投稿日 2025/06/23

サントリー天然水の 1L ペットボトルがスリムに。新しい顧客文脈で 「選ばれる理由」 をつくる

#マーケティング #パッケージ #顧客価値

自社商品は、そのパッケージが要因となって機会損失が発生していないでしょうか?

今回は、サントリー天然水の 1L ペットボトルのリニューアル事例から、パッケージに注目をして掘り下げていきます。

消費者やお客さんの価値観、商品の使い方は時とともに変わります。その変化に気づき、適切に対応することによって、ブランドは新たな価値を生み出せます。

サントリー天然水の 1L ペットボトル刷新


左がリニューアル前、右 (中央) がリニューアル後の新デザイン (出典: 日経クロストレンド

サントリー食品インターナショナルの 「サントリー天然水」 には、容量が 1L のペットボトルがあります。

1L へのニーズと不満

1L ペットボトルは、家庭内の中容量向け商品として販売されていました。

もともと、サントリー天然水の 1L ペットボトルは 2L と同じく 「自宅などの屋内でコップに注いで飲む」 ことを想定されていました。しかし、サントリーがユーザー調査を行うと 「かばんに入れて持ち歩きたい」 「じか飲みしている」 という声が多かったとのことです。

実際にサントリーが売上データを分析したところ、これまではサントリーが自宅用と捉えられていた天然水の 1L が、外出先でじか飲みするサイズとして買われている実態が浮かび上がりました (参考記事) 。

一方で、実際に使っている人からは 「 (1L は) 容器がぽってりしていて片手で持ちづらい」 や 「バッグのサイドポケットに収まりにくい」 などと不満につながっている意見も見られました。また、コンビニなどの販売店舗にとっても、ミネラルウォーターの商品では 1L サイズはサントリーくらいしかないので、サントリー天然水の 1L のペットボトルを商品棚のどこに置けばよいかわからず、従業員が迷ってしまうという状況も発生していたようです。

リニューアルの決定

こうした現状を踏まえ、サントリーは天然水の 1L を従来の 「家庭用中容量」 ではなく、新たに 「パーソナル大容量」 というコンセプトに設定しました。ペットボトルから直接のじか飲み需要に対応した形状にリニューアルすることを決断したのです。

天然水の中身の水は変わらずとも、消費者ニーズや行動の変化を捉え、サントリー天然水の使い勝手をアップデートする狙いです。

リニューアルのポイントは、四角形に近いスリムフォーマットへと形を変えたことです。

ペットボトルの表面に指をかけやすい凹凸を入れ、片手でラクに持てて直接ペットボトルから飲みしやすいデザインにしました。また、リュックなどのかばんのサイドポケットに収まりやすい形状に変え、大容量でかつ持ち運びやすく飲みやすいというサイズ感を目指しました。

サントリー天然水が持つ清らかで透明感あるブランドイメージを活かすべく、パッケージ表面の立体模様には雪や氷を想起させるモチーフを取り入れ、光が当たるとキラキラと輝くデザインに仕上げています。

ペットボトルを変えた成果

2024年5月の刷新から半年ほど経過した段階で、1L ペットボトルの売上は前年同期比1.5倍以上に伸びました (参考記事) 。

コンビニでは 2L よりも容量あたりでは価格が割高にもかかわらず、持ち運びが便利なこと、じか飲みがしやすい、ちょうどいいサイズという理由から購入されているようです。さらに 「今まで 2L を買っていたが、外で飲みきるには量が多すぎる」 「500mL だとすぐになくなってしまう」 といった未充足ニーズもをうまく拾い上げ、ボトルのデザイン変更によって捉えきれていなかった需要を取り込みました。

学べること


では、サントリー天然水の事例から学べることを掘り下げていきましょう。

今回のサントリー天然水の 1L ペットボトルの事例が示唆しているのは、商品自体の中身を変えなくても、パッケージを変えることにより新しい顧客層や利用シーンを切り拓くことができるという点です。

サントリー天然水の変更ポイント

とはいえ、単にデザインや形を変えればいいわけではありません。

大切なのは、売り手である自社都合でなく 「お客さんが何を望んでいるか」 を理解し、お客さんの立場も取り入れて変更をすることです。

サントリーは次のような各ポイントを丁寧に実施しました。

✓ 顧客理解
  •  「ペットボトルをかばんに入れて持ち歩きたい」 や 「じか飲みをしにくい」 といった、実際に利用している人たちの要望や不便さを洗い出した
  • 外出先で水を飲む理由 (健康, ダイエット, 美容のためなど) を調査から見出し、猛暑日の増加など社会的背景も踏まえ、1L を外に持ち出すニーズが高まっている事実をつかんだ

✓ ブランドコンセプトの再定義
  • 従来はサントリー天然水 1L は家庭用の位置付けだったが、「パーソナル大容量」 という新たなコンセプトに変更
  • じか飲みに対するマイナスイメージを払拭し、オフィスや外出先で積極的に選んでもらえるデザインに変えた
  • この転換が、新しいお客さんや利用シーンを呼び込んだ

✓ 自社の強みとの融合
  • ペットボトルのデザインを変えたとはいえ、中身は今までのサントリー天然水のまま。南アルプスなどの山の雪解け水をイメージする清涼感を損なわず、四角柱のフォルムに雪や氷のような模様を施すことで、ブランドとしてのアイデンティティを維持・強化した
  • 形をスリムにするだけでなく、サントリー天然水らしさを訴求できる形やラベルデザインとした

✓ 販売チャネルと流通への配慮
  • コンビニでは棚割りで、コンビニの店員が 「1L ペットボトルをどこに置いていいかわからない」 という問題があった
  • そこで、緑茶やスポーツドリンクなど既に流通で定着している 1L スリムボトルを参考に、棚に並べたときの見映えや整合性も考慮
  • リニューアルでコンビニ側も扱いやすくなり、店頭で消費者が商品を発見しやすい状態をつくった

学びの汎用化

このように、サントリー天然水のデザイン変更のポイントを踏まえれば、パッケージ変更は企業の都合だけでなく、消費者や販売現場、さらに世の中の潮流も考慮して行うことが重要だということがわかります。デザイン刷新を一方的に 「コスト削減」 や 「ブランドのイメージチェンジ」 のためだけにしてはいけないのです。

今回のサントリーのように観察や分析からの顧客理解から、実際にお客さんが使っている現場でどんな不満やニーズがあるのかを見極めたうえで、パッケージを変えるといったプロセスが大切です。

加えて、流通や店頭スタッフの立場や観点も入れることによって、スムーズな販売体制が整い、消費者にとっても買いやすく、お店で手に取りやすいという状況が生まれます。サントリーの 1L ペットは 500mL と 2L のちょうど中間にあり、どちらの要素も欲しいと思う消費者に向けて魅力を打ち出すことに成功したと言えます。

自社の都合と消費者のニーズ、そして流通側の要望が重なり合うポイントを見つけ、ブランドの新たな成長機会をつくったわけです。

商品やサービスの中身の品質が優れていても、パッケージや流通、店頭での展示・販売方法などの周辺要素が顧客の価値観やニーズに合わなくなると、企業にとっても顧客にとってもミスマッチが起きてしまいます。逆に捉えれば、周辺要素にも目を向けることで、新たな顧客獲得や市場創造の可能性があるのです。

まとめ


今回は、サントリー天然水の 「1L ペットボトルのデザイン変更」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 商品やサービスの価値は、中身の品質だけでなく使用シーンの変化などの顧客文脈に応じて再定義する

  • 既存商品でも、お客さんの使用実態や新たな顧客ニーズに合わせて商品パッケージやサービスの提供方法を変更することで、新たな価値を生み出せ、成長機会を見出せる

  • 商品改良の際は企業の都合だけでなく、お客さんの行動や心理 (不満など) 、販売チャネルとなる流通や店舗の事情、社会的なトレンドの3つを総合的に検討する

  • ブランドの強みや独自性を維持しながら、消費者やお客さんの不や新しいニーズに応えることによって、既存顧客の満足度向上と新規顧客の獲得を実現していく


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。