投稿日 2025/03/20

戦略を物語に。「普遍と個別の交差点」 で生まれるクリティカルコアとストーリー

#マーケティング #戦略 #クリティカルコア

ビジネスでは、目的達成に向けて戦略は不可欠な存在です。

多くの企業が 「戦略」 という言葉を掲げながら、実際には 「あれもやりたい、これもやりたい」 と、施策の羅列に終始しているのが現状です。その結果、リソースは分散し、戦略からの実行の成果も薄れがちです。

戦略という言葉は多義的で、その真意を理解するのは簡単ではありません。では、戦略とは一体何なのか、どういう考え方を持つべきか――。今回は、戦略の本質について掘り下げてます。

戦略を成功に導く重要な考え方 「クリティカルコア」 について、スターバックスなどの具体例を交えながら解説します。

戦略とは


ビジネスでよく出てくる 「戦略」 という言葉ですが、あらためて戦略とは何でしょうか?

一言の結論から言うと、戦略とは目的を達成するための 「やること」 と 「やらないこと」 の決めごとです。

もう少しだけビジネスの表現にするなら、戦略とは目的達成のリソース配分の方針です。リソースとは人・物・金です。これは個人でも同じで、何に時間やエネルギーを使うかです。

目的達成への 「やること」 と 「やらないこと」 において、戦略の肝は後者の 「やらないこと」 にあります。何をやらないかが明確だからこそ、残ったやることにリソースを注力できるわけです。この意味において、戦略をつくるのは 「やらないこと」 を明確にするためと言ってもいいくらいです。

戦略としてやることを 「あれもこれも」 と考えうる全てのことに手を出すのは、戦略的ではありません。戦略の要諦は意思を持って何を捨てるかだからです。

戦略では 「あれもこれも」 ではなく、「あれかこれか」 という A or B です。算数で表現すれば足し算でやることを積み上げるのではなく、引き算の発想をします。

戦略のクリティカルコア


ここで戦略における 「クリティカルコア」 という概念をご紹介します。

クリティカルコアは、戦略のストーリーを他にはないユニークなものにします。

クリティカルコアは "賢者の盲点" を突きます。というのは、クリティカルコアは、「一見すると非合理、全体では合理」 だからです。なぜそれをやるのかが外部の人にはわからないことですが、戦略ストーリー全体ではカギを握ります。


クリティカルコアがあるから戦略ストーリーは成立し、競合他社はマネできず、あるいはそもそも優位性に気づかなかったり、知っていても非合理に見えるので意図的に避けようとします。

クリティカルコアは差異化の源泉です。クリティカルコアによって他から簡単にはマネされず、中長期で持続可能な戦略ができます。

クリティカルコアの例

クリティカルコアの例をひとつご紹介するとスターバックスです。

下の図の左の 「直営方式」 がスタバのクリティカルコアです。

出典: X

一般的にスタバのようなコーヒーショップに限らず、チェーン店を展開する多くの会社は 「フランチャイズ方式」 です。しかしスタバは 「直営店方式」 にこだわります。

クリティカルコアはサッカーにたとえると 「キラーパス」 と表現できます。スタバの競争戦略は直営店方式というキラーパスから 「店舗の雰囲気」 「出店と立地」 「スタッフ」 「メニュー」 とつながっています。これらがスタバの揺るぎないコンセプトである 「サードプレイス (第3の場所) 」 を実現するわけです。

クリティカルコアである 「直営店方式」 がスタバの競争優位をつくる源泉であり、戦略のストーリーをおもしろくする肝にあたるのです。

普遍と個別の交差点

では、クリティカルコアをつくり出すためにはどうすればいいのでしょうか?

企業がつくる戦略でのクリティカルコアは、「普遍的な環境変化」 と 「企業の個別性」 が交わる地点にあります

普遍的な環境変化とは、多くの企業が直面する経済や技術のトレンド、消費者行動の変化などの普遍的な要素です。

一方で、企業ごとに持つ経営資源、会社の歴史、企業文化、そして過去の成功や失敗などの 「企業の個別性 (個別事例) 」 はそれぞれ異なります。これらの個別の要素が戦略の独自性を生み出し、他社にはマネされにくい競争優位を築くポイント、すなわちクリティカルコアを形作るのです。

たとえば、限られたリソースしか持たない企業は、自由度の高さが戦略の肝になることがあります。多くのリソースを持つ企業が意思決定や動きが硬直化しやすいのに比べ、資源が少ない企業は柔軟に動け、新しい方法やリスクを取り挑戦することができます。

また、過去の成功が足かせになることもあります。成功体験があると、その延長線上での戦略を選びがちですが、環境が変化したときには新たなアプローチが必要です。

そのため、戦略を策定する際には、環境の普遍的な変化に注視しつつ、自社が独自に持つ個別性に合わせた視点を忘れないことが重要です。戦略は資源の多さというひとつの要素だけで決まらず、資源の使い方や状況に応じたアプローチの工夫によって違ってきます。

普遍性と個別性の交差点でこそ、持続可能で競争優位となる戦略が生まれます。

 「交差点」 の例

たとえば、架空の家具メーカー 「エコリビング」 を例に考えてみましょう。

エコリビングはリサイクル素材を使ったエコフレンドリーな家具を展開しており、市場全体ではエコな志向のトレンドが強まっています。

このトレンドは 「普遍的な環境変化」 にあたりますが、エコリビングが直面するのは、大手メーカーが次々と環境への負荷の小さい素材を取り入れ、競争が激化しているという課題です。エコリビングにとって、ただトレンドに従って商品を出すだけでは、大手に埋もれてしまいます。

ここでエコリビングは 「個別性」 を活かす戦略を検討します。創業以来、地域密着型で地元の人々との交流を重視してきたため、家具のカスタマイズのオプションや地元職人との連携が強みです。

そこで、エコリビングはトレンドに沿いながらも、大量生産を避け、リサイクル素材を使った 「一点モノのカスタマイズ家具」 をメインに打ち出すことにしました。この戦略のクリティカルコアは 「カスタマイズオプションを取り入れたエコ素材」 という独自性であり、大手には真似しづらい部分です。

このように、普遍的なトレンドを意識しつつ、自社の個別の強みである 「地域密着のカスタマイズ」 という要素をかけ合わせた戦略は、他にはないクリティカルコアになり、持続可能な競争優位性を築くことができるでしょう。

普遍性と個別性の交差点でこそ、エコリビングのように独自の戦略からの競争優位が生まれ、持続可能なビジネス基盤が形成されます。

戦略をストーリーにする

戦略が 「全体を通してひとつの物語になっているか」 という視点も大事です。総論の正しさと各論の難しさをつなぐのが戦略だからです。

多くの企業では、社内で方向性の総論は賛成されても、具体的なアプローチである各論に論点が移った後に反対が出ることが少なくありません。この 「総論賛成、各論反対」 のパターンは、戦略の実現において障害となりやすく、結果的に戦略が絵に描いた餅になってしまうわけです。

ストーリー化された戦略では、まず総論の意義が明確に語られ、次にその意義を実現するための具体的な各論が丁寧に描かれます。

ストーリー性のある戦略は、単なる施策の羅列に終わらず、具体的な課題の背景や問題解決の道筋を全体として示すことで、関係者に納得感と共感をもたらします。関係者が戦略の背景と目的を深く理解し、協力しやすくなります。

戦略ストーリー構築の例

ここでも架空の例ですが、具体的に掘り下げてみます。飲料メーカー 「ナチュラ・スパーク」 が、新たに 「カフェインフリー・ナチュラル炭酸飲料」 を商品化しようとしているケースを考えてみましょう。

健康志向の消費者層を狙って、「すべて天然素材を使用し、心地よい刺激を提供する」 という総論で社内の賛成を得ました。しかし、具体的な開発プロセスに移ると、各部門で異なる意見が出てきました。製造部門からは 「コストがかかるため合成甘味料を使うべきだ」 という意見が出され、マーケティング部門からは 「従来の製品と同じターゲット層でいこう」 という提案もあり、製品の方向性がばらばらになりかけます。

ここで、ナチュラ・スパークの経営陣は、戦略を物語として一貫させる必要があると判断しました。

 「カフェインフリー・ナチュラル炭酸飲料」 という製品の狙いは、健康志向の人がリラックスできる飲料を求めるニーズに応えることです。そこで、まず総論として 「天然素材を活かし、安心して楽しめる飲料を提供する」 というブランドの軸を明確にしました。

そして、この総論を支える各論として、「合成甘味料は使わない」 、「従来とは異なる新しい注力顧客層を明確にする」 、「製造コストを抑えるための製法を開発する」 といった具体的な施策を、部門ごとの目標に沿って整理しました。

このように、戦略をストーリーとして一貫させたことによって、各部門が異なる視点を持ちながらも全体の意義に共感し、協力する基盤が整ったのです。

課題の羅列は戦略ではない

課題の羅列は戦略ではないという観点も戦略をストーリーにする際に欠かせません。ただ課題を箇条書きで並べただけでは、戦略の意味合いや優先順位が見えづらく、リソースを注力しての実行が難しいものになってしまうからです。

戦略をストーリーにするには、個々の課題の優先順位やその因果関係を明確にし、どういったプロセスと時間軸で目的を達成するかを物語として語れることが大事です。やることを 「あれもこれも」 ではなく、全体を統合し、事業戦略の方向性と価値が伝わる一貫した物語に統合することで、戦略が初めて効果を発揮するのです。

まとめ


今回は、戦略とは何か、独自の戦略をつくるためにはどうすればいいかを考察しました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 戦略とは、目的を達成するための 「やること」 と 「やらないこと」 の決めごと。やらないことを明確にすることが、リソースを集中させるための重要なポイント

  •  「クリティカルコア」 は、戦略に独自性と差異化を生む。外部からは一見すると非合理に見えるが、戦略全体の中でカギを握る。競合に模倣されにくい戦略にできる

  • 企業の戦略は 「普遍的な環境変化」 と 「企業の個別性」 が交差する地点で生まれる。企業が持つ独自の資源や強みを活かすことによって、競争優位の源泉となるクリティカルコアを構築できる

  • 戦略立案では総論と各論をつなげストーリーとして描くことにより、戦略への納得感と共感をもたらす。全社員が共感できる物語があってこそ協力体制が築かれ、実効性を伴う

  • 単なる課題の羅列は戦略ではない。優先順位や因果関係を含めたストーリーがあることが大事。戦略から明確な方向性を示し、優先度や時間軸を設定する


マーケティングレターのご紹介


マーケティングのニュースレターを配信しています。


気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。

マーケティングのことがおもしろいと思えて、すぐに活かせる学びを毎週お届けします。レターの文字数はこのブログの 3 ~ 4 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。

ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。

こちらから登録して、ぜひレターも読んでみてください!

最新記事

Podcast

多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信中。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。