#経営 #組織マネジメント #多様性と選択
組織が大きくなり、事業や人が増えていくと、さまざまな取り組みが生まれます。多様性は新しい可能性を生む一方で、広がりすぎれば経営の焦点がぼやけることもあります。
では、どこまで多様性を認め、いつ選択と集中へ舵を切ればいいのでしょうか?
今回は、組織が多様化していく仕組みと、危機に直面したときに起こる変化を、遠心力と求心力、さらに生物の進化になぞらえながら紐解きます。
多様性と選択
組織での多様性には、人の多様さにとどまらず、組織が持つ事業や技術、顧客への向き合い方などの多様も含まれます。
組織は成長するほど、多様性と複雑さが広がっていく
たとえば、製品を販売していた会社が、顧客の要望に応えて修理や研修も始めたとします。担当者がつき、継続して依頼が入るようになれば、それぞれが新しい事業として育っていくでしょう。
現場の工夫が事業に育つ経路がある一方、トップの方針で新しい領域へ踏み出す場合もあります。
いずれの場合でも、取り組みが増えるたびに、担当する人や必要な知識、社内の調整も増えていきます。一つひとつは顧客に応える合理的な行動であっても、会社全体では事業の幅が広がり、複雑さも積み重なっていくわけです。
物理の「エントロピー」を思い浮かべると、組織の多様化を捉えやすくなります。エントロピーとは、ざっくり言えば、放っておくと物事が散らばり、元のまとまった状態には自然に戻りにくくなる性質です。
組織でも似た動きがあります。新しい顧客への対応や現場からの提案を重ねるうちに、事業や活動は枝分かれし、それぞれに担当者や顧客、続ける理由が生まれます。こうして組織の多様性は自然に広がっていきます。
ただし、多様性が広がることには意味があります。将来の環境変化に対して、今は小さな事業や技術が新しい選択肢になる可能性があるからです。
多様性は環境変化への備えになるが、広がり続ければ資源を分散させる
今は小さな事業でも、顧客の行動や社内の技術が進歩すれば、次の柱になる可能性を秘めています。
危機が起きてから新しい事業や技術を育てるには時間がかかるため、事前の試行錯誤が、変化に対応するための候補を増やします。将来どの取り組みが重要になるかを正確に予測できない以上、多様性は未来への「選択肢の束」として捉えられるでしょう。
一方、事業が育つほど、担当者や顧客、売上といった続ける理由も増えていきます。事業を終えるとなれば、顧客への対応や担当者の異動も必要です。関わる人が増えるほど調整も増えるため、撤退を決める負担は大きくなります。
各部門が「自分たちの事業にも投資が必要だ」と求める動きは、組織を外へ広げる「遠心力」と考えられます。それぞれの要求に応じているうちに、人・資金・時間などのリソースが分散し、重点事業の成長に必要な投資まで足りなくなるおそれがあります。
多様性と集中には、広げる方向と絞る方向という矛盾があります。両方を重視するにも、その時々の環境や組織の状態に応じて、どちらへ重心を寄せるかを決める必要があるでしょう。
危機に直面した組織には、多様性を収束させる求心力が必要になる
主力商品の需要が急減し、従来通りに事業を続けると資金が尽きてしまうような危機を想像してみてください。「どの事業にも可能性がある」とあれもこれも維持していては、事業転換が進まないまま、立て直しに使える時間を失います。
そこでトップは、会社の生死をかけて何を残し、何をやめるかを決める必要があります。人・資金・時間などの限られたリソースを、危機を突破できる見込みのある領域へ集中して配分します。
多様性へ重心を置いていた組織に、方向を定めて戦略的に束ねる「求心力」を働かせる局面です。各事業に続ける理由があっても、企業全体が存続できるかという観点から、優先順位を組み替えなければなりません。
黒船が襲来するような環境変化は、先送りされてきた選択を組織に迫ります。危機を乗り越えられれば、それまで動かなかったリソースの再配分が、会社を変える契機にもなるでしょう。
ただし、危機を経験すれば成長できるという保証はありません。重要なのは、環境の変化に合わせて多様性から集中へ重心を移し、危機を越えた後には再び新しい可能性が広がっていくことです。
組織の進化は、多様化と収束を繰り返す「螺旋」として捉えられる
多様性を広げる局面と、選択・集中で収束させる局面を交互に思い浮かべると、左右に揺れる振り子が連想されます。
ただ、選択・集中を経ると、残った事業や人材の配置が変わり、そこで得た経験も次の活動に影響します。
選び残した事業に人材が集まり、新しい組み合わせが生まれるかもしれません。そこで得た経験や知識を土台として再び多様化するなら、組織の変化は、周回するたびに位置を変える螺旋に近づきます。
生物の歴史にも、環境変化と大量絶滅を経て、生き残った系統から新たな多様化が進んだ例が見られます。地球史では、特に規模の大きい 5 回の大量絶滅が知られています。
企業に当てはめると、環境変化によって、事業を評価する基準が変わる可能性に気づきます。これまで主力だった事業の優位が薄れ、傍流だった取り組みのほうが新しい顧客の要求に応えられるかもしれません。
そのとき、選べる事業や技術を持っているかどうかは、危機が来る前にどんな多様性を認めていたかに左右されます。企業ではトップが、蓄積した選択肢を新しい環境に照らして評価し、意図的に次の主軸を育てられます。
トップに求められるのは覚悟と徹底
トップの判断には、どんな多様性を許容するかと、選択した後に何を実行するかの両方が含まれます。
企業の価値基準に沿って、多様性の境界を定める
まず、企業の理念・存在意義・価値基準に照らして、どんな取り組みを認めるかを示します。現在の主力商品と形が違っていても、その基準に沿う試みには、予算や人員をつけて小さく続ける余地をつくれます。
架空の例として、「顧客の工場の稼働を止めない」を存在意義に掲げる産業機械メーカーを考えてみます。機械販売が主力ですが、一部の社員が、故障を事前に察知して修理する保守サービスを試していたとしましょう。
保守の対象には他社製の機械も含まれ、新品の販売実績には結びつきません。それでもトップは、顧客の工場を止めないという目的に沿っているため、小規模な取り組みとして認めていました。
ところが、主要顧客が設備投資を凍結し、新品機械の受注が急減します。一方で、既存の設備を長く使いたいという顧客から保守契約の依頼が増え、試験導入先でも継続契約が取れるようになりました。
選択・集中を決めたら、反対を引き受けてやり切る
会社の資金で受注回復を待てる期間は限られています。トップは新機種の開発を絞り、保守サービスへ技術者と予算を移すと決めます。
主力事業の責任者からは「新製品を減らしたら、景気が戻ったときに売れなくなる」という反対が出るでしょう。トップは受注回復の見込みと保守契約の実績を検討し、会社を存続させる道として保守への集中を選び、その理由を説明します。
納入済みの機械への対応を確保しながら、開発計画を止め、人員を移し、必要な教育を進めます。かつて多様性を認めたトップが、今度は主力部門の反対の矢面に立ち、自らリソースの再配分をやり切るわけです。
もし保守事業が育てば、そこで蓄積された稼働データや顧客との関係から、省エネ支援や工場の運用改善といった新しい取り組みも考えられます。以前は機械の販売を中心に広がっていた多様性が、次は保守を中心に広がり始めます。
同じ「顧客の工場稼働を止めない」という存在意義が、小さな試みを認める理由にも、会社の主軸を移す理由にもなるのです。
自分の組織で事業や取り組みを見直す際にも、次の問いを置くと、売上規模だけでは見えにくい選択肢を探せます。
- 今は小さくても、自社の存在意義に沿い、変化した顧客の要求に応え始めている取り組みは何か?
- 過去には妥当だった継続理由のうち、今の環境では成り立たなくなったものは何か?
- 次の主軸に必要な人・資金・時間を確保するために、何をやめ、誰が実行の責任を負うのか?
組織では、活動を続ける中で多様性が広がっていきます。
状況に応じて多様性と集中の重心を動かし、必要なときにはトップが大胆に選択・集中で収束をやり切るという循環が、組織の進化を支えるのです。
まとめ
今回は、組織は「多様化 → 集中 → 再多様化」で進化する、ではトップはいかに選択と集中をやり切るかという問いを考えました。
- 組織は成長するほど事業や取り組みが増え、多様性と複雑さが広がっていく
- 多様性は環境変化に備える「選択肢の束」になる一方、広がり続ければ人・資金・時間などのリソースが分散する
- 経営危機では、トップが求心力を働かせ、何を残し何を捨てるかを決めて選択・集中へ重心を移す
- 組織は「多様化 → 選別 → 集中 → 再多様化」を繰り返し、振り子よりも螺旋を描くように変化していく
- トップは企業の理念・存在意義・価値基準に沿って多様性の境界を定め、必要な局面では反対を受けても、収束への覚悟を持ち、実行をやり切る