投稿日 2024/04/22

三菱鉛筆 「uni タブレット授業えんぴつ」 。教育現場での 「新しい問題」 を解決しての価値提供

#マーケティング #問題設定 #価値提供

タブレット端末での授業が普及する小学校のデジタル化の中で、新しい問題が生まれているようです。1つ1つは小さな不便でも、やがては学習の大きな障害となることもあります。

今回は、三菱鉛筆が新しい問題をどのように解決し、児童や先生たちに価値をもたらしたのかを探り、マーケティングに学べることを紐解きます。

uni タブレット授業えんぴつ



ご紹介したいのは、三菱鉛筆が2023年11月に発売した 「uni タブレット授業えんぴつ」 です。

小学校でのタブレット端末を用いた授業を想定した、現在の教育現場に合わせて開発された新しい鉛筆です。特徴は、鉛筆の材質の光沢を減らすことで、普通の鉛筆よりも黒く濃く書けることです。

タブレット授業での "不" 


小学校で実施されるタブレットやパソコンを使った授業では、児童がノートやプリントに書いたものをタブレットのカメラで撮影し、画像を共有しながら授業が進められます。

ノート・プリントに鉛筆で書いた文字をはっきり読めるように撮影するのは、子どもたちにとっては難しかったりします。

というのも、端末はスマホではなくタブレットで大きいサイズなので、端末の影になって手元が暗くなるからです。また、鉛筆の芯の主原料は黒鉛なので、鉛筆の文字は黒色というよりグレーがかっていて、さらには文字が光を反射して撮影すると見づらくなるというのもあります。

開発の狙い


三菱鉛筆は随時、ユーザーへのヒアリングを実施していますが、調査から先ほど見たような 「タブレット授業での不」 を見出しました。

教師や教育関係者、児童の意見を聞くと、タブレット端末を使った授業への不都合なところがわかりました。「授業が止まってしまう」 「文字がよく見えず、集中して授業を聞けない児童が出てくる」 「自分の意見が伝わりにくくて悲しい」 といったネガティブな声が多かったとのことです (参考記事) 。

こうしたタブレットを使った授業での 「不」 を見出したことが、「uni タブレット授業えんぴつ」 開発のきっかけになりました。タブレットで撮影したり教室のスクリーンに映したりする授業でも、使いやすく文字が見やすい鉛筆を作れば、先生も児童たちにも役に立ているという思いからです。

使い心地の UX を追求


三菱鉛筆の開発チームは、従来の鉛筆と比較して使い勝手が損なわれないことに注力しました。いつもの鉛筆の使い心地を保ちつつ、タブレットを使う授業でも使える鉛筆を目指しました。

開発過程では、試作品と従来の鉛筆を何度も比較し、書き味の滑らかさを検証しました。また、書き心地だけではなく消しゴムでの消しやすさも重視し、さまざまな筆圧や撮影条件下での実験を行いました。

社員やその家族、さらには実際の小学校の環境でも試験が行われました。学校ごとに異なる天井の高さや照明設備などの条件下での使用感を検証し、人の感触も評価基準に入れたとのことです。

こうした開発を通じて、実用性と快適な使用感を両立させることに成功したのが 「uni タブレット授業えんぴつ」 です。黒く・濃くという特徴で、商品名のネーミングがわかりやすい鉛筆です。


問題発掘からの価値提供


では三菱鉛筆の話から、学べることを掘り下げていきましょう。

この事例は、問題発掘からの価値提供への進め方に学びがあります。

商品開発やマーケティングを進める上で大事なのは、以下の流れで価値をつくっていくことです。

  1. 生活者環境や生活者の中で新しく起こっている変化や現実を直視する
  2. 新しい現実の中で生まれている 「新しい問題」 を発見する
  3. その問題への解決策をつくる
  4. 解決することで他にはない独自の価値を提供する

では 「uni タブレット授業えんぴつ」 に当てはめて見ていきましょう。

新しい現実の把握


まずはじめに、生活者や顧客環境の変化を理解することからです。

今回の三菱鉛筆の事例では、教育現場でのデジタル化、具体的にはタブレット端末を使う授業がその変化でした。このような環境の変化は、従来の製品・サービスでは対応できない事象やこれまでにはなかった歪みが生じ、ビジネスの機会を生み出します。

新しい問題の発見


次に、そうした新しい環境の下で起こっている 「新しい問題」 を発掘していきます。

三菱鉛筆の場合は、タブレットでの授業で子どもたちが鉛筆で書いた文字が撮影時に読みにくくなり、授業の進行の妨げになってしまっているという問題を発見しました。従来のタブレット端末を使っていなかった教育環境では発生していなかった問題であり、デジタル化によって初めて生まれた事象です。

解決策の開発


自分たちが解くべき問題が明確になったら、解決策をつくります。

三菱鉛筆は、タブレットを使った授業での問題を解決するために黒く・濃く書け、それでいて光沢を抑えた新しい鉛筆の開発に取りかかりました。書き心地だけではなく消しゴムでの消しやすさも重視し、テスト検証を繰り返し実用性と快適な使用感を両立させた鉛筆ができあがりました。

独自価値の提供


最終的に大事なのは、新しい問題への解決策が 「お客さんにとって価値」 をもたらしているかです。

三菱鉛筆の新しい鉛筆 「uni タブレット授業えんぴつ」 は、デジタル教育環境における新しい問題を解決し、それによって児童や教師にとって価値をもたらしました。

鉛筆で書いた文字や絵の撮影が簡単にでき、画像を共有して映し出した画面やスライドでも、鉛筆で書いた文字がよく見えるので、授業を進める邪魔にはなりません。先生も児童も集中力を切らすことなく授業に臨めます。

ここまで見てきた一連の流れは、環境の変化を捉え、新たなニーズに応えることで新しい価値を市場につくり出すというビジネスのお手本のような事例です。


まとめ


今回は三菱鉛筆 「uni タブレット授業えんぴつ」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントのまとめとして、問題発掘から価値提供までの流れです。

  1. 生活者環境や生活者の中で新しく起こっている変化や現実を直視する
  2. 新しい現実の中で生まれている 「新しい問題」 を発見する
  3. その問題への解決策をつくる
  4. 解決することで他にはない独自の価値をお客さんに提供する


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。