2010/07/31

今さら電子書籍を考える

米アマゾンは7月28日、キンドルの新機種を発表しました。同社のベゾスCEOによると、ダウンロードと読書をさらに容易にすることで、アップルのiPadとの差別化を図るという考えを示しています。興味深いのは、ツイッターやFacebookとの連携機能が加わり電子書籍にもソーシャルの流れが見えてきたことです。また、日本語を含む複数の言語が新たに追加されたようです。

今回は、少し今さら感もありますが電子書籍について考えたことを記事にしてみます。


■電子書籍の所感

このパラグラフの前提として、現在の自分の電子書籍端末は、スマートフォン(iPhone)とPCだけです。本当はiPadなどのタブレットPCやキンドルなどの電子書籍専用端末から読んだ上で述べたほうがいいのですが、今の電子書籍に対する印象は概ね以下の通りです。

(1) 速読しづらい
本を読むということだけに特化すれば、紙の本が圧倒的に優れていると思います。ケータイ小説などは別ですが、ある程度の文量になると一定時間内に読める量では紙の本に分があります。また、ページをめくるという行為が紙のほうが繰りやすいことも関係していそうです。(紙の本は三次元で読書できるのに対して、電子書籍は二次元です)

(2) 紙のほうが頭に入りやすい(理解しやすい)
これは(1)とも関わってきますが、電子書籍で読んでいると内容が頭に入ってきにくい時があると感じます。電子書籍を読むということに慣れていないだけだといいのですが、本の内容にもよりますが理解度でも紙と電子書籍で差があるように思います。

(3) 電子書籍は読むより保存に向いている
(1)(2)も合わせて考えると、電子書籍の強みは「保存」と「検索」です。紙という物質で存在するのに対して、電子書籍はデータで保存できます。故に電子書籍端末に紙では持ち歩けないほどの量を入れておくことができ、データであることで検索との相性も良い。例えば、後からあらためて読みたい箇所を探すのは、紙の本では苦労することが多い一方で、電子書籍なら検索で一発で探せるはずです。


■日経電子版モデル

さて、今年に入り日経新聞が新たに電子版を創刊しました。電子版を読むには、電子版のみを購読するか紙+電子版をセット(Wプラン)で購買するかのどちらかです。

この紙+電子版をセットで売るというビジネスモデルは書籍にもあってもいいかもしれません。というのは、上記の電子書籍の3つの所感を踏まえると、紙と電子書籍は自分の中で役割が異なるので、であれば両方買うのはありだと思うからです。役割が異なる点を少し具体的にイメージしてみると以下のようになります。
 ・ 紙の書籍:基本読むのは紙のほうで
 ・ 電子書籍:旅行など紙を持ち運びづらい場合に紙の代用として。保存用

ちなみに日経Wプランは紙の新聞購読料金に追加1000円で紙と電子版の両方なので、だいたい25%プラスでお金を支払うイメージです。日経電子版は紙の新聞にはない情報が含まれていることを考えると、例えば本の定価のプラス20%くらいの値段で紙の本+電子書籍が買えるのではれば個人的に結構魅力です。あるいは、紙の本を先に買って内容がよければ後から電子書籍を買えば、電子形態で保存しておき、紙の本は売ってもよさそうです。

(もっとも、自分で本を「自炊」するという手間をかければいいという気もしますが)


■マトリクスから考える本との関わり

ここまで考えてきた電子書籍の役割を考慮し、位置づけを整理してみました(図1)。



横軸は自分にとってのストックかフローかどうか。フローは返却したり売ったりと、常に手元にはない状況を指しています。縦軸は上質か手軽かで分けていますが、上質は自分にとって思い入れのあるものであったり、貴重な資料など。今のところ、こんな具合で本との関係ができればなと思います。

こうしてあらためて見てみると、自分が読む本という形態が電子書籍だけになるという状況は当分はなさそうな気もします。技術が発達し電子書籍端末で紙並の読み方が可能になったり、電子書籍でしかできない体験(ソーシャル機能による本を通じた今までにない「つながり」)ができるようにならない限りは。


2010/07/27

リバース・イノベーション

■カギはリバース・イノベーション

「これからの時代は先進国中心の研究体制では勝ち抜けない」。日経ビジネス2010.7.19の「賢人の警鐘」では、ゼネラル・エレクトリックCEO(最高経営責任者)のジェフリー・イメルトが抱く危機感から始まります。

では、どうするのか。カギは「リバース・イノベーション」だと言います。リバースとは反転、つまり、「新興国で生まれたイノベーションを、先進国などの世界に輸出すること」を指しているようです。ジェフリー・イメルトは、このリバース・イノベーションに力を入れていると言います。


■リバース・イノベーションに注力する理由と具体例

なぜでしょうか。その理由を記事では次のように説明しています。新興国で求められるのは機能がシンプルで低価格な商品であることが多く、必ずしも最先端で高機能な商品ではない。そこで、シンプル化に加え、部品の現地調達比率を高めるなど、低コスト化を実現している。この低価格商品のニーズは先進国でも高まっている。ここに、新興国で生まれたイノベーションを先進国に輸出するというリバース・イノベーションに注力する理由があるのです。

この記事では具体例として、医療コストを下げる「ヘルシーマジネーション」という医療機器が取り上げられています。もう一つ、リバース・イノベーションの事例として当てはまりそうなのは、インド政府が7月22日(現地時間)に発表した、1台わずか35ドル(約3000円)というタブレットPC(試作品)です。ちなみにiPadの日本での販売価格は、最も安いモデルでも約5万円です。


■四段階の進化

日経ビジネスのこの記事でおもしろかったのは、リバース・イノベーションも含めた「研究開発の四段階の進化」です。以下、そのまま引用してみます。

(1) グローバリゼーション
(2) グローカリゼーション
(3) ローカル・イノベーション
(4) リバース・イノベーション

(1) グローバリゼーション
ある先進国で生まれた商品やサービスをそのまま世界市場に持っていく

(2) グローカリゼーション
海外の各市場に合わせて、商品やサービスを変更する

(3) ローカル・イノベーション
海外に研究開発機能を置き、現地向けに商品を開発

(4) リバース・イノベーション
新興国で開発した商品やサービスを、先進国を含む世界各国に持ち込む


■先進国は巻き返せるか

この記事を読んで少し思ったのは、仮にリバース・イノベーションが一般的になった場合、先進国における開発の役割はどうなってしまうのかということです。もちろん、身の回りのあらゆる商品が新興国からの輸入商品となることはないかと思いますが、上記の四段階の次が、先進国からのイノベーションであることも期待したくなります。そして、日本企業は今後もイノベーションを起こせるのかも気になります。


※参考情報

インドの「35ドルタブレット」は可能か|WIRED VISION
http://wiredvision.jp/news/201007/2010072622.html

iPad販売価格一覧表|ソフトバンクモバイル株式会社
http://mb.softbank.jp/mb/ipad/price_plan/chart/


2010/07/25

「情報」と「情報入手媒体」を考える

前回の記事では、「新聞消滅大国アメリカ」という本から新聞やジャーナリズムについて取り上げました。今回の記事でも同じテーマをもう少し考えてみたいと思います。


■情報入手媒体という意味では新聞衰退は仕方ない

私は新聞は宅配でとっていますが、なぜ自分は新聞を買っているのかを考えてみると、(当然ですが)紙面に書いてある情報を手に入れるのが目的です。朝刊で言うと前の日の夜中までくらいの情報をその日の朝に得るためです。ただ、新聞以外にもテレビやネットを利用し情報を入手しているので、必ずしも新聞でなければいけないことはないのが正直なところです。

「新聞消滅大国アメリカ」に書かれいるように、新聞業界は縮小傾向にありこの流れはある程度は仕方ないのではないでしょうか。ただし、それは新聞という情報媒体についてであり、情報提供者である新聞記者や編集者がいなくなっていいというわけではないと思っています。

その理由は、新聞から得られる情報(ニュース記事等)は自分一人ではとても入手しきれない貴重な情報だからです。もちろん、ネット上には無料でニュース記事が多くありますが、それも元をたどると新聞記事がネットでも転用されたものだったりします。


■ジャーナリズムに期待すること

ここで、このニュースなどの情報についてあらためて考えてみると、大きくは2つに分けることができると思っています。すなわち、「事実」としての情報とその事実に基づく「分析や見解・意見」です。また、記者が情報を得る方法も例えば、「人に聞く」という取材と、「調べる」という2つを考慮すると、新聞やネットに掲載されている情報は下図のように整理できそうです(図1)。


マトリクスの各情報が今後も私たちが入手できること、これが報道やジャーナリズムにこれからも期待したいことです。


■情報入手媒体の整理から

ここまで、新聞等で掲載される情報について見てきました。情報について大事な点だと思うことにその伝達手段があります。受け手の側から言うと情報を何から得るかということ。ぱっと思うつく自分の情報入手する媒体を整理すると、以下のようなマトリクスで分けられました(図2)。なお、人から直接聞く情報や店頭などの現場からの情報は含めていません。


横軸は、ストック情報かフローかどうか。フローというのは、基本的には情報を蓄積せずに流れていくものです(もちろん、新聞や雑誌の切り抜き、ツイッターのアーカイブ、テレビの録画でストックすることはできます)。縦軸は静的な情報か動的なものかです。静的な情報の例としては文字などのテキスト情報が画像、動的な情報例は動画や音声情報も入れていいと思います。

こうして見ると、「新聞消滅大国アメリカ」の題材でもあった(紙の)新聞は、情報を入手する多くの手段の1つにすぎないことがわかります。となると、私たちにとってはこれら複数の選択肢がある状況においては、他の情報媒体と差別化された「強み」を持たなければいずれ消滅する可能性もあるのではないでしょうか。


■ずっと続く情報入手媒体の検討

私にとって紙の新聞は通勤時の情報入手媒体としては、読む・持ち運ぶという点で現時点で優れていると思っています。また、値段的にも、一日当たり120-150円ほどで、費用対効果もそれなりにあります。ただし、将来的も同じかと言われると、個人的にはやや悲観的な立場なのかもしれません。現在は値段的には決して高くはないと思っていますが、これからの技術革新による全く新しい仕組みができれば、もっと安いコストで情報が入手できることもあり得ます。そうなると、150円程度とはいえ無理に紙媒体の新聞を維持すると、無駄なコストが発生してしまいます。

「知的生産の技術」(梅棹忠夫著 岩波出版)という本には、情報にどう対処するかについて書かれた示唆に富む言葉があります。
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くりかえしていうが、今日は情報の時代である。社会としても、この情報の洪水にどう対処するかということについて、さまざまな対策がかんがえられつつある。個人としても、どのようなことが必要なのか、時代とともにくりかえし検討してみることが必要であろう。(p.15より引用)
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ちなみにこの本は、1969年に出版されたており当時はPCが全くPersonalな存在ではなかった時代ですが、この指摘は現在においても通じることだと思います。(紙の)新聞が自分の情報を入手する手段にとして必要なものなのかどうかを検討するのは、もしかしたらそう遠くはない将来なのかもしれません。


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新聞消滅大国アメリカ (幻冬舎新書)
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2010/07/24

書籍「新聞消滅大国アメリカ」

新聞消滅大国アメリカ (幻冬舎新書)「新聞消滅大国アメリカ」(鈴木伸元著 幻冬舎新書)という本を読みました。気になった部分を中心に、自分なりに整理してみます。


■新聞消滅大国アメリカ

アメリカでは新聞が想像を絶する勢いで消滅しているそうです。「新聞消滅大国アメリカ」はこのような書き出しで始まります。具体的をそのまま紹介すると、「新聞消滅大国」とした状況が見えてきます。
  • 04-08年の5年間で、廃刊になった有料日刊紙は49紙(アメリカ新聞協会)
  • 同5年で発行部数は5460万部から4860万部に減少。10%超の600万部の落ち込み
  • 09年の1年間で同水準の46紙が廃刊(調査機関ペーパーカッツ)
  • NYタイムズ・メディアグループは、06年からの3年で全社員の3割の約1400人を削減
  • ワシントン・ポストは全ての支局を閉鎖

上記のような状況について、オバマ大統領は、「新聞のない政府、活力あるメディアが存在しない政府は、アメリカの選択すべき道ではない」と語りました。大統領がこのように発言するほど、アメリカの新聞業界は危機的な状況にあるようです。


■日本の状況は

「新聞消滅大国アメリカ」ではその大部分をアメリカの新聞やメディアについて書かれていますが、最終章では日本の新聞についても言及されています。

まず挙げているポイントは、アメリカと日本では新聞社の収益モデルが異なるという点です。具体的には、アメリカは収入の8割を広告から得ているのに対して、日本は3割のようです。日本の場合は残りの7割は新聞の販売収入、つまり、新聞代を読者が支払うことで成り立っています。2つ目のポイントとして、戸別宅配率の違いを挙げています。アメリカの74%に対して日本は95%(それぞれ日米の新聞社協会の発表による)。これらの数字を見ると、日本の新聞社の収入は安定しているようにも見えます。

しかし、新聞協会の「新聞研究」による新聞社41社(サンプリングにより抽出)の営業利益を見ると、
  • 06年度:955億円 (対前年比 -4.4%)
  • 07年度:672億円 (対前年比 -29.6%)
  • 08年度: 74億円  (対前年比 -89%)「新聞消滅大国アメリカ」p.183から引用
という減益傾向が見られます。

また、電通が発表した「日本の広告」によれば、09年のメディアの日本の広告費および対前年比は以下のようになっています。
  • テレビ:1兆7139億円 (対前年比 -10.2%)
  • インターネット:7069億円 (対前年比+1.2%)
  • 新聞:6739億円 (対前年比-18.6%)
  • 雑誌:3034億円 (対前年比-25.6%)

広告収入はアメリカの8割に比べ日本は3割とはいえ、09年に新聞はついにインターネットに抜かれた状況です。


■新聞がなくなったら何が起こるのか

では、もし新聞がなくなってしまうとどうなるのでしょうか。本書では、新聞廃刊に関するある調査結果が引用されています。プリンストン大学のサム・シェルホファーによる、07年の新聞が廃刊となったある地方選挙についての統計学的な分析です。それによると、以下のような記述があります。
  • 選挙での投票者の数が軒並み減少した
  • これは新聞廃刊による情報減少で、有権者の政治への関心低下が考えられる
  • 立候補する候補者の数も減少
  • 競争が起きにくくなり、現職に有利な状況が生まれる

地元の新聞が完全に消滅したケンタッキー州コビントンのある住民は、次のように嘆いています。「とにかく地元のニュースが入ってこなくなった。」


■新しいメディアのかたち

一方で、「新聞消滅大国アメリカ」では新聞に取って代わりつつあるメディアについても紹介しています。以下、4つほど書いておきます。

グーグル・ニュースやヤフー・ニュースでは、様々なニュースの見出しや本文が無料で閲覧できます。アメリカン・オンライン(AOL)は新聞社をリストラされた記者をリクルートし、ニュースの発信を行っています。グーグルやヤフーは自らが取材をしているわけではないのに対し、AOLは自ら取材し情報を提供しています。

ニュース記事などの情報に対して「課金」を行う動きもあります。日本では日経新聞電子版が代表的ですが、アメリカではウォールストリートジャーナルは1996年のサービス開始当初から有料で配信し、課金制の成功事例とされています。

もう一つ、アメリカで議論になっているものとして、新聞社をNPO(非営利団体)とし政府による救済を行うというものがあるそうです。併せて、税制上の優遇措置を与えることや新聞社への寄付についても税制上の優遇を与えることについても議論になっているとのこと。しかし、新聞社のNPO化については反対意見が多いのが現状のようです。理由は政府による支援を受けることで言論の自由が妨げられるのではないか、あるいは、そもそも新聞社を救う必要があるのかというものです。寄付についても同様で、寄付の出資先に対して時には批判的な記事も書くことになりますが、果たして書けるのかどうかという懸念もあります。

アメリカのジャーナリズムの方向性の1つに調査報道があります。これは、長期間に及び取材を重ねることで事実関係を積み上げ、最終的には社会の隠れた問題や政治問題を暴くという取材スタイルです。新聞が衰退する一方で、注目を集めていると本書では書かれていました。


■ジャーナリズムと新聞

本書で印象的だったのは、ジャーナリストの立花隆氏による、新聞が担うべきジャーナリズムの定義についてです。

「もし新聞がただひとつだけの機能しか果たさないものであると仮定した場合、新聞は社会において正義が行われているかどうかということをモニターする、絶えず監視する役目をつとめなければならないということになるでしょう。(中略) 現代社会では、ジャーナリズムが正義の夜警役をつとめなければならないわけです」 (p.190から引用)

個人的には、報道機関が正しく情報を報道し、それが社会における監視役となることは期待したいですが、ただ一方で、その役目は必ずしも新聞でなければいけないとは思わないです。これまでは最も手軽であった新聞が、インターネットによりその立場が難しくなっていると思います。アメリカで起こっている新聞業界の衰退や相次いで廃刊する状況と同じことが日本でも起こるかもしれません。新聞が他の情報媒体との「強み」を再構築する時が来ているのではないでしょうか。


※参考情報

09年「日本の広告費」 (電通)
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2010/pdf/2010020-0222.pdf


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2010/07/19

書籍 「トレードオフ」

トレードオフ―上質をとるか、手軽をとるか「愛される商品」となるか、「必要とされる商品」になるか。

成功したければこのどちらかを選択しなければならず、両方を追い求めることは幻想にすぎない。また、決して中途半端ではいけない。

書籍「トレードオフ」(ケビン・メイニー著 プレジデント社)には、このような主張がされています。

この本は、「愛される商品:上質」、「必要とされる商品:手軽」と位置づけ、「上質」か「手軽」のどちらをとるか(トレードオフ)が大事であると説明されています。

■ 上質とは

上質の例として、音楽のコンサートが考えられます。

好きなアーティストのコンサートに行くことで、アーティストの演奏だけではなく、照明や音響効果、観客との一体感、あるいはコンサートに行ったことを知りあいに自慢できることも含め、これらの経験が音楽における「上質」であるとこの本では説明されています。

このように上質であることの要素に「経験」が挙げられますが、上質は以下の式に分解できるとしています。

上質 = 経験 + オーラ + 個性

上質な商品が醸し出す「オーラ」や、自分に合うか・自分らしさを引き立ててくれるかかどうかという「個性」です。これらがそろっていることで上質であると説明されています。

著者は、上質なものを換言すると「愛される商品」かどうかだと言います。

■ 手軽とは

上質とトレードオフにあるのが「手軽」です。

手軽とは、望むものの手に入りやすさ・使いやすさ、つまり、簡単に手に入るという意味としています。音楽の例では、上質はコンサートでしたが、手軽は iTunes でのダウンロードとなります。手軽を要因分解すると、次のようになります。

手軽 = 入手しやすさ + 安さ

上質の式と見比べることで、手軽な商品やサービスには上質の要素である個性やオーラが入り込む余地はほとんどないことがわかります。逆も同様で、すなわち、両者はトレードオフの関係にあり、上質と手軽を天秤にかける必要があることを意味します。

著者は、手軽なものを換言すると「必要とされる商品」かどうかだと言います。

■ トレードオフ

本書には、iPhone、キンドル、スターバックス、COACH、格安航空会社、ATM など、数多くの事例が取り上げられています。中には期待された商品であったにもかかわらず、すぐに廃れてしまったものもあります。著者は、上質と手軽のどちらか一方を極めることが非常に難しいことであると主張します。

なぜ、それほどまでに難しいのか。その理由は2つあります。

(1)上質と手軽の定義は時間の経過とともに変わる
理由の1つ目として、上質・手軽ともにあくまで相対的なものだからです。上質や手軽を引き上げるのは、テクノロジーやイノベーションです。新しい商品やサービスが従来の市場を壊してまったく新しい市場を創造し、上質さと手軽さをめぐる人々の選択を一変させる場合があるのです。

(2)上質か手軽かは企業が自ら判断できない
もう1つの理由は、上質か手軽かの判断はあくまで消費者がするという点です。さらに言えば、同じ商品やサービスでもそれを上質と感じるか、手軽なものだと思うかは人それぞれだということです。ここで示唆されることは、上質と手軽はセグメントごとに考えなくてはならない点です。

■ 個人にあてはめる

本書の最終章は「あなた自身の強み」です。すなわち、上質か手軽かの概念を自分自身の持ち味や強みの考え方にも適用できると書かれています。著者曰く「世の中で活躍著しい人々は、上質または手軽のどちらかをきわめているものだ」。

注意しなければいけないのは、個人の場合でも上記の上質/手軽を極めることが難しい理由が当てはまることです。(1)上質/手軽は時間とともに変わる、(2)上質/手軽の判断は自分でできない。個人的には、(1)に留意したいと思いますし、故に企業や個人に関係なく、ライバルに追い抜かれないためには、成長が欠かせないと言えそうです。


トレードオフ―上質をとるか、手軽をとるか
ケビン・メイニー(著) ジム・コリンズ(序文) 内田和成(解説)
プレジデント社
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2010/07/14

ソフトバンク孫社長の「300年ビジョン」から考えたこと

少し前の話になりますが、6月25日にソフトバンクの孫正義社長による「ソフトバンク新30年ビジョン発表会」が実施されました。

発表会はユーストリームでも中継され、多数のブログでも関連記事がエントリーされています。発表内容は、孫さん自身が「僕の人生の中で、おそらく今日が一番大切なスピーチ」「30年に一度の大ぼら」と発言したこともあり、なかなかおもしろかったです。今回の記事では、発表内容の気になった部分や考えたことを書いてみます。



■「新30年ビジョン」の概要

発表の目的は、この先30年のビジョンを示すことで、「ソフトバンクをどんな会社にしたいのか」「どういう思いで事業を行っていきたいのか」の発信および共有だと思います。

アジェンダはソフトバンクの、①理念(何のために・どんなことのために事業を行っているのか)、②ビジョン(この30年先の人々のライフスタイル展望と、それに対する取り組み)、③戦略(成し遂げたいことをどのように行うか)でした。



■おもしろかった300年ビジョン

「新30年ビジョン」の発表の中に、この先の300年に対するビジョンがありました。個人的にもおもしろかったなと思う部分です。ちなみに、発表会の主題は「30年ビジョン」なのに、なぜ300年ビジョンも取り上げているかというと、孫さん曰く「30年というのは300年の中での1つのステップに過ぎない」という位置づけで、まずは300年という大きな方向性を定めてから30年を考えるという趣旨だからです。発表資料スライドには、「迷ったときほど遠くを見よ」とも書かれていました。

300年ビジョンの中で興味深かったのは、次の項目です。
・ コンピューターが人間の脳を超える
・ 脳型コンピューターについて
・ その他の技術進歩 (クローン、人体間通信(テレパシー)など)

以下、それぞれについて簡単に記しておきます。


○コンピューターが人間の脳を超える

コンピューターでの計算には二進法が用いられています。コンピューターがトランジスタ化され、このトランジスタがくっつく・離れるという原理です。一方、脳細胞にあるシナプスでは、シナプスがくっつく・離れるというこれも二進法と捉えることができます。つまり、コンピューターと脳細胞は二進法という同じメカニズムを持っているのです。

我々人間の大脳には約300億個のシナプスがあると言われています。コンピューターのワンチップの中に入っているトランジスタの数は増加し続けており、いつかはこの300億という数字を超えます。ソフトバンクの試算では、それが2018年に起こると言います。ここでは、2018年という時期は大きな意味はなく、いずれトランジスタの数が人間の脳が持つ300億のシナプスの数を超えるということが重要だと思います。つまり、コンピューターのワンチップが、人間の脳細胞の能力を超える能力を持つ可能性があるのです。



○脳型コンピューターについて

孫さんは脳の定義を、「データとアルゴリズムを自動的に獲得するシステム」としました。ここでいうデータとアルゴリズムはそれぞれ、知識と知恵を指しています。そして、人間の脳の働きとしては、知識(データ)、知恵(アルゴリズム)、感情(ゴール)の3つがあると説明しました。孫さんは、300年以内にこの脳の働きをするコンピューター、つまり脳型コンピューターが出現すると言います。


○その他の技術進歩 (クローン、人体間通信(テレパシー)など)

300年ビジョンで紹介された技術にはクローンがありました。これ以外にも、テレパシーのような人体間通信についても言及しています。脳と通信するチップを持ち、そのチップが他人の持つチップと無線で通信する仕組みです。すなわち、チップが媒体となり脳と脳が結ばれるようになります。



■300年ビジョンから考えたこと

目の前の仕事など普段とは全く異なる、ちょっと大きな視点で考えることは結構楽しかったりします。


○人間を超える脳型コンピューターと人類の存在意義

知識、知恵、感情の3つのうち、人間が現在のコンピューターに勝っているのは知恵、感情の部分だと思っています。知識、すなわち保存できるデータ量や、計算速度はもはやコンピューターには絶対に勝てません。しかし、知識と知識を紐づけたり、情報の体系化、仮説立案、新たな発想・アイデアの考案など、この領域はコンピューターに対する人間の脳の強みと言っていいものです。

しかし、仮に孫さんの言うように、コンピューターが知識、知恵、感情を持ち、その能力で人間を超えた時、果たして、人間の強みは何になるのでしょうか?

人間は地球上ではあらゆる生物の頂点に立っている存在です。高度に発達した知能とそれに基づく科学技術によるところが大きいと思います。しかし、「脳型コンピューター > 人間の脳」ということになれば、これまでの人間が頂点にいるという図式が変わってしまうのではないでしょうか(脳型コンピューターを持つロボットが人間などと同様の「生物」として扱っていいかどうかの議論はさておき)。

もしこのような状況になったとすると、これこそが「人類史上最大のパラダイムシフト」だと思わずにはいられません。少し大げさかもしれませんが、これまで当たり前のように君臨していた頂点を譲る時、人類の存在意義があらためて問われるような気がします。


○クローンとテレポーテーション

技術的には例えば髪の毛一本から人間の複製ができてしまうと言います。孫さんがクローンについて触れた時にふと思ったのが、クローン技術を応用すれば人や動物の移動手段に使えそうだなということです。例えば、A地点からB地点に移動したい場合に、
・ A地点で採取したDNA情報をB地点へデータ送信
・ そのDNAデータからB地点でクローンを瞬時に作製
・ クローンの作製が確認できれば、A地点のクローン元を消去する
という感じで、ほぼ瞬間移動の完了です。要はPCの中でやっているファイルとかの「カット(切り取り)&ペースト」を、クローン技術を使って現実世界で行なうイメージです。

もちろん、現在各国の政府が人間のクローンだけは禁止していることからも、それ以上にこの話は全くの非現実的な考えです。何かの不備で移動に失敗すれば怖すぎる話ですし、PC内でファイルが壊れるのとは訳が違います(でもたぶん、DNA情報が残っているので、クローンでの復元ができそうですが)。



■最後に

科学技術はともすればもろ刃の剣だと思います。人や動物を殺す道具にもなり、地球を破壊してしまう力も持ちます。一方で、現在の我々には解決できないであろう大地震などの自然災害、未知のウイルス、テロ、隕石、など、科学技術はこれらのものを解決する可能性も持ちえます。孫さんの言う「情報革命」により、もっと便利な世の中になるかもしれません。

変化の激しい世の中ですが、時々は上記の30年・300年のような大きい視点で考える機会を持ちたいなと思います。



※参考資料

ソフトバンク孫正義社長による「新30年ビジョン」書き起こし Part1
http://kokumaijp.blog70.fc2.com/blog-entry-87.html

ソフトバンク孫正義社長による「新30年ビジョン」書き起こし Part2
http://kokumaijp.blog70.fc2.com/blog-entry-88.html

「新30年ビジョン」プレゼン資料 (PDF)
http://webcast.softbank.co.jp/ja/press/20100625/pdf/next_30-year_vision.pdf

動画&プレゼン資料 (ソフトバンクHP)
http://webcast.softbank.co.jp/ja/press/20100625/index.html

USTREAMでの動画アーカイブ
http://www.ustream.tv/recorded/7882795


2010/07/11

イースター島に見る文明崩壊


イースター島 Anakena にて撮影 (2009年11月)


文明崩壊を招く5つの要因


書籍 文明崩壊 - 滅亡と存続の命運を分けるもの によると、文明の崩壊を招く要因は5つあるとされています。

  • 環境被害
  • 気候変動
  • 近隣の敵対集団
  • 友好的な取引相手 (近隣諸国からの支援減少など)
  • 環境問題への社会の対応

本書の主題は、文明繁栄による環境負荷がやがては崩壊につながることです。



多数の事例の1つに、イースター島を扱っています。イースター島は上記の5つの要因のうち、 「環境被害」 と 「環境問題への社会の対応」 が当てはまる事例で取り上げられています。

今回のエントリーは、イースター島での文明崩壊について書いています。なお、記事内の画像は昨年2009年にイースター島に訪れた時の現地の写真です。

2010/07/03

音楽配信サービスの新潮流

音楽配信サービスはiTuensを中心とするダウンロード型が主流でしたが、ストリーミング型やソーシャル型など新しい動きが見られます。今回の記事では、そのへんの状況を整理してみました。



■ダウンロード型音楽サービス

米Wall Street Journalが10年6月21日(現地時間)に報じた記事によると、Googleが今年末にも音楽ダウンロードサービスの提供に向けて準備しているとのことです。ただ、記事でもvague(漠然とした)とあるように、どのレコードレーベルと契約がなされるかやサービス内容はまだ明らかになってはいません。関係者の話では、Webだけではなくアンドロイド端末へのサービス提供を目指しているそうです。この動きは、音楽サービスにおいてもiTunesをもつアップルとの競争が激しくなることを予感させます。

iTunesの仕組みを簡単に整理してみると、次のようになります。
・ 音楽をiTunes StoreからダウンロードしたりCDから自分のPCへ取り込む
・ 聞きたい曲をPC上のiTunesからiPodやiPhoneに同期させる



■ストリーミング型音楽サービス

このように、iTunesに代表される音楽ダウンロードサービスでは、音楽を自分のPC内などでデータとして所有しています。一方で、ダウンロード型とは発想が180度異なる音楽サービスに、ストリーミング型音楽配信というものがあります。このストリーミング型の特徴は以下のようになります。
・ 音楽はデータセンター上に存在する
・ 利用者はデータセンターにアクセスし音楽を再生させて聴く

iTunesなどと決定的に異なるのは、PC内に音楽を保存することはなしに音楽を聴く点です。いわゆるクラウドコンピューティングの仕組みを使った音楽配信サービスです。

ストリーミング型の音楽配信サービスの例として、ヨーロッパにはSpotify(スポティファイ)があります。サービス開始の2008年からわずか1年半で利用者は800万人に達したようです。日経ビジネスオンラインによると、スポティファイはへはユニバーサル・ミュージック、ソニー・ミュージックエンタテインメント、EMI、ワーナーミュージックの4大レコード会社などが楽曲提供に応じており、最新のヒット曲からクラシックまで、800万曲を超える楽曲が提供されているようです。

スポティファイのサイトを見てみると、利用できる機器はパソコンの他にも、ネット接続が可能なスマートフォンであれば、ノキア、サムスン電子、ブラックベリー、iPhoneなど主要な機種にも対応していることが確認できます。

料金プランは数曲ごとに広告が挿入される無料サービス以外にも、広告挿入のない月額4.99ポンドや月額9.99ポンドの有料サービスもあります。ちなみに月額9.99ポンドを支払い「プレミアム会員」にならないとスマートフォンでの利用ができないようです。また、プレミアム会員限定のサービスとして、音質も向上するほか、地下鉄等のネットが接続できないオフライン環境においても音楽が聴くことができるようです。

ただ残念なのは、現在スポティファイを使用できるのはイギリス、スウェーデン、フランス、スペイン、フィンランド、ノルウェーだけなようで、日本では利用できません。



■ソーシャル型音楽サービス

このスポティファイですが、今年の4月27日のニュースリリースに、友人と音楽を通してつながりを強化するためのソーシャル機能(Spotify Music Profile)を追加するバージョンアップの実施を発表しています。ニュースリリースによると、Facebookと連携することにより、友人と音楽を共有できるようになるようです。これは、友人たちの間で流行っている曲を知ったり、自分の好きな曲を紹介できたりと、音楽というコンテンツを通じて情報交換を強化できる仕組みだと思います。

もう一つ、ソーシャル音楽サービスとしておもしろそうなのは、Skype(スカイプ)創業者が新たに立ち上げた「Rdio」です。ストリーミングを軸とした音楽配信サービスで、PCのほか、iPhone、ブラックベリーなどにも対応しています。注目したいのは、こちらもソーシャル機能を持っていることです。Rdioでは自分のコレクション、作成したプレイリスト、最近聴いた曲、頻繁に聴く曲やアルバムが全て他のメンバーに公開できるとともに、他のメンバーを、ツイッターのようにフォローする機能があります。



■課題とか

ストリーミング型の音楽配信、音楽のソーシャル機能など、これからも気になるサービスですが、一方で普及するためには課題もあると思います。

まずは著作権です。ストリーミング型の配信というのはもはや音楽を「所有」せずに、クラウド上の音楽を聴くサービスです。ソーシャル機能が追加されても同様で、友人同士で音楽を共有する時にもこれまでであれば音楽をコピーしていましたが、そのコピーももはや不要です。従来の著作権の枠を超えたもので、著作権の考え方が変わる可能性があるかもしれません。

ボトルネックになりそうなのは通信インフラです。スポティファイのような音楽ストリーミングで気になるのは、聴いている音楽の音がとぎれてしまわないかということです。これはダウンロード型にはない弱みです。音がとぎれないためにも、通信環境はWi-Fiが必須ではないでしょうか。私は現在iPhoneを使っていますが、家ではWi-Fi、外では3GSでの通信となっています。理想は屋外でもWi-Fiを使いたいのですが、使える場所が本当に少ないです。スタバでも使え、ミニストップでも使えるようになるようですが、まだまだ少なく仕方なく3GSを使っている状況です。

音楽というのは個人の趣向がよく表れる要素だと思います。自分のプレイリストを公開することで同じような音楽への好みをもつ人たちとつながることができます。これって、一人一人が音楽の聴き手であると同時に自分の好きな音楽を配信するDJのような存在でもあり、今までになかった音楽の発見や楽しみが広がる気がします。



※参考情報

Google Plans Music Service Tied to Search Engine (Wall Street Journal)
http://online.wsj.com/article/SB10001424052748704895204575321560516305040.html

欧州発! ビジネス最前線 “iチューンズ殺し”の衝撃 (日経ビジネスオンライン)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20100603/214766/

Spotify (スポティファイ)
http://www.spotify.com/

スポティファイのニュースリリース (ソーシャル機能追加)
http://www.spotify.com/int/about/press/spotify-launches-next-generation-music-platform/


2010/07/01

ローカリズムのグローバル化


■まとめ

今回の記事のまとめです。

・ 企業のグローバル化には3段階ある
・ 中国での賃上げ労働争議と海外の人材登用
・ ローカリズムのグローバル化とは



■3段階の企業のグローバル化

NTTドコモの「iモード」を立ち上げた一人でもある夏野剛氏は、著書「夏野流 脱ガラパゴスの思考法」(ソフトバンククリエイティブ)において、企業のグローバル化には次のように3段階あるとしています。

(1)国内製造輸出型
*グローバルマーケットはあくまで売り先の市場としか考えていない
*経営体制や企業哲学などはグローバル化していない場合がほとんど

(2)製造拠点のグローバル化
*人件費などの製造コストの低減のために工場を海外に移す
*日本国内のやり方、哲学を海外に移転しようとする

(3)グローバル企業化
*一部本社機能も必要に応じて海外に移すことも厭わない
*経営体制や企業哲学は世界で通用する、世界中の従業員を動かす独自性が要求される



■中国での賃上げをめぐる労働争議

ここ最近気になる出来事として、中国で賃上げをめぐる労働争議やストが相次いでいるニュースをよく目にします。中国の消費者物価指数(CPI)が上昇する一方で、賃金が据え置かれたままの状況では、相対的には減収しているようにも感じられ労働者の不満が労働争議につながるというのもわかる気がします。

ただ、日経新聞の10年6月27日の朝刊国際面の記事では、「一連の労働争議の根本的な問題は労組。労組のあり方を変えない限り、スト問題は解決しない」(北京の日系企業幹部)と報じています。というのも、工場に労組があったとしても、共産党や企業経営者寄りで従業員の賃上げ交渉の受け皿になっていないためだそうです。この記事では、「”労働争議が中国進出リスク”と言われるようになれば、長い目で見ればマイナス」であると懸念しています。



■海外の人材登用

そんな中、コマツが2012年までに、中国にある主要子会社16社の経営トップ全員を中国人にする方針を決めたようです(日経10年6月29日朝刊)。コマツ以外にも、海外の人材を積極に登用している例として、トヨタ自動車、伊藤忠商事、資生堂、花王などが取り上げられていました。

日本企業では人事異動の一環として日本人が数年間、現地法人のトップや幹部を務める例が多いようですが、現地市場に精通した人材を積極登用して権限を委譲し、経営の意思決定を速めるのがコマツの狙いのようです。記事では、「中国で相次ぐ日系工場でのストライキの背景には現場の社員との対話不足も指摘され、経営層の現地化を求める声がある。現地生え抜きの人材が要職につけば社員の意欲向上にもつながる」と期待しています。



■ローカリズムのグローバル化

フジサンケイビジネスアイの「論風」に、グローバル企業のマネジメントについてのある記事が掲載されました。投稿者である日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)会長の田下憲雄氏によると、中国市場に進出する日本企業の重要課題として以下のポイントを挙げています。
・ 「マネジメントの現地化」と、それを可能にする人材の確保と育成
・ そのための仕組みの構築と、それをサポートする日本人人材の育成

同氏の言う 「マネジメントの現地化」とは、経営にかかわる重要な意思決定をローカルの経営者と社員に任せ、投資回収の責任を委ねること。すなわち、様々なリスクに対して迅速かつ的確な判断を行いながら、事業を創造することができるのはローカル人材だと認識し、そうした人材の確保・育成に取り組むことであると説明されています。

従来の日本企業の課題は、海外で活躍できる日本人を確保・育成することだと言われていましたが、このように中国そしてアジアの現地人材をグローバル人材として育成することも必要で、そのための日本人人材の育成も課題になってきそうです。この状況について田下氏は、「ビジネスを本当に成功させることができるのは、ローカリズムとローカル人材をグローバル化することに成功したときではないか」という言葉で表現しています。



■最後に

冒頭で企業のグローバル化を3段階で見た時に、少しずつですが、「(2)製造拠点のグローバル化」から「(3)グローバル企業化」に変わってきていることを感じます。世界の情報がこれだけ瞬時に伝わる状況の中、今後は日本人だけで現地法人を運営することがリスクになってきそうです。

そうなると、販売やマーケティングにおいても日本国内の考え方だけではなく、現地の事情や国民性に合わせた展開を考える必要があるのかもしれません。



※参考情報

【論風】インテージ社長・田下憲雄 グローバル化とマネジメントの現地化
http://www.sankeibiz.jp/business/news/100312/bsg1003120501001-n1.htm


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多田 翼 (書いた人)


外資系 IT 会社にて 「シニア マーケティングリサーチ マネージャー」 (LinkedIn) 。

1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身。学生時代は京都。家族4人で東京23区内に在住、2人の子どもの父親。気分転換は毎朝1時間のランニング。

書いている内容は、所属組織や会社の正式見解ではなく個人の見解です。