#マーケティング #利用シーン #顧客価値
値段の高い高額な商品を買おうとするとき、どんなことが気になりますか?
本当に効果があるのか、自分に合っているのか——。そんなふうに不安を抱いた経験はないでしょうか?
例えばドライヤーやアイロンなどの美容機器は、実際に使ってみないと仕上がりや使い勝手がわかりにくいものです。とはいえ、買う前の時点ではネットでは試しに使うことはできず、また家電量販店などでも実際の使い勝手を確かめることは難しく、「ちょっと気になるけど、いきなり買うのは迷う」 と思ってしまうかもしれません。
このような消費者の状況に対し、美容機器ブランド 「ReFa (リファ) 」 が購入前に使うシチュエーションを意図的につくり、売上を伸ばしています。巧みなマーケティングについて、ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
高付加価値商品のハードル
値段が高めの製品や高級ブランド品を買うとき、気になるのは 「実際の使い心地」 や 「値段に見合う効果があるか」 です。
例えばヘアドライヤーやヘアアイロン、スキンケア機器などのカテゴリーでは、使って初めてわかる部分が大きく、文字や写真、あるいは紹介動画を見たとしても、それだけでは商品の良さは十分にわかりません。
こうしたアイテムを実際に試せる場所は限られています。一般的な家電量販店では店頭で試しにスイッチを入れて使ってみたとしても、ドライヤーを自分の濡れた髪を乾かしてみるなどの本当の使い勝手を確かめることは難しいのが実情です。
高価格ゆえの心理的ハードルに加え、使い心地がわからないという不透明さも相まって、なかなか購入に踏み切れない消費者も少なくないでしょう。
リファを使ってもらう仕掛け
ご紹介したいのは、美容機器ブランド 「ReFa(リファ)」 の事例です。ホテル、美容サロン、住宅などで自社商品を使ってもらう仕掛けを展開しました (参考記事) 。
具体的に順番に見ていきましょう。
美容室やエステサロンでの利用体験
リファは、美容室やエステサロンと連携し、来店客がリファの製品の使用感を直接体験できるようにしています。
利用者 (美容院のお客さん) は、美容院で自分の髪に使ってもらうことで、「このドライヤーなら自宅でも同じような仕上がりになりそう」 と具体的な利用イメージが湧きます。
人気商品であるドライヤーなどは美容院やサロンが在庫を持ちますが、脱毛器やヘアブラシなどはリファのデモ機を活用し、美容院・サロン側の在庫リスクを軽減する仕組みをリファは整えました。
美容サロンにとっては、在庫リスクを抑えながら、お客さんへの提供サービスの品質向上につながります。お客さんがリファのドライヤーを気に入って購入すれば、売上の一部が美容サロンに還元されるため、売上向上も期待できます。
ホテルの客室での試用体験
また、リファは、ホテルにヘアドライヤーやヘアアイロンを導入することで、宿泊客が自然な流れで製品を試せる環境もつくっています。
名古屋プリンスホテル スカイタワーでの宿泊プランへの導入の成功を機に本格的に展開し、三井ガーデンホテルズ、ダイワロイヤルホテル、リーガロイヤルホテルなど約2600の宿泊施設と提携しています。約4万5500室にリファのドライヤーなどを常設しました。年間で約1140万人にリファの製品を体験してもらえる規模まで拡大しました。
購入希望者はホテル内に設置された QR コードから専用 EC サイトへ行くことができ、こちらもホテルは在庫を持たずに売上の一部を受け取れる仕組みです。
住宅設備として標準装備の体験
リファは、2024年から住宅メーカーや不動産会社へ商品を卸す 「住宅設備事業」 を開始しました。新築やリフォーム物件にシャワーヘッドやファインバブルシステムを取り付け、"リファ付き物件" を提案しています。
賃貸・分譲双方で導入事例を増やし、将来的には標準装備化を目指します。
居住者は、日々のシャワーや入浴でリファ製品の効果を実感できます。生活のなかで、リファの製品を気兼ねなく使い続けられることでしょう。
リファが提携する住宅メーカーには、リファ付き物件が他社物件との差異化になり、販売や賃貸契約時に、リファのような高額製品が標準装備となった住宅という付加価値を提示できます。
事例からの成果
ここまで見てきた仕掛けをリファが始めた結果、実際にどのような効果が表れているのでしょうか。
購入意欲の喚起
ホテルの客室やサロンで使ってみて、「こんなに仕上がりが違うのか」 「家にあるドライヤーとはまるで違う」 と消費者が実感し、そのまま EC サイトで購入できる流れをつくった。
口コミサイトにも 「ホテルで試して即決」 や 「サロンで体験して注文」 という声が書き込まれているブランド価値の向上
美容サロンや高級ホテルが、当たり前のように採用している状況を見て、リファへのブランドイメージが 「プロユースもされる」 「高級ホテルにふさわしい」 などと強化される協業先の収益増
美容サロンやホテルにとって新たな収益源が増え、シャンプーやエステなどのサービスそのものも高付加価値ができる。
住宅メーカーには、リファの製品のある家という付加価値が物件の売上や賃料を上げる後押しに
利用シーンを能動的につくる意義
では、リファの事例から汎用的に学べることを掘り下げていきましょう
リファのような高価格帯の製品は、購入を後押しする決め手をいかに提供できるかが大切になります。
そのために効果的なのが、企業が能動的に 「利用シーンをつくり出すこと」 です。店頭での試しとして使ってもらう程度以上の、次のような意義とメリットがあります。
■ 五感での体験価値の提供
商品の機能やスペックの説明だけでは伝えきれない魅力を、製品を実際の利用シーンで触れ、見て、使い、感じてもらうからこそ、見込み客は本当に良いものかどうかを知ることができます。
リファのような美容機器やファッション性の高い商品は、五感での実感が購買意欲に直結しやすいです。
■ 心理的ハードルの低減
商品やサービスについて、自分に合うかわからないというモヤモヤ感や不安は、一度でも体験する機会があれば和らぎます。
無料や少額の料金追加で試せる、あるいは宿泊中や施術中など、実際の利用におけるシチュエーションで試せることで、購入への心理的なハードルを下げることができ、スムーズな購買プロセスを進んでもらえます。
■ 顧客のリアルな反応を収集できる
実際に消費者に使ってもらうことで、どのような点を評価され、どこに使いにくさや不満が起こるのかのお客さんからのリアルな生の声を得ることができます。
アンケートなどのネット調査だけではわからない生活シーンでの使用感、たとえば、製品なら操作ボタンの配置、重量バランスの具合、使い方に迷いが生じていないかなどの貴重な利用情報が手に入り、今後の製品開発や改良、マーケティングにも活かせます。
■ 口コミ・SNS 拡散の誘発
お客さんが直接試したときに、期待以上の感動や驚きがあれば、写真や動画とともに SNS にシェアされることが期待できます。
美容サロンやホテルなどの非日常や特別感のある状況ならなおさらです。例えば 「◯◯ ホテルに泊まったら、こんなドライヤーが備え付けてあって、すごく良かった!」 という投稿は、自然な口コミとしてまわりの人にも伝搬していきます。
企業からの広告コミュニケーションとはまた違ったユーザー体験ならでは信頼性があり、共感を呼びやすくなるでしょう。
■ ブランドロイヤルティの形成
いきなり買う前に、まずは実際に試してみて気に入ったから安心して購入したというプロセスを経ることによって、お客さんからのブランドへの信頼感は高まりやすくなります。
試して、買った後も 「良い買い物をした」 と肯定的に思えれば、お客さんは長くその商品やブランドを使い続ける可能性が高まります。広告や説明だけではなく、リアルな使用体験を通じての納得感は、ブランドへの愛着や親近感を生み、ファンになってくれることが期待できます。
■ パートナー企業との関係強化
これは自社の単独ではなく連携する相手企業がいる場合ですが、今回の事例ではリファにとってだけではなく、ホテル、サロン、住宅メーカーなど提携・導入先にとっても、リファの製品を使ったり設置することでお客さんの満足度向上や売上アップが見込めます。リファとパートナー企業、さらには消費者とも Win-Win となるビジネスモデルが成立します。
製品が売れれば導入先にも還元があるので、自然ともっと有効活用できないかという姿勢になり、リファとパートナー企業の双方が協力して販促に取り組む好循環を生み出します。
このように、製品の利用シーンを能動的につくることは、購入障壁を取り除き、実際に体験した人が納得の上で購入や継続利用をしてくれるという流れをつくり出します。
SNS 拡散や口コミなどを通じて新規顧客を呼び込み、企業と導入先の両方において収益機会を拡大する歯車がまわります。
まとめ
今回は、高級美容機器ブランドの 「ReFa (リファ) 」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントとして、利用シーンを能動的につくる意義をまとめておきます。
- 購入の心理的ハードルを下げる: 使ってみないと良さがわからない商品やサービスは、実際に試せる場を用意することにより、見込み客は本当に自分に合うかという不安を解消でき、納得感を持った購入の後押しにつながる
- 顧客体験を起点とした販促ができる: 体験自体が販促活動になる。お試しでの体験から期待以上の良さを実感してもらえれば、広告だけに頼らないマーケティング活動になる
- ブランド価値と信頼を高める: リファのように例えば美容サロンや高級ホテルといった信頼性の高い場所で商品を試せると、プロユースの製品、選ばれたブランドというイメージ向上につながり、選ばれる理由をつくれる
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