投稿日 2025/03/07

ダメなマーケティングリサーチとは?反面教師から学ぶ、ビジネスに貢献する調査の秘訣

#マーケティング #マーケティングリサーチ #調査設計

マーケティングリサーチを行ったのに、期待した成果が得られなかったことはありませんか?

こうした調査はビジネスに貢献できず、むしろ混乱を招くことすらあります。では、本当に効果的なマーケティングリサーチとは何か、その反対のダメなリサーチとは何か。

今回は、よくある 「ダメなリサーチ」 を反面教師として、その問題点と起こり得る弊害について解説します。失敗例から学び、成功するリサーチのための秘訣を紐解きます。

ダメなマーケティングリサーチ


マーケティングリサーチにはマーケティングを成功に導く役割があります。

しかし、マーケティングリサーチのやり方次第では、逆にビジネスに悪影響を及ぼすこともあります。

うまく活用されないマーケティングリサーチとは

マーケティングリサーチは、マーケティングに活かすために実施しますが、調査の目的が曖昧だったり、手法が間違っていたりすると、マーケティングへの効果的な意思決定に貢献できません。

ダメなマーケティングリサーチの典型的な例は、調査を実施するリサーチ設計のところから詰めが甘いものです。

そもそもとして、「何のためにリサーチをするか」 の目的が明確ではない調査です。そうした調査では、調査を実施した後の集計結果が出てきた段階になって初めて、この結果は何を意味するのか、何がわかるのかを考えはじめることになります。

必然的に調査結果がどう活用されるかについても、調査が終了し分析中や分析後のタイミングで考えだすことになります。これでは、マーケティングリサーチは具体的なビジネスの成果につながらないでしょう。

ダメなリサーチの特徴を整理すると、次のようになります。

✓ ダメなリサーチ
  • 調査の目的があいまい
  • 調査対象者の条件が決まっていない
  • 調査課題 (論点) が不明瞭
  • 論点への仮説が未設定
  • 活用イメージが不明


ダメなリサーチ企画の具体例


では、ダメなリサーチの典型的な具体例を見てみましょう。

調査目的があいまい

ある企業が、自社商品 A の売上が伸び悩んでいるため、原因を探ろうとマーケティングリサーチを実施しました。

しかし、調査の目的が 「商品 A の売上低迷の原因を探る」 とだけにとどまった調査設計でした。

調査の位置づけを 「売上低迷の原因を探る」 という漠然とした目的では、具体的に何を調べるべきかがわからず、対象者や調査手法の選定に迷いが生じます。

調査対象者の条件が決まっていない

別の具体例として、新しく発売した 「商品 B」 の顧客満足度を調べるためにリサーチを実施することにしたとしましょう。しかし、調査対象者の詳しい条件にまで落とし込まれておらず、商品 B に関連する消費者くらいにしか設定されていませんでした。

本来なら商品 B を購入した経験がある人を対象とすべきところ、購入していない消費者や、商品 B に興味を持ったことがない層など、注力顧客ではない人がアンケート回答者に含まれてしまいました。

商品の現状を正しく理解するためには、既存顧客や競合商品と比較できる顧客層に焦点を当てた調査が必要でしたが、幅広い層に対する調査では、注力顧客のニーズや購買行動を把握することができません。

調査対象者の条件があいまいだと、期待していた顧客満足度に対する有益な示唆は得られないでしょう。購入したことがない人、注力顧客以外の人の意見も混じっているため、商品 B に対する具体的な使用感や満足度の正確な情報とはならないのです。

調査課題が不明瞭

また、別の調査では調査課題 (論点) として 「消費者の購買行動はどのように変化をしたのか」 と設定しましたが、これではまだ漠然とした問いで、これ以上で掘り下げた論点はありませんでした。

この 「消費者の購買行動はどのように変化したのか」 をさらに分解すると、次のような論点が考えられます。

  • 消費者が特定の商品やサービスを購入する頻度は増加しているのか、それとも減少しているのか?
  • 消費者が購入に至るまでの情報収集の方法は変化しているか?
  • 購買動機がどのように変わっているか?購買を決定する際の消費者の優先順位が変化しているか?
  • 消費者は価格に対してより敏感になっているか?
  • 消費者が利用する主な購買チャネル (例: モバイルアプリ, 店舗, EC サイト) はどう変わっているか?
  • 消費者が購入する商品の種類に変化はあるか?


調査課題への仮説がない

調査課題 (論点) があったとしても、論点への仮説がない場合もダメなリサーチにつながりやすいです。

先ほどの論点への仮説の例は、たとえば次のように事前に仮説を立てておきます。

1つ目の論点であった 「消費者が特定の商品やサービスを購入する頻度は増加しているのか、それとも減少しているのか?」 についての仮説は、「消費者の購買頻度はインフレや経済不安により減少しているだろう」 です。

2つ目の論点の 「消費者が購入に至るまでの情報収集の方法は変化しているか?」 への仮説は、「消費者は従来のウェブ検索に加え、SNS での口コミやインフルエンサーの意見を参考にする割合が増加しているだろう」 とします。

3つ目の論点だった 「購買動機がどのように変わっているか?購買を決定する際の消費者の優先順位が変化しているか?」 に対する仮説は、「消費者の購買動機は機能的な価値よりも感情的な価値、例えばサステナビリティや社会貢献を重視する方向にシフトしているのではないか」 といった具合です。

しかし調査課題への仮説がないと、データの収集と分析の方向性も曖昧になり、さらに後から調査結果を分析する際に、具体的に何を検証したいのかがわからなくなってしまいます。

アウトプットの活用イメージがない

マーケティングリサーチを実施したものの、事前に 「リサーチ結果をどのようにビジネスに活かすか」 という具体的な活用イメージが設計されていないと、関係者間での認識がそろいません。

リサーチ結果が出た時点で、担当者たちはどう解釈すべきか、どう次のステップに進めばいいかがわからず混乱が生じます。

ダメなマーケティングリサーチによるリサーチ後の弊害


それでは、ダメなリサーチは、実施後にどのような問題を引き起こすのでしょうか?

具体的な弊害についても見ていきましょう。

分析に手間取る

調査結果が出てから、 「この結果をどう解釈しよう?」 と考え始めることになります。

調査対象者が注力顧客と乖離していたり、質問設計が曖昧であったため、データが無秩序で、マーケティングに有用な情報が得られません。大量のデータを整理するのに無駄な時間とリソースを費やしてしまいます。

解決策にたどり着けない

リサーチの目的があいまいで、分析結果からどういう意思決定をすべきかが明確にされていなかったため、担当者は 「結局、何をどうすればいいのか?」 という状態に陥ります。

結果として、リサーチ結果が次の具体的なアクションにつながらず、解決策が見つからないまま、マーケティングリサーチの活用がうやむやなまま終わってしまいます。

ウェブアンケートで集めた膨大な自由記述や数値データがありながら、それらが 「売上向上のために具体的にどの施策を取るべきか」 を示すものではなかったため、意思決定に困り果ててしまう状況です。

無駄なコストと時間

マーケティングリサーチが有効に活用できない結果、リサーチ費用や人的リソースが無駄になります。時間もかかり、その間に競合他社がより迅速に対応して市場をリードする危険性もあります。

社内のリサーチに対する信頼低下を招き、また、マーケティングリサーチの有用性が社内で疑問視され、今後のリサーチ実施への予算獲得が難しくなる可能性もあります。

誤った結論に基づく判断

調査設計がなく、調査手法が適切ではない場合、マーケティングリサーチの結果や洞察がビジネスでの誤った結論に導くことがあります。その結果、マーケティング戦略や施策が的外れなものになり、売上がさらに悪化するリスクを伴います。

具体的には、注力顧客ではない人たちの意見を取り入れてしまった施策になることで、本来の注力顧客層のニーズとはかけ離れ、売上が回復することは期待できず、さらなる低下を起こすことさえありえます。

* * *

ダメなマーケティングリサーチは、目的が曖昧であったり、手法の選定が不適切であることによって、ビジネスに悪影響を及ぼします。

リサーチの目的設定、調査対象者の明確化、調査課題と仮説への落とし込み、活用イメージを事前に明確に設計することが、成功するリサーチのポイントです。リサーチを実施する際は、ビジネス課題から逆算して目的を設定し、得られた情報をどのように活用するのかを最初から計画することが重要なのです。

ご紹介したダメなマーケティングリサーチの典型例を反面教師として学び、効果的なリサーチを行うことによって、ビジネスの成果につなげていきましょう。

まとめ


今回は、マーケティングリサーチについて、ダメなリサーチを考え、そこから学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • ダメなマーケティングリサーチの特徴は、目的が曖昧で、調査対象者が適切に絞り込まれていないこと、そして論点や仮説が欠けている。活用イメージも不明確

  • これらが明確ではないまま進められたリサーチは有益な洞察が得られず、ビジネスに貢献しない

  • 良いマーケティングリサーチは、目的が明確で、調査対象者の条件と調査課題・仮説が解像度高く言語化されている。リサーチ後の活用イメージも明確

  • 目的を定め、調査課題 (論点) への仮説を持って調査に臨むことで、得られた結果をどのように解釈するかを考えやすくなる

  • マーケティングリサーチを行う際には、洞察やアウトプットの活用イメージを事前に描いておくことが重要。リサーチ結果をどう活かし、次の施策につなげるかの道筋が明確であるほど、リサーチは実際のビジネスに価値を生む。マーケティングリサーチが戦略的な意思決定を支える役割を果たせる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。