投稿日 2025/06/22

子ども向けタクシー配車 Uber Teens 。未来のお客さんをつくる 「ブランド体験の早期化」 とは

#マーケティング #ブランディング #ブランド体験の早期化

会社や自社サービスのことを、未来のお客さんにどのように印象づけているでしょうか?

早い段階からブランドとの接点をつくり、関係性を築くことができれば、将来の顧客基盤を今から育てることができます。

今回は、タクシー配車サービスの Uber Teens の事例から 「ブランド体験の早期化」 について考えていきます。

なぜブランド体験の早期化が重要なのか?具体的にどのように活用できるのか?ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

Uber Teens


子どもをトラブルや犯罪から守りたいという気持ちは、子どもを持つ親の共通した思いです。近年は共働き家庭の増加や、地域コミュニティの変化などによって、親が常に子どものことを目にしたり気にかけることが当たり前ではなくなりました。

こうした社会的背景のもと、2024年12月に Uber Technologies の日本法人である Uber Japan が、新たにローンチしたのが 「Uber Teens」 というタクシーサービスです。

13 ~ 17歳の子どもたちがひとりでタクシーを利用できます (Uber Teens は2025年4月から Uber Eats にもサービス範囲を拡張し、デリバリーでも子どもが利用可能になりました) 。

サービス開始の背景

Uber はもともとアメリカで配車サービスとして誕生し、その後、世界中の都市にサービスを展開してきました。日本ではタクシー配車よりも自宅への食品デリバリーサービスである 「Uber Eats」 がよく知られますが、日本でも 「Uber Taxi」 も展開しています。

そんな Uber が 「13 ~ 17歳の未成年を対象にしたタクシー配車サービス」 となる Uber Teens を日本で始めました。背景には、共働き世帯の増加で子どもの送迎をしたくてもできない、子どもの安全確保へのニーズ、配車アプリ競争の激化による差異化の打ち出しがあることでしょう。

サービスの仕組みと利用方法


出典: @DIME

Uber Teens の特徴は、子ども専用アカウントを親のアカウントとひも付けるという点です。保護者はすでに自身が利用している Uber アカウントの設定画面から、13 ~ 17歳の子ども用にサブアカウントを作成します。

アカウントが紐づいてることで保護者はいつでも子どもの利用状況を把握でき、乗車回数の上限を設定することも可能です。

子どものスマホにインストールされた Uber アプリから配車を依頼すると、保護者側のアプリでもリアルタイムに配車情報がわかります。どのタクシーが手配されたか、ドライバーのプロフィールや車両ナンバー、タクシーが今どこのルートを走っているか、到着場所はどのあたりかなどを逐一チェックできます。子どもがどこを走行しているかを常に把握できるため、保護者としても安心感が高まります。

Uber Teens では子どもがひとりでタクシーに乗車するにあたって、安全性を高めるための仕組みがいくつか用意されています。

具体的には、暗証番号 (PIN) 設定により、子どもとドライバーが暗証番号を確認しあってから乗車するため、車両の取り違いや不正トラブルを防ぎます。他には、乗車中の自動録音機能、優良ドライバーとの優先マッチングもあります。

料金ですが、Uber Teens の利用料金は通常の Uber Taxi と同じです。特別な追加料金はかからず、初乗りや距離料金も通常のタクシーメーターに準拠します。支払いは親アカウントで紐づけているクレジットカードや決済手段が使われるので、子どもがタクシー代金用のお金を持ち歩く必要はありません。

学べること


では、Uber Teens の事例から学べることを掘り下げていきましょう。

今回の話はブランディングの観点で示唆があります。

ブランドとは

あらためてブランドとは何でしょうか?

ブランドは、商品やロゴのことを指すことにとどまらず、「お客さんからの好ましい感情が伴った商品やサービス、企業」 のことです。好ましい感情には、好き、共感、満足、憧れ、誇り、応援したい気持ちがあります。

ある企業や商品・サービスに対して、ポジティブな気持ちが育っている状態がブランドとして成立している状況です。

子どもの年齢からのブランド体験

ここで Uber Teens に話をつなげると、Uber Teens の最大の特徴は、13 ~ 17歳の子どもたちが、早い段階から Uber のサービスを直接体験し始めるという点です。

従来であれば、配車アプリを使うのは大人になってからの、高校卒業後や大学生になってからというのが一般的でした。しかし、Uber Teens の登場によって、配車アプリである Uber のサービスを親と一緒ではなく中高生が自分ひとりで体感できるわけです。

これを一言で表現をすれば 「ブランド体験の早期化」 です。

早い時期から Uber を利用する子どもたちは、「Uber って便利だな」 「安全機能があるから安心」 「夜遅くても怖くない」 など、実際の乗車体験からさまざまなポジティブな感情を抱きやすくなることでしょう。こうした気持ちは将来的なブランド選好に直結する可能性が高まります。

体験と感情が結ばれるブランド構築のプロセス

一般化すると、ブランドが構築されるプロセスは、以下のようになります。

  1. 顧客体験: 商品やサービスを実際に使ってみたり、人づてに話を聞いたりするなどして、ユーザーが何らかの顧客接点でブランドを体験する

  2. 好ましい感情移入: その体験が楽しかったり、新鮮な驚き、共感、自分の価値観と合うとポジティブな感情が芽生える

  3. 価値イメージの形成: このサービスはこういう価値がある、この会社が提供するサービスはどれも便利といった、ユーザーの頭の中に具体的な価値イメージがつくられる

  4. ブランド化: 体験から好ましい感情が生まれ、価値イメージが結びつき、心の中にブランドとして認識される状態に至る


ブランド構築のプロセスを Uber Teens に当てはめると、次のような流れが想定できます。

  1. 体験: 子どもが実際に Uber Teens を使ってみる。夜遅い塾帰りに呼んだタクシーがすぐに来てくれた。車内は清潔で、感じの良いドライバーだった

  2. 好ましい感情移入: 自分でもスマホでタクシーを手配できるなんて便利。親が位置情報を確認しているので、親から自分のことを大切にしてもらえている感じがする

  3. 価値イメージの形成: Uber は自分を守ってくれるサービス。大人みたいに自由に移動できる特別な存在、困ったときに頼れる存在

  4. ブランド化: 将来、大学生や社会人になった時に 「配車サービスといえばやっぱり Uber を使いたい」 と思えるようになる


こうした子どもの時のポジティブな経験が、そのまま 「好き」 「共感」 「愛着」 といった好ましい感情へと変わり、Uber のブランド力を強固なものにしていくのです。

ブランド体験の早期化がもたらす長期的メリット

ブランド体験の早期化は、ただ子どものうちに知ってもらうだけではなく、将来的なロイヤルティ (愛着や親近感) を育むことでしょう。10代での体験を通じて形成されたイメージは、大人になった後も強く持ち続けてもらえることが期待できます。

Uber Teens は、子どもたちが将来にタクシーや配車サービスを当たり前に利用するようになった際、優先して Uber を選ぶ行動へつなげる可能性が生まれるでしょう。例えば、大学生になったとき、社会人としての初任給で余裕ができたとき、深夜の移動や遠出の際など、あらゆるシーンで 「タクシー配車は Uber」 と選択肢の一番手になって思い出してもらえます。

これこそがブランド体験の早期化の狙いです。年齢の低い段階で積み重ねた 「好ましい感情」 を、将来の大きな顧客基盤へと育てていくのです。

まとめ


今回は、Uber Teens の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にブランド体験の早期化のポイントをまとめておきます。

  • 年齢の早い段階で直接サービスを体験できる仕組みをつくる。ブランドとの接点を持ってもらい、実際に利用できる機会を提供することにより、早いタイミングから自然な関わりや親しみをつくる

  • ブランドとは 「消費者や顧客からの好ましい感情が伴った商品やサービス、あるいは企業」 。顧客接点での体験とポジティブな感情を結びつける工夫をする。利用時の安心感や便利さ、楽しさなどをもたらし、好意的な印象や記憶をつくる

  • 将来の選択肢としてブランドを定着させる。幼少期や10代でのポジティブな体験が、大人になったときの優先的な選択肢となることを目指す


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。