投稿日 2011/07/03

グーグルが新SNSのGoogle+をリリースする2つの意味とわくわく感

ついにGoogleも動いてきました。同社が世界に発表した新しいSNSであるGoogle+です。(11年7月2日現在まだパイロットテスト段階で、一部のユーザー限定で使用が可能)

参考:Introducing the Google+ project: Real-life sharing, rethought for the web|The Official Google Blog

今回のエントリーでは、Google+について以下のような論点で書いています。

  • Google+とは何か?Facebookとの違いは?
  • なぜGoogleはSNSに取り組むのか?
  • Google+が普及するとどうなるのか?そして期待すること


Google+の特徴を簡単に


1つ目の機能がCircles。友人をグループ化する機能であり、例えば家族、高校の友達、大学の友達、職場の同僚、趣味の友達、と言った感じでサークルを作成し、そのグループごとに情報が共有できます。

高校の友達とは昔の思い出話で盛り上がり、大学の友達とは今度久しぶりに集まって飲もうという会話、職場の同僚とは新規企画のことを真面目に議論する、趣味の友達にはおもしろい動画を見つけたので教えてあげる。Circlesの使用イメージはこんな感じです。

会話のやりとりはそのグループメンバー以外には見えないので、全然違う話題について他の友達の目を気にすることなく情報共有ができます。実はこの機能はフェイスブックと大きく違う点なのですが、これについては後述します。

他の機能としては、事前に設定した自分が関心のあるテーマを設定しておくと、関連するブログ記事・動画・書籍などのコンテンツを集めてくれるSparks、ビデオチャットができるHangouts、グループでチャットができるHuddle、これ以外にもモバイルで撮影した写真を簡単にアップロードできたりする機能などもあります。

詳細は以下のグーグルの発表内容や、lifehackerの記事で紹介されています。

Google+ プロジェクト: 現実世界の人間関係をウェブで|Google+プロジェクト
Google渾身の新SNS「Google+」の主要機能を一挙紹介!|lifehacker


Google+とFacebookの違い


次に、Google+とフェイスブックの違いについて見てみます。

上記のGoogle+のCirclesのところで、この機能がフェイスブックと異なる点だと書きました。ざっくりと言ってしまうと、Google+では情報共有はグループごとに行ないそのグループ以外の人には見えないのに対し、フェイスブックではシェアやいいね情報は自分の友達全員に発信されます。

例えばフェイスブックでは、自分の発言に対しては高校の友達からも会社の同僚からも、あるいは家族からも全て同じところにコメントがつきます。

実はGoogle+ではこのようなフェイスブックの仕組みについて、Google+ プロジェクト: 現実世界の人間関係をウェブで|Google+プロジェクトの中で「全ての友達をひとくくりにしており、これが情報の共有に問題を生じさせている」と指摘しています。

ひとくくりであることは大雑把であり、人目を気にしなければいけない、そして繊細さに欠けると。だからグーグルの答えは、サークルという異なるコミュニティごとに選択的に情報を共有できるような仕組みを打ち出しているのです。

グーグルの使命は「世界中の情報を整理すること」ですが、この文脈で言えばSNS上の友人関係をコミュニティごとに整理することで、コミュニケーションがより濃くなり活性化することを狙ってのことだと思います。そう考えるとCirclesはグーグルらしい考え方だなと。


なぜGoogleはSNSに取り組むのか


2011年春からそれまでのCEOからグーグルの会長職となったエリック・シュミット氏は米ウォールストリート紙のインタービューで、「私はソーシャルネットワーキング分野で方向性を間違った」と述べています。

さらには、「何かをしなければならないことは明白だったが、私はしなかった」「CEOは責任を取るべきだ。私は失敗した」とも語っており、グーグルがソーシャルネットワークの分野で出遅れたことを認めています。

グーグルのシュミット会長、「私はSNSで失敗した」公開インタビューでCEO時代を振り返る|JBpress


フェイスブックなどのSNSの中の情報というのはグーグルにとっては接触不可なもので、従って整理することができません。

グーグルはソーシャルネットワークの領域に出遅れたことで、その間にフェイスブックはユーザー数は増加し、ますます多くの情報がグーグルが扱える範囲の外で発生するようになりました。グーグルは情報を整理できなくなり、これはグーグルの検索結果にはそれらの情報が出現しないことを意味します。

実際にフェイスブックの情報でグーグル検索結果から表示されるのは登録名称などのごく一部にしかすぎません。日本でのグーグルのリアルタイム検索は実質ツイッター検索です。

このようにグーグルにとって検索不可領域が増えることで、グーグルユーザーの検索ニーズを満たすことができなくなる可能性がでてきます。

検索で知りたい答えがグーグルの検索結果には表示されないかもしれない。そうなると、ユーザーの検索利用回数の減少というグーグル離れが懸念される。この状況はグーグルにとって死活問題になりかねません。

なぜならば、グーグルユーザーの検索利用回数が減る/ユーザー自体が減少するということは、すなわち、グーグルが展開する検索結果連動型広告などに接触する回数や人数や減ってしまうことを意味し、結果的にグーグルの広告売上が下がってしまいます。

現在のグーグルの収益はほぼ広告収入だということを考慮すれば、グーグルにとってはビジネスモデルという根底に関わってきます。

これがグーグルの恐れているシナリオであったはずで、フェイスブックから中の情報が得られないのであれば自らでSNSを独自に立ち上げる、グーグルはこのように考えて自分たちでつくるとしたらどういうSNSがいいのかを検討した結果のひとつのカタチがGoogle+なんだと思います。


Google+が普及するとどうなるか


ここからは、Google+が普及していった場合にどうなるかを考えてみます。

一言で言ってしまうと、グーグルは今ままで得られなかったSNSからのソーシャルデータを手に入れることが可能になります。ソーシャルグラフ(人間関係)、ユーザーの興味・関心の情報です。たぶんこのあたりの情報は喉から手が出るほど、グーグルは欲しいと思っている。

そして、個人的に予想するのがこの間グーグルが積極的に普及に取り組んでいる+1ボタンとの相乗効果です。

以前のエントリーで+1普及の最大のハードルとして、自分が+1ボタンをクリックしたという情報は、友達がその後に検索をして初めて共有されるため、+1をクリックする動機づけとしては弱いと書いたことがあります。

フェイスブックにはニュースフィードといういいねやSendの情報を共有できるプラットフォームが、ツイッターにはタイムラインというツイート情報を共有できるプラットフォームがあることに比べると、グーグルの+1にはこのような友達と共有できるプラットフォームがないのです。

しかし、Google+が+1と連携すれば状況が変わってきます。+1をクリックしたことがリアルタイムにGoogle+上で友達に共有できれば、フェイスブックやツイッターと同じ構図になるからです。

これで+1クリックの動機は少なくとも今以上には大きくなり、より多くの人々が+1を使用すればそれだけグーグルには+1という興味・関心の情報を手に入れることができる。

Google+が普及することで興味・関心の情報が手に入ると、グーグルはこれまではAISASで言うところのSearch部分だったのがその前のAttentionやInterestでも情報が整理できることになります。

こうなるとグーグルの広告でも検索結果連動型だけではなくソーシャル広告への可能性も広がってくるのではと思います。ソーシャル広告については少しずつ事例も出てきており、以下の記事ではその定量的効果が紹介されています。

mixi × Nike ソーシャルバナーの広告効果速報、訪問者213万人、CTR10倍超に|In the looop
ミクシィが動いた これがソーシャル広告のチカラ【湯川】|TechWave


グーグルが新SNSであるGoogle+をリリースする意味は2つあると思っています。

1つ目が、自身が掲げる情報整理という使命を果たすためであり、Google+というSNSの情報・データも集められることで、世界中の情報を整理するという究極の目的に一歩近づく。

2つ目が広告収入というビジネスモデルを強化すること。こんなふうに考えると、グーグルがGoogle+にかける意気込み・本気度は並大抵のものではないと感じます。


Google+への期待


最後に、Google+への個人的な期待を少し書いておきます。グーグルは数多くのサービスを無料で提供していますが、あらためて考えてみるとグーグルのサービスはよく使っていることに気づきます。

グーグル検索はもちろんのこと、Gmailで連絡を取ったりAmazonなどからの商品発送の通知連絡を確認する、スケジュール管理はGoogleカレンダー、RSSはGoogleリーダーで、ブログはDocsを使って書いています。

iPhoneではGoogleマップ、他にもストリートビューやYouTubeだったり、あとはGoogleトレンドなどの各種分析ツールなど、仕事・プライベートによらず非常に重宝しています。

期待したいのは、これらの既存のサービスがGoogle+をベースにして連携されることで、ソーシャルの要素が加わるのではないかということです。少し具体的なイメージを考えてみるため、友人同士でどこかに旅行に行くケースを想定してみます。

Google+上で、旅行先の候補を絞るため現地のストリートビューを見ながら友人と相談し、日程はGoogleカレンダーで調整、現地での食事のお店選びにはグーグルのクーポンサービスであるGoogle Offersを利用することにし、支払いはGoogle Walletで済ます。当日の集合場所はGoogleマップで決める。旅行中の写真はPicassaで、動画はYouTubeで共有する。以上がPCだけではなくスマートフォンでも使え、こんな感じですでにあるグーグルのサービスがGoogle+と連携するイメージです。

他にもグーグルはブックスという電子書籍、クラウドミュージック、ゲーム、Androidというスマートフォン/タブレット用OSを持っており、これらをうまく活用できれば用意できるコンテンツはフェイスブックと同等かそれ以上の規模にもできるポテンシャルを感じます。

Google+の発表があってからはGmailやカレンダーなどがGoogle+に似た新しいデザインに変わってきていることも、いずれはGoogle+と連携するための準備とも考えられ、このへんは色々と想像をしてしまいます。

色々と書きましたが、現時点ではグーグル自身がGoogle+のことをProjectと表現し、Productとは言っていないのでまだまだ完成はしておらず、ユーザーもグーグルアカウントを持っている全ての人々ではないこともあり、SNSとして普及していくかは未知数なところもあります。

SNSは機能やユーザーインターフェイスがどんなに優れていても、結局のところソーシャルグラフがどれだけ充実しているかどうかがSNSがおもしろくなるかどうかに直結するので、ユーザーが増え普及し使われ続けない限りは、上記の内容は絵に描いた餅にすぎません。

Google+が発表されたことで、フェイスブックも対抗策を考えてくるのでしょう。この両者の戦いは今後も注目です。


※参考情報


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。