#マーケティング #戦略 #ビジネスモデル

資本力や知名度で大手に差をつけられている企業にとって、どこで戦い、何を強みにするかという戦略設計が重要です。

そのヒントになるのが、業務用ソフトクリームで国内トップの 「日世」 です。

今回は、日世の事例から、大手の優先順位が上がりにくい戦場の見極め方、お客さんからの比較軸を変える方法、競合に真似されにくいビジネスモデルのつくり方を紐解きます。

業務用ソフトクリーム ナンバーワンの日世

出典: 日世

観光地やコンビニ、ファーストフード店でソフトクリームを食べたことはあると思います。

あのソフトクリームの多くが、実は日世という会社の原料と機械でつくられているんです。

日世は 1951 年に日本ではじめてソフトクリームを紹介した会社で、本社は大阪府茨木市にあります。

ソフトクリームに必要な原料 (ミックス) ・コーン・機械 (フリーザー) のすべてで 2024 年度金額ベースの国内シェア 1 位という、ソフトクリーム総合メーカーです。キャラクターのニックン & セイチャンを見たことがある人も多いかもしれません。

学べるのは、日世が自社に有利な競争条件を自らつくりあげた事業戦略です。大手ではない会社にとって大事なのは、強い相手が本気を出しにくい構造を先につくることだからです。

ではこの観点から、日世の戦い方をいくつかの切り口で見ていきましょう。

戦場を選ぶとは

戦略の観点ではじめに考えたいのは、そもそもどこで戦うかという 「戦場の選び方」 です。

日世の戦場

日世が戦っている業務用ソフトクリーム市場は、約 1500 億円の規模です。決して小さくはありません。

ですが、アイスクリーム市場全体は 6000 億円を超える規模があります。明治の市販アイスクリームは 492 億円、森永製菓の冷菓事業は 494 億円規模の売上があります。

こうした大手企業から見ると、業務用ソフトクリーム市場は 「全力で取りに行くには見合わない」 領域になります。社内の経営会議で投資判断を考えたとき、6000 億円市場での既存事業を伸ばすほうが合理的だからです。

ここから言えるのは、大手ではないプレイヤーは戦場を選ぶときに 「自社にとって魅力があるか」 だけで決めてはいけないということです。自社にとって魅力的な市場は、競合にとっても魅力的に見える可能性が高いからです。そういう市場には、遅れて本気の大手が必ず入ってきます。

大手ではないプレイヤーが見るべきは、自社にとっての魅力に加えて、特に大手の競合他社から見たときに優先順位が上がりにくい構造的理由まで含めた市場です。相手が深く入れない理由がある場所を探すという発想が大事です。

日世が作った独自の比較軸

戦場を選んだあとに重要になるのが、その戦場で 「顧客から何と比べられる存在になるか」 です。

大手が力を発揮するのは、規模・価格・認知・営業網といった戦い方です。この土俵に乗った瞬間、中堅・中小は構造的に不利になります。

日世がやったのは、まさにこの土俵から降りることでした。

日世は、ソフトクリームを店で売りたいと思った事業者にとって 「まとめて相談できる会社」 という独自の立ち位置をつくりました。原料も機械も付属品も、ぜんぶ揃っているというポジションです。

すると顧客の頭の中で、海外のフリーザーメーカー (機械メーカー) や大手乳業 (原料メーカー) と並んで比較されることがなくなります。日世だけが、丸ごと相談できるという別の認識で評価される存在になるのです。

これは見落とされがちな視点ですが、シェアを奪うことよりも、競合を比較対象リストから外してしまうことのほうが高い優位性を生みます。

比較軸そのものを書き換える発想を持てるかどうかが、大手ではない企業が勝てる領域づくりの分かれ目になります。

大手企業ではないプレイヤーの強み

戦場と比較軸が決まったら、次に考えたいのは、その戦場で顧客に何を提供するかです。

日世が引き受ける 「意思決定」 と 「運用の手間」

お店でソフトクリームを売りたいと思った事業者の立場で考えると、課題感が生じているのは商品単体の性能ではなく、その手前と後ろです。どこに相談すればいいのか、何と何を組み合わせれば動くのか、導入後の衛生管理や保守はどうするのかです。

こうした判断と運用の手間を、日世はまとめて顧客から引き取っています。顧客が支払っているのは商品代金ですが、本当のところは自分で考えなくていい状態を買う費用でもあるわけです。

ここに、小さなプレイヤーの戦略の余地があります。商品単体の性能で勝負しようとするだけではなく、顧客が抱えている 「面倒くささの束」 を見つけて、それをまとめて引き受ける存在になるほうが差異化が効きやすく、しかも大手が真似しにくい戦略になります。

その用途で真っ先に思い出され、相談される状態を築く

日世は、アイス市場全体の王者を目指したわけではありません。「お店でソフトクリームを出したい」 と事業者が思ったときの第一候補になることを目指しました。

自社が 「誰に、どんな瞬間に、何の相談相手として思い出されたいか」 を明確に言語化することが大事になります。ここが曖昧なまま商品改良や広告に投資しても、思い出されない相手に届けようとする構造が続いてしまいます。

ビジネスモデルと戦略

では最後のパートでは、ここまで見てきたものを 「どう稼ぎ、どう守るか」 という観点で考えてみましょう。

日世のビジネスモデルはなぜ真似されにくいのか

日世は、機械 (フリーザー) を薄利で販売し、繰り返し購入される原料 (ミックス) で利益を上げる構造をとっています。

海外のフリーザー専業メーカーは 「機械で稼ぐ」 構造のため、価格を下げることは簡単ではありません。一方の大手乳業メーカーは原料を販売していますが、日世のように機械と原料の両方を自社で提供する構造ではありません。

こうした競合が日世の一部分だけを真似しようとしても、全体としては勝てない状態になります。原料だけ真似しても、機械まで含めた一括提案はできません。機械だけ真似しても、原料で利益を回収できないので価格競争では不利になります。

ビジネスモデルでは 「どう儲けるか」 の話にとどまらず、競合が真似しにくい構造をつくる仕組みでもあるということが大事なポイントです。

日世が表面的には 「何でも揃う総合対応」 に見えるとしても、実質的に握っているのは原料という中核部分です。機械や付属品まで扱うのは、その急所を守り続けるための布陣なのです。

大手ではないプレイヤーにとって本当に大事なのは、自社が握れる領域を決めることです。顧客との接点なのか、運用データなのか、消耗品なのか、保守なのか、導入支援なのか。自社が押さえれば主導権を保てる一点を見極めることが、戦略の肝になります。

戦略は弱さを前提に設計する

大手のように資本力やブランド力で押し切れない以上、戦略は制約条件に規定されます。人もお金も知名度も限られているからこそ、何に集中して何を捨てるかが大切になるわけです。

大事なのは、自社の持っていないもの、弱さを嘆くことではありません。「大手企業のようにできればいいのに」 と考えるのではなく、「持っていない、できないからこそ、こういう形なら勝てる」 を見つけ出すことです。

戦略が本当に問われるのは、強みを探す場面よりも、弱みを受け入れたうえで勝ち筋が残る形に組み直す場面です。日世が長年やってきたのは、まさにこの組み直しの作業です。

日世の事例が教えてくれるのは、大手ではないプレイヤーも、自社が勝てる形に戦い方を組み立てられるということです。戦略では、戦場と制約のもとで、自社にしかできない戦いを組み立てることが勝敗を決めます。

まとめ

学びのポイントをまとめておきます。

  • 戦場は 「自社にとっての魅力」 だけでなく、「競合にとって優先順位が上がりにくい構造的理由」 まで含めて選ぶ
  • 真正面からシェアを奪いにいくより、比較対象リストから競合が外れる新たな比較軸をつくることで高い優位を生める
  • 大手ではないプレイヤーは、商品単体の性能ではなく 「顧客の不便の束」 をまとめて引き受ける存在になると差異化が効く
  • ビジネスモデルは 「稼ぎ方」 であると同時に 「競合が一部だけ真似しても崩れない構造」 として設計する
  • 弱さを前提に、自社が勝てる形へ戦い方を組み立て直す