投稿日 2012/12/30

「MAKERS」書評:Web世界で起こった革命がモノづくりでも起こる未来は明るいのか?

Web で起こったことがモノの世界でも起きる。それが21世紀の産業革命である。

こう主張するのは、かつてロングテールやフリーミアムの概念を提唱したクリス・アンダーソン氏です。「MAKERS―21世紀の産業革命が始まる」という本の主題です。

■ Web の本質

そもそも、Web の世界で起こったこととは何だったのでしょうか。最近のエントリーでも触れたように、ウェブの本質は「個の情報発信」「双方向性(ネットワーク)」です。

重宝しているGunosyから考えるネットの本質と課題|思考の整理日記



ウェブ以前、あるいは普及前は情報発信をすること自体が今ほど手軽ではありませんでした。

それが、クラウドによるサーバーコスト低下、通信速度の向上、コンピューターやスマホ等の高性能かつ(一般ユーザーでも手に入る)安価なデバイスの普及で、ウェブが当たり前になり、個人レベルでの情報発信も容易になりました。これが1つ目の個の情報発信の背景です。

もう1つ、ウェブの世界で起こったことで大きかったのが、双方向性が実現したことです。つまりネットワークの構築です。

情報発信と合わせて捉えると、情報を発信して終わりではなく、双方向で情報のやり取りが可能になり、情報やアイデアはシェアされ、またたく間に拡散していきます。結果、ウェブ以降の世界は、情報量が爆発的に増えたのです。

■ Web で起こったことがモノの世界でも起きる

本書「MAKERS」の主題は、ウェブで起こったことがモノの世界でも起きることです。ここまで見た2点から考えると、モノの世界でも

  • 個人によるモノづくり
  • アイデア/設計/プロダクトの双方向性

が当てはまることになります。

個人によるモノづくり:本書では 3D プリンタ・3D スキャナ・レーザーカッター等のツールが紹介されています。従来は企業などの特定のプレイヤーでしか使われていなかったのが、今後はコストダウンやサイズのコンパクト化により個人レベルでも普及していきます。生産手段を個人が所有するようになる。プリンタで紙を印刷するようにモノをつくる、欲しいものは自分でつくってしまう、という状況です。

アイデア / 設計 / プロダクトの双方向性:ウェブの世界で情報がシェア・拡散していくように、モノの世界でもそれは起こります。すでにあるウェブに、モノの情報(アイデアや設計情報など)が載って双方向にやりとりされます。ウェブではソフトウェアのオープンソースの文化があるように、モノの設計情報やモノ自体がオープンソースとなって公開、シェアされます。

■ モノのロングテール、Web をベースにしたモノづくりのマネタイズ

個人によるモノづくりが普及していくと、ウェブの世界でも見られたロングテールがモノの世界でも起こるようになるとクリス・アンダーソンは言います。本書「MAKERS」から引用すると、
新しい時代とは大ヒット作がなくなる時代ではなく、大ヒット作による独占が終わる時代なのだ。

(中略)

ただ、「より多く」なるというだけなのだ。より多くの人が、より多くの場所で、より多くの小さなニッチに注目し、より多くのイノベーションを起こす。そんな新製品-目の肥えた消費者のための数千個単位で作られるニッチな商品-は、集合として工業経済を根本から変える。

(中略)

もの作りの世界を再形成することになるはずだ。

一方、著者の見方で興味深かったのが、新しいメーカーズ(もの作りプレイヤー)は、ウェブのフリーの恩恵をベースにモノでは収益を上げているという事例でした。

ウェブがなければ、新しいモノの発想やアイデアがあっても、それをつくって実現化させるのにハードルがありました。もしくは作ったとしても作っただけという「発明家」で終わっていました。しかし、今はウェブを活用すれば「起業家」になれると言います。

ウェブのフリーミアムを活用し、モノではマネタイズができるのでしょうか?

MAKERS を読んだ今の意見としては、モノの世界でもウェブ同様にマネタイズできて個人がモノ作りで食っていけるのは一握りではないかと思います。

■ モノづくり世界の「セミプロ vs プロ」

もう1つ思ったのが、モノの世界でもセミプロが増えっていった時に、セミプロ対プロはどんな競争の構図になるのかでした。

最近読んだ、こちらのエントリーで言われていることがモノの世界でも同じなのでは、という論点です。

[IT一般] セミプロに駆逐されるプロという構図|Nothing ventured, nothing gained.

この記事で書かれている内容は、

  • ネットの普及などにより、多くの人が情報発信するようになった。その中には今までは埋もれていた人(セミプロ)の知識や経験が発信され、支持されるようになる
  • しかし、アマチュアやセミプロの市場への参入というのは必ずしも良いことばかりでは無い気がする
  • なぜなら、その市場で今まで食べていたプロからするとコンテンツ流通価格の低下が進み、良質なコンテンツを提供するプロがいなくなるという事態に発展することも考えられるから

という懸念です。

もちろん、フェアな競争でプロとはいえセミプロに駆逐され、結果として市場が良質なものになるのであればよいと思います。しかし、プロが質の高いものを提供するモチベーションを阻害するような状況であれば、果たして大量のセミプロが存在する環境が本当に良いのでしょうか。考えさせられる問いです。

モノの世界でも、ウェブで起こったことが起こるとすると、セミプロ対プロの構図はできあがるはずです。もの作りのプロである企業が提案するプロダクトよりも、セミプロが自分でつくってしまうモノのほうが特定のニーズを持つ人には刺さることも十分考えられます。「そうそう、こんなのが欲しかった」と。

部分的には作り手と受け手のニーズが一致しウィンウィンですが、長期的に見れば大量のセミプロの市場参入によりプロが駆逐されるのでしょうか?それは本当に社会全体で見ると良いことなのでしょうか?まさにさきほどのウェブでの指摘と同じ構図です。

実際のところどうなるかはわからないし、そもそもまだ「モノの世界で大量のセミプロがマネタイズできていて市場参入している」というのも起こっていません。

★  ★  ★

「MAKERS」という本は読み応えのある内容でした。

クリスアンダーソンが主張する「モノの世界でもウェブで起こったことが起こる」は、そうだろうなと思います。その先の、本エントリーで考えたようなその先のロングテール現象、マネタイズ、セミプロ対プロ、など、色々な論点があり興味深い内容でした。


※参考情報
重宝しているGunosyから考えるネットの本質と課題|思考の整理日記
[IT一般] セミプロに駆逐されるプロという構図|Nothing ventured, nothing gained.
【レポート】「ブログやメルマガで食える人は本当に増えるのか?」、もしドラ作家・岩崎氏とブロガー小飼弾氏が一触即発の舌戦 (1) 川上氏「日本で唯一成功しているワールドワイドなプラットフォームは任天堂」|マイナビニュース


MAKERS―21世紀の産業革命が始まる
クリス・アンダーソン
NHK出版
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投稿日 2012/12/29

2012年に読んだおすすめの本 (後編)




今年読んだ本で書いたエントリーから、特に印象に残っているものをご紹介します。本エントリーは2つに分けた後編です。こちらが前編です。

なお、仕事関係の書籍は対象外としています。


経営学 (小倉昌男)


小倉昌男 経営学

1975年当時、今では当たり前の家庭向け宅配サービスは民間業者はどこもやっていなく、「参入すれば絶対赤字になる」 と言われていました。

そんな常識に果敢に挑んだヤマト運輸。宅配便という民間業者が誰もやっていなかった家庭への宅配サービスへの挑戦です。新規事業開発、サービス開始、その後の拡大が詳しく書かれていたのが本書でした。
投稿日 2012/12/27

2012年に読んだおすすめの本(前編)

数えてみると、今年は280冊くらいの本を読んでました。毎月コンスタントに20-25冊くらいは読むことができ、仕事にプライベートに色々あったわりにうまく時間が作れたかなと思っています。特に平日朝の出社前に、まとまった読書時間を確保したことがよかったです。仕事を片づけないといけない時は朝も本ではなく仕事だったりもするのですが。

今回のエントリーでは今年読んだ本について書いたエントリーから、特に印象に残っているものをご紹介します。自分が読んだ本をあらためて振り返る意味でも。なお、仕事関係の書籍は対象外としました(取り上げてもマニアックな内容になりそうなので)。





勝ち続ける意志力(梅原大吾)

勝ち続ける意志力 (小学館101新書)著者はプロ格闘ゲーマーの梅原大悟氏。得意とするゲームは対戦型格闘ゲームで、ゲームセンターにあるストリートファイターとかです。

本書を一言でまとめると、「勝ち続ける意志力とは、勝つことではなく『自分が成長し続けること』を目的とすること」。

常に成長し続けたい、これって自分の価値観とドンピシャなんですよね。年齢を重ねると肉体的な衰えも起こると思いますが、経験や考え方、精神的なものも含め人としてトータルで昨日より今日、今日より明日で成長していたい、そんな価値観。

本書に出てくる印象的な内容としては、
  • 僕にとって生きることとは、チャレンジし続けること、成長し続けることだ。成長を諦めて惰性で過ごす姿は、生きているとはいえ生き生きしているとは言えない
  • 「結果を出す」ことと、「結果を出し続ける」ことは根本的に性質が異なる。勝つことに執着している人間は、勝ち続けることができない
  • 成長し続けるためにはどうすればよいか。それには変わり続けること、チャレンジし続けること。そして努力すること。自分にとって努力の適量を考える時に「その努力は10年続けられるものなのか?」と問う
勝ち続ける意志力:目的は「勝つこと」ではなく「成長し続けること」|思考の整理日記
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採用基準(伊賀泰代)

採用基準タイトルは(マッキンゼーの)採用基準ですが、書かれていることはリーダーシップについて。平易な言葉でわかりやすく、かつ本質的なことが書かれているのが本書。

リーダーがやるべきことは4つあるとし、①目標を掲げる、②先頭を走る、③決める、④伝える(コミュニケーション)。また、マッキンゼー流のリーダーシップの身につけるためには、
  • 結果や成果を出す。「成果は何か」「付加価値は何か」を意識する
  • 自分の意見・考え方を持つ(本書ではポジションを持つと表現)
  • 自分の仕事のリーダーは自分自身という当事者意識を持つ
  • 会議で積極的にホワイトボードを使うなどリードする
著者の主張で共感できるのが、1人1人にリーダーシップを持つことの重要性。リーダーは1人かもしれないけど、「リーダーシップ」を持つのは1人でなくてもよい、むしろ全員が何かしらのリーダーシップを持つことが大事。そういう組織のほうが強い。このへんも共感できる内容でした。

今年は自分のリーダーシップをいかに高めるかを考えた1年でした。これからもリーダーシップとは、を意識したいし、実際に行動に移したいと思っています(それと結果も)。

マッキンゼーの採用基準から考える「僕らのリーダーシップ」|思考の整理日記
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ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉(リンダ・グラットン)

ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉この本が読者に投げかける問いは、2025年に私たちはどんなふうに働いているのか?というもの。本書がおもしろく、色々と自分事として考えさせられたのは、読んでいる中で随所に「自分の場合はどうなるのだろう?」と問いかけができる点でした。

本書から受けとったメッセージは、この先も漠然と生きるのではなく、よりよい未来を実現するために、私たち一人一人が未来について考え「じゃあどうすればよいか」と自分事化することだと理解しました。それが「主体的に築く未来」「自由で創造的な人生/社会」につながる。

主体的な行動をとることで、「今」をちょっと変え、その先に続く「未来」を変えていく。主体的に生きるために思うのは、当事者意識を持つこと・我が事化することであり、まずは自分のできることからやる。そしてコントロールできる範囲を広げていくこと。(コントロールできない)自分の身に何が起こるかよりも、焦点を当てるべきは起こったことに対して自分はどう解釈し反応するか、どう行動するか。これが大事と思っています。

もう1つ、本書に出てきた問いで考えさせられたのは、自分の専門性をいかに磨くかについての3つの質問でした。
  • その専門技能は価値を生み出せるのか?
  • その専門技能は希少性があるか?
  • その専門技能はまねされにくいか?
個人のキャリアにも当てはまるし、組織や企業の戦略やマーケティングにも通用する問い。自分の価値は何か?これからも問い続けたい質問です。

書籍「ワーク・シフト」まとめ:孤独と貧困から自由になる主体的な生き方|思考の整理日記
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自分でやったほうが早い病(小倉広)

自分でやった方が早い病 (星海社新書)本書が投げかける問題設定は、「この仕事は自分でやってしまったほうが早い」と思い、いつの間にか色々と自分が抱えている状況を病と捉えるべきだということ。この病の原因や治療法、そもそもなぜ克服しなければいけないのか、本当の仕事の任せ方や人の育て方も含め指南してくれる本です。

単にまわりに仕事を振るノウハウやテクニック的な話ではなく、なぜ「自分でやったほうが早い病」を克服しなければいけないのか。そのためにはどう考え方を変えていかなければならないのか。病を克服したあるべき姿(What)に対して、理由と(Why)マインドを変える処方箋(How)が書かれていたのが良かったです。

詳細は下記エントリーを参照いただく、もしくは本書を手に取っていただければと思いますが、この本を読んでからは本当に自分がやるべきこととそうではないことをより意識するようになりました。

誰も幸せにしない「自分がやった方が早い病」を克服する仕事の任せ方|思考の整理日記
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ネット・バカ―インターネットがわたしたちの脳にしていること(ニコラス・G・カー)

ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること2012年は特にプライベートでのネット利用時間を意図的に減らしてみた1年でした。それまでは朝起きてから夜寝るまでの間、ネット常時接続状態。リアルタイムウェブ中毒です。でもふと思ったのが、これって本当に自分がやるべきことなのか、本当に必要なことなのか、と。

そんな頃に読んだのが本書で、主題は、ネットを当たり前のように使うようなり人間の脳に変化が起こっている、具体的には脳が注意力散漫になることへの警鐘です。注意力散漫になるとは逆に言えば1つのことに長く集中できないという状態(頻繁にツイッターを見る、RSSをチェックする、メッセージ受信のアラートで作業を中断しメールを確認する)。この回数/頻度が多いほどそれ以外のことを長くやり続けることが困難になります。

とはいえ、じゃあネットを使わない生活に戻れるかというとそれは現実的ではない。結局のところ、ネット利用時間で無駄な内容(無目的なウェブ閲覧)をなくし、目的を持ってネットを使うようにしました。なんとなしにSNSやスマホを使わないようにすること。ネットの付き合いはこれからも試行錯誤が続きそうですが、本書を読んだのは問題意識を持つためのいいきっかけになりました。

リアルタイムウェブ中毒だった自分と今の自分|思考の整理日記
ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること(Amazonリンク)


★  ★  ★

他にもまだご紹介したい本について載せる予定が、長くなったので残りは別エントリーで更新します。今回は生き方とか考え方にフォーカスした本を中心に選びました。後半ではもう少しビジネスよりの、戦略とかビジネスモデルについて書かれた本を載せる予定です。

後編はこちら


投稿日 2012/12/24

書籍 MEDIA MAKERS に書かれていた 「メディア変化がコンテンツをも変える」 論点がおもしろい




MEDIA MAKERS - 社会が動く 「影響力」 の正体 という本をご紹介します。

メディアに関する様々な論点が提示され、随所に具体例が書かれています。抽象的な内容で終わらず、読み応えのある本でした。


投稿日 2012/12/22

重宝しているGunosyから考えるネットの本質と課題

情報収集のツールは色々とありますが、その中でこれはオススメというのがGunosy(グノシー)です。ネット上のニュースやブログ記事を対象としたキュレーションツールで、気づけばほぼ毎日使ってます。

■Gunosyとは

Gunosyの特徴は以下の3つと思っています。
  • シンプルな仕組み:アカウントをつくるとユーザーそれぞれに最適化されたニュース記事を配信してくれます。アカウント登録はTwitter、Facebook、はてなブックマークのどれかでログイン。ピックアップしてくれるニュース記事等の閲覧方法は、GunosyのWebページを開くか、1日1回のメール配信の設定の2通り。Webページとメールには記事タイトルと本文見出しがリンク付で表示され、毎日更新されます。
  • 毎日のメール配信:メール配信というプッシュ型の通知が意外に便利だったりします。いつの間にかGunosyからのメールチェックが毎日の日課になりました。大抵のメール配信は来ること自体が面倒に感じるんですが、Gunosyはそれが全然ないんですよね。メール配信の設定は2つあって、何時に送ってもらうかの配信時刻と1回あたり何個記事を表示させるかの記事数を決めることができます。今のところは、朝5時配信で、10個記事と設定しています。欲を言えば朝のメール配信は3時とか4時も可能にしてほしいところ。
  • とにかく精度が高い:キュレーションツールの肝はどれだけユーザーごとに最適化できるか。Gunosyの精度は良いです。メールで10個の記事が送られてきますが、ほぼ1つ以上は気になる記事がありクリックしています。だいたい10個中、1~3個くらい。RSSに比べると打率はかなり高いし、良好な精度だからこそ毎日のメール配信も嫌じゃない。

■なぜGunosyの精度は高いのか

Gunosyを使っていての感触として、最適記事を抽出するのに活用されているのは、
  • 人気記事や話題性のあるもの:はてブ、ツイート、いいね!がたくさん付いているものなど、よくクリックされている記事がピックアップされる傾向がある
  • Twitterなどのログインツール内情報の利用:ツイッターであればユーザーのツイート内容などユーザー情報を参考に最適記事を選んでいる
  • Gunosyでの行動履歴:どの記事をユーザーがクリックしたかの情報が蓄積される。ユーザーがGunosyを使えば使うほどユーザーに最適化された記事が配信される仕組み
で、特に2点目と3点目のバランスが良く、結果的に高い精度が実現できていると感じます。

Gunosyを開発・立ち上げた東大大学院生3人へのインタビュー記事を見ると、「他のキュレーションサービスのほとんどは自分のSNSタイムライン上で『つながりのある人の間で話題になっている情報』を配信するものが多いのに対し、Gunosyはユーザーのソーシャルグラフではなく、あくまで自分自身の過去のポストやソーシャル上のアクティビティを分析対象として記事を選ぶ仕組み」というようなことが書かれています。(参考:「精度高すぎ」と話題のニュースキュレーション『Gunosy』は、どんな設計思想で作られているのか?|エンジニアtype

自分のアクティビティが分析対象とは、Gunosy配信の中から気になる記事をクリックするほど精度が高くなっていくのがまさにそれです。クリックする=その話題に興味があると判断され、次回以降のニュース記事ピックアップに活かされる。使えば使うほどユーザーに最適化された仕組みになっていく。

以前のエントリーでキュレーションアプリのZiteについて取り上げましたが、Ziteも同じような感じです。こっちは配信記事が英語のサイトなので、英語の勉強にもなります。(参考:重宝してるアプリziteをヒントに4層で考えるTVのパーソナライズ化|思考の整理日記

■フィルターバブルと転職サービスへの挑戦

上のインタビュー記事の中にあったことで注目したのが、Gunosyでは「フィルターバブル」についても考慮、課題設定としている点です。

フィルターバブルというのは、情報の偏りすぎることでユーザーに不利益をもたらすのではという懸念です。過度にキュレーションすることで、ユーザーの興味や嗜好に合致しない情報は全部排除されてしまいかねません。

でも、実は除かれた情報の中にはユーザーにとって有益な内容もあり得るわけで、あまりに選定しすぎるのは良くないのではという問題意識。イメージはユーザーが自分の興味関心だけの泡の中に閉じこもり、未知の外の世界を知る機会がなくなる感じでしょうか。(参考:情報社会の未来:私たちはネットの世界に知らない間に閉じこもってしまうのか|思考の整理日記

だから時々そのバブルの外にも注目すべきと思うのですが、Gunosyではこの問題にどう対処するかはこれからの課題。要はキュレーションするのをどこまで絞るといいかのバランスで、ここは個人的にも注目しておきたい取り組みです。

もう1つ、Gunosyのサービスはニュース記事配信以外にもGunosy Careerという転職サービスもあります(正確には13年春のローンチを目標)。ニュース記事抽出/配信のデータマイニングやレコメンド技術を転職サービスに応用しようというもの。Gunosyの特徴である登録・設定・使い勝手のシンプルさや、高いマッチング精度を転職市場でも実現できるか。期待したいです。

■ネットの本質から考える今の「ネット上のバランスの悪さ」

何かと何かをマッチングさせる領域は、まだまだこれから発展するのではと思っています。マッチングとは単純化すればAとBの異なる要素をつなげることです。Gunosyでは、A:ネット上の情報、B:ユーザーをマッチングさせる仕組みだし、転職サービスのGunosy CareerはA:企業とB:人をマッチングさせようというもの。人と人をつなげるサービスはFacebookやLinkedinとかLineがあったり、情報と人を結ぶのはGoogleの検索サービスもそうですよね。

これらのマッチングの仕組みで共通しているのはネット上でつながっていること。インターネットが当たり前のように普及したことでネット上の情報量が爆発的に増えたけど、一方で増加する情報に追い付けていないのはマッチングだと思っています。必要な情報や人を探したり、つながるための仕組み。確かに何か知りたい時はグーグルの検索があるし、フェイスブックやラインで気軽に人とコミュニケーションが取れますが、まだ十分ではないように思います。

何が言いたいかと言うと、ネットは人やモノの情報が文字通り網の目のように入り組んだ世界ですが、ネットを構成する一つ一つのつながりが少ないor最適化されていなく、増える情報量に対してマッチングが不十分ということです。インターネットの本質って、人やモノという「個の情報発信」と「双方向性」なのではと思います。前者の情報発信はネットで実現できているけど、後者の双方向性、つまりマッチングとかつながりはこれからの領域。今はまだ情報量とマッチングのバランスが悪い状態です。だからこそ、Gunosyのようなテクノロジーでこれを解決するプレイヤーには期待したいです。

人や企業にはいろんなニーズがあり、中身は千差万別です。それらをどうつなげるか。ネットが進化してもう1つ上のレベルになるための課題と思っています。


※参考情報

Gunosy(グノシー)
「精度高すぎ」と話題のニュースキュレーション『Gunosy』は、どんな設計思想で作られているのか?|エンジニアtype
Gunosyが会社になりました。|Gunosy blog
あなたに最適化したニュースを届ける「Gunosy」が会社化|Itmediaニュース
重宝してるアプリziteをヒントに4層で考えるTVのパーソナライズ化|思考の整理日記
情報社会の未来:私たちはネットの世界に知らない間に閉じこもってしまうのか|思考の整理日記
Gunosy Career


投稿日 2012/12/16

Apple地図問題の本質とスマホ位置情報の可能性




iOS 6 がリリースされて最も話題を集めたことはアップルの独自地図でした。パチンコガンダムという名前の駅、羽田空港が大王製紙に、東京都公文書館が海上にある、などなど。iOS 純正なのに、地図完成度の低さが話題になりました。

この問題について、Apple やスマートフォンの事情に詳しいジャーナリストの西田宗千佳氏と、Yahoo! JAPAN で「ルートラボ」など位置情報サービスの開発にあたる地図のスペシャリスト河合太郎氏の対談記事が示唆に富み、おもしろかったです。今回のエントリーではこの対談から、アップルの地図問題について考えてみます。
投稿日 2012/12/15

人生はスーパーマリオ


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スーパーマリオのアナロジーから、人生やビジネスキャリアをどうつくるかを考えます。

エントリー内容です。

  • 人生はスーパーマリオ
  • これまでの 「今」 の積み重ねが今の自分をつくっている
  • 風向きは変えられないが、帆の向きは変えられる。結果とプロセスのバランス感

投稿日 2012/12/09

世界と日本の経済を俯瞰しておこう

ちょっと前に読んだ本が野口悠紀雄氏の「経済危機のルーツ ―モノづくりはグーグルとウォール街に負けたのか」「大震災からの出発 ―ビジネスモデルの大転換は可能か」の2冊。世界と日本の経済の全体像が俯瞰されていて、「なるほど!」と思うことも多く目から鱗とはこのこと、という感じでした。

第二次世界大戦から現在の歴史的な時間の流れというタテの比較、日本だけでなく先進国・新興国のヨコの比較。ようやく自分の理解も追いついてきたのでエントリーしています(書きながら頭の整理ができることを期待しつつ)。

■戦後の世界経済を俯瞰する

書籍「経済危機のルーツ」で印象的だったのは、工業化のシフトと脱工業化の新しい流れでした。ここについては、ちきりん氏のブログがとてもよくまとまっているので引用させていただきます。以下の表は第二次世界大戦後~2010年代までにおける、日本やアメリカなどの主な国の経済状況です。マトリクスにすることで俯瞰できるとてもわかりやすい図です。


引用:戦後の世界経済が俯瞰できる本|Chikirinの日記

戦勝国である米国・英国、敗戦国であったドイツと日本、そして共産国となった中国、ロシア(ソビエト)について、それぞれの時期に何があったかをまとめたのがこの表、グレーはその国の調子がよくなかった時代(濃いほど悪い)、オレンジはその国が調子がよかった時代を示しています。(濃いほど勢いがある時代)
表の手書きの赤丸はちきりん氏によるもので、工業化による経済成長を順に起こっています。イギリス・アメリカで最初に発生し、ドイツ・日本、中国と、それぞれの国で、農業から工業という第一次産業から第二次産業にシフトが起こり、生産性が大幅に改善しました。青い丸は工業化による経済成長を終えた国が、2番目の経済成長のための「脱工業化」プロセスです。

■日本経済の繁栄と苦難

このへんからはもう1冊の「大震災からの出発」に書かれてる内容に入っていきます。

上の表で1970年代と80年代の日本のところは「繁栄の時代!」とあるように、Made in Japanの工業製品が世界を席巻しました。アメリカなどの製品に比べて品質が良く、かつ低コスト生産による価格優位性があったためです。つまり、アメリカvs日本において、日本製品が勝り日本は工業化による経済成長を実現したのです。

ところが90年代以降、世界経済の産業構造はある変化が起こります。中国などの新興国の工業化。「世界の工場」とも呼ばれた中国製品は品質もそこそこ&低価格を武器に、次第に日本製品が負けるようになっていきます。今度は日本vs新興国において日本は優位性が保てなくなっていく。国内ではバブル崩壊の混乱、国外では世界の産業構造変化の荒波に飲みこまれ、それまでの繁栄がうそのように後に「失われた20年」と言われる苦難の時代へ。

90年代以降は自動車や家電、電気製品の工業製品の相手は新興工業国のそれでした。競争の中で起こったことは、低価格に対抗するためのコストを下げることでしたが、次第にコスト減の内容はリストラや非正規雇用への転換に行き着き、雇用や所得の減少を引き起こします。

製造業での失われた雇用の受け皿になったのがサービス業でした。雇用吸収先が製造業よりも低い生産性のサービス業で雇用形態が非正規雇用であったために、ますますの所得減少が起こった、これが野口氏の説明でした。

ちょっと長くなったのでまとめると、
  • 90年代以降の新興国の工業化で、日本製品の競争相手は新興国製品に。価格などの比較劣位から日本は次第に負けていく
  • それでも新興国製品に対抗するために行き着いた施策がリストラや非正規雇用への転換。結果、雇用が失われたり所得が減少した
  • 失われた雇用の受け皿が製造業より低生産のサービス業であったため、さらに所得減少に

■変化しなかった日本、対応したアメリカ

新興国工業化というのは、世界経済の産業構造の大きな変化でした。野口氏が書いていた内容で印象的だったのが、世界の構造変化に対して日本の産業構造は「変化しなかった」、という指摘。

企業のビジネスモデルや産業構造が変わらず、工業製品の輸出という外需依存の状態を続けます。新興国との競争の仕方が対アメリカの時代の競争と基本的に同じでした。本来は、製造業に代わる新しい基幹産業を国内につくり、異なる競争軸を目指すべきだった。でも実際は、政府は円安政策や金融緩和もあり古い産業構造が生き残り続けることに。

ちなみに、新しい競争軸を生み出したのがアメリカやイギリスでした。それが上の表にある青丸で囲まれた「ITと金融で再生」。製造業よりも付加価値の高いサービス業を創出し、脱工業化を実現したのです。

■東日本大震災の影響

新興国工業化による国内製造業の環境悪化に拍車をかけたのが、3.11の東日本大震災でした。短期的には東北地方が絡むサプライチェーンが壊れたことで生産・供給不足を引き起こしましたが、より影響が大きいのは中長期的に発生する電力制約です。

電力制約は2つあって、使える電力量の不足と、電力使用コストが上がること。福島原発事故の影響で、節電による産業に使える電気が強制的に制限されること、原発停止に伴いその分を火力発電で代替し原料をスポットの高い価格で輸入したことによる電気料金の値上げ。

当初は東京エリアを中心に電力制約が起こるはずが、全国的に原発稼働停止の流れで日本中で電力制約が発生、これに対して企業は生産拠点の海外移転を加速。結果、ますますの製造業の雇用減少という構図です。

■日本は産業構造を変化させられるのか

野口氏は著書の中で、本来あるべき姿は比較優位に即した国際分業である、と述べています。製造業は新興国に任せ、先進国は高い技術や専門性に立脚した産業に特化すべきである。重要なのは製造業の海外移転を引き止めることではなく、製造業に代わる産業を国内に作ることである、と。

新たな産業は高生産性サービス業というのが野口氏の意見です。例として、情報通信、金融・保険、不動産、医療福祉、教育・学習支援、など。重要なのは、新産業の生産性が製造業よりも高いこと。そうでなければ雇用の移転が起こって維持されても、所得は下がり日本は貧しくなってしまう。

個人的な意見として、製造業をゼロにすることは現実的ではないし、いきなりの変化は無理でしょう。製造業でも「先進国は高い技術や専門性に立脚した産業に特化」の例として思いつくのはアップルです。

iPhoneの裏にはこんなことが書かれています。Designed by Apple in California. Assembled in China. デザインはカリフォルニアにあるアップル、製造は中国。これは比較優位に即した国際分業の好例だと思います(もちろん、中国での製造は様々なリスクもあるし、これからも比較優位となり続けるかはわかりませんが)。

★  ★  ★

もう1つ、あるべき姿で触れておくべきは政府の役割。期待したいのは「政府が掲げる成長戦略」ではなく、「政府は何もしないこと」。市場に任せ、規制緩和など競争の邪魔をしないこと。既得権や特定産業を優先する施策は競争をゆがめ、めぐりめぐって経済成長が阻害されてしまいます。


※参考情報
戦後の世界経済が俯瞰できる本|Chikirinの日記


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大震災からの出発 ―ビジネスモデルの大転換は可能か
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投稿日 2012/12/08

マッキンゼーの採用基準から考える 「僕らのリーダーシップ」


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今年2012年は、自分のリーダーシップをいかに高めるかを考えた1年でした。特に仕事においてのテーマでした。

最近、興味深く読めたのは、採用基準 という本でした。



テーマはリーダーシップ


著者の伊賀康代氏はマッキンゼーの採用マネージャーを12年間務めた方です。2012年現在はキャリア形成コンサルタントをされています。

採用基準というタイトルは、マッキンゼーが何を基準に採用しているのか、どういう人材を求めているかからきています。マッキンゼーが採用するにあたり重視しているのはリーダーシップです。特に、将来グローバルリーダーとして活躍できる人です。
投稿日 2012/12/01

日本のマーケティングリサーチを変える「黒船」を考える

今週、JMRX勉強会の「次世代マーケティングリサーチ討論会」に参加してきました。

討論会の見どころは、マーケティングリサーチ(MR)の世界を30年ものあいだ牽引してきたRay Poynter(レイ・ポインター)氏と、トランスコスモス・アナリティクス取締役副社長で書籍「次世代マーケティングリサーチ」の著者でもある萩原雅之氏との対談でした。

この討論会のサブタイトルは「黒船到来、日本のマーケティングリサーチはどう変わる?」。討論会の中で萩原氏が日本のMRの歴史を紹介し、リサーチ業界では10年おきにイノベーションが起きており、今また新たなイノベーションが起こりつつあると言われたように、MRがどう変わっていくかは関心の高いテーマです。



■日本のマーケティングリサーチを変える「黒船」とは何か?

だから討論会に出席してあらためて考えさせられたのは、日本のMRに変革を迫る「黒船」とは何か、ということ。

黒船という言葉は、当時のアメリカが260年鎖国が続いた日本に開国を迫り将軍と武士を中心とした江戸の社会を根本的に変えた「外部要因」を指すと理解しています。

MRの世界でも大きな変化が起こりつつある/起こっていると感じますが、何が変化を引き起こしているのかという論点です。討論会も踏まえ考えてみた日本のMRを変える要因は以下の通り。
  • 海外の新しいMR手法:MROCsなどの新しいリサーチ手法が日本に入ってきて日本のMR業界を変える。今回の討論会を聞いて感じたのは日本のMROCsは海外に比べ普及していない/事例が少ない印象でしたが、果たして今後は変えるのか
  • クライアントの変化:マーケティングリサーチとは一言で言えばクライアントのマーケティングの課題解決のため。よって、クライアントのマーケが変わればMRも変わる。マーケの考え方やリサーチ予算の縮小、あるいはROIをこれまで以上に求められれば、MRも変わっていかざるを得ない
  • テクノロジーの進化:脳波や脳内の血液変化を使ったニューロサイエンスや表情認識などの調査対象者本人ですら自覚できないようなことも技術進歩でわかるようになる。Webアクセスログなどのこれまでは収集できなかったビッグデータ、ハドゥープやクラウドの普及。こうしたテクノロジーの進化でMRに活用できるデータ領域が増える。また、技術進歩によりコストが下がりビジネスで使用できるようになったことも大きい
  • メディア/ネット環境の多様化:スマホやタブレットの普及、SNSやブログ・口コミサイトなど多様な環境をMRに活用することで、新しいリサーチ手法が登場する。これまでのネット調査はPCが前提だったが、モバイルを使うことでよりリアルなデータ、クイックな調査ができるようになる。ソーシャルメディアを活用したリサーチは今後のトレンドの1つに
  • 消費者の変化:メディア/ネット環境の多様化により消費者の情報発信、消費者同士のコミュニケーションが変化してきている。MRでは消費者中心/消費者理解の考え方が主要なものになってきており、消費者の変化がMRの変える
  • 政府・国:先日、日経が報じた「民間の個人情報売買解禁へ 政府、新事業創出を後押し」。これまでは個人情報保護の対応がMRに制約を与えてきたが(住民台帳がつかえなくなったりなど)、異なるデータをユーザーIDで紐づけてシングルソース化し、統合データをプレイヤー間でやりとりができるようになると、リサーチデータの価値も変わる
  • 異業種の参入:クックパッド、TポイントのCCC、豊富なソーシャルグラフや属性データを持つSNS。これらがリサーチ業界に参集することは既存のMR会社にとっては脅威。またGoogle Consumer Surveyなどの異業種からのDIY型リサーチも価格破壊を起こす可能性も

■異業種参入の意味

この中からか黒船を1つ選ぶとすると、異業種の参入が最も大きな変化を引き起こす要因になると思っています。

例えばクックパッド。クックパッドには膨大なレシピ情報があり、そこには消費者がどんな食材を使い、どんな調理方法をしているのか、季節ごとの具材や食卓へのニーズ、使っている食器具など、あらゆる料理関連のデータが蓄積されています。

これらのデータを活用することで、マーケティングに利用できるだけではなく、プロモーションにも活かせる。実際に食品会社ではリサーチ会社ではなくクックパッドのデータを使うようになったと聞くこともあります。

それは従来のリサーチ会社にはないデータ、できないデータ活用、わかることの広さ・深さがクライアントのマーケティング課題ニーズをとらえたのだと思います。異業種の参入の影響は今はまだ表面化していないかもしれませんが、水面下では大きな変化を起こしていると感じます。

クライアントからすると、やりたいことは自分たちのマーケティング課題の解決であって、そのための手段は何でもよい。これまではリサーチならリサーチ会社、広告/プロモーションなら広告会社(広告代理店)と、わりとわかりやすい選択肢だったのが、異業種の参入でクライアントにとってはリサーチ=リサーチ会社に依頼、という構図は過去のものになっていくはず。より高い価値を提供するところに頼むのは当然です。MR会社もそれに対抗し生き残っていくためには変わらざるを得ないのではないでしょうか。

異業種のリサーチ業界参入で思うのは、本業は別にあって、リサーチはあくまで本業からの副産物を使った事業であるということ。

クックパッドならレシピサイトの会員課金/広告のビジネスモデルが収益の基盤になっている上に、レシピ情報から蓄積されるユーザーの料理に関するあらゆるデータを副次的に使うことでマーケティングリサーチ/プロモーションという新たなビジネスにもしているところが、既存のリサーチ会社にとっては脅威だと感じます。

リサーチ会社が本業でやっていても得られないデータが、異業種はメインビジネスの結果として自然と集まってきているデータ。アマゾンや楽天の購買情報、CCCのTポイントで統合されたユーザーデータ、SNSのソーシャルグラフや詳細な属性情報、口コミサイトの商品利用データ、等々。結果、従来MR会社にはない提供価値/サービスがあり、差別化要因になっています。

■マーケティングリサーチ会社の価値

MR会社の価値、存在意義は何か。これまではクライアントに変わって/一緒になってリサーチを活用したクライアントのマーケティング課題解決を図るものでした。課題解決がクライアント自身でできるならばリサーチ会社は不要になるはずで、MR会社に仕事が来るということはそこにMR会社の存在意義があった。しかし、MR会社ではないプレイヤーが同じような、あるいはMR提供価値を超えるような価値を与えてくれるとなると、MRの存在意義は薄れていってしまいます。

もう1つの流れとして、リサーチ業界に頼まなくてもDIYリサーチを使えばクライアントは自分たちでリサーチができてしまうこともあります。自分たちでやってしまうほうが早いし安いとなると、これもMR会社の価値はなくなっていく。

MR会社にしかできない価値は何か。MR手法の開発、データ収集、調査企画提案、調査コントロール、データハンドリング/分析、リサーチからのインサイト抽出、報告書の作成、クライアントとのコミュニケーション(時にはクライアント内の異なる部署の橋渡しになるなど)、外部者だからこその提言、ひいてはクライアントの課題解決。これらの価値を提供できる限りは、リサーチ会社の存在意義は引き続きあるだろうし、できなくなれば淘汰されていくのではないでしょうか。

歴史を振り返ると、江戸幕府に開国を迫ったのは黒船であった諸外国でしたが、実際に社会を変える行動を起こしたのは、坂本竜馬・西郷隆盛・大久保利通などの「日本人」でした。黒船という外部圧力がきっかけとなったものの、変化を起こしたのは内部から。

これは黒船到来としている日本のマーケティングリサーチにおいても同じことだと思います。異業種参入などの外部要因はあくまでトリガーであり、そこから実際にマーケティングリサーチを変えていくのはリサーチ会社であるし、そうあるべき。逆にそれができるところがこの先もクライアントに価値が提供できるんだと思います。


※参考情報

次世代マーケティングリサーチ討論会 ~黒船到来、日本のマーケティングリサーチはどう変わる?~
「これまでのマーケティングリサーチは使えなくなる」 レイ・ポインター氏が示すリサーチの将来像とは?|MarkeZine(マーケジン)
No Surveys in Twenty Years?|The Future Place Blog
No Surveys in 18 years!|Vision Critical
従来型サーベイは消えるのか -『No Surveys in 18 years!』より-|マーケターのメモ帳
民間の個人情報売買解禁へ 政府、新事業創出を後押し|日本経済新聞


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。