投稿日 2025/03/02

ドンキの 「興味期限」 。売れ残り商品を再生する価値創造の販売方法

#マーケティング #顧客起点 #興味期限

売れ残りの商品をどうすればもっと売れるのか?

この問いは、どの企業も多かれ少なかれ直面する課題でしょう。

総合ディスカウントストアのドン・キホーテは、ユニークなアプローチでこの問題を解決しています。それは 「興味期限」 という考え方です。

消費者の興味が薄れた商品を、新しい価値で再び輝かせる――。興味期限というマーケティングの視点からも興味深い仕組みは、どのようにお客さんに魅力をもたらしているのか、そして小売以外の他の業界に応用できるのか、ぜひ一緒に詳しく見ていきましょう。

ドンキの 「興味期限」


 「興味期限」 は、ドン・キホーテが 「買い場」 における商品の新鮮さを保つために考案したユニークな仕組みです。

こちらの書籍 「進撃のドンキ - 知られざる巨大企業の深淵なる経営 (酒井大輔) 」 でも触れられています。



興味期限ができたワケ

ドンキが興味期限を導入した背景は、食品に比べて非食品の回転率が悪かったからでした。

食品は賞味期限が来たら処分しなければならず、販売できる期間が決まっているため、強制的に入れ替えが発生します。であるなら、非食品も販売期限を決めたらいいのではないかという発想から生まれたのが 「興味期限」 でした。

食品以外の商品に賞味期限というと語弊があるので、何かいいネーミングはないかと社内で話していたところ、売れなくなるということは、お客さんの興味がなくなったということだから 「興味期限」 はどうかという意見が出たそうです。

そこで、食品カテゴリーではない商品ジャンルにおいても販売期限を設けることでお客さんが感じる 「商品の鮮度」 を維持するために興味期限という概念が生まれました。

期限がすぎた後の対応

ドンキでは、興味期限に従って半年間に一度も売れていない商品を強制的に減損処理の対象とします。ここでの減損処理とは、売れ残った商品を会計上の価値において減額し、売れ筋商品との入れ替えを促進することを指します。

減損処理により在庫として抱えるコストを削減し、お店で売られている商品の新陳代謝を高め、店頭の運営効率を向上させます。お客さんからの興味を失われた商品をそのままにしておかず、新しい商品と入れ替えることによって、お店に置かれている商品の新鮮さを常に保つことをドンキは目指しています。

期限があることでの創意工夫

減損対象になったからといってすぐに商品が廃棄されるわけではありません。興味期限を迎えてしまった商品の担当スタッフは、なんとか興味を復活できないかとに買い場の改善の創意工夫に取り組みます。

例えば、特定の商品をまとめてセット販売にしたり、関連商品と一緒にディスプレイして組み合わせの提案を行うことにより、お客さんへの新しい使い方を示すこともあります。値付けを変更したり、店内の目立つ場所に移したりするなど、戦略的に商品を再配置します。

店舗内の売れ残りが単なる在庫から 「再発見される新しい商品」 となり、買い場が一層 「おもしろい空間」 へと変わります。お客さんには新鮮な買い物体験をもたらすことができ、売れ残り商品でさえも工夫次第で新しい体験価値を持つようになるわけです。

楽しむ文化

興味期限は、どこか遊び心のある制約のような役割を果たします。ドンキでは、興味期限が結果的に滞留在庫の改善と売上向上に寄与しており、社員は常に変化を楽しむような文化が根付いています。

楽しむ姿勢は、社員の自主性と創造性を引き出し、職場でのモチベーションを高める効果があるようです。変化に楽しんで向き合うことで、社員は積極的に買い場の改善に取り組み、業務に対する意欲が向上します。

その結果、より魅力的な買い場が生まれ、顧客満足度も向上するという好循環につながります。興味期限という仕組みにより、ドンキの買い場はいつも新しい発見がある空間になります。

マーケティングへの示唆


では、ドンキの 「興味期限」 から学べることを掘り下げていきましょう。

興味期限の考え方は、ドンキのような小売に限らず、他の業界やビジネスにも応用できる戦略です。

そこで後半のパートでは、エッセンスを3つのポイントに絞って、汎用的にどのように活かせるか考えます。

 「興味がなくなった」 を早く察知し、迅速に対応する

興味期限とは、お客さんからの商品への興味がある期間です。興味という鮮度を非食品に適用することにより、お客さんが興味を失いかけている商品やサービスを早期に発見し、それに対して迅速に対策を講じることができます。

これが意味するのは、お客さんの関心の移り変わりに敏感になり、新しいアプローチを取り入れるということです。すばやい対応は、お客さんと商品との接点をつくり続け、お客さんが他の選択肢に流れる前に関心を引き戻します。

例えば、動画配信サービスのビジネスに興味期限の考え方を当てはめてみましょう。

動画配信サービスでは、古くなったコンテンツを定期的に更新し、最新の流行りやトレンドに合った新しい作品を提供することが該当します。会員ユーザーからの興味を失わせないためには、人気のあるジャンルや話題性のあるテーマに合わせたコンテンツを投入することが効果的です。

ユーザーはいつも何かしらの新しい体験を期待でき、プラットフォーム全体の鮮度を保つことできます。また、過去の人気作品をリマスター版として再提供することで、懐かしさと新しさを同時につくり出す取り組みも、視聴者の興味を引き続ける打ち手です。

商品や価値の 「再解釈」 から、新たな魅力をつくる

興味期限に達した商品はすぐに廃棄するのではなく、変化を加える必要がでてきたことを通知してくれた 「アラート」 と捉えるといいでしょう。

コミュニケーション方法を変えたり、今までとは違うプロモーションを行うことによって、見せ方や売り方をリフレッシュするという考え方です。

具体的には、売れ残りの商品をテーマ別に並べ直したり、季節感のあるディスプレイに組み込むことにより、お客さんには新鮮な感覚を持ってもらえます。セット販売として関連商品と一緒に提供したり、商品の新しい使い方を訴求することで、興味期限を迎えた商品でも魅力や顧客価値を再解釈し、提案するわけです。

お客さんにとって見慣れたものを新しく感じさせるための工夫は、まさにマーケティングの役割です。

例えば、レストランに当てはめてみましょう。

季節ごとにメニューをリニューアルしたり、期間限定として以前の人気メニューを再登場させることによって、来店客に新しい魅力を感じてもらうことができます。たとえ同じ料理だとしても、新しいメニュー企画や期間限定の料理を一緒に提供することで、再び関心を集めることにつながります。過去に馴染みのあるメニューを求めるお客さんに、懐かしさも伴って欲しいと思ってもらえることが期待できます。

他にも、料理の提供スタイルを変えること、例えば特別なプレートに盛り付けることにより、見た目の魅力を高め、お客さんに新しい体験をもたらすことも効果的です。

ゲーム感覚の取り組みで 「発見の楽しさ」 を提供する

ドンキでは興味期限をゲーム感覚で捉え、店員に自由度を与えて買い場をつくる工夫を促しています。

こうした自由度が、店舗スタッフの創造性を引き出し、仕事に対する意欲を高めます。例えば、店員は自分のアイデアで商品の配置を変えたり、新しい展示方法を提案することによって、工夫して取り組んだことの成果が売上に直結するという達成感を味わえます。

お客さんは 「宝探し」 のような発見の楽しさをお店の買い場で体験でき、ドンキの店舗全体が常に活気に満ちた空間になります。

他の業界でも、お客さんの参加意識を高める方法として応用できます。

例えば、サブスクサービスのアプリ内に 「発見機能」 を設けることにより、ユーザーが新しい機能やトレンドにアクセスしやすくする施策が考えられます。ユーザーはアプリを利用するたびに新たな発見をする楽しみを得られ、飽きることのない新鮮なユーザー体験になります。

発見機能には、ユーザーの過去の利用履歴や興味にもとづいたカスタマイズを組み込むことで、よりパーソナライズされた体験を提供し、サービスの利用頻度を向上させる効果が期待できます。さらに、期間限定のコンテンツや特典を用意することにより、ユーザーは特別感を感じることでしょう。

* * *

ドンキの 「興味期限」 は、どの業界においてもお客さんの興味を継続的に引きつけ、興味への鮮度を保ちながら価値をもたらすためのアプローチです。

ドンキがやっているように、商品の魅力が変化していくことを前提とし、顧客価値の発見や再解釈を促すことで、ビジネスの活性化と顧客満足を両立させることができます。

まとめ


今回は、ドン・キホーテの 「興味期限」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 商品やサービスの 「鮮度」 は、物理的な新しさだけでなく、お客さんの興味という視点から捉えるといい

  • ドン・キホーテが設けた商品の 「興味期限」 は、賞味期限から着想を得た期限設定。お客さんの感じる商品への興味がなくなると興味期限を迎えたと捉える

  • マーケティングの役割は、既存の商品やサービスに新しい文脈や価値を付加することにある。ドンキの興味期限をもとにした商品の再配置や組み合わせの提案は、お客さんに商品の新しい魅力を発見してもらえる機会となる

  • 興味期限の仕組みは、従業員に創意工夫を生み出している。ドンキの 「楽しみながら価値を創造する」 というアプローチは、販売やマーケティングへの示唆がある


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。