまでの和菓子市場での競争から一転して、エナジージェルなどのスポーツ時の利用を想定した補給食品と競うことになりました。このように、市場が変わればお客さんの状況もニーズも変わり、求める便益を提供する競う相手も変化するという視点が大事です。
新しい市場に適した存在になる
新たな競合に対して、どのようにして優位に立つかが新しい市場での成功のカギを握ります。
新しい市場でお客さんから選ばれるためには、顧客ニーズに合致する商品特性を備えることが不可欠です。
ANDŌ は、長距離ランニングという場面に適した 「飲めるようかん」 として、手軽に摂取できるチューブ型で提供されました。エネルギー補給が必要なマラソンやトレイルラン中に便利であり、長距離ランナーにとって使いやすいデザイン設計です。
また、さらっと飲めるという点も、長距離ランナーにとって魅力となります。走行中は疲労が蓄積し、固形物を食べるのが難しくなる場合もあります。ANDŌ のように液体に近い状態のまま簡単に食べられることは、ランナーにとってのありがたい食べものです。
競合にはない独自の顧客価値を提供する
さらに、新しい市場での競合との差異化を図るためには、競合商品にはない独自の顧客価値を提供することが必要です。
ANDŌ の場合、あんこ味という一般的なエナジージェルにはないフレーバーが、独自性を支えています。
多くのエナジージェルはフルーツ系の味が一般的であり、同じ味を繰り返し摂取することに飽きることが少なくありません。フルーツ系の味は甘さが強く感じられることもあり、特に疲労時にはその甘さが重く感じられることもあります。
一方、ANDŌ のあんこ味は、和菓子の風味を活かした今までにない味から選択肢を広げ、ランナーに新しい体験をもたらします。和菓子の自然な甘さと風味が疲労感を和らげ、精神的にも落ち着きを与える効果も期待できます。
こうした味の違いに加え、胃に優しい成分で作られているため、長時間の運動中でも胃に負担がかからない利点もあります。
新しい市場での成功には、求められるニーズを捉えるだけでは必ずしも十分とは限りません。そのカテゴリーで求められる最低限の必要要素を満たしつつ、付加価値として他にはない独自の便益を提供することが大切です。
まとめ
今回は、飲めるようかんの ANDŌ を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 自分たちにとって新しい市場に進出すれば、そこにいるお客さんの置かれた状況と顧客ニーズは、今まで対応してきたお客さんのニーズとは異なる
- また、新しい市場に参入すれば、既存の競合とは異なる競合プレイヤーがいる
- 新しい市場で成功するには、そのカテゴリーで求められる顧客ニーズに合った商品・サービスになる必要がある
- お客さんから選ばれるためには、競合他社にはない独自の顧客価値を提供することが重要
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