#マーケティング #市場創造 #顧客インサイト
かつては 「子どものおやつ」 というイメージが強かったグミですが、今や若者からビジネスパーソンまで幅広い世代に支持されています。
グミは手軽に食べられる、カロリーが低いなどの表面的な理由だけではなく、グミの成長の背景には、消費者が普段意識していない 「隠れた欲求」 にも応えている点にありました。
今回はグミ市場のトレンド事例から、成熟市場での新たな成長機会の見つけ方と、顧客インサイトを捉えた価値提供について紐解きます。
お菓子のグミ
お菓子のグミと言えば、一昔前は子ども向けのおやつでしたが、最近はさまざまなグミが売られています。大人向けのグミの商品も増え、硬い感触が特徴のハードグミは男性にも人気です。
グミを食べる人が増えていることからも、グミ市場は拡大しています。グミの売上は量と金額の両方で増加しており、ガムの市場を超えました。
今やグミは、ただのお菓子ではありません。グミがあることで、例えば仕事や学校に行く途中にカバンの中から取り出したとき、気持ちが少し高まるという消費者の声もあります。こうした 「ちょっとした喜び」 を提供するアイテムとして、グミは多くの人に支持されています。
では、グミは消費者のどのような望みやニーズに応えているのでしょうか?
グミが応える5つの消費者ニーズ
グミは、次のような消費者の欲求に応えていると考えます。順番に見ていきましょう。
ながら食べ
忙しい生活では、何かをしながら食べるという 「ながら食べ」 が重宝されます。
グミは、勉強しながら、仕事中、スマホを見ながらなど、さまざまなシーンで手軽に食べられます。手を汚さずに食べられるため、グミは忙しい人にとってありがたい存在です。
この特性が、グミを 「ながらおやつ」 の定番へと押し上げました。家事をしながら、通勤中に片手で手軽に食べられるなど、日常のさまざまなシーンでグミが "ながら" のお供になっているのでしょう。
ストレス解消と気分転換
現代社会はストレスが多い環境ですが、グミはそのストレス解消を手助けしてくれます。
噛むことで得られるリラックス効果は、心と体を整えるための息抜きとなります。がんばりたいとき、集中したい、気分を変えたいときにも、グミの多様な味と食感が気分をリフレッシュさせてくれます。
後ろめたい気持ちの緩和
「お菓子を食べたいけれど、今食べるのは罪悪感を感じる」 という気持ちは、多くの人に共通する心理でしょう。
グミは、他のお菓子に比べてカロリーが低めでありつつ、噛むことで満足感を得られるため、太りにくいイメージがあるはずです。間食をする際の後ろめたさをグミは軽減してくれます。お菓子を食べてしまうことへの背徳感が、他のお菓子に比べて生まれにくいがグミなのではないでしょうか。
また、授業中や会議中でもこっそり食べられるという利便性も、グミの人気につながっていることでしょう。
コミュニケーションツール
グミは、ただの食べるおやつを超えた役割を持っています。
若者の間では 「グミニケーション」 と言われるように、グミが友だちや仲間との会話のきっかけになっています。
例えば、新学期の初日や新しい環境で緊張しているときに、グミを使って自然な会話が生まれたり、休み時間にみんなで一緒にグミを食べるというふうにです。さまざまな味のグミを各自が持ち寄ったり、自分の好きなグミを贈り合うことで、仲間とのつながりや共感も味わえます。
自己表現のツール
グミは自己表現のひとつになります。
カラフルで多様な味や食感のグミは、ファッションや自己表現 (セルフブランディング) の一環としても楽しむことができ、自分のライフスタイルに合わせたセレクトが可能です。
最新の流行を取り入れつつ個性にこだわりたい人にとって、グミは自己表現やセルフブランディングにも一役買っています。
グミの事例からの汎用的な学び
では、最後のパートではグミの事例から、汎用的にビジネスに学べることを掘り下げていきましょう。
市場を再定義する
グミ市場の成長は、新しい商品を投入することに加え、マーケティングの観点で興味深いのは、市場を再定義していることです。
かつての 「グミ = 子ども向けのおやつ」 という図式が変わり、例えばカンロのピュレグミなどの登場によって 「大人でも楽しめるグミ」 へと市場が拡大しました。新たなターゲット層である大人や、女性だけではなく男性にもリーチすることができ、市場の裾野が広がったのです。
ここから学べるのは、既存の商品カテゴリーや市場を見直し、新たな視点で捉えることで、成熟したと思える市場でもまだまだ成長の余地があるということです。
グミの事例は、お客さんが 「何のためにこの商品を使うのか」 という観点で商品がもたらす本当の顧客価値を再構築することによって、商品の利用シーンを多様化でき、それによってお客さんを増やしたり、既存のお客さんの利用方法や頻度にも影響を与えられることを示しています。
顧客インサイトを深く理解する
グミが人気になっている背後には 「顧客インサイト」 への理解がありました。
顧客インサイトとは 「お客さんを動かす隠れた気持ち」 です。普段はお客さん自身も意識していませんが、何かのきっかけでそうだと気づけば、態度変容が起こり、行動変容にも強く影響を及ぼすのが顧客インサイトです。
顧客インサイトのことを 「心のスイッチボタン」 のように見立て、お客さんの心理と行動のトリガーになると捉えます。
グミに話をつなげると、例えば 「気分転換をしたい」 や 「ストレスを軽減したい」 という気持ちをグミを食べたりコミュニケーションツールにするという形で満たすことで、グミは普通のお菓子以上の存在となっているわけです。
お客さんの表面的なニーズだけにとどまらず、その背後にある隠れた欲求や動機を深く理解することにより、自社商品が何のためにあるかの存在意義まで立ち返ることができます。
この視点は、どのような商品・サービスでも応用できる考え方です。
見た目や機能だけを追求するのではなく、お客さんがその商品を選ぶ理由や使い方、日常生活、人間関係の中での顧客文脈における意味合いを探ることによって、お客さんの置かれた状況、求めるニーズ、奥にある顧客インサイトに沿った商品にできます。
インサイトを満たす顧客価値を実現する
顧客インサイトを理解し、そのインサイトを満たす具体的な顧客価値を商品やサービスを通じて実現することが、ビジネスでの成功のカギを握ります。
グミは、ただ普通に食べるお菓子以上の顧客体験や感情的価値を伴う魅力のある存在へと昇華していました。
顧客インサイトを反映したグミが持つ顧客価値は、
- "ながらおやつ" で勉強や仕事がはかどる
- ストレス解消が手軽にできる
- コミュニケーションのきっかけになり友だちと仲良くなれたり、一体感や絆が深まる
- 自分らしさを表現でき、まわりの人に自分のことをわかってもらえる
などと、他のお菓子にはない独自の体験価値をグミはお客さんにもたらしているのです。
グミの事例から学べるのは、お客さんの声を聞き、顕在化した言動だけの把握にとどまらず、背後にある本質的な欲求を理解し、そして何より顧客インサイトを満たす方法を考え、実現することの重要性です。
市場拡大というマクロ的な視点での注目に加え、お客さん一人ひとりの顧客インサイトへの理解と価値創出への接続というミクロの視点でも学びがある話です。
まとめ
今回はグミの事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- グミ市場で各社は 「子ども向け」 から 「大人も楽しめる」 へと再定義し、新たなターゲット層にリーチすることで市場を拡大させた。既存市場を見直し新しい視点で捉えることによって、成熟市場でも成長余地を見つけられる
- 顧客インサイトは 「人を動かす隠れた気持ち」 。普段は意識されないが、そうだと気づけばお客さんの態度や行動を変えるトリガーとなる心のスイッチボタン。表面的なニーズだけでなく、奥にある欲求 (インサイト) を探ることで、商品の本当の存在意義を再確認し、顧客価値を深められる
- 顧客インサイトを満たす顧客価値を提供することによって、自社商品はお客さんから選ばれる存在になれる。満足度の高い顧客体験や感情的価値をもたらす
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