投稿日 2025/06/06

100年人生ゲームがお金より幸せを重視へ。世の中の価値観の変化に適応する重要性

#マーケティング #市場の変化 #顧客理解

今回は、従来の人生ゲームの常識を覆す 「100年人生ゲーム」 を取り上げます。

人生ゲームから、時代に合った新しいマーケティングのヒントを探ります。

100年人生ゲーム


出典: PR TIMES

お金ではなく幸せを競うというユニークな切り口なのが 「100年人生ゲーム」 です。

人生ゲームのこれまでの価値観やゲームルールを見直すことで、"人生100年時代" の新たな楽しみ方を提案します。

今までの人生ゲームは、ボードのマスを進めながら金融資産を増やしながら億万長者を目指し、最後に最も資産を多く獲得することを競う内容でした。一方の、新作の 「100年人生ゲーム」 はお金を稼ぐことは競わず、「ウェルビーイングポイント (ウェルポ) 」 という独自の幸福ポイントを集め、一番多くのウェルポを得たプレイヤーが勝利します。

誕生の背景

100年人生ゲームを共同開発したのは、タカラトミーと博報堂のシンクタンク 「100年生活者研究所」 です。

開発のきっかけは、100年生活者研究所が行った人生100年時代に関する意識調査でした (詳細はこちら) 。

この調査では、日本人は平均寿命が世界トップクラスであるのにもかかわらず、100歳まで生きることをポジティブにとらえていないという傾向が見られました。

海外の他国の人々は、「長生きすればやりたいことが増える」 や 「ゆっくり人生を楽しめる」 と、長寿を前向きにチャンスと受け止める一方、日本では 「介護にかかる負担」 「健康・経済面への不安」 といった理由から、希望する寿命が平均寿命より短いという回答も多かったのです。多くの日本人は 「長生きそのものが幸せに直結する」 とは考えておらず、人生が100年続くことを手放しで喜べていない現状が浮き彫りになりました。

100年生活者研究所はここに着目し、長生きは楽しいことだとポジティブに感じられるきっかけをつくるにはどうすればいいかと考えました。そこで 「お金よりも幸福を重視する」 というテーマを掲げて、タカラトミーの国民的ボードゲームである人生ゲームに新しい風を吹き込もうとしました。

誕生したのが 「100年人生ゲーム」 です。子どもから大人まで楽しめるボードゲームなら、長い人生に潜む不安や問題を、ポジティブにゲーム体験として味わってもらいたいという狙いがあります。

ドルではなく 「ウェルポ」 を獲得する

100年人生ゲームでは、獲得する通貨がドルというお金ではなく、ウェルビーイングポイント (略してウェルポ) になっています。

ゲームのゴールは 「億万長者」 ではなく 「幸福長者」 です。マスのゴールはちょうど100歳の誕生日のマスで、たどり着いた際にもっとも多くのウェルポを持っている人が優勝となります。

従来の人生ゲームでは 「一番早くゴールした人が有利」 となるような仕組みでしたが、100年人生ゲームでユニークなのはゴールが遅いほどそれだけ多くの経験を積んだとみなし、最終評価の段階で追加のウェルポを獲得できる点です。遅いゴールは勝利に結びつかないと感じるところをあえて逆にし、長い時間をかけて人生を楽しんだプレイヤーにアドバンテージが与えられるわけです。

マス目と価値観カード

盤面に配置されたマスの内容も幸福感につながるよう変わりました。

今までの人生ゲームでは 「埋蔵金を発見した」 や 「火星に移住する」 といったコミカルなイベントや夢のある内容が多かったのに対し、100年人生ゲームでは 「ファンミーティングに参加してときめいた」 、「パートナーと野球チームの応援でもめてしまった」 などがあります。これらは1万人以上への消費者アンケート、またインタビューにもとづく実話を使っています。

リアルで等身大のエピソードだからこそ、「自分も経験しそうだ」 「これはちょっと起こってほしくない」 などと、ゲーム内容がより身近に感じられることでしょう。

また、100年人生ゲームでは価値観カードという、従来の職業カードの代わりとなるカードもあります。

健康マニア、情熱ワーカー、友だち想いなど、プレイヤーが持つ価値観によって、止まったマスのイベントからもらえるウェルポが変化します。人生を重ねることで人の価値観が変わり得ることを反映した仕掛けもあり、60歳の誕生日には追加で新たな価値観カードを選べるというルールも用意されています。これも人生100年時代に合わせた発想です。

学べること


では、100年人生ゲームから、学べることを掘り下げていきましょう。

生活者の価値観の変化を取りこぼさない

かつての人生ゲームは 「より多くお金を稼いだ人が勝ち」 という価値観でした。

しかし、昨今の社会では 「豊かさ = お金」 だけでは測れないと考える人が増えています。特に、人生100年時代が現実として見据えられるようになると、健康で長く生きること、自分が納得できる生き方を送ること、心の豊かさを感じられる瞬間が多いことといった要素がより重視されるようになってきました。

このような生活者の価値観の変化を察知し、自社の商品やサービスに反映することは、ビジネスを継続的に展開するために重要です。

もしも企業が 「いや、うちは昔からこうだから」 と従来の考え方や商品の仕様に固執すると、お客さんとの価値観や考え方との間で溝が広がり、いずれは商品が選ばれなくなる可能性が高まります。

市場や顧客は常に変わっていくという前提を忘れず、消費者や企業の取り巻く環境、価値観の微細な変化をキャッチする姿勢が大事になります。

変化の "ひずみ" に潜むビジネスチャンス

逆に捉えれば、世の中の価値観が少しずつ変わるからこそ、新たなビジネスチャンスが生まれやすいとも言えます。

100年人生ゲームに話をつなげると、長生きが当たり前になった社会における 「長生きをすることは不安に感じる」 と 「でも、長生きもいい面だってあるはず」 という二面性のある価値観に着目し、お金ではなく幸福を集めるというゲームのコンセプトを提示しました。

このように、既存の商品が提示する価値観や便益と、社会や顧客が新たに求めている便益との間にできる 「ひずみ」 を見出し、そこに斬しい体験や顧客価値を再解釈をすることによって、新しいビジネスを開拓できる可能性が生まれます。

そのためには、なぜ今、長寿に対してネガティブな意識が強いのか、長寿を本当に喜べる社会にするにはどうすればいいかなど、生活者の潜在的な心理を深掘りし、見出したインサイトに沿って商品やサービスを新たな形でアプローチすることが重要です。

当たり前を見直し、新しい価値を提案する

ビジネスが成功するひとつのパターンは、「当たり前」 の基準を変えることによってです。

100年人生ゲームも、従来であれば 「人生ゲーム = 獲得したお金の多さを競う」 という当たり前だった常識を覆し、お金ではなくウェルポが多い人、ゴールが遅いほどたくさんのことを経験しているのでより評価されるという新しい基準をつくりました。

100年人生ゲームを遊ぶ人にとっては、ゲームを通して 「人生を長く楽しむことはすばらしいこと」 や 「自分らしい幸福のカタチがある」 と感じられようになるでしょう。

企業が提供する商品やサービスにも環境や価値観の変化に合わせて 「新しい基準」 を取り入れ、お客さんから 「そうか、こういう見方もあるだ」 とポジティブな気づきを与えることができれば、新しい文脈や状況に変わっても、消費者やお客さんから選ばれることができます。

終わりなき顧客理解の旅

ビジネスをやっていく上で忘れないようにしたいのは、お客さんの理解にはどこまでいっても終わりがないということです。

生活者やビジネスの世界は常に変わっています。その環境に身を置く生活者や顧客企業も影響を受けて変わります。

仮に今の時点でお客さんのことを理解できているとしても、その直後から少しずつでも確実にお客さんは変化していきます。顧客理解ができたからといってやめてしまうと、変わり続けるお客さんの行動や心理の実態と自分たちの見立てのギャップが乖離していくわけです。

マーケティングは顧客理解に始まり、しかし、決して完ぺきになることはないのでお客さんの理解は続いていきます。マーケティングとは 「終わりなき顧客理解の旅」 を続ける活動なのです。

まとめ


今回は、お金ではなく幸せで競う 「100年人生ゲーム」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 社会の変化から生まれる 「ひずみ」 にビジネスチャンスがある
  • 生活者の価値観の変化を察知し、変化に適用する
  • 今までの 「当たり前」 を見直し、新しい価値を提案する
  • 顧客理解は継続的なプロセスであり、終わりがない。マーケティングとは 「終わりなき顧客理解の旅」 を続ける活動


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。