投稿日 2011/04/24

羽生善治の情報検索・取捨選択と梅棹忠夫の情報整理の考え方

将棋棋士である羽生善治氏は著書「大局観  自分と闘って負けない心」(角川oneテーマ21)の中で情報検索について、何かを調べようとする時にはGoogleなどの検索サイトを利用することが多いと言っています。その一方で、羽生さんは次のように書いています。「検索をかけながら、検索の世界からは逃げて行く」(p.121)

■羽生善治の情報検索と取捨選択への考え方

羽生さんは検索については非常に有効・有能なツールであると認めた上で、検索に依存してしまうと、自分の可能性を小さくしてしまうのではないかとしています。というのも、情報を取得するとともに不要なものを排除していかないと、ユニークなこと・変わったことを考えたり試したりする機会が減ってしまうことを危惧しているからです。検索と同時に、自分の頭で懸命に考えて情報の選択をすることも大事であり、このプロセスから得られる発見や気づきは検索では得られないような気がする、そんなことが書かれています。これが、冒頭で引用した検索をかけつつ、検索から逃げるという言葉の意味するところです。

羽生さんは情報について、選択肢が多ければ多いほど色々な可能性があるものの、しかしその分、迷いや選択後の後悔も多くなると言っています。ほぼ無限に存在する膨大な情報とどう向き合っていけばいいか、そのための1つが取捨選択です。自分にとって不要なものを捨てる一方で、必要な部分を残しておくことです。

そうは言っても、情報に当たった時点で本当にその情報が現時点で、あるいは将来的に必要なものかを判断するのは簡単ではありません。羽生さんでさえも、捨ててしまった棋譜(互いの対局者が行った手を順番に記入した将棋の記録)があとから必要になり、あらためて見直すことがよくあるそうで、それで良いのだと言っています。「捨ててしまった時点ではまだ自分に見る目がなく、後で必要になり理解が深まって、自分にとって本当に必要な知識となる。拾い上げた情報を基本にして新たに創造をし、情報の発信側に回れる」。個人的にこの本で印象に残っている考え方です。

■故梅棹忠夫の情報整理への考え方

思うに、後から必要になった情報をすぐに取り出せるようにしておくことが重要であり、また自分の課題です。情報整理についてのこの考え方は、書籍「知的生産の技術」(岩波新書)で以下のように書かれていたのを読んだのがきっかけでした。
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ものごとがよく整理されているとうは、みた目にはともかく、必要なものが必要なときにすぐとりだせるようになっている、ということだとおもう。(p.81)
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情報や知識はあくまで手段であり、例えば自分の意思決定や行動などの目的ありきです。目的によって、同じ情報でも重宝することもあれば、その逆に不要な場合もあります。ただ、いずれにしてもいかに必要な情報を入手するか、整理しておくか、必要な時に取り出せるようにしておくか、そして、自分の知識として活用するか。これらへの追及には完成形はないのだと思っています。自分の今のやり方もベストだとは思っておらず、インターネットやクラウドサービス、スマートフォンなどの情報端末の進化はこれからも続き、であるが故にその時々で対処の仕方も変わります。

最後に、前述の「知的生産の技術」で著者である故梅棹忠夫氏が述べていたことをそのまま引用しておきます。ちなみにこの本の初版は40年以上も前の1969年です。
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くりかえしていうが、今日は情報の時代である。社会としても、この情報の洪水にどう対処するかということについて、さまざまな対策がかんがえられつつある。個人としても、どのようなことが必要なのか、時代とともにくりかえし検討してみることが必要であろう。(p.15)
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羽生 善治
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投稿日 2011/04/23

これからのテレビは多様な視聴スタイルになってほしい

テレビ番組を見るのはどこで、いつ見ることが多いでしょうか?回答はいろいろありそうですが、最も多いのはテレビが設置してあるリビングなどで、その番組が放送している時間に見ることだと思います。放送中にテレビを見られない場合は、ハードディスクなどに録画しておき後から見ることもあるかもしれません。あるいは家のテレビではなく、電車の中で携帯電話のワンセグから見る場合も考えられます。

■時間シフトと場所シフト

録画で放送時間より後から見ることを「時間シフト」、ワンセグなどにより屋外も含めた見たい場所で見ることを「場所シフト」とすると、冒頭の視聴の仕方は次のように位置づけができます。


ワンセグ放送を活用したユニークな商品をソフィアデジタル株式会社が提供しています。アレックス6というチューナーレコーダーで、ワンセグの6チャンネルを24時間自動で録画されます。1テラバイトのハードディスクがあれば2ヵ月くらいの番組データが保存できるとのこと。視聴はLAN経由でPCから、あるいは専用のアプリを使えばiPhoneやiPadからもマルチデバイスで視聴できます(ただし家庭内)。全て録画されているので、放送後翌日に友達やツイッター上で話題になった番組をその後で見るなど、「全て録画する・録画したものから探して視聴する」という新しい視聴スタイルです。

時間シフトと場所シフトで言えば、家庭内とはいえこれまでの視聴方法とはやや異なるポジションです。


■SPIDERのユーザーインターフェイスとソーシャル視聴

番組を全部撮るということを同じようにできるのが株式会社PTPのSPIDERというビデオレコーダーです。1週間分(大容量オプションでは1ヶ月分)のテレビを全て自動録画し、その中からあらゆる番組シーンの検索が可能です。法人向けのSPIDER PROと家庭向けのSPIDER ZEROがあり、地デジ対応のPROは2011年5月23日、ZEROは2011年末に発売されるようです。

実物は見たことないのですが、同社HPの動画や、有吉社長×佐々木俊尚氏の対談記事を見ると、SPIDERでは使いやすさを徹底的に追求しているようです。動作している動画や、とりわけ非常にシンプルなリモコンが特徴です。

出所:SPIDER ZEROの機能紹介ページより引用

もう一つSPIDERで興味深いのが、ソーシャル視聴を目指している点です。SPIDERの中に「みんなの感想」という機能があり、気になるシーンにコメントを投稿することができるとのこと。この投稿はSPIDERユーザーの誰もが見ることができ、ユーザーの「おもしろい!」がみんなで共有されます。(個人的にはニコニコ動画などのようにツイッター、あるいはフェイスブックとの連携を目指した方がいいようにも思いますが)

■ソーシャル視聴の効果

ソーシャル視聴というと何か新しいような響きがありますが、やっていることはみんなでわいわい同じ番組を見ることだと思っています。従来は家族や友人同士で集まって見ることだったのが、TwitterやSNSを使うことでソーシャル視聴と言われる所以です。

個人的にソーシャル視聴のおもしろさを感じたのは、昨年のサッカーW杯でした。日本の活躍ももちろんですが、ゴールシーンではツイッターのタイムライン上に流れるコメントを見ると、同じ場所にはいないもののテレビ画面とiPhoneやPC画面の両方を見ることで、あたかもみんなで一緒に見ているような感覚になったのを覚えています。

テレビのソーシャル視聴の効果は実際の数字にも表れているようで、例えば2010年2月にアメリカで開催されたアメリカンフットボールの第44回スーパーボウルでは、放送された中継の視聴者数が1億5000万人で例年は1億人程度であることから大幅増加したとのこと。この要因の1つはソーシャル視聴にあるようです(参考:「スマートテレビで何が変わるか」(山崎秀夫 翔泳社) p.86)

では、なぜソーシャル視聴で視聴者数が増えるのでしょうか。あくまで推測ですが、友人・知人がTV番組について盛り上がっているのをSNSなどで見つけ、いつもは見ないような人まで呼び込んだ結果なのではと思っています。

■これからのテレビの視聴スタイル

このように番組を見つけるきっかけがSNS上などでの話題性がある一方で、今後はインターネットとテレビが融合するスマートテレビでは、これまで以上に番組を「検索する」することも増えてきそうです。先ほどのSPIDERでは、リモコンの十字キーだけで芸能人などの名前、番組名、商品名、企業名から簡単に検索できるようになっています。これ以外にも、「昨日の午前8時20分」のようなあいまいな検索方法や、Wikipediaから探すWikipedia検索、CMソングの曲名からCMの検索も可能のようです。

テレビCMと言えば、録画ではCMをスキップする人が9割もいるという調査結果がありますが、一方で話題となっているCMをあえて見たいというニーズもあるはずです。あるいは30秒や15秒のCMしか見たことないけど、60秒のバージョンが見たいというニーズもありそうです。

いかに番組、CMというコンテンツと出会えるか。そしてそのコンテンツを楽しめるか。このアプローチが、例えば、ひとまず全部撮って後から探すというアレックス6やSPIDER、ソーシャル視聴、これまでのテレビとは違うスマートテレビなのだと思います。

スマートテレビが本格的に普及してゆけば、あらゆる番組がクラウド化され、「見たい時にいつでもどこでも見る」という視聴スタイルになるはずです。アレックス6やSPIDERも完全なクラウドではないものの、考え方の本質はクラウド化と同じ方向性を持っていると思います。

今年の7月24日正午にテレビのアナログ放送が終了し、地上デジタル放送に切り替わります。とは言え、現時点での地デジ化のメリットは単に「アナログよりも画面がきれいになった」程度や番組表が表示されるくらいにすぎません。放送電波をデジタル信号にすることで、ネットとの相性もよくなり、今後はテレビとネットの融合はきっと起こってくると思います。

テレビのクラウド化によって時間シフトと場所シフトの自由度が上がり、見たい時にいつでもどこでも見られるようになること。ユーザーインターフェイスに優れた検索やソーシャル視聴により、おもしろいコンテンツが見られること。これからのテレビにはこんな視聴スタイルを期待しています。


※参考情報

アレックス6
SPIDER PRO
SPIDER ZERO
2011年、SPIDERが変えるテレビの「未来」と「可能性」 有吉昌康(株式会社PTP社長) 第1回|現代ビジネス
「ソーシャル」こそが再びテレビを甦らせる 佐々木俊尚×有吉昌康(株式会社PTP社長) 第2回|現代ビジネス
もう一度、「戦後」から始めれば、新しい時代の本田宗一郎や盛田昭夫が生まれてくる 佐々木俊尚×有吉昌康(株式会社PTP社長) 第3回|現代ビジネス
「録画視聴ではCM飛ばす」9割―首都圏調査|JCASTテレビウォッチ


スマートテレビで何が変わるか
山崎 秀夫
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投稿日 2011/04/17

「失敗学のすすめ」から考える福島第一原発事故

失敗に対してマイナスに考えるのではなく、失敗のプラス面にも目を向けるべきと主張する「失敗学のすすめ」(畑村洋太郎 講談社文庫)という本には次のような記述があります。

■失敗原因の階層性

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ある工場で作業中に死傷者を出す事故が発生したとします。いつもなら起きない事故がその日たまたま起きてしまいました。そのとき直接の原因は、事故を起こした人の誤判断ないし機械を作動しているときの不注意など個人の責任にされがちです。

しかし、その背景には、作業を一緒に進めるグループの中で、危険を察知したときにただちに行うべき安全対策を忙しさのあまりしていなかったというのは、よくあることです。あるいは、熟練していない者に機械動作を任せるなどの、組織運営上の問題の存在も考えられます。

さらにさかのぼれば、そういう環境づくりを進めていた企業経営不良の問題にいきつきます。見かけの利益にこだわるあまりにコスト削減ばかりに目がいき、サービス残業などの形で従業員に負担を強いていたことも事故の背景として考えられます。
(p.63-64から引用)
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本書では、この内容も含め、失敗原因の階層性として以下のような図解も示されています。ピラミッドの底辺は個人の責任によるものですが、上にある失敗原因ほど社会性が強くなり、かつ失敗の規模や影響は大きくなります。

出所:「失敗学のすすめ」(畑村洋太郎 講談社文庫)から引用

■失敗学の考え方

著者によれば失敗には、「よい失敗」と「悪い失敗」があるとしています。上のピラミッド図では頂点の「未知への遭遇」が切り離されていますが、よい失敗は未知への遭遇の中に含まれると説きます。なぜ「よい失敗」かと言うと、失敗により未知を知ることができた、つまり失敗により新しい経験を得ることで、技術の進歩などの功績に結びつき次に活かせるからです。「失敗は成功の母」と言われる所以です。

これは畑村氏が提唱する失敗学の考え方と一致し、基本的な考え方として、「大切なのは失敗しないことではなく、失敗に正しく向き合って次に生かすこと」。失敗学の趣旨は、1.失敗の特性を理解し不必要な失敗を繰り返さない、2.失敗からその人を成長させる新たな知識を学ぶこと、なのです。

■「想定外」を考えてみる

繰り返しになりますが、「よい失敗」とは未知への遭遇に含まれ、細心の注意を払って対処しようとしても防ぎようのない失敗だと著者は言います。

ここで考えてみたいのが、未知への遭遇という点です。3.11の東日本大震災以後、「想定外」という言葉が頻繁に聞かれました。M9.0という地震のエネルギー規模、津波の高さ・破壊力、そして、一連の原子力発電事故のニュースにおいて。特に原発では、「想定外の津波」により冷却システムがやられ燃料棒が炉心溶融を起こした、そんなふうな説明がされました。結果、絶対安心だと言われた五重の壁が破られてしまい、放射線や放射能物質が大気、地中、あるいは海水に拡がりました。

個人的に思うのが、想定外の津波というのが本当に「未知への遭遇」なのかということです。想定外という言葉は何を想定していなかったかと言えば、「事象の発生があり得ることは知っているが、対策の中に全く想定いなかった」ということだと思います。すなわち、Aという事象が起これば、その対策としてBを想定するわけですが、津波によりそもそもの冷却システムが使えなくなることは想定していなかった、そう言えるのではないでしょうか。

■今回の原発事故原因は想定外なのか

実際に「地震や津波によって冷却ポンプが止まった場合の対策が不十分である」という指摘は、5年前の2006年に共産党・吉井議員がしています。それに対して当時の安倍晋三首相は、「そんなことにはならないように気をつけてるから、起こった場合など考えていない」というような回答をしています。
世界最悪の原発事故を起こした自民党の総理大臣|きっこのブログ
巨大地震の発生に伴う安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに関する質問主意書(吉井英勝)|質問本文情報
衆議院議員吉井英勝君提出巨大地震の発生に伴う安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに関する質問に対する答弁書(内閣総理大臣 安倍晋三)|答弁本文情報

あるいは、原発の設計側である日立や東芝が、冷却装置をもっと高い所に作った方がいいと提案していたとのことですが、結局は東電との互いの話し合いにより「大丈夫だろう」ということになったと、当時の関係者が話しています。
原発設計責任者の生の声を聞いた|田原総一朗 公式ブログ

■事故発生後の対応

ここまでは、設計段階や地震・津波発生前の対策についてでしたが、事故発生直後の政府や東電の対応も、今後は問われるてくるでしょう。報道なので必ずしも全てが真実ではないかもしれませんが、政府と東電それぞれについて、初動での対応のまずさが指摘されています。詳細は割愛しますが、報道の一部を挙げると以下のようなものがありました。
原発事故直後、日本政府が米の支援申し入れ断る|YOMIURI ONLINE
「東電のバカ野郎が!」官邸緊迫の7日間 貫けなかった首相の「勘」 またも政治主導取り違え|msn産経ニュース
世界が震撼!原発ショック 悠長な初動が呼んだ危機的事態 国主導で進む東電解体への序章|週刊ダイヤモンド
保安院 炉心溶融 震災当日に予測|東京新聞(Tokyo Web)

■真の失敗原因の解明は責務

今回の福島第一原発の事故により、海外の報道でもFUKUSHIMAという言葉が頻発するようになりました。東電の今後、日本の原発のあり方等だけではなく、世界各国でのエネルギー政策にも波紋を投げかけたのは間違いないでしょう。すでに原発を持っているような先進国だけではなく、今後のエネルギー需要が拡大するであろう新興国も含め。

今後も原発を推進する、または脱原発を進めていくとしても、そのための議論には、今回の福島第一原発で何が起こったのかという検証は必要不可欠だと思います。その時には、上記で挙げたような設計思想やリスクへの対策、発生後の政府・東電の対応など原因究明をし事実を公表すべきです。

書籍「失敗学のすすめ」では、失敗には知識を共有することで次の失敗を予防したり、社会的損害を最小限に抑えることができる有効な活用法がある、と書かれています。ただし、これには前提があります。共有する失敗情報が正確であること、そのためには真の失敗原因の解明が行われることなのです。


※参考情報

エンジニアから見た原発|Life is beautiful
世界最悪の原発事故を起こした自民党の総理大臣|きっこのブログ
巨大地震の発生に伴う安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに関する質問主意書(吉井英勝)|質問本文情報
衆議院議員吉井英勝君提出巨大地震の発生に伴う安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに関する質問に対する答弁書(内閣総理大臣 安倍晋三)|答弁本文情報
原発設計責任者の生の声を聞いた|田原総一朗 公式ブログ

原発事故直後、日本政府が米の支援申し入れ断る|YOMIURI ONLINE
「東電のバカ野郎が!」官邸緊迫の7日間 貫けなかった首相の「勘」 またも政治主導取り違え|msn産経ニュース
世界が震撼!原発ショック 悠長な初動が呼んだ危機的事態 国主導で進む東電解体への序章|週刊ダイヤモンド
保安院 炉心溶融 震災当日に予測|東京新聞(Tokyo Web)

ネーミングでの風評被害|六本木で働いていた元社長のアメブロ
原発の名前は変えたらどうだろ?|Chikirinの日記

書籍 「失敗学のすすめ」|思考の整理日記


失敗学のすすめ (講談社文庫)
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投稿日 2011/04/16

マキアヴェッリとドラッカーのリーダー論

先日、お酒の席で上司がこんなことを言っていました。

「自分が社会人になった頃は、課長⇒部長と上がるほど仕事はハンコを押すだけとか、もっと楽になると思っていた。そんな仕事ができるのを思い描いていた」。もちろん半分冗談での話ですが、現実は昇進するほど、責任が重くなっている状況を踏まえての話でした。

■ 戦時におけるリーダー

これを聞いて思い出したのが、「失敗の本質―日本軍の組織論的研究」(中公文庫)という本に次のように書かれていたことです。

仕事はきまったことのくりかえし、長老は頭の上に載せておく帽子代わりでよい、というのは平和時代のことである。戦時には、トップこそ豊富な経験と知恵の上に想像力と独創性を働かせ、頑健な身体と健全なバランス感覚で、誤りのない意思決定をしなければならなかった。(p.377 より)

現在の日本では戦争中というわけではありません。業界内での企業間の戦い、あるいは既存の業界の枠を超えた新しい競争が頻繁に起こる今の時代では、この意味において「戦争中」と言えるのかもしれません。

であるならば、上記で「失敗の本質」で引用した「戦時にはトップこそ」という指摘は、違和感なく入ってきます。

■ マキアヴェッリの「君主論」に見るリーダー像

ところで、「君主とはかくあるべし」というリーダーが歩むべき道を示したものに「君主論」があります。

著者はニコロ・マキアヴェッリで、16世紀のイタリアで書かれたものです。16世紀のイタリアには統一国はなくいくつもの都市国家群が領土の拡大を争っていた乱世の時代でした。そんな時代にフィレンツェで官僚として働いたマキアウェッリは、各国の君主との交渉や出会いを通じて、宗教や道徳などの倫理から切り離した現実主義的な政治理論を展開しています。

マキアヴェッリは君主論の中で、「リーダーは慕われるよりも恐れられるほうを選べ」と言っています。

この理由として、人間は利己的で偽善的なものであり、従順であっても利益がなくなれば反逆することがあるため、故に君主を恐れている人々はそのようなことはないという、現実的な論理からなのです。

マキアヴェッリがこうした考えを抱くようになったのは、やはり時代背景が大きかったのでしょう。前述のように当時のイタリアは混乱の時代であり、それを一人の官僚として肌で感じたこと・実務からの経験から、リーダーは優しいだけでは成り立たないという思いからです。

君主論は全部で26の章から成り立っており、第21章では、

尊敬を得るためにはどのように行動したらよいか」、という主題に対して次のように書かれています。「偉大な事業をなし、比類のない模範を自ら示すことほど君主に対する尊敬をもたらすものはない。」(「君主論」(講談社学術文庫) p.172から引用)

つまりは、リーダーは結果を出すこと、そして人々の模範となることで尊敬を得られるとしています。

■ ドラッカーのリーダー論

このマキアヴェッリの考えと同じようなことをドラッカーが言っていました。著書「The Essential Drucker」において、以下のような言及をしています。

All the effective leaders I have encountered – both those I worked with and those I merely watched – knew four simple things: a leader is someone who has followers; popularity is not leadership, results are; leaders are highly visible, they set examples; leadership is not rank, privilege, titles, or money, it is responsibility.

私が出会った印象的なリーダーは、(リーダーシップについて) 4つのシンプルなことを知っていた。1. リーダーのまわりには従う者がいる。2. リーダーシップにとって大事なことは人気ではなく成果である。3. リーダーは目立つ存在であって、他の人たちの模範となるべきものである。4. リーダーシップとは地位、特権、称号、富などではなく責任である。

リーダーには成果・結果が求められ、かつ人々の模範でなければならない。また、リーダーシップには責任が伴う。これがドラッカーが見てきたリーダーたちの共通点だったのでしょう。

■ 最後に

今回はリーダーについて少し整理してみましたが、一方で世の中には様々なリーダーがいることもまた事実です。個人的には、今の会社に入社以来、毎年のように上司が変わってきたこともあり、それぞれの強みは違いました。

あるいは歴史を見ても、戦国時代後期においては、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康という3人のリーダーがいましたが、3人の性格は全く異なるものだったとされ、あの有名なホトトギスへの対応に象徴されています。

だから思うのが、リーダーシップをとるときには人の真似をするだけでなく、自分の性格や強みも加味したリーダー像を築くことが大事なのではということです。

もちろん、これは言うが易しですが、その時に心に留めておきたいのが、上記で引用した、「失敗の本質」で書かれたリーダーの行動、マキアヴェッリやドラッカーが求めたリーダー像です。


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投稿日 2011/04/09

思いを乗せたゴールとカズダンス


Free Image on Pixabay


2011年3月29日、東日本大震災への復興支援の一環として、日本代表 × J リーグ選抜のチャリティマッチが開催されました。


思いを乗せたゴール


日本代表の遠藤選手のフリーキック、岡崎選手のゴールもよかったですが、なんといってもドラマは後半36分のゴールでしょう。カズこと三浦知良選手のゴールです。





日経新聞のカズのコラム


日本経済新聞のスポーツ面に、三浦選手は 「サッカー人として」 というコラムを連載しています。このコラムは毎回楽しみにしている記事の1つです (スポーツ面では他に野球評論家の豊田泰光氏の 「チェンジアップ」 もおもしろいです) 。
投稿日 2011/04/03

Googleは「+1」でソーシャル検索を実現できるのか?

グーグルがアメリカ時間の3月30日に、グーグル検索結果のページで「+1」(プラスワン)ボタンの表示を開始したと発表しました。
+1’s: the right recommendations right when you want them—in your search results | Official Google Blog

+1の表示イメージ

出所:Official Google Blogから引用

今回のエントリーでは、グーグルの「+1」の仕組みと、自分は+1をどう思っているかを中心に書いています。

■「+1」の仕組み

ユーザーが気に入ったページや良いと思った広告を「+1」ボタンで推薦し、友人に対してより良い検索結果、検索連動広告(AdWords)を提供できるというものです。+1の使用イメージは「Google Inside AdWords」ブログでの掲載記事にあった説明イメージがわかりやすいです。(引用:The +1 button & AdWords | Google Inside AdWords

1.グーグルの検索結果に表示される「+1」ボタン


 2.「+1」クリック後 (青くなる)


3.友人の検索結果 (友人Brianが「+1」をクリックしたことがわかる)


ボタンのイメージとしてはFacebookの「いいね!」ボタン、mixiの「mixiチェック」と同じような印象です。グーグルは「+1」ボタンにより、これまでの独自アルゴリズムに基づく検索結果表示とは異なった、自分の友人のおすすめが反映されるというソーシャル検索をリリースしたのです。

今のところ(11年4月3日時点)ではアメリカのみのリリースですが、+1を使用するためにはグーグルアカウントでログインをした状態で検索を行う必要があります。現時点でグーグルが認識するユーザーの友人というのは、グーグルアカウントに関連付けられている友人・知人のようで、GmailあるいはGoogle Talkのチャットリストに登録されている人々、Googleコンタクトに登録されている人々、Google ReaderとGoogle Buzzでフォローしている人々に限定されているとのこと。(参考:Googleが「+1」ボタン発表、Facebookの「いいね!」に似たソーシャル検索|INTERNET Watch

それでは、グーグルの+1は、ソーシャル検索として普及するのでしょうか。個人的には様子見か、やや少し懐疑的に見ています。以下、その理由を3つ書いています。

■理由1:ソーシャルグラフ

ソーシャル検索で重要な要素は自分が持っているソーシャルグラフ、つまり、(ネット上での)人間関係です。既存のグーグルの検索アルゴリズムであれば、誰が検索をしても返ってくる結果は変わりません。自分が知りたい情報が見つかるかは、検索するキーワードの選び方がポイントになります(もちろん、これだけではないですが)。一方のソーシャル検索では、検索キーワードに加え、自分の友人がどういったサイトをおすすめしているかによって、検索結果が異なります。

現在のところ、+1に反映されるソーシャルグラフはGoogleアカウントに限定されています。個人的には、SNSやツイッターのほうが充実しており、今のGoogleアカウントに紐づくソーシャルグラフでは少し物足りないように感じます。ただ、この点はグーグルも取り組んでいくとしており、公式ブログではツイッターなどとも連携を目指すと言っています。ツイッターのソーシャルグラフがグーグルの検索結果に加われば、ソーシャル検索の精度は高まるかもしれません。

■理由2:ユーザーインターフェイス

2つ目の理由は、ユーザーが「+1」ボタンをクリックする時の使いやすさ(ユーザーインターフェイス)に関するものです。+1を自分が使うイメージを具体的に想像してみると、(1)グーグルで何かを検索する ⇒(2)知りたかった情報が掲載されたサイトが見つかる ⇒(3)そのサイトからグーグル検索結果に戻って「+1」ボタンをクリック、となります。

フェイスブックの「いいね!」ボタン(あるいはmixiチェック)と比較すると違いが明らかになりますが、「いいね!」はニュースサイトやHP上に設置されているのに対し、+1は現時点ではグーグルの検索結果ページに設置してあります。故に、上記(3)のように、一回戻って「+1」をクリックする必要があり、これは自分であれば、一回戻るだけとはいえちょっと面倒な流れです。

もっとも、同じくグーグル公式ブログによれば、グーグル検索結果ページ以外にも「+1」ボタンを展開していく姿勢を出しているので、「+1」ボタン設置のブラグインが提供されるのは時間の問題だとは思います。ただ気になるのは、今でも多くのページですでに「つぶやく」「いいね!」「はてブ」・・・などのソーシャル系のボタンが複数設置されていて、さらに「+1」も増えることになる点です。

■理由3:「+1」のユーザーメリット

3つ目の理由は、+1をクリックするユーザーのメリットに関してです。3つの理由のうち、この3つ目が最も気になる点です。では、+1とフェイスブックの「いいね!」とで比較してみます。

「いいね!」ボタンを押すと、フェイスブック上の友人のニュースフィードや自分のウォールに『○○さんがリンクについて「いいね!」と言っています。』と表示されます。自分の「いいね!」情報が友人にリアルタイムで共有ができます。

翻ってグーグルの「+1」ボタン。+1をクリックすると、その結果が反映されるのはグーグルの検索結果ページです。逆に言えば、自分の友人がそのページに含まれるキーワードをグーグルで検索するまでは、自分の「+1」の情報は共有できないのです。

フェイスブックの「いいね!」やツイッターのRTと、グーグルの+1では、そもそもの設計思想が違うように思います。つまり、いいね!やRTは友人同士で共有するためのツール、+1は検索精度を向上させる・検索連動型広告の品質を高めるためのツールです。

フェイスブックの「いいね!」、あるいはツイッターのRTもそうですが、なぜわざわざ自分がこの手間を1つ行うかというと、自分が共感したモノ・コトを簡単に発信して共有したい気持ちからだと思います。これがインセンティブ。しかし、グーグルの「+1」では、共有されるのは友達がグーグルで検索をしたタイミングに限定されるという条件が付きます。なので、今の時点での+1には、「いいね!」やRTほどのユーザーメリットが直観的にはないような気がしました。(長い目で見れば、多くの人が+1を使用すればグーグルの検索精度は全体的に向上するユーザーメリットはあるのですが)

■最強はGoogle+Facebook?

検索にソーシャル性を組み合わせるのは、グーグルにとっては一大プロジェクトだと思います。グーグルの検索結果はアルゴリズムによる機械的なものでしたが、ここにソーシャルというこれまでとは異なる概念が入り込むからです。グーグルという巨人がその歩む方向を変えつつあるようにも感じます。その意味では今後が楽しみです。

自分が信頼のおける人からの情報は有益だと感じてしまうことからも、ソーシャル検索は今後の有望な領域だと思います。実際に、すでにマイクロソフトとフェイスブックはタッグを組み、マイクロソフトの検索サービスBingにフェイスブックの「いいね!」情報を反映させる取り組みを進めています。個人的には、この記事が指摘するように、Google+Facebookと組んでくれるのが、ユーザー側からするとありがたいのですが。
ブラウザー拡張機能「+Like」があればGoogle +1は不要?|Tech Crunch

いずれにせよ、グーグルの+1についてはもう少し様子を見るとともに、今後も注目しておきたいです。


※参考情報

「+1」(プラスワン)|Google
+1’s: the right recommendations right when you want them—in your search results | Official Google Blog
The +1 button & AdWords | Google Inside AdWords
Googleが「+1」ボタン発表、Facebookの「いいね!」に似たソーシャル検索|INTERNET Watch
ブラウザー拡張機能「+Like」があればGoogle +1は不要?|Tech Crunch


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信中。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。