2013年も半分が終わりました(あとまだ半分も残っていると思うようにしています)。今年も本を読めていて、数えてみるとだいたい200冊くらいです。
全部を詳細で読んでいるわけではないのですが、その中からおもしろかった本をピックアップしてご紹介します。今回は前編で4冊です。
■働かないアリに意義がある
1冊目は
「働かないアリに意義がある」。
そもそも、なぜ働かないアリが存在するのか?「反応閾値」と呼ばれるメカニズムで、行動を起こすのに必要な刺激量の限界値のこと。反応閾値というラインを超えた刺激が与えられると行動に移せるけど、下回れば反応しないという仕組みです。反応閾値が低いとフットワークが軽く、高いと腰が重い、みたいなイメージです。
おもしろいのは、アリごとに反応閾値が異なるので、同じ仕事に対して反応閾値の低いアリAは反応し行動するけど、別のアリBは反応閾値が高いので同じ仕事なのに働かない(反応しない)。つまり、反応閾値の高くて腰が重いアリが「働かないアリ」。
働かないアリの意義は、バッファーです。常に一定の働かないアリという余力を持っておくため。働きアリの中にも反応閾値の違いという個性があり、働かないアリも「余力」として存在意義がある。多様性を持っておくことでアリの社会はうまくまわしているのです。
働かないアリの考え方は個人のあり方にも参考になります。働かないアリの話からの示唆をあらためて整理すると、
- 働かないという余力/バッファーを持っておく、
- 個性とか多様性が大事
- 短期的には非効率でも長期では合理的
この3つを個人レベルに当てはめてみると、
働かないという余力/バッファーを持っておく:常に目いっぱいの状態よりも、ギアを1つ落としておく。余力を持っておくことで急なことにも対応できる。フルスピードにするのは本当に必要な時。仕事でもプライベートでも。見方を変えれば、自分で自分の限界をつくらないこと。いつでも1つ余裕を持っておく意識。
個性とか多様性が大事:自分は人と違っていてよい、という考え方。個性があることで組織全体に多様性ができてメリットになるのだから。
短期的には非効率でも長期では合理的:今やっていることがこの先に何の役に立つのかわからなくても、後からその経験が活かせることってよくあります。つまらない仕事でも、それをやっていたから今があるというか。同じ経験でも活かせるかどうかは、表面的な知識・スキルではなく、仕組みやメカニズムの理解だったりします。本質理解が重要。幹ができているのでいろんな花が咲かすことができる。
書評エントリーはこちら:
ちゃんと役に立っている「働かないアリ」が教えてくれた3つのこと|思考の整理日記
長谷川 英祐 メディアファクトリー 2010-12-21
■ビッグデータの正体
「ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える」。本書でおもしろかったのは、ビッグデータがもたらす3つのパラダイムシフトでした。
1. 限りなく全てのデータを扱う。n=全数:母集団と標本の話で、ビッグデータの世界では全部のデータが手に入るのだから、標本なんて作らなくてもいいよね、という。さっきの30歳男性の例に当てはめると、1000人からわざわざ全員を推定していたのはビッグデータ時代前の話で、ビッグデータの時代では80万人とかの全員のデータが簡単に手に入るから全員のデータを使うというイメージ。
2. 量さえあれば精度は重要ではない:いかに1000人を偏りなく選ぶための精度云々よりも、どれだけ数多くの人数のデータを集められるか、という話です。とにかく80万人に近いデータを入手できるか。
3. 因果関係ではなく相関関係が重要になる:この論点は本書で最もインパクトがありました。分析において、因果関係を考えるのは基本的なことであり、そのために分析をすると言ってもいいです。ちなみに「相関関係がある」というのは、AとBという2つが同時に起こることで、「因果関係がある」というのは、Aが原因でBが起こることです。
最も大きなパラダイムシフトは3つ目の「因果関係<相関関係」でした。本書で主張されているのは、ビッグデータにおいては因果関係よりも、何と何に相関関係があるかさえわかればよく、その組み合わせを見つけることが重要であるという考え方。これまではAとBというわかりやすい相関しかわからなかったのが、大量のデータをとにかくまわすことで、AとTという一見何の関係もない2つに相関があることを発見できるかどうか。極端に言うと、なぜAとTにどういう因果関係があるかは気にしないというもの。
個人的には、どれだけ示唆に富む相関関係を発見できるかを重視し、因果関係は考えないというのは慣れない話です。因果についてWhyを考え、それを1つ1つ定量的に見ていくのが分析のおもしろさだと思っています。
これがビッグデータというあらゆるものについて大量に、全数でデータが安価/迅速に手に入るようになると、Whyではなく相関というWhatに軸足が移るようになっていくのか。分析という考え方自体も変わっていくのかもしれません。
書評エントリーはこちら:
因果関係よりも相関関係:ビッグデータがもたらすパラダイムシフト|思考の整理日記
ビクター・マイヤー=ショーンベルガー,ケネス・クキエ 講談社 2013-05-21
■大便通
便は自分の健康状態を知らせる体からの「便り」である。そう言うのは
「大便通 知っているようで知らない大腸・便・腸内細菌」の著者である辯野善巳氏。
この本を読むとウンチは自分の食べたもの・腸内の通信簿のようなものだと、あらためて考えることができました。
体からの「便り」としてチェックすべきポイントは、色・臭い・量の3つ。
- 色は、黄色がかった褐色が良い。これは腸内にビフィズス菌が多い証拠。注意が必要なのは黒色の大便
- オナラや大便が臭いのは腸内環境が悪くなっていることを伝えるサイン。ビフィズス菌を多く含んだ大便は顔をしかめるような悪臭はしなくて、やや酸っぱい感じの発酵臭がする。悪玉菌の多い大便は腐敗臭を発する
- 大便は毎日300gくらいが理想的。20センチのバナナ状の大便3本分くらいの量
その他の指摘としては、毎日出すこと。食事をして便として出てくるまでの体内滞在時間は12〜48時間で、3日以上出ないと便秘ということ。がんばって息むことなく出せることも良い大便の条件。
良い便を出すために何ができるのか。ポイントは腸内環境を良くすること。そのためには2つで、善玉菌を増やすことと食物繊維です。
- 色や臭いをよくするには善玉菌を増やすとよい。ヨーグルトは乳酸菌やビフィズス菌をそのまま摂取できるので効率よく腸内環境を改善できる
- 量を増やすには食物繊維が効果的。食物繊維は人間の消化酵素では消化されないため、摂ることで便の量が増える。量が増えると腸を刺激し、排泄するための腸のぜん動運動が引き起こされる。食物繊維には保水性があり、便の形を整えて柔らかくしてくれる働きもある。また、乳酸菌やビフィズス菌の餌となる
毎日のトイレのためにヨーグルトばかりや食物繊維の多いものをひたすら食べ、その他の食事を軽視するという本末転倒です。自分が食べた物が体内でどう使われるかが大事。その上で排出される物、便がつくられる環境(腸内環境)にも関心を持ってみるといいと思います。
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ウンチと健康について真面目に書いてみる|思考の整理日記
■究極の身体
「究極の身体」。身体構造や運動のメカニズムについて独自理論が展開され、わかりやすく書かれています。
究極の身体の定義は「人体の中で眠っている四足動物、あるいは魚類の構造までをも見事に利用しきることで生まれる身体」。
背 景にある考え方は、人間の進化は魚類⇒爬虫類⇒哺乳類⇒人間と経てきており、人間の身体には魚類や四足動物(爬虫類・哺乳類)の構造を受け継いでいる。① 魚類運動=脊椎を使った動作、②四足動物の運動=脊椎の体幹主導動作+4本足主導の動作、の両方を使えるのが本来の人間の身体構造で、それを実現できてい るのが究極の身体。
著者・高岡氏の問題意識は、究極の身体を持っているにもかかわらず、現在の人類の多くはその身体資源を使いきれていないこと。究極の身体を実現するためにどうすればよいかの詳細は本書に譲りますが、印象的だったのは、
- 重心とセンター(軸)。センターとは、身体の重力線とほぼ一致するところを通る身体意識。センター意識が構築されると潜在的に、常時重力線の意識が存在することになる
- 究極の身体に不可欠なのは重心を意識すること。そのために脱力が必要。脱力を立つという動作例でいうと、立つためのギリギリの筋出力で立つこと
- 究極の立ち方は吊り人形のように頭部の糸を持って吊り上げ、そこからゆっくり下ろして足を接地させたような立ち方(緩重垂立)。体重を支えるギリギリのところまで力を抜いたプラプラの状態
身体動作とか身体のメカニズム・構造に興味のある方は、おもしろいオススメの本です。
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書籍「究極の身体」がおもしろい|思考の整理日記