投稿日 2010/12/27

Googleと「個人データ」を考える

「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすることである」。これはGoogleが掲げるミッションです。

■Googleが無料サービスを提供できるワケ

グーグルは多くのサービスを提供しています。ウェブ検索、Gmail、グーグルドキュメント、カレンダー、グーグルマップ、YouTube、等々、ここで挙げきれないほど。そして特徴的なのは無料でユーザーに提供していることです。

なぜ無料で提供しているのでしょうか。別の表現をすればどこでお金を取っているのでしょうか。その答えは広告にあります。アドワーズという検索結果連動型の広告やアドセンスというコンテンツ連動広告がそれです。グーグルの考え方は、自社のサービスを使うユーザーが増えれば増えるほど、そこで表示される広告価値が上がる。よって、ユーザーには無料で提供してくれるのです。

■個人データの取得と活用

実は広告以外に、無料で提供する別の目的があると思います。それがユーザーの利用情報である「個人データ」の取得。

例えば、グーグルで検索に使われた検索語(クエリー)は履歴として蓄積され、別のユーザーの検索に活かされています。グーグルの検索ボックスに入力していくと、検索語の予測が複数表示されますが、あれが活用例です。このように多くのユーザーが使えば使うほど、グーグルの検索精度も向上していきます。グーグルにとっては個人データの取得、ユーザーにとっては利便性の享受という、ウィン-ウィンの関係が見えてきます(図1)。


個人データ活用のわかりやすい例がグーグルのブログ上で公表されていました。「Google 年間検索ランキングで、2010 年を楽しく振り返ろう」という記事がそれです(以下は記事から一部引用)。

出所:Google Japan Blog

■データから情報へ

個々人がグーグル検索を使って知りたいことは千差万別です。しかし、ユーザーの利用履歴という個人データを積上げることで、上記の例では今年の流行が見えてきます。個人データという状態では必ずしも整理されておらず量も膨大ですが、蓄積し体系立てることでデータは「情報」となります。

このことに関して、ドラッカーは著書「明日を支配するもの―21世紀のマネジメント革命」で次のように述べています。「整理して体系化しないかぎり、データは情報とならず、データにとどまる。意味をなすには、体系として把握しなければならない」。

個人データについて思うのは、ネットがありモバイルも含め個人の情報発信が普及しなければ、可視化できないものであったということです。

例えば、SNSやツイッターで発信される情報の多くは、昔は個人の中でしか存在しないようなものでしたが、今ではネット上に乗せることで情報が共有されます。個人データが価値を持つような有効活用される背景には、こういった技術の進歩に加え、データ収集システムやデータハンドリングなど、データから情報体系への仕組みができてきつつある点も大きいように感じます。

■Android OS普及と個人データ取得

グーグルに話を戻しますが、前述のようにグーグルが提供するサービスのユーザー数が増えれば増えるほど、また使用すればするほど、グーグルには個人データが集まってきます。PCでの使用に加え、アンドロイドOSのスマートフォンが普及していくことで、ますますその傾向が強まる可能性があります。

ちなみに、asymcoというハイテク市場分析系ブログで企業アナリストであるDediu氏が2011年末までのスマートフォンの普及動向を予測しています(図2)。

出所:asymco

左のブロックは米国調査会社ニールセンの調査データが出所です(2010年12月現在の最新の調査結果はこちら)。そして右側はDediu氏による推計で、緑色のアンドロイドOSシェア(人数ベース)が伸びているのがわかります。

■個人データ独占という課題

このように、グーグルはこれからも個人データの取得を拡大させる可能性がありますが、それは同時に、グーグル1社が独占的に個人データを収集するという課題も抱えることになります。その例がグーグルとヤフーの検索技術提携により、両社の日本での検索シェアは9割になることで、これに対しては反対する声や適切な競争環境を損なうことへの懸念もあります。

個人データが有効に活用されること自体は、世の中がより便利になる方向にあると思っています。ただ、よりよい世界になるには一方で課題も存在するのが現状です。


※参考情報

Google 年間検索ランキングで、2010 年を楽しく振り返ろう|Google Japan Blog
http://googlejapan.blogspot.com/2010/12/google-2010.html

Half of US population to use smartphones by end of 2011|asymco
http://www.asymco.com/2010/12/04/half-of-us-population-to-use-smartphones-by-end-of-2011/

U.S. Smartphone Battle Heats Up: Which is the “Most Desired” Operating System?|Nielsen
http://blog.nielsen.com/nielsenwire/online_mobile/us-smartphone-battle-heats-up/

経済教室|日本経済新聞2010年12月24日(金)朝刊


明日を支配するもの―21世紀のマネジメント革命
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投稿日 2010/12/24

スマートフォンって何だろう?

日本経済新聞社が毎年発表している日経MJヒット商品番付で、2010年の東の横綱はスマートフォンでした(表1)。2010年の今年を振り返ってみると、ソフトバンクからはiPhone4、ドコモからXperia、Galaxy sが発売され、auからも待望のスマートフォンであるIS03が登場しました。

日本経済新聞から引用

■スマートフォンの需要増加と活用範囲拡大

今後のスマートフォン需要増加を示唆するデータを見てみます。野村総研の調査報告によれば、国内の携帯電話端末市場におけるスマートフォンは今後も伸び続けるようです。09年度の携帯市場は需要が落ち込んだようですが、10年度以降はスマートフォンが牽引し15年度は10年度比で携帯電話出荷台数が43%増。15年度の出荷台数のうちスマートフォンは70%を占めると予測しています。ちなみに10年度上期のデータですが、携帯出荷台数のスマートフォンシェアは11.7%とのこと(MM総研)。まとめると、ざっくりと言ってしまえば、スマートフォンは携帯市場全体を拡大させ、かつ出荷台数シェアが7倍に増えるのです。

次にスマートフォンの活用範囲拡大について。日経トレンディ12月号で、これまた毎年恒例の来年のヒット商品を予測する「2011年ヒット予測ランキング」が掲載されていました。1位が「得するジオゲーム」、そして3位が「スマホリンク家電」で、ともにスマートフォンに関係するものです。

まず1位のジオゲームですが、foursquare(フォースクエア)やコロプラ(コロニーな生活☆PLUS)などによる位置情報を活用したサービスで、これにSNSなどのソーシャル性や飲食店などの割引クーポン、あるいは旅行ツアーなどが融合するだろうと予測しています。一方、スマホリンク家電ですが、これは様々な家電とスマートフォンが連携するという話で、テレビやレコーダー、カーナビ、玩具などです。テレビ・レコーダーとの連携ではスマートフォンがリモコンとなるだけではなく録画予約もアプリでできたり、玩具ではスマートフォンでラジコンヘリコプターの操作ができスマートフォンの画面上にはヘリ搭載カメラからの映像が見られるようです。こんな感じで、スマートフォンが様々な家電のハブのような役割を担うようになるのではないでしょうか。

■世の中のIT進化スピードと同期する

ここまでスマートフォンの将来需要増加や今後の活用範囲拡大について見てきました。個人的にもiPhoneを使っておりもはやなくてはならないほど重宝しているわけですが、そもそもスマートフォンって何がすごいんだろうと考えてみました。で、自分の中での1つの結論として、従来の携帯電話(フィーチャーフォン、ガラケー)と比べて、スマートフォンは世の中のIT進化スピードに同期する点にあるというものです。

スマートフォンの何が便利かと言えば、豊富なアプリであったり操作性があります。別の特徴として、アプリの追加、OSやアプリをアップデートすることができ、常に最新の状態に維持できることがスマートフォンの優れている点だと思います。しかもアップデートの大抵の場合が無料で。もちろんアップデートすることで不具合が発生するリスクもありますが、最新の状態が維持できるということは、それはつまり世の中のITが進化するスピードと同じように自分のスマートフォンもアップデートできるのです。

従来の携帯はハード面の要素が強く、スマートフォンはアプリなどのソフトの要素が大きいと感じます。携帯をハードと見た場合の買い替えサイクルは、3年半もあります(MM総研調べ)。これはつまり、携帯をアップデートするのに3年半も時間を要するということです。一方のスマートフォンのOSやアプリのアップデートはどうでしょうか。OSやアプリによりそのサイクルは様々であるとは言え、明らかに携帯買い替えより早いサイクルでまわっています。新しいアプリも次々に登場しスマートフォンに追加することができます。

世の中のIT進化と同じように自分のスマートフォンが進化(アップデート)すると、何か新しい技術やサービスが登場すればそれがすぐに自分のスマートフォンにも反映できます。こうして、新サービスの提供とユーザーの評価・フィードバックが従来よりも短い期間で行なわれ、ますます進化が加速していくのではないでしょうか。これが世の中のIT進化スピードに同期するスマートフォンの大きな特徴だと思います。こう考えると、まだまだスマートフォンの可能性っていろいろあり、今後の進化が楽しみです。

※参考情報

2015年度までのIT主要市場の規模とトレンドを展望(2)(2010.10.20)|野村総合研究所
http://www.nri.co.jp/news/2010/101220.html

2010年度上期国内携帯電話端末出荷概況(2010.10.26)|MM総研
http://www.m2ri.jp/newsreleases/main.php?id=010120101026500

携帯電話端末の買い替えサイクル調査(2009.3.12)|MM総研
http://www.m2ri.jp/newsreleases/main.php?id=010120090312500


投稿日 2010/12/23

Netflixのビジネスモデルとユーザーの利便性

アメリカにネットフリックス(Netflix)というDVDレンタル会社があります。日経ビジネス2010.12.20/27号でネットフリックスが取り上げられていました。記事内にあったネットフリックスの2010年度の数字を引用しておきます(いずれも見込数で、2010年よりカナダにも進出)。

・会員数:1900万人
・売上高:21億5000万ドル(約1800億円)
・純利益:1億4600万ドル(約120億円)

■ネットフリックスのビジネスモデル

同社ではDVDレンタルだけでなく、ストリーミングでも利用可能です。ストリーミングというのは動画などの重いファイルを受信しながら再生する技術で、YouTubeなどでも採用されています。ネットフリックスは無店舗経営であり郵送とストリーミングでの提供に特化しています。返却について日本語のWikipediaには、「アパートなどの集合住宅以外は、郵便物は自宅の郵便受けに入れておけば配達員が配達のついでに回収して行くため、返却も容易である。」と記載されています。

料金は全て月定額制で、例えば月額7.99ドルでストリーミングが無制限に、9.99ドルでDVDレンタルとストリーミングで映画が見放題。また、店舗型のDVDレンタルにある延滞料金は存在しません。実はこれ、同社のリード・ヘイスティングス(Reed Hastings)CEOがネットフリックスを創業したきっかけにもつながります。Fortuneの記事には、レンタルした「アポロ13」のビデオの延滞料金が40ドル発生してしまい、この時に感じた理不尽さから郵送で貸し出すビジネスモデルのアイデアを思い付いたエピソードが紹介されています。これは1997年当時のこと。その後1999年に、現在の月定額での料金モデルに変更し一気に人気を博しました(参照:Wikipedia)。

■ネットフリックスの利便性

DVDをレンタルする時に自分でお店に足を運ばなくてよいというのは、アメリカでは日本以上にメリットが大きいように思います。というのは、子どもの頃に少しアメリカに住んでいたことがあるのですが、ニューヨークとかロサンゼルスなどの一部大都市を除けば、アメリカにはすぐ近所にコンビニが、車社会なので最寄の駅にツタヤがあるという日本のような環境ではありません。だからお店へレンタルしに行こうとすると、車で出かけて選んで帰ってくるだけで1時間とかかかってしまうかもしれません。そう考えると、ネットフリックスのように郵送レンタルやストリーミングでの提供に日本以上のユーザーメリットがあるように思います。

ネットフリックスのHPを見てみると、ストリーミングで見られる端末が充実していると感じました。PCで再生できるのはもちろんのこと、ゲーム機では、プレステ3をはじめ、WiiやXbox360にも対応しています。さらには、ソニーやパナソニック、LG、サムスンなどからはネットフリックス内臓のテレビが発売されているようです。ブルーレイプレイヤーにも入っています。モバイルにも対応しており、iPhoneやiPadへはネットフリックスアプリを提供しています。

以上のような、「映画をレンタルするのに出向く必要がない」、「見られる端末が充実していること」はユーザーにとってすごく便利だなと感じます。コンテンツを見たい時に手に入れることができ、見る端末環境の選択肢がある。これって言われれば当たり前のような状況かもしれませんが、日本ではまだまだこのような環境は整っていないのではないでしょうか。ようやくApple TVなどの登場しましたが、映画のレンタルはお店に出向くというスタイルが一般的だと思います。

■見たい時に見たいものを見る

理想を言ってしまえば、映画だけではなくテレビ番組や音楽PVなどあらゆるコンテンツを「見たい時に」「見る環境に合った端末で」見ることができることです。これが実現するためには、対応する端末、ストリーミング配信や課金制度が整ったプラットフォーム、豊富なコンテンツなど、3層それぞれでの整備・充実が不可欠です。最近、Apple TVの販売台数が100万台と突破するという報道がありましたが、ストリーミングでの視聴はますます一般的になるはずです。となれば、日本でもネットフリックスのようなビジネスモデルが普及していくのを期待したいです。

※参考情報

Netflix
http://www.netflix.com/

Netflix|Wikipadia
http://en.wikipedia.org/wiki/Netflix

ネットフリックス|Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%95%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9

How Netflix got started|Fortune
http://money.cnn.com/2009/01/27/news/newsmakers/hastings_netflix.fortune/

Netflix対応デバイス
http://www.netflix.com/NetflixReadyDevices?cid=Game+Consoles

Apple TV、今週中に100万台突破の見込み―iTunesのTV、映画ストリーミングの利用も急上昇|TechCrunch
http://jp.techcrunch.com/archives/20101221new-apple-tv-sales-to-top-1-million-this-week-itunes-tv-show-and-movie-rentals-soaring/

Reed Hastings: Leader of the pack|Fortune
http://tech.fortune.cnn.com/2010/11/18/reed-hastings-leader-of-the-pack/

Fortune 2010 Business Person of the Year: Netflix CEO Reed Hastings|WebNewser
http://www.mediabistro.com/webnewser/fortune-2010-business-person-of-the-year-netflix-ceo-reed-hastings_b9689


投稿日 2010/12/18

グルーポンの大幅割引の目的と課題

ビデオリサーチインタラクティブから、グルーポンなどの「クーポン共同購入サイトの動向」が発表されています。自宅PCからの2010年10月度の推定訪問者数は306万人で、わずか2か月前の8月から2倍の規模になったそうです(図1)。8月:159万→10月:308万人。なお、集計対象のクーポン共同購入サイトは、グルーポンやポンパレを含む計92サービスです。

 クーポン共同購入サイト全体の推定訪問者数 時系列推移(2010年4月~10月)(自宅PC)

 出所:ビデオリサーチインタラクティブ

■グルーポンとモラタメ

クーポン共同購入サイトの仕組みは、一言で表現すると「みんなでクーポンを買って割引を共有する」というものです。

グルーポン(Groupon)の語源はGroup+Couponです。もう少し詳細を見ると、各クーポンは締切期限や規定人数が設定されており、期限内にその人数が集まらないとクーポン購入が成立されません。

そこで、購入希望者は成立されるようにクーポン情報を宣伝することになりますが、そこで威力を発揮するのがツイッターやブログなどの個人による情報発信ツール。ある程度まとまった人数で買うとディスカウントが効くこと自体は目新しいものではありませんが、それにネット上にあるツイッターなどのリアルタイム性+ソーシャルがうまくマッチした仕組みだと思います。

クーポン共同購入サイトとはやや仕組みが異なりますが、自分の欲しい商品・サービスが割引されて利用できるサイトに、モラタメサンプル百貨店などがあります。

例えばモラタメは、モラえる+試(タメ)せるからきている名前で、新商品などの商品を無料でもらえたり、送料のみの負担で試せるのが特徴です。送料が有料でもその商品の定価よりは安いので消費者にとっては割引と同じことと言えます。モラタメやサンプル百貨店の特徴は、使用した後にその商品の感想をブログやコメントを通じてモラタメに返す点にあります(図2)。


■なぜ大幅割引や無料なのか

ではなぜグルーポンには大幅な割引があり、モラタメは無料(一部送料のみ負担)なのでしょうか。

まずグルーポンについて、なぜクーポンが大幅に割り引かれる(50%OFFなど)のかを考えてみます。思うに、共同購入クーポンを発券することが、広告やプロモーションとして位置づけられているからではないでしょうか。つまり、大幅な割引で興味関心を引き立たせ、自分たちのサービスや商品を利用してもらう。仮に赤字であっても、その顧客が自分たちのことを認知してくれる、さらにはまた来てくれる(リピート)を期待してのことです。

一方のモラタメ。無料であることのカギは、使用後の商品のフィードバックにあります。つまり、無料の代わりに感想・評価を教えてね、という仕組み。企業にとっては実際に使った消費者の声が手に入るわけで、少なくともモラタメで提供する商品の価格以上に価値があると判断しているからではないでしょうか。消費者からの評価を商品改良の参考にしたり、ターゲットの検討、販促・プロモーション等々に活かしていくのだと思います。

■それぞれの課題を考えてみる

次に考えおきたいのが、グルーポン系とモラタメ系の目的が本当に達成されるのかという点です。

まずモラタメの場合ですが、目的は消費者の声を集めることです。企業にとって価値があるのは実際に使ってくれた人の評価が得られる点にあります。しかし、そもそも評価を送ってくれた使用者が単に無料だからその商品をもらった・試したことも考えられ、時には商品のターゲットとはズレている人たちの評価を集めてしまうかもしれません。つまり、その商品を買ってほしい人の感想が集まらなければ、その評価を次の商品施策に活かしたとしても有効とは言えず、時には逆効果となってしまうことも考えられます。

そしてグルーポン。これはあくまで推測ですが、グルーポンの場合はクーポンを利用するお客が、単にお得だからという理由だけということが考えられます。共同購入クーポンを発券する目的は自社サービスの認知を広げること・リピート顧客を増やすことにあると思っていますが、このようなお客さんはその目的が達成できない可能性があります。であれば、クーポンを提供することは収益を下げる要因にもなり兼ねません。

もう一つ課題。グルーポンなどのクーポン共同購入については、プレイヤーの淘汰および独占による弊害も出てくる可能性があります。日経ビジネスには、市場参入企業は100社を超え競争が激化し、早くも、勝ち組・負け組の構図が鮮明になりつつあるという記事も見られます(図3)。

 出所:日経ビジネスオンライン

そして日経ビジネス(2010.12.20・27号)には、「グルーポンも独占禁止法違反?」という記事が掲載されています。記事によれば、同誌が以前に入手したというグルーポンが飲食店と結んだ契約書の「パートナー義務」規約内に、パートナーは契約期間の終了後24カ月間において、「理由の如何を問わず、国内企業におけるグルーポンと類似のウェブサービス(Piku、KAUPON、ポンパレ、Qponを含むが、これらに限られない)において出稿、掲載等をしない」とする旨の条項が含まれていたそうです。なお、日経ビジネスの取材後にグルーポン側では急きょ規約を変更し現在はないとのこと。これは、公正取引委員会の立ち入り検査があったDeNAと同じ構図です。

モバゲーやグリーなどのゲームやグルーポンなどの新興ネットビジネス市場は先行優位性が大きいと思います。つまり、先行し顧客を取り囲んでしまえば独占して利益を得られる構造なのではないでしょうか。ユーザーにとっては自分の知らないところでいつの間にか独占状態が起こっており、お得だと思っていてもそれによる負担が発生しているのかもしれません。

※参考情報

さらに拡大を見せる、クーポン共同購入サイトの動向|ビデオリサーチインタラクティブ
http://www.videoi.co.jp/release/20101115.html

グルーポン市場、大手寡占へ|日経ビジネスオンライン
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20101126/217291/

グルーポンも独占禁止法違反?|日経ビジネスオンライン
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20101216/217577/


投稿日 2010/12/15

Twitter利用者率70%は本当か?

トレンダーズ株式会社が運営するPR TIMESは2つの調査結果を発表しました(ともに10年12月6日)。今回のエントリーではそれぞれの調査結果から、データを見る上での注意点を自戒も込めて書いておこうかと思います。

SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に関する意識調査|PR TIMES
大学生のソーシャルメディア利用実態に関する調査|PR TIMES

各調査の概要を整理すると、以下のようになります(表1)。


■mixiなどの利用率

2つ調査結果では、mixi、Twitter、Facebookの利用率が発表されています(表2)。

表の左のSNS意識調査では、mixiの利用率は96.6%と非常に高い結果が出ています。ですが、調査結果を読んでみると、SNS利用者ベースの数字であることがわかります。つまり、SNSを利用している586人のうちの96.6%ということで、SNS非利用者(230人)は分母に含まれていません。Facebookの12.3%も同様にSNS利用者ベースです。そこで、利用率の分母をSNS非利用者も含めて計算をすると、次のような結果になります(表3)。

こうしてベースをそろえて見ると、mixi、ツイッター、フェイスブック全てにおいて、SNS意識調査のほうが利用率が低いことがわかります。

■利用率の差は実施期間の違い?

では、なぜ同じ利用率を聞いた調査なのに低くなるのでしょうか。2つの調査仕様を見てみると、実施期間が7月と11月で異なることに気づきます。ということは、7月から11月にかけて利用者が増えたことで利用率が増加したのでしょうか。やや乱暴ですがグラフにするとこんな感じです(図1)。


それにしてもこの増加状況は本当なのでしょうか。わずか4か月くらいの間で、例えばツイッターの利用率は3倍、フェイスブックは4倍になっています。mixiですら+10ポイントの伸びを示しています。大学生だけの数字とはいえ、いくらなんでもちょっと増加しすぎな気もします。個人的には、単なる実施期間の違いではないと考えます。

■調査手法による回答者の偏り

もう一度、それぞれの調査仕様を確認すると、調査手法に違いがあることがわかります。すなわち、アンケート自記入法とインターネット調査。前者はおそらく紙に直接回答するアンケート、後者はネット上で回答するアンケートです。

ここで注意すべき点は、調査方法が違えば回答する人たちもまた異なるということです。何か当たり前のように聞こえるかもしれませんが、この違い認識は結構重要だと思っています。あいにくこれを示すデータは用意していませんが、ネットでのアンケート調査は紙上でのアンケート方法に比べて、ネット利用度の高い人たちが回答をする傾向があります。もちろん、ネットの利用頻度が低い回答者も存在しますが、回答者全体で見るとネット利用度は相対的に高くなります。このイメージを図にすると以下のようになります(図2)。


記入式調査の回答者はネット利用度が低い人の割合が大きくなり、逆にネット調査の回答者は高い人の比率が高くなるのです。このような状況を専門的な表現では、「バイアス(偏り)が発生する」と言います。例えるならば、イタリアンレストランで食事している人と焼き鳥屋で食事している人それぞれに、「あなたはパスタが好きですか」と聞けば、前者のほうが「好き」と答える人が多い傾向にある、ということです。もちろん、数人レベルではわかりませんが、100人とか数百人単位で聞けば、おそらくそのような傾向が見られるはずです。

話を2つの調査における利用率の違いに戻します。ネット調査である「ソーシャルメディア利用実態意識調査」のほうが、総じて利用率は高いという結果でした(図3)。その理由として考えられることは、図2のような回答者に偏りの発生です。要するに、そもそもネット調査の回答者の中にはネット利用者が多くいた、故にツイッターやフェイスブックなどの利用率が相対的に高い結果になったのではないか、ということです。


当然これは単なる推測にすぎず、これを科学的に説明するデータは用意していません。ただ、ここで言いたいのは、どんな調査結果でも回答者の偏りは少なからず発生してしまうということです(例外は全数調査ですが実施は非現実的)。

■真実とのかい離は必ず発生する

では、どちらの結果が正しいのでしょうか。あえて言うならば、「どちらの調査結果も正しく、どちらの結果も間違っている」のだと思います。何か身も蓋もないように聞こえるかもしれませんが、どんな調査でも手法や回答する対象者の選び方で「真実」とのかい離は発生します。その前提条件(手法・回答者)を踏まえてデータを解釈するのであれば「正しい結果」であるし、一方で真実とかい離があるという意味では「間違った結果」になるのです。

今回の例で言えば、(ネット利用者は相対的に少ないであろう)首都圏の大学生に対しての記入式調査であればツイッター利用率は20%超、(ネット利用者は相対的に多いであろう)首都圏大学生へのネット調査であれば70%になる、ということです。だからこそ重要なのは、様々な調査手法や対象者の違いから発生するであろう偏りを認識した上で「何を知りたいか」を見極め、適切な調査手法・対象者を選択すること、あるいは結果のデータを見ることではないでしょうか。(そもそも、今回取り上げた2つの調査は目的である「知りたいこと」が同じではなさそうなので、それぞれの結果を並べて比較すること自体にあまり意味がないかもしれません)

■まとめ

最後に、ポイントをまとめておきます。
・パーセント(%)を見る時は何をベースにした数字なのかを要確認 (分母に注意)
・調査には手法や対象者により、少なからず「真実からのかい離」が発生する (調査バイアス)
・それを前提に、「何を知りたいか」を見極め、適切な調査手法・対象者を選択し、結果のデータを見ることが大事


投稿日 2010/12/12

00年代ヒット商品グランドチャンピオンから考える「消費者のコレを変えた」

日経トレンディの2010年12月号に、「2000~2009年 ヒット商品グランドチャンピオン」という企画が掲載されていました。ゼロ年代のヒット商品を発表するという企画です。同誌では毎年12月号でその年のヒット商品ベスト30を発表しており、2000~09年の10年間に発表されたベスト30の計300アイテムから選ばれています(メーカー等の商品企画・開発に関わる208人へのアンケート調査)。その結果は以下の通りです。
投稿日 2010/12/05

「時は金なり」 ではない




ドイツの作家ミヒャエル・エンデ (1929-1995年) の名作の1つに 「モモ」 があります。

話を聞き人々を幸せな気持ちにすることができる不思議な少女モモと、モモたちに忍び寄る時間どろぼうの男たちが描かれた物語です。

この本は小学生の時に一度読んだことがあるのですが、ふともう一度読みたくなりました。

本には対象は小学5・6年以上と書かれていますが、なかなか考えさせられる深い本です。あらためて読むと、この物語の主題は 「時間とは何か」 を問うものだと気づかされるからです。


「モモ」 の物語


おもしろかったことの1つに、物語に登場する時間どろぼうたちの存在があります。彼らは 「時間貯蓄銀行」 の行員であり、人々に自分たちの時間を節約するよう推奨します。その営業の仕方は例えば以下の通りです。

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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。