投稿日 2025/06/19

ノーベル製菓のグミ開発。"驚感" と "共感" の両立がロングセラー商品のカギ

#マーケティング #共感と驚感 #価値提案

お客さんを驚かせる商品をつくりたい。話題性のある企画を考えたい――。

しかし、単に奇抜なアイデアを打ち出すだけでは、一時的な注目を集めたとしても、長続きしないでしょう。驚きだけでなく共感ももたらすことが、お客さんに受け入れられ、愛される商品につながります。

この文脈でご紹介したいのはノーベル製菓のグミの事例です。グミ市場で独自の存在感を放つノーベル製菓は、"驚感 (驚き) " と "共感" の2つを打ち出し次々とヒット商品を生み出しています。

どのようにしてお客さんの心をつかむことができるのか?その秘訣を実例も交えながら 「驚感と共感」 のつくり方を紐解きます。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

 「共感と驚感」 を打ち出すノーベル製菓のグミ


ここ最近、お菓子市場の中でも成長をしているのがグミです。グミは小腹を満たすおやつとして、また楽しい食感や SNS 映えなど、さまざまな理由から人気が高まっています。

グミ市場の盛り上がりの中で独自の存在感を放っているのがノーベル製菓です。ノーベル製菓の商品開発において興味深いアプローチは、商品開発の軸に 「驚感と共感」 というキーワードを掲げていることです (参考記事) 。

驚感と共感とは、ヒットする理由には、他社にない食感と味がある 「驚きの要素」 があり、同時に驚きだけではなくお客さんからの 「共感の要素」 があることで商品への人気が長続きするという考え方です。

では実際のノーベル製菓のグミ商品から、驚感と共感について具体的に見ていきましょう。

ソルベットグミ


 「ソルベットグミ」 は2024年春に発売されると、当初の販売計画の3倍もの売上を記録しました。

特徴は、外側がシャリッとしていて、中は柔らかいという新感覚の食感です。名前のとおりシャーベットを思わせるような口当たりで、グミとしてはめずらしい存在なことから驚き (驚感) を与えます。

本物のシャーベットみたいだと思わせるほど再現度が高く、「食べてみたら新鮮でおいしい」 「口に入れた瞬間からシャリシャリ感と果汁の風味が広がる」 といったおいしさへの共感も同時に得ています。ソルベットグミが支持されるのは、シャリシャリした食感が驚かれているだけでなく、本当にシャーベットのようだと共感されているからでしょう。

キラふわグミ


ソルベットグミに続いて2024年秋に登場したのが 「キラふわグミ」 です。

外側はキラキラしたパウダーでシャリッとした食感、内側はふわっと軽い柔らかさをもつ不思議なグミです。ビジュアルのキラキラ感は SNS で映え、"シャリ × ふわ" というかけ合わせは 「こんな食感のグミがあるのか」 と驚かせる要素が詰まっています。

軽い口当たり、甘さのバランスがちょうど良く、複数フレーバーを食べ比べるのが楽しいなど、ユーザーが受け入れやすい共感性も伴っています。

ペタグーグミ


2019年発売の 「ペタグーグミ」 は、子どもがグミをつぶして食べている様子をヒントに、薄くて硬いという新食感のグミをつくり出しました。

硬いグミはめずらしくありませんが、 ペタッと平たい形であることが特徴です。SNS でも 「噛み応えが新鮮」 や 「大人でもクセになる噛みごたえ」 と評判になり、2024年には世界的アーティストのビヨンセが来日中に食べていたことでも話題になりました。

硬いグミなのに薄いという驚きの要素があり、消費者にとっては 「グミを潰したい」 や 「ぺたんこにしたい」 という誰もがやってみたいと思わせる楽しみ方があることが共感の気持ちを生む要因です。

 「驚感と共感」 を実現するために


ノーベル製菓のグミに共通するのは、商品を手に取った人が 「おもしろい」 や 「すごい」 と驚くだけでなく、「こういうの、好きだな」 とか 「自分も同じ体験をしたい」 と共感できる要素を備えている点です。

驚感と共感がそろっているからこそ、話題性だけでなくリピートされる商品となるわけです。

では、驚感と共感のふたつを両立するためには、どうすればいいのでしょうか?

顧客理解からの驚感と共感ポイントを探る

驚きや共感をつくるためには、お客さんが本当に求めていること、実は潜在的に好きだと思っていることを発見することが大事です。マーケティングの用語を使えば、いかに 「顧客インサイト」 を理解できるかです。

たとえばノーベル製菓の 「ペタグーグミ」 では、子どもがグミをつぶして食べる姿を観察し、グミへの楽しさや心地よさの気持ちを見出しました。製品開発者の思い込みでなく、実在するグミを食べる人の何気ない行動や声に耳を傾けることによって、まだ知り得なかった驚感や共感のツボを見つけることができるのです。

また、「キラふわグミ」 では、ふんわりした柔らかさや SNS での写真映えに対して、若年層や女性が 「こういうかわいいグミがあったらシェアしたい」 と感じる気持ちを捉えていました。食感のユニークさだけでなく、楽しさやかわいさ、今この瞬間の自分の体験を誰かに共有したいという人の心理への深い理解が製品開発の土台にあります。

明確なコンセプトを打ち出す

とはいえ驚感と共感を同時に満たすのは簡単ではありません。驚きが強すぎるとお客さんは戸惑ってしまい、共感にたどりつかない可能性もあります。一方、共感に寄りすぎると 「まあ、普通のいつもの味だよね」 という無難なものになり、驚きは生まれません。

製品やサービスから驚きを与えるためには、意外性や新しさをどのように表現するかがポイントです。

たとえばノーベル製菓の 「ソルベットグミ」 のように、シャーベットのようなグミという具体的な食感イメージをコンセプトに掲げることによって、消費者は 「それは一体どんな味だろう?」 とか 「グミがシャーベットになるとはどういうこと?」 と興味を持ちやすくなります。

驚感と共感をつくる価値提案

驚感と共感としっかりと形にしても、その価値がお客さんに伝わらなければ、世の中的には意味のないことです。

そこで重要になるのが、顧客インサイトに響く製品コンセプトを、お客さんの文脈に寄り添って訴求することです。

たとえばグミの新しい食感を打ち出すときには、「食べるとどんな体験が得られるか」 や 「どのようなシーンで楽しめるか」 といった具体的なイメージも併せて提案することによって、お客さんが自分のシチュエーションに当てはめることができます。それにより 「これこそ、自分がほしかったものだ」 と思ってもらいやすくなります。

そして、共感に加えて驚きの要素も重要です。お客さんからの 「なるほど、確かにそういう体験をしてみたい」 という欲求を刺激しながら、「こんなのは初めて」 という驚きを重ねることができるでしょう。

こうした価値提案においてお客さんの文脈に溶け込みやすいコミュニケーションを組み合わせることが、驚感と共感を生み出し、お客さんから長く愛されるロングセラー商品の人気の要因になるのです。

失敗をしても学びを得る

ノーベル製菓では、「自分たちが一番製品のことを考え抜いているのだから、周囲の声に流されてコンセプトを曲げるより、貫いて失敗したほうが学びがある」 という考え方を持っているとのことです (参考記事) 。

裏を返せば、大胆なアイデアを実行に移すための組織的・文化的な土壌があるといえます。

とりわけ、驚きを追求するためには、成功する可能性も失敗の可能性も同等に大きいというリスク (不確実性) が伴います。しかしリスクを恐れて消極的になっては、お客さんの心をつかむ意外性を生み出すことはできないでしょう。

失敗しても学習できるという環境を整えておくことで、組織やチームが安心して新しい挑戦に踏み出せます。

まとめ


今回は、ノーベル製菓のグミ商品の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後に "驚感" と "共感" を実現するためのポイントをまとめておきます。

  • 顧客理解からの驚感と共感のツボを探る: 消費者やお客さんの潜在的なニーズや無意識の行動を観察し、「こういうのが欲しいのでは」 と思えるポイントを見つける

  • 意外性と納得感を両立するコンセプト設計: 共感に驚きを加え、意外性と納得性のバランスを図るために、お客さんの文脈にフィットする 「なるほど、そういうことか」 と思わせる要素をコンセプトに入れる

  • 驚きと共感を生むコミュニケーション: パッケージ、商品名、広告などでは商品・サービスの魅力を一貫した世界観で伝え、利用シーンも併せて具体的な価値提案を行い、驚感と共感を伴った顧客体験に結びつけるメッセージを発信する

  • 挑戦と学習を繰り返す組織文化の構築: 驚感と共感を同時に生み出すのは簡単ではない。実現するためには失敗を恐れず、新しい発想にチャレンジできる環境をつくり、試行錯誤を通じて 「共感と驚感」 を磨き続けることが大事


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。