#マーケティング #顧客接点 #顧客理解
消費者やお客さんが本当に求めているものを、どれだけ正確に把握できているでしょうか?
日々の業務に追われる中で、お客さんの声が営業担当者や調査レポートを通じた "間接的な顧客情報" になっていませんか?
消費者やお客さんのことを深く理解するためには、それだけでは不十分です。この文脈でご紹介したいのは、新潟の家電メーカーであるツインバードの取り組みです。
背景や具体的な内容や狙いから、私たちのマーケティング活動に活かせるヒントを考えます。
ツインバードが開発担当者も店頭実演販売
新潟県を本拠地とする家電メーカー 「ツインバード」 。開発担当者や経理、物流など営業とは直接関係のない部署の社員も、家電量販店で実演販売をすることに注力しています (参考記事) 。
家電メーカーが自社の商品を店頭で PR すること自体はめずらしくありませんが、通常は営業担当者や販売代理店が担うケースがほとんどです。
それに対してツインバードは、製品開発の当事者や営業部員ではない社員も店頭に立ちます。経理や物流などの、普段はエンドユーザーである消費者と直接的に接することのない部署のメンバーも、家電量販店に来店したお客さんに直接アピールする方法をとっています。
たとえば、ツインバードの 「匠ブランジェトースター」 では、実際の店頭でのデモンストレーションから食パンを焼く際の温度調整や焼き色の違いなどを実演しながら、その場で試食を提供するといった工夫も行いました。
店頭で接客をする開発担当者は、自分たちが開発に携わったトースターなどの製品の魅力を具体的に説明するだけでなく、お客さんからのどんな点を評価してもらえたか、逆にあまり評価されない機能は何かなどを肌で感じ取れることでしょう。
お客さんとの直接のやりとりは担当者個人にとどまらずツインバードにとっても財産となります。
お客さんとしても製品を作っている人から直接話を聴くことで、製品やツインバードに興味を持ってくれることが期待できます。
直接の顧客接点を持つことの意味
では、ツインバードの取り組んでいる開発担当者などの営業担当者でない人も店頭での実演販売を積極的にやっているという事例から、学べることを掘り下げていきましょう。
直接の顧客接点を持てる
ビジネスにおいて、お客さんの声を聴く機会はとても大事です。
しかし実際は、普段開発を担当しているメンバーがエンドユーザーとなる消費者やお客さんと直接話す機会は多くはなく、営業担当者や販売店を通して間接的に情報が伝わるケースが普通でしょう。だからこそ、ツインバードのように営業担当者ではない開発担当者が自ら店頭に立ち、直接の顧客接点を持てるところに意義があります。
お客さんのリアルな反応を知ることができる
店頭実演販売により、どんな人が、どのように商品を見て、どう感じるかをリアルに把握できます。レポートや売上の数字だけでは得られない、貴重な情報や洞察が得られ、学びの機会となります。店頭では商品を説明するだけでなく、お客さんからもその場で質問や要望を受け取ることができます。
実際にどんなパンを焼いてみたいのか、どんな料理を普段作っているのかといった、製品だけではなく生活や日常のシーンに関する声を聞けば、家電が置かれる台所やリビングのイメージがより具体的になります。また、一度に何枚の食パンを焼きたいか、冷凍ピザをサッと温めたいのはどういう状況や使い方なのかといった話も聞けます。
他には、作り手の想定と使い手の実態のギャップを知ることもできます。
たとえば 「ボタンを1回押すだけで焼き具合を調整できる」 と謳っている製品機能が、実はお客さんにはそこまで魅力的に伝わっていないとわかるという具合です。一方で 「色のデザインが好き」 や 「コンパクトに置けるのがうれしい」 など、開発担当者があまり重視していなかったポイントが、お客さんからは思わぬ支持を集めてることもあるでしょう。
こうしたリアルな現場感覚やマーケット感覚こそが、今後の製品改良や新製品開発への貴重なヒントになります。
お客さんの立場になり、お客さんの言葉や考え方、使い方をうかがいしれる
開発担当やバックエンドの部門の社員が店頭に立つことのメリットは、お客さん目線に自然と立てるようになることです。
技術的な専門用語や社内の常識で説明しても、お客さんにとっては、よくわからない、そこまで興味がないということはままあります。直接話してみると 「自分たちがアピールしてきたポイントは実はお客さんには響いていないんだな」 と気づけ、逆に 「お客さんはここをもっと知りたいんだ」 とハッとするような場面にも出会えることでしょう。
こうした体験や得られた洞察が企業内に蓄積されていけば、商品企画やマーケティングの企画の段階から 「お客さんはこのキーワードやこうしたデモンストレーションに反応してくれやすい」 、「専門用語で正確に伝えようとすると伝わりづらい」 といった具体的な示唆を見出せます。
顧客中心の 「外向き姿勢」 になれる
社内で商品や企画を考えていると、どうしても視点や思考が内向きになりがちです。この技術をどう商品に活かすか、コストをどう下げるかなど、商品企画や開発も社内の売り手・作り手の論理で進んでしまうことがあります。
内向き姿勢でいざ店頭で接客をしてみると、それらはお客さんが本当に欲しているポイントとかみ合っているかどうかをあらためて考えさせられます。
お客さんの暮らしや置かれた状況をスタートポイントとし、自社製品があることにより、お客さんにはどんな喜びやうれしさが生まれるのかを具体的に想像しようとする姿勢は、外向きのマーケティング思考です。
開発担当者や共通部門も含めて、会社全体が外向き姿勢を実践することによって、お客さんが求めることを社内のあらゆる部署のメンバーが自然と理解するようになるでしょう。
異なる部署のメンバー間で認識がそろう
ツインバードの店頭実演販売は、営業や開発担当者だけでなく、経理や物流の社員も巻き込むといった部門を超えた形で行われています。
これにより社内の共通認識が深まります。
たとえば経理部門の社員が実際にお客さんに喜ばれるポイント、不満につながり苦情になりそうなポイントを直接見聞きすると、経費のかけ方や予算管理の方向性にも現場感覚や顧客視点が自ずと入るという変化が起こるはずです。また、物流担当者が、実際のユーザー層は主婦や子育て世代が多いと具体的に感じ取れば、物流の領域でお客さんのためにもっとできることはないかという視点になれます。
実演販売という顧客接点の機会が社内の意識改革のきっかけになることが期待できます。そこから部署間で認識がそろうと、企業全体としての方向性がブレにくくなり、何を優先すべきかが見えやすくなるのです。
顧客接点構築の組織的な仕組みづくり
ここまで見てきたお客さんとの直接のタッチポイントを、営業部だけ、あるいは一部の意欲ある社員が個人的にやっているだけにとどめないことが大事です。
ツインバードは全社的な方針で、開発担当から共通部門まで含めて店頭に立つ仕組みづくりを進めているため、属人的なノウハウで終わらずに全社へ広げやすくなっています。
企業がエンドユーザーとなるお客さんと接する機会を増やそうとしても、実際にやるのは簡単ではありません。やる気のある人だけが動く場合、時間のやりくりや費用負担などの解決すべき問題が山積みになり、結局続かないことも多々あるでしょう。
だからこそ、組織としてルールやシステム、または評価制度などを整えれば、全員が少なくとも四半期に一度は店頭に立つといった形で実現され、かつ継続的に行えます。どの部署もお客さんの立場になることを意識しながら、自分の仕事を見直すきっかけを得やすくなります。
ツインバードの事例は、現場に近づく取り組みを企業として公式化・制度化している点で、学びが得られます。
ツインバードの店頭実演販売の取り組みは、直接の顧客接点を持ち、お客さんのリアルな反応を得て、お客さんの言葉や考え方を深く理解するために機能します。外向きの顧客志向や異なる部署間での情報共有を促進する意味でも意義があります。
まとめ
今回は、家電メーカーのツインバードの事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 直接の顧客接点を持ちリアルな反応を知ることによって、お客さんの立場や言葉を理解でき、顧客中心の外向き姿勢の醸成される
- それにより部門間で同じ顧客情報が共有され、認識がそろい、組織全体で顧客志向を実現できる
- 直接の顧客接点の構築を一部の意欲ある社員やできるメンバーに任せたり頼るのではなく、全社的な仕組みとして整備することが大事。継続的かつ効果的に顧客志向を組織全体に根付かせられる
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