投稿日 2025/03/19

リテールメディアへの注目と課題。リテールメディアで成果を上げるための4つのポイント

#マーケティング #リテールメディア

リテールメディアの活用は、デジタルと店頭を融合させた新たなマーケティングコミュニケーションとして注目されています。

リテールメディアを使っての効果的なマーケティング施策を実現するためには、課題もあります。従来の役割分担やコミュニケーションの壁を乗り越えることが必要です。

そこで今回は、リテールメディアを活用してビジネスを成功させるために重要な4つのポイントについて解説します。

リテールメディアへの注目と課題


多くの広告主がリテールメディアへ熱い視線を送っています。

リテールメディアの導入が進む一方で、まだそのポテンシャルを十分に引き出せていません。メーカーや小売企業が直面する課題があるからです。

メーカーでの課題

メーカー側では、リテールデータ活用による販促効果は期待されるものの、デジタルと店頭の連携が不十分である点が課題です。

具体的には、マーケティング部門がデジタル広告で新商品のプロモーションを行っても、営業部はその中身の情報を十分に把握していないために、小売店で新商品の販促が連動していなく、せっかくの広告の効果が薄れるという機会損失が起こります。

メーカー内でのマーケティング部門と営業部門の役割分担が固定化されていると、リテールメディアに関する全社的な理解と協力がなされず、部門間の連携不足が施策の効果を制限してしまいます。

目標とする指標の違いも、メーカー内での共通認識を持つことを難しくします。

営業部門の KPI が短期的な売上に注力する一方、マーケティング部門は中長期的なブランド価値の向上を重視する場合、目標のレイヤーや時間軸が一致せず、認識にズレがでたり、議論がかみ合わないケースもあります。このような状況では、リテールメディア施策の成果が限定的なものとなるでしょう。

小売での課題

一方、小売側でも、リテールメディア (小売にとってはオウンドメディアになる) の活用や、オンラインとオフラインの施策調整に時間がかかり、全社的な浸透が難しいといった課題があります。

社内でのリテールメディアに関する知識や理解の共有が不足すると、施策の効果は限定されますす。

販売スタッフやマーケティング担当者がリテールメディアの使い方や効果的なプロモーション手法を十分に理解していないことで、施策の実行が遅れたり、計画で狙ったような打ち出し方ができない要因になります。

理解はできていたとしても、実行面においても課題はあります。自社アプリや EC サイトのオンラインで告知したキャンペーンが店舗スタッフに情報共有されていないと、店頭ではキャンペーン内容が反映されることはなく、オンラインとオフラインでちぐはぐな販促になります。

* * *

では、ここまで見てきた課題に対処するために、リテールメディアをどうすれば有効に活用することができるのでしょうか?

リテールメディアを活用するポイント


リテールメディアの課題に対処し、リテールメディアからビジネスへの成果を上げるためのポイントを掘り下げてみましょう。

  • メーカー内での意思疎通を図る
  • メーカーと小売での連携を強化する
  •  「リバースファネル」 で購買行動から逆算する
  • デジタルと店頭をつなぎ、オンオフの総合施策を推進する

メーカー内での意思疎通を図る

リテールメディアを活用するためには、メーカー内の営業部門とマーケティング部門の連携が不可欠です。

これまでは、メーカーが店舗の売場でキャンペーンを展開する場合、「それは販促活動だから、営業部門の販促予算で実施すべき」 という長年の商習慣にもとづいた暗黙の了解がマーケティング部門に存在しました。販促活動は営業部門が担当し、マーケティング部門はブランディングや認知向上に重きを置くという役割分担があったわけです。

役割が明確に分かれ、お互いの情報共有がされないと、広告で強調している商品の訴求ポイントは高級感なのに、営業部は小売店に割引付きクーボンを発行する販促施策を提案し、高級感のイメージには合わないという統一感のない施策になってしまうということが起こります。

リテールメディアを活用する施策にはデジタルと店頭の融合が求められるため、広告と店頭で訴求ポイントを一貫させることが大事です。そのためには、マーケティングと営業の両部門の連携が必要になります。

具体的には、デジタル広告による来店促進施策と店頭での販促キャンペーンを連携させます。また、施策の KPI をすり合わせ、互いに成果を共有することで、施策の効果を最大化できます。目標を営業部門とマーケティング部門で共通に設定することが大事です。

もうひとつ、リテールメディアを 「短期的な売上向上」 と 「中長期的なブランド価値向上」 の両面から捉えることも重要です。

例えば、短期的な売上向上としては、特典付きキャンペーンや割引施策の実施が考えられます。季節ごとのセールや新商品購入時に次回使えるクーポンを渡すというふうにです。

一方、中長期的なブランド価値向上として、お客さんとの継続的な関係構築やブランド認知の拡大を狙います。例えば、ロイヤルティプログラムを導入することで、定期的に特典や情報を提供し、顧客との関係を深めることができます。

また、SNS を活用したコミュニケーションにより、お客さんがブランドと直接つながり、ブランドの世界観に共感してもらう機会を増やすという打ち手もあります。ブランドイベントや体験型のプロモーションから、お客さんがブランドに対してポジティブな体験を持つようにすることが、長期的な価値向上に寄与します。

メーカーと小売での連携を強化する

リテールメディアの成功には、メーカー内だけの意思疎通にとどまらず、メーカーと小売事業者との連携強化も欠かせません。メーカーと小売の両者が協力して情報を共有し、消費者へのアプローチを同じ目線になって設計することで、双方にメリットが生まれます。

具体的には、メーカーと小売の間で共同プロモーションを実施するという手です。商品情報や来店客の購買に関するデータを共有し、どのようなプロモーションが効果的かを協議し合うことで、両者の強みを活かした施策を展開できます。

また、販売スタッフの顧客提案力についても、データや知見を活かし合うことによって強化することができます。

具体的には、新商品が発売される際に、メーカーが小売スタッフ向けに製品の特徴や使用方法に関する勉強会を実施します。販売スタッフはより自信を持って来店客に説明でき、お店への来店客は商品の特徴を理解しやすくなり、購買意欲が高まるといった効果が期待できます。

このようなメーカーと小売の協力体制によるリテールメディアの活用によって、より効果的な購買促進が実現します。

 「リバースファネル」 で購買行動から逆算する

通常のマーケティングでは 「認知 → 興味 → 検討 → 購買」 という順序で、お客さんの行動や心理を捉えます。ファネルと言われるこのアプローチでは、マーケティングや販売促進などの施策は、アンケートのような意識データ、検索やクリックなど興味を示す行動データをベースにプランニングが進められてきました。

しかしリテールデータを活用すれば、購買行動をログベースで捉えた上で、購買情報にもとづいて生活者に調査を実施することが可能です。法令遵守や許諾の取得が前提にはなりますが、例えばある商品をドラッグストアや食品スーパーで定期的に購入している人や、EC サイトで一度にまとめ買いしている人などの購買データをもとに、その人への追加でのアンケート調査やインタビューをすることで、より詳しい消費者理解が可能になります。

このような購買から逆算していく 「リバースファネル」 では、購買行動を起点にして、購入に至るまでの消費者の行動と心理を逆算して分析し、最適な施策を設計します。

リバースファネルという、実際に購入に至ったお客さんの行動を遡って分析することで、購買に直結するタッチポイント (顧客接点) やメッセージを見極められます。特定の曜日や時間帯に購入が集中する場合、タイミングに合わせた広告配信やキャンペーンを実施することによって、さらに購買を促進できるでしょう。

購買情報を起点に購入者の解像度を上げてからプランニングし、広告などで適切な情報を提供します。その後、再び購買データをもとに施策の効果を検証して改善するのです。

デジタルと店頭をつなぎ、オンオフの総合施策を推進する

リテールメディアの活用に限ったことではありませんが、マーケティングでは顧客目線になることが大事です。

リテールメディアが魅力に見えるひとつに ID-POS データという小売の会員情報付き販売時点 (POS) データを用いることができる点があります。ID-POS を活用することで来店客の購買履歴を分析でき、特定の商品に興味を持つ顧客層に対して効果的なプロモーションを行えます。

ID 情報は店頭とアプリなどのデジタルの領域もカバーしているので、ID-POS にもとづくプロモーションではデジタル広告と店頭販促を連携させることが可能です。これにより、オンラインで商品を見た後、店頭でその商品が訴求されるようにすることで、顧客体験を向上させることができます。

具体的には、オンライン広告でキャンペーンを告知し、専用 POP やキャンペーン棚を設置し、オンライン広告と連動させます。デジタルと店頭の総合施策を通じて、消費者に一貫したメッセージを届けることで、消費者がどのチャンネルでもシームレスにつながった購買行動に結びつけられることを目指します。

消費者の立場になれば、消費者にとって、オンラインとオフラインの体験が途切れず一貫したものになるということです。

デジタルと店頭をつなぐという観点では、オンオフでの KPI を統一し、デジタルと店頭の双方で施策の成果を測定し評価することから、施策の精緻化と効果の最大化が図れます。

例えば、オンラインキャンペーンで新規顧客を獲得した場合、そのお客さんが店頭での購入にどの程度結びついたかを測定し、デジタルと店頭の連携がどれだけ効果を発揮したかを評価します。オンラインとオフラインの施策を相互に最適化し、より効果的なアプローチを実現することができます。

まとめ


今回は、リテールメディアの課題を取り上げ、どのように対処しリテールメディアを有効活用でのるかを考えました。

最後にまとめとして、リテールメディアを活用するポイントです。

  • メーカー内での意思疎通を図る: メーカーの営業部門とマーケティング部門の連携を強化し、部門間の情報と目標を共有しそろえる。短期的な売上向上と中長期的なブランド価値向上の両面から戦略を立てる

  • メーカーと小売での連携を強化する: メーカーと小売の双方が協力して情報を共有し、消費者起点でのアプローチを設計する。共同プロモーションの実施や販売スタッフ向けの勉強会から顧客提案力を高める

  •  「リバースファネル」 で購買行動を逆算する: 購買データを起点に消費者の行動と心理を分析する。実際の購買に至るタッチポイントの把握や、適切なメッセージとタイミングでの施策につなげる

  • デジタルと店頭をつなぎ、オンオフの総合施策を推進する: ID-POS データを活用し、オンラインから店頭への購買行動をシームレスに結ぶことで顧客体験の向上させる。オンオフの KPI 統一も重要


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。