2011/07/30

マクドナルドの経営戦略がおもしろい

日経ビジネスで短期連載されていた「日本マクドナルド原田泳幸の経済教室」。今週の2011.8.1で最終回で、おもしろい企画でした。マクドナルドの経営手法について、原田CEO(社長・会長CEOを兼任)本人が語るというものでした。

■原田経営の土台はQSC

第一回で紹介されたのが原田経営の考え方。04年に原田氏がCEOに就任した当時、マクドナルドは7年連続で既存点売上高が落ち続けるという状態でした。

その後、結果的には7年連続で同売上が上がり続けることになり、10年12月期決算では経常利益が上場以来最高益を更新するのですが、「どん底」であったCEO就任当時にまず取り組んだことが、「マクドナルドらしさ」に立ち返ることだったそうです。

ではマクドナルドらしさとは何か。記事では、QSC(Quality:品質、Service:サービス、Cleanliness:清潔さ)という同社の考え方が紹介されていました。すなわち、おいしく、清潔で、サービスの質が高い店舗に顧客が集まるということ。

では、QSCという「品質・サービス・清潔さ」を向上するために何をしたのか。

まず取り組んだことは従業員満足度を上げることでした。従業員満足度を向上させるのは、離職率を低下させるためで、原田氏曰く、離職率が下がれば、ノウハウを持ちモチベーションの高い従業員が長く働くことになる、ひいては店舗のQSCが上がるのだそうです。

原田氏は、一般論として企業というのは「らしさ」を忘れて不振に陥り、「らしさ」を取り戻して復活するものだ、と語っています。品質・サービス・清潔さという「マクドナルドらしさ」。記事からは、この土台をまずは築くことに徹底してこだわったという印象を受けました。

■勝つためには「順序」がある

原田氏は、勝つためには「順序(シーケンス)」があると言います。まずは土台があり、土台の上に柱を建て、柱がないのに壁は張れないという考え方で、ある戦術を実行するためには、その戦術を実行できる環境を整えておかなくてはならないという考え方です。

日経ビジネスの記事では、QSCというマクドナルドの「土台」をつくった後のシーケンスが紹介されています。次に行ったのが100円メニューの導入でした。その後の展開は、「えびフィレオ」投入、価格改定(値上げ)、「メガマック」投入と続きます。

ここに原田氏のシーケンス(順序)の意図が見て取れます。

  1. 価値を固め
  2. 客数の増加
  3. 客単価の増加

QSC向上により、顧客の中に「おいしい・きれい・サービスがいい」という認識が生まれ価値を固める。この次が100円メニューの導入だったわけですが、この狙いは客数の増加です。

実は100円メニューをつくるという実質的な値下げであり客数は増加しましたが、(100円メニューを客が注文することで)客単価は下がったようです。だからこそ次の施策が重要で、「えびフィレオ」、価格改定(値上げ)、「メガマック」を投入することで、客単価の増加を狙っています。

売上高=客数×客単価という基本に忠実に従っていますが、特徴的なのはそこに時間軸があることだと思いました。

マクドナルドの戦略は、はじめに客単価を下げてでも客数を増加させること、100円メニューで客数を取り戻した後に付加価値の高い商品を投入することで客単価を増加させる、QSC向上⇒100円メニュー⇒値上げというシーケンスは必然だったと原田氏は語っています。

パズルを1つひとつ組んでいくように、戦略実行のシーケンスを考えるのが経営戦略だというのが同氏の言葉です。

■過去の購買履歴にもとづくマクドナルドの個人クーポン

日経新聞の記事に『マクドナルドが「個人仕様」のクーポン 購買履歴で差』(11年7月13日)というものがありました。

記事によれば、日本マクドナルドは、一人ひとりの顧客の購買特徴に合わせ、割引する新たな電子クーポンの配信を始めるとのこと。携帯電話サイト会員のうち1000万人の購買履歴を分析することで、コーヒーやハンバーガーなど割引商品の内容や送信時間が一律ではない「個人仕様」のクーポンを提供するようです。顧客ごとに割引内容を変えるクーポンというのは珍しい事例です。

例えば個人クーポンはこんな感じです。

  • 一定期間、来店していない顧客には以前よく購入していたハンバーガーを無料などで提供するクーポン
  • 販売中の新製品の購入経験がない顧客には半額のクーポンを配布し試してもらう
  • 週末の昼食時にコーヒーを購入する頻度が高い人には、土曜の朝にコーヒーの割引クーポン

仮に個人クーポンが活性化できれば、客数の増加が見込めます。一定期間来店していない顧客へのクーポンはまさにそれです。過去の購買履歴データから、クーポンという形で行なう「次の提案」。しかも顧客それぞれで異なるのです。

いかに個々人で嗜好の違う消費者に購買履歴からレコメンドが提示できるか、ここが最大のキモであり同時に難しさだと思います。

■あのニュースもシーケンスで考えると見えてくる?

クーポンというからには、半額だったりあるいは無料だったりということで客数の増加が期待できます。

ただ一方で、それだけでは客単価は低下する可能性があるようにも思いました。この状況は、先に書いた100円メニュー⇒付加価値の高い商品投入で値上げ=客単価増、というシーケンスに似ているのではないでしょうか。

マクドナルドの今回の個人クーポンの取り組みはなかなかに興味深いものです。そしてその裏にあるマクドナルドのシーケンス、すなわち次の客単価の増加への施策はどう出てくるか。ちょっと注目しておきたいですね。

それはもしかしたら、このニュースもシーケンスのワンピースなのかもしれません。
マクドナルド/六本木ヒルズに新世代デザインの旗艦店オープン|流通ニュース

マクドナルドのニュースリリースには、六本木店に対して次のように言及されているのですから。
 
マクドナルドでは、お客様から商品やサービスなど常に高いクオリティが要求されるこのエリアにおいても、「100円マック」などのレギュラーメニューはそのままに、これまで以上のお得感(ベストバリュー・フォー・マネー)を感じていただけるよう質の高い商品、サービスを提供してまいります。 
都心型新世代デザイン店舗 旗艦店 「六本木ヒルズ店」をオープン|日本マクドナルドホールディングス ニュースリリース
■最後に

今回取り上げた日経ビジネスの記事内にあった原田氏の言葉で印象的だったものを引用しておきます。

発想は大胆でありたいと思っています。でも実行は慎重に。

何か新しいことを始めようという時には、徹底してデータを集めて検証しながら物事を進めます。だから数字は大好きですよ。無機的に見える数字の羅列には、本当は有機的な意味が隠されていますから。

改革というと、みんなコスト削減から始めるじゃないですか。そんなの誰だってできますよ。コスト削減ほど易しい経営はない。僕はこう言うんです。「コストをカットをするな。もっとお金の使い方の提案を持ってこい」。お金を使ってもっと売る方法を考えろ、ということですね。経営とは、要はお金の使い方を考えることだと私は思っているんです。

大事なのは、本当に顧客が求めているもの、顧客自身ひょっとしたら気づいていないかもしれない真相的なニーズを見抜くビジネス・インサイト、洞察です。

コンシューマー(消費者)の心を引くために大事なのは、いい意味でお客さんの期待を裏切ること。驚かせることです。


※参考情報
日本マクドナルド原田泳幸の経済教室|日経ビジネス
マクドナルドが「個人仕様」のクーポン 購買履歴で差|日本経済新聞(11年7月13日)
マクドナルド/六本木ヒルズに新世代デザインの旗艦店オープン|流通ニュース
都心型新世代デザイン店舗 旗艦店 「六本木ヒルズ店」をオープン|日本マクドナルドホールディングス ニュースリリース



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多田 翼 (書いた人)