投稿日 2024/04/25

ネガティブへの共感。「すみっコぐらし」 の差異化と余白からの価値創出

#マーケティング #差異化 #顧客価値

ビジネスでは競合との差異化は必要とされますが、差異化から本当にお客さんにとって 「意味のある価値提供」 につながっているでしょうか?

今回は人気キャラクターの 「すみっコぐらし」 の事例から、差異化が顧客価値にどうつながり、商品やコミュニケーションに 「余白」 を持たせることの重要性を探ります。

すみっコぐらし



個性的なキャラクターたち


少しネガティブで個性的なキャラクターが集まっているのが 「すみっコぐらし」 です。

すみっコぐらしを手掛けるのは、「たれぱんだ」 や 「リラックマ」 といったオリジナルキャラクターによる文具・雑貨の製造販売やライセンス事業を行うサンエックスです。

すみっコぐらしのサブタイトルは 「いつもどこかのすみっこでひっそりと暮らしているすみっコたち。ここがおちつくんです。」 。

キャラクターはいずれも個性的です。恥ずかしがり屋の 「ねこ」 、寒がりの 「しろくま」 、常に自信が無い 「ぺんぎん?」 、正体を隠している 「とかげ」 、全身の 99% が脂肪でお肉が 1% の食べ残しである 「とんかつ」 などです。

コンプレックスへの共感


すみっコぐらしは、ネガティブな部分を特徴としていて、この点は一般的なキャラクターとは真逆です。しかしこのネガティブさがむしろ 「かわいさ」 や 「共感」 を呼んでいるのが人気の秘密でしょう。

すみっコぐらしへの共感についてもう少し掘り下げると、どのキャラクターにもどこか 「かわいそうな印象」 があります。順風満帆な強いヒーロー・ヒロインへのかっこいいやかわいいという憧れではなく、ヒーロー像とは対局にあるすみっコぐらしの 「弱み」 や 「コンプレックス」 に人は心を惹かれるのでしょう。

たとえば、学校や仕事で何か嫌なことがあって落ち込んでいるときに、すみっコぐらしのキャラクターを見ると、ふと今の自分に状況が似ていると感じるような、そんな共感の気持ちを抱かせる存在なのがすみっコぐらしです。


差異化と提供価値


では、すみっコぐらしからマーケティングの観点で学べることを掘り下げていきましょう。

主役ではなく脇役的な存在


すみっコぐらしの立ち位置は、一般的なキャラクター設定とは逆というのはあらためて興味深いです。

通常、子ども向けのキャラクターは華やかで派手です。舞台の中央で光が当たる主役として、憧れの対象となるような完璧な存在として描かれます。

一方のすみっコぐらしは、文字通り隅っこのほうでひっそりと暮らしていて、ネガティブな部分を特徴として打ち出しています。舞台の端にいるような脇役的なキャラクター設定です。

意味のない差異化 vs 価値をつくる差異化


マーケティングの視点で捉えれば、すみっコぐらしは一般的なキャラクターに比べて差異化を図っているわけですが、この違いが 「コンプレックスへの共感」 というファンから支持される要因につながっています。つまり、差異化がしっかりと他にはないユーザーやファンへの価値を生み出しているわけです。

他と違いをつくるという差異化はビジネスで重要視されます。しかし、落とし穴になるのは、競合他社との差異化に注力するあまり、その違いがお客さんにとっては気づかれなかったり認識されず、お客さんには価値のない差異化になってしまうことです。

顧客不在の自己満足にすぎない差異化では、その違いがお客さんへの顧客価値にならず、ビジネスでは意味がありません。

その違いは想定するお客さんにとってどんな意味合いがあるのか。差異化が結局のところお客さんが嬉しいと思えるような価値につながっているのか。この観点が商品開発やマーケティングでは大事なのです。

ストーリーやキャラクターへの余白がある効果


もう1つ注目したいのは、すみっコぐらしの物語や世界観の中にある 「余白」 です。

ストーリーに起伏が多い漫画やアニメとは異なり、すみっコぐらしの物語は刺激的な内容が比較的少ない印象があります。

その分、すみっコぐらしのストーリーやキャラクターへの自分なりの解釈をする余裕ができます。余白部分があることで、癒やしや共感の気持ちが生まれるわけです。

このように、お客さんが自らの想像力を働かせる余白を意図的に残し、そこに愛着などの感情を自由に入れられるようにしておくことも、マーケティングコミュニケーションやパッケージデザインなどへの示唆を与えてくれます。


まとめ


今回は 「すみっコぐらし」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 差異化はお客さんからの共感や便益などの顧客価値につながるべき。単なる競合との違いを顧客不在で追求するのではなく、お客さんにとって意味のある差異をつくることが重要

  • コミュニケーションや商品に 「余白」 を入れることで、お客さんが自分なりの解釈や想像を働かせるきっかけをつくれる。余白に共感などの感情をお客さんが自由に入れられるようにしておくと商品への愛着につながる


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。