投稿日 2024/04/23

下積み0年の繁盛寿司店 「有楽町かきだ」 。戦略的スモールスタートからの勝ち筋の追求

#マーケティング #戦略 #勝ち筋

どの戦場で勝負するか、どう始めるか、何を自分でやり、何を他人に任せるか。これらはビジネスでの成功を切り開く大事な要素です。

今回はユニークな人気寿司店の事例から、自らの強みを活かし、リスクを抑えながらスモールスタートを切る方法を紐解きます。

ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

有楽町かきだ


出典: 食べログ

下積み0秒のお寿司のお店


すし職人の世界では 「飯炊き3年、握り8年」 といわれ、10年以上の修業が必要とされてきました。

一方の 「有楽町かきだ」 の蛎田 (かきだ) 社長は、本業で転職会社の社長をやりつつ、下積み修業をせずにいきなりお店の 「大将」 から寿司店を始め、今や140席の繁盛店を経営しています。

有楽町かきだは2022年7月に東京・有楽町の8席のお店からスタートし、2023年9月に新宿の小田急ホテル 「サザンタワー」 19階に増床移転しました。カウンターで職人がお寿司を握るスタイルで、お店は高級店のような落ち着いた雰囲気です。

看板メニューは 「最強おまかせコース」 です。おつまみ5種、天ぷら3種、すし20種で、お寿司やデザートはおかわり自由です。さらにソフトドリンク飲み放題までつきます。これで、1万4000円以下のお値段です。

YouTube と握りの観察


大将の蛎田さんは飲食業界の経験がなかったのに、お寿司の握りやネタの魚の仕入れをどうやってきたのでしょうか?

その秘密は鋭い観察眼と、コツコツと地道に続ける継続力、仕入れ先との信頼関係の構築にありました。

 「握りはユーチューブにいくらでも動画があって、それを見て覚えました。実際に食べに行く店でも握り方をじっと観察して分析していました。シャリ玉、うちだとひとつ13グラムなんですけど、はじめはそれを1発でとる練習から。1日中同じことをやっていれば、手が感覚を覚えますよね。シャリのレシピは検索で探して、食べてきたすしの味を思い出しながら、試行錯誤しました」 

魚の仕入れへのこだわり


魚の仕入れについては、一番こだわっているとのことです。

 「朝は7時には豊洲市場へ行って魚の仕入れ。昼間は本業の会社の仕事をこなして、夜に店に出て握って……という生活サイクルで始めました。休みなんてないですね。店舗移転に伴って、職人歴30年のベテランさんと、元リクルートの営業で素人同然の人を新たに雇いました。やっぱり営業スキルが高い子はお客さんを楽しませることができるんですよね」 

 「自分は人材会社の社長もやっていて言語化が得意だから、素人にも教育ができるのが強み。昔ながらの職人の世界だと『見て覚えろ』ですから、修業の時間も当然かかりますよね。その時間をうちでは短縮できます」 

フレンチのように火加減の調節などはいらないため、ネタとシャリのおいしさがすべてだと言い切る。だから一番こだわるのは仕入れ。2023年11月末に記者も同行した。

 「ネタの目利きは完全に仲卸さんにお任せ。すし屋を始めて1年5カ月の自分よりはるかに知識も経験も上回っているんだから、全幅の信頼をおいてますよ。マグロは今月でもう6本目。マグロは常に一本買いで。普通は余らせるのが怖いから、一本買いなんてしないですよ。価格は大体軽トラック1台分かな」 

大きなマグロをまるごと買う姿はインパクトがある。蛎田さんは開店当初から SNS で集客しており 「映える」 写真は大事な商売道具の1つだ。通い詰めるのは豊洲市場で一番大きな仲卸 「山治 (やまはる) 」 。代表の山崎康弘さんは 「今は LINE で注文も受けてますから、蛎田さんのように毎日のようにきてくれる人はそうそういない。知識を吸収することに貪欲で、いいネタはとっておいてあげようという気になりますよ」 と評価する。

学べること


では 「有楽町かきだ」 の話から、学べることを掘り下げていきましょう。

いくつか学びのポイントがあるので、順番に見ていきます。

戦場の捉え方


この事例から学べる最初のポイントは、戦場の捉え方です。

有楽町かきだは、5万円以上の高級寿司店と回転寿司の間にある 「隙間市場」 を突いています。お寿司が好きなお寿司ヘビーユーザーにとっては、第3の選択肢となるような選択の候補に載せてもらえる絶妙なポジショニングです。

ビジネスでは、まだ競争が少ない隙間市場を見つけ、そこに自社の強みを活かすことがうまく戦場を捉える方法の1つです。

スモールスタート


次に注目したいのは、スモールスタートの重要性です。

有楽町かきだの社長であり大将も務める蛎田さんは、開業当初から大きなリスクを背負うことなく、小規模な店舗から事業を始めました。もし上手くいかなかったとしても、大きな損失にはならない範囲での 「スモールスタート」 が、新しいチャレンジや試みでの不確実性 (リスク) を軽減します。

まずはやってみるというこのアプローチは、リソースが限られているスタートアップや中小企業、あるいは個人でビジネスを展開する場合にも有効です。

勝ち筋の明確化


有楽町かきだの成功のカギは、勝ち筋の明確化にありました。蛎田さんは 「ネタとシャリのおいしさがすべて」 と言い、品質に徹底的にこだわりました。

どんなビジネスにおいても自分たちの勝ち筋を明確にし、その勝ち筋に注力することが成功への道を拓きます。

自分でやることと他人に任せることの線引き


自分でやることと他人に任せることのバランスは、ビジネス運営の要になります。

蛎田さんはシャリの握りを YouTube の動画で学び、他店での観察を通して寿司職人としてのスキルを独学で磨きました。

一方で、ネタの目利きは仲卸業者に全面的に任せ、強い信頼関係を築いています。自分の得意分野を伸ばし、専門外のことは信頼できるパートナーに委ねることで、やることとやらないことの線引きを明確にしました。それが効率と品質の両立を実現しています。

原体験にもとづいた体験価値と価格設定


自分の原体験にもとづいた価格設定と体験価値の提供も学べることです。

カウンターの高級すし店はメニューや料金体系が不明瞭で 「どのように注文したらいいのか」 と悩む人も多いと感じた蛎田さん自身の経験が、有楽町かきだでのおまかせコースにつながった原体験です。お客さんが追加注文を気兼ねなく楽しめるように、お寿司やデザートのおかわり自由という看板メニュー 「最強おまかせコース」 は、お客さんの満足度を高めていることでしょう。

自身の経験を活かして、お客さんが感じる 「既存の不」 を解消することは、独自の価値提供につながります。

SNS での集客


SNS を活用した集客方法も見逃せません。

有楽町かきだは、インパクトのあるお寿司の写真やお店の情報を SNS に積極的に投稿し、効果的にお客さんを惹きつけます。

SNS はうまく使えば、SNS はコストがかかりすぎずに見込み客や既存客へのリーチが可能なツールです。飲食ビジネスでは料理や店内、人の魅力が直接的な顧客誘致になるので、SNS の効果的な活用は有効でしょう。


まとめ


今回はお寿司のお店 「有楽町かきだ」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 勝ち筋を見出すために、どこで戦うかの 「戦場」 が大事。競争が少ない分野で自社の強みを活かせる領域を見つけられれば、アドパンテージが得られる

  • できる範囲で 「ますはやってみる」 というスモールスタートからリスクを最小限に抑えつつ、新しいビジネスチャレンジを試みることは、特にリソースが限られた環境下で有効

  • リソースを多く持たない状況では自分のやることを明確にし、それ以外は他の人に任せるという 「やること」 と 「やらないこと」 の線引きが重要。戦略的にリソースを配分する


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。