2011/12/27

複雑な社会変化をシンプルに見せるとっておきのS字波モデル

2011年もいろんなことがありました。つくづく変化の激しい世の中だと思います。一方で変化が早いからこそ、一歩引いて大局的にものごとを見ることも時には必要です。私たちの社会を俯瞰的な視点で捉えるのに、おもしろいモデルがあるので紹介します。「情報社会のいま ―あたらしい智民たちへ」(公文俊平 NTT出版)という本で提示されているS字波モデルです。

■社会の変化を見るためのレンズ:「S字波モデル」とは

引用:書籍「情報社会のいま ―あたらしい智民たちへ」(公文俊平 NTT出版)


横軸は時間、縦軸には社会や技術の発展などの指標と置いた場合、出現・突破・成熟・定着の4つの局面があるというものです。発展の仕方として、1.遅い成長(出現)、2.急速な成長(突破)、3.成熟を経て発展が横ばいに(成熟~定着)、という3つの段階と考えてもいいかもしれません。

本書ではもう1歩踏み込んだモデルが登場します。S字波は小さなS字波に分解できるという考え方。冒頭でS字波モデルは社会を俯瞰的に見るために有用と書きましたが、その心はS字波の分解にあります。本書に出てきた表現で言うと、S字波は社会の流れを観察するための「レンズ」であり、レンズで拡大・縮小することで局所的にも大局的にも捉えることができるのです。

引用:書籍「情報社会のいま ―あたらしい智民たちへ」(公文俊平 NTT出版)


■現在は異なる変化が同時に起こっている

それではS字波モデルを使って、まずは大きな視点で見てみます。本書では主に先進国での近代化過程という大きな流れを軍事化・産業化・情報化の3つに分けています。下図のように大きなS字波として近代化過程が、そして、小さなS字波として3つに分解された軍事化・産業化・情報化です。現在はどういった状態かと言うと、図の縦の点線が示す通り、軍事化の定着・産業化の成熟・情報化の出現という3つの局面が同時に起こっていると著者である公文氏は指摘します。

引用:書籍「情報社会のいま ―あたらしい智民たちへ」(公文俊平 NTT出版)


本書では、軍事化・産業化・情報化というそれぞれのS字波をさらに分解して詳しく説明されています。少しだけ紹介しておくと、先ほど書いた現在は「産業化の成熟」であり「情報化の出現」という状態がそれで、前者の産業化の成熟局面で見られる現在社会の特徴としては、スマートフォンに代表されるようなちょっと昔では考えられないような高度な出力処理が可能なコンピュータを持ち、クラウド、高速な光/無線通信網、等々が当たり前となりつつある社会です。後者の情報化の出現の特徴としては、ソーシャルメディアに代表されるような新しいコミュニケーション・情報の共有です。ウィキリークスやYouTubeなどへの投稿により、あるいはソーシャルメディアを積極的に活用した政治・市民活動など、社会を変えていくケースは数多く見られます。もっと身近な個人レベルで見ても、自分の行動や気持ち、考え・意見などをツイッターやフェイスブック、ブログ等で積極的にシェアする流れです。このような情報化という新しい変化が「出現」しつつあるという指摘は、これまでの社会とは異質なものだと私自身も感じます。

■「産業の情報化」と「情報の産業化」

本書での産業化の成熟と情報化の出現についての説明でなるほどと思ったのは、「産業の情報化」と「情報の産業化」は異なるという指摘でした。産業の情報化というのは、家電や個人のデバイスなどの様々なものがIT化・ネットにつながると理解しました。すなわち、工業製品などの成熟段階として情報技術を持ち情報通信機械となる変化です。一方の情報の産業化とは、情報それ自体が商品やサービスとして生産・販売される状態です。情報の産業化が出現するということは、これまでは無料であった情報がお金と交換できる価値を持つことなのです。ちなみに、日本語で情報化社会というのは産業の情報化を表すことが多いように思います。別にこれが間違っているわけではないのですが、今回のエントリーでは情報化社会という言葉は使わず、「産業の情報化」と「情報の産業化」は区別しています。

もちろん、産業の情報化と情報の産業化には相互関係があります。具体的にはネットにアクセスする手段が自宅PCだけではなく、タブレットやスマホでより自由になったことで(産業の情報化)、私たちは各個人で情報発信をするようになりました。その結果、ネット上ではそうした情報に基づいて広告が表示されたりしています(情報の産業化)。

著者の主張で印象的だったのは、変化の激しい世の中を俯瞰するためには、産業化の成熟と情報化の出現という異なる2つの変化が同時並行で起こっているという認識が必要というものでした。起こっている出来事がどちらに該当するのか、あるいはどのように相互作用しているのか、という視点です。公文氏は、大切なのは近代化の大きな流れが「情報化の出現」に向かっているという歴史的な意味を捉え、その方向に沿った政策採用や制度設計をすべきであるという意見です。例えば企業のビジネス戦略もソーシャルメディアの普及などの情報化の進展と共存したり、それを支援する方向を目指すべきという考え方です。(参照:本書 p.187)

■情報の産業化という方向性

「情報の産業化」というのは、個人的にもとても興味のある変化です。なので、本書で書かれていた収集される個人情報に対して何らかの謝礼支払いを義務付けてみてはどうか、という著者の主張にも関心があります。著者は、収集する個人情報の有償化により、「情報化の出現」時代に入っても市場規模の拡大が実現できる可能性を指摘します。

個人情報が有償化し、そこから発展するデータを買いたい・売りたいという動きが出るということは、そこには取引の市場ができることも考えられます。データ取引市場なるもので、であれば買い手と売り手をつなげて取りまとめる中間業者のような存在も生まれるかもしれません。やや突拍子もないことかもしれませんが、ゆくゆくはデータ自体があたかも貨幣のように流通する世界になるかもしれない。データをお金を通して売買するのではなく、データそのものの貨幣化、すなわち価値として広く「信用」を得ている存在です。以前にGoogleがデータ取引所の創設する記事があり、そこから考えたことをエントリーしましたが、情報化がますます進展する社会ではこうしたプレイヤーの存在も当たり前のようになるのかもしれません。
Googleが計画する「ウェブデータ取引所」は、あなたと広告のミスマッチを解消してくれるのか|思考の整理日記
Google Readies Ambitious Plan for Web-Data Exchange|Ad Age DIGITAL

情報の産業化に興味があると書きましたが、自分自身の仕事もこの方向です。そして、自分がやりたい、世の中を変えたいのもこの領域だったりします。冒頭で変化の激しい世の中と書きましたが、だからこそ、自分の仕事とやりたいことの軸がブレることなく、時には俯瞰的に見るという複合的な視点も大切にしたいです。本書「情報社会のいま ―あたらしい智民たちへ」は非常に示唆に富む良書でした。


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2011/12/23

「我が事化」がカギだったソーシャルメディア進化論

昨日はJMRX勉強会に参加してきました(11年12月22日)。講師として招かれたのは「ソーシャルメディア進化論」の著者である武田隆氏(エイベック研究所代表取締役)。この本は今年読んだ中でもベスト5には間違いなく入るもので、最初に読んだ時にブログに書こうとしたものの下書き状態で残ったままでした。JMRX勉強会に参加し著書本人から直接話を聞いたこともあり、あらためて「ソーシャルメディア進化論」から考えたことをエントリーとしてまとめておきます。

■「心あたたまる関係」と「お金もうけ」を両立させる企業コミュニティモデル

本書の主題を一言で表現すると、「ソーシャルメディアでの心あたたまる関係」と「お金もうけ」をどうやって両立させるか。すなわち、ソーシャルメディアのマネタイズ(収益化)です。そして、著者が提示する解は、企業サイトでコミュニティをつくり企業と消費者の絆をつくること。エイベック研究所の知見が凝縮された企業コミュニティを活用したマーケティングモデルで、大きくは2つの柱があります。プロモーションとマーケティングリサーチ。各プロセスを簡単に書いておくと以下の通りです(詳細が気になる方はぜひ本書をご覧ください。一読の価値あると思います)。

引用:書籍「ソーシャルメディア進化論」
  1. 参加者の意識の向上:企業サイト上のコミュニティで参加者の発言が投稿され、参加者同士のコミュニケーションが活性化してくると、参加者の我が事化とコミュニティへの帰属意識が向上
  2. 企業サイトへの掲載:コミュニティの発言内容を企業サイトの他のページにも掲載することで、企業サイト訪問者の態度変容を促す
  3. 広告・PRへの転用:他のPRや店頭施策と組み合わせ、ファンの声を外部にも広く表出
  4. 外部の検索サイトからの閲覧者増加:発言内のワードが検索サイトで引っかかるようになり、閲覧者が増加
  5. ユーザーを把握:コミュニティ参加者を趣味や発言、影響力などで細かく把握する。特徴で参加者をグループ化
  6. オンライブループインタビューへ:特に深く知りたいグループに対してオンライン上でグループインタビューを実施
※実はこのモデルには7があるのですが、それは後述します

プロモーションとマーケリサーチの2つと書きましたが、1~4までがプロモーション、5と6がリサーチに該当します。このモデルは、プロモーションという企業から消費者に伝えることと、リサーチという消費者が企業に伝えるというコミュニケーションのキャッチボールであり、本質的には市場との会話であると武田氏は言います。1~6をPDCAサイクルでまわし、企業と消費者(参加者からファンへ)のコミュニケーション履歴が蓄積することで、お互いがお互いのことを理解するようになる。最終的にはロイヤリティの高いファンを獲得し、結果として自社商品・サービスやブランドの売上や利益が得られる。これが本書で提示された「企業と消費者の心温まる関係」と「お金儲け」の両立なのです。

■なぜFacebookではないのか

ここまでで、なぜ場が企業コミュニティなのか、あるいはフェイスブックではないのか、という疑問が出てくるのではないでしょうか。武田氏は自らの知見も踏まえた上で、フェイスブックを企業が使う場合の位置づけは「メールマガジン」がいいのでは、と昨日のJMRX勉強会でおっしゃっていたのが印象的でした。

フェイスブックは実名での参加が基本です。実名であるが故に、知人を越えたコミュニケーションが発生しづらく、お互いに実名や背後に自分の人間関係を背負っていることで、知人以外とのいきなりのコミュニケーションに不安やリスクを感じるそう。もちろん、コメントを投稿する人やいいねを残す人もいると思いますが、コミュニケーションのハードルが高いことで活性化しにくい。武田氏曰く、フェイスブックでのコメントは1~2行くらいの「言い切り」のコメントで終わるケースが多く、一方の活性化している企業コミュニティではコメントは「質問」や「呼びかけ」で終わっている。つまり、コミュニケーションが活性化しやすいコメントが続くそうです。

ただし、企業にとってフェイスブックが使えないかというとそうではなく、有効な使い方もあり、例えばANAのフェイスブックページでは、キャビンアテンダントや航空整備士など色々な立場の人がウォールに書き込んでいて、そこにユーザーがいいねやコメントを付けています。このように「人が出る」ようなコンテンツは有効だそうです。とはいえ、企業のフェイスブックページではユーザー同士の横のつながりが起こりにくく、どうしても企業と消費者の1to1のコミュニケーションになりがちで、これは企業担当者の負担も大きく、コストがペイできなくなる側面もあるようです。おそらくこれはツイッターも同様なのではないでしょうか。

■企業コミュニティを活性化させる「我が事化」

昨日のJMRX勉強会の武田氏の講演では、ポイントとなるキーワードは「我が事化」でした。ちなみに武田さんは我が事化のことを「レリバンシー」という言葉で表現されていて、これはrelevancy:関連性、つまり自分に関連があること=我が事化という使い方だと理解しました。我が事化は企業コミュニティをいかに活性化させるかに直結し、ここがそもそも非常に難しいというお話でした。あらためて冒頭のモデル図を見ると、①参加者意識の向上がきますが、コミュニティが活性化してこないと、①で止まってしまいとてもマネタイズどころではなくなります。

当然のことながら、始めから我が事化している参加者は多くありません。企業サイドから無理やり関与を求めても引かれるだけでしょう。ここは時間をかけてじっくりと関係性を醸成することが大事だそうで、例えば、共感するコメントに拍手をするような仕組みを設けておくなど、軽い行動から始めるよう促す。拍手をすれば、その後も気になるので返信コメントを付けたり、自ら投稿するようになる。このように関与レベルを段階的に上げていき、参加者の我が事化を育んでいくそうです。

我が事化を持ってもらう施策で大切なのは2つ。参加者にあるテーマを投げかけ投稿してもらいそれに拍手するなどのコミュニティ内での「役割の設定」(ご自由にどうぞ、だと逆に行動しづらくなる)、誰かのコメントに拍手したり投稿することにポイントを上げるなどの「報酬の設定」(インセンティブになるとともに参加する「言い訳」を与える意味もある)。思ったのは、役割や報酬の設定とともに、コミュニティ参加者同士での共感、そこで生まれる信頼関係をいかに構築するかなど、企業コミュニティとはいえ非常にリアルな人間味あふれる空気をいかにつくるか、ここが大事だということでした。

「我が事化」に関してなるほどと思ったのは、コミュニティ参加者が「私がいないと成り立たない」と思ってもらうところまで持って行けるか、つまり、そのコミュニティの中で自分が大事な一員だとみんなが思えている状況、そう自覚できるかということ。参加メンバーがこう思う状況になると、場が最も活性化されるのだそうです。

参加者がコミュニティを我が事化し、帰属意識を高める、それが企業へのロイヤリティを向上させるというのは、言うが易し行うは難しだと思います。ちなみに、エイベック研究所はソーシャルメディア(企業運営型BtoCコミュニティサイト)構築市場における売上トップシェア(10年。矢野経済研究所調べ)だそうですが、ここがきっちりとできるからこそだと思います。このノウハウを持っていることが強みだと感じました。「ソーシャルメディア進化論」という本では、企業コミュニティで同研究所が収益を上げるまでの紆余曲折も書かれており、武田氏は最も苦しい頃の1日の食事がみたらし団子1本だったというベンチャーならでは(?)のエピソードもありましたが、そんな状況からトップになった方の説明には説得力がありました。以前のエントリーで我が事化を取り上げた記事も書きましたが、あらためて我が事化って大事だなと。
相手も自分も動かす「自分ごと化」のススメ|思考の整理日記

■企業コミュニティモデルの可能性

心暖まる関係とお金もうけの両立は企業コミュニティを活用したプロモーションとマーケティングリサーチでした。このモデルの可能性として、企業だけではなく他の組織にも活用できるのではと思いました。武田氏が企業コミュニティで企業と消費者をつなげることを思い付いたのは、企業の自社商品やサービスに対する思いが消費者に全くと言っていいほど届いていないと気付いたからでした。実際に当時のお客さんから自社商品への思いを聞けば聞くほど、それって消費者はほとんど知らない現実。そこで、企業と消費者をインターネットらしく結びつけることが一番初めにできたコンセプト。これを具現化したのが企業コミュニティモデルです。ここで思うのが、組織の思いが消費者/生活者に届いていないのは何も企業だけではなく、NPOやNGOなどの組織、自治体や地方団体、政党、病院など、あらゆる組織と生活者に当てはまるのではということ。企業コミュニティで実現されていること、双方向のコミュニケーションが他でも実現されれば私たちの社会はもっと豊かになっていくのではないでしょうか。

ただ、昨日の武田氏の話では、例えば企業コミュニティのモデルを活用した地域の活性化は現時点ではとても難しいとのことでした。このモデルを導入するためには、組織との二人三脚が不可欠です。企業コミュニティの場合は企業サイト運営と連携し、プロモーションやリサーチなどのマーケティングに関わることになります。実際にある市の行政に提案したこともあるようですが、結局担当者に受け入れてもらえなかったエピソードも語っていただきました。

冒頭で紹介した企業コミュニティモデルは6つのプロセスがありましたが、実は7つ目まであり、1~6を繰り返すことで企業と消費者の距離は縮まっていくとしています。

引用:書籍「ソーシャルメディア進化論」

昨日のJMRX勉強会での武田氏の講演では、始めに紹介されたのは「見える人」と「見えない人」の違いでした。見える人とはネットワークを味方にする人で、「スモールワールド」を感じている人という話。武田さん曰く、コミュニティで成功する企業はスモールワールドを肌感覚で理解しているとのこと。

書籍「ソーシャルメディア進化論」で最後のほうに書かれていたのが、スモールワールドへのパスポートは「ありがとう」。昨日の話を聞くと、「心あたたまる関係」と「社会の豊かさ」の両立には期待したいですし、ありがとうという感謝の気持ちがキーワードなのかもしれません。


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2011/12/17

落合監督の采配論に教えられた後悔しない生き方のヒント

野球でごく稀に「完全試合」と呼ばれるゲームがあります。

これは一人の投手が相手チームの誰一人として塁に出さずに勝つ試合です。ヒットを打たれず、四球や味方のエラーもゼロ。野球は3アウトで回が変わりゲームは9回までなので、相手バッターを 3 × 9 = 27人で終わらせて勝つ試合のことです。

■ 幻の完全試合

2007年のプロ野球日本シリーズ第5戦。中日と日本ハムの対戦カードにおいて、中日ドラゴンズにある大記録が生まれようとしていました。

2011/12/15

Google Map のビッグデータ活用事例と2つの課題

Google マップに新しいサービスが追加されました (2011年12月9日) 。

参考:交通状況が Google マップで見られるようになりました|Google Japan Blog


「交通状況」 という地図上で渋滞状況がわかる新しい機能です。今回のエントリーでは、グーグルマップの新機能と、ビッグデータ活用という観点からの課題について書いています。

2011/12/10

ビッグデータに付加価値を与えた企業が次世代の覇者となる


Free Image on Pixabay


ビッグデータという言葉は、少し前であれば、ネット記事やブログなのでよく見かけました。ここ最近ではクライアントとのミーティングの場でもよく出てくるようになってきました。

特に部長職や役員クラスの方の口から出るようになると、浸透してきているなと感じます。

ビッグデータについてまとめられており、体系的に理解するのに役立ったのが、ビッグデータビジネスの時代 - 堅実にイノベーションを生み出すポスト・クラウドの戦略 という本でした。

2011/12/03

iPhone4Sを歴史的な製品にするiCloudとSiri

アメリカの調査会社ChangeWave Researchの調査によると、iPhone4Sの顧客満足度が96%と、iPhone4の93%よりもさらに高かったという結果がでています。(96%の内訳は「非常に満足」:77%と「やや満足」:19%)
「iPhone 4S」の顧客満足度、iPhone史上最高の96%に――ChangeWave調べ|ITmedia ニュース

iPhone4Sと、そして同じタイミングでリリースされたiOS5で追加された機能は多くありますが、そのうちiCloudとSiriは画期的なものです。大げさかもしれませんが、iPhoneだけではなく、アップルを次のステージに上げるくらいのインパクトがあると思っています。以下、そう思う理由を書いています。

■iCloudはアップルの次のデジタルハブ戦略の主役

iCloudはアップルのデジタルハブ戦略の主役を担います。iCloud登場前は、PC内のiTunesがハブの中心にいました。iPhoneやiPadなどはPCにつなげ、iTunesと同期させるという形をとっていました。これは2001年のiPod登場から続く関係性で、例えば曲のプレイリスト作成などの機能はiTunesのみで可能とし、それをiPodには同期させる。iPodでできることをあえて制限し、あくまで衛星的な存在でした。iPhoneやiPadでも基本的には同じです。

それがiCloudの登場で、PCを中心としたエコシステムに変化が生じました。デジタルハブと置いたPCを他のデバイス同様のレベルに降格させ、替わりにデジタルハブとして位置付けたのがiCloudです。iPod登場は2001年なので、2000年代はPCであり、次の2010年代はクラウドがハブとなるのではないでしょうか。アップルのあるものを中心に置くというデジタルハブ戦略はぶれることはありませんが、技術や時代に合わせてPCからiCloudへ移行しているのです。iCloudを使っていてすごいと思うのは、一度設定しさえすれば「勝手に同期される」ことです。これまでのようにPCとデバイスとつなげるという手動での同期をする必要がなく、ほんと便利です。

とは言うものの、ハブをPCからiCouldにするという変化はまだまだ移行期にあると感じます。iOS5へのアップデート後に実際にiCloudを使っていますが、アプリの取り込みやバックアップの実行は依然としてPC経由でやることもあります。つまり、今のところハブはPCとクラウドの2つが併存している。ハブがiCloudに切り替わるのはまだ少し時間がかかりそうです。

■アンサーエンジンとなるSiri

iPhone4Sから追加された目玉機能のSiri。Siriは音声アシスト機能で、iPhoneに向かって話しかけることで、いろんなことを実行してくれます。行きたい場所へのナビゲートだったり、かけたい人に電話をつなげてくれたり、天気も教えてくれます。このように、単に人の音声を認識するだけではなく、実際にデバイスが動き、ユーザーが求めている答えを返してくれるのです。

Siriの登場で音声アシストの世界が活性化してくるように思います。例えば、「iris. (alpha)」というAndroidアプリ。これもSiriと似たようなアプリです(実際に使ったことはないのですが)。ちなみに、名前がSiriを逆さに読んだものになっており、Siriを意識したアプリだと感じます。
『iris. (alpha)』~iPhone 4Sの「Siri」機能がAndroidに登場!?音声アシスタント機能を体験~|andronavi

(特殊な機能や技術を除いて)普通の人がPCや携帯電話を操作するにはキーボードや画面に触れることで実行していました。TVやラジオなどほとんど全ての家電も含め、リモコンやボタンを押すのは指です。それがSiriでは声により動かすことになる。音声でユーザーの意図を伝え、コンピュータがそれを認識し意図を解釈する。そして、ユーザーが求めている答えを返す。Siriは検索エンジンならぬ、アンサーエンジンとなっていく可能性を持っており、ここに未来を感じます。

また、SiriにはiPhone以外にも色々と活用できる可能性があります。例えば、現在開発中と言われるアップルのテレビであるiTV。ここでは、Siriをリモコンの代わりに操作するために使われるのではという噂もあります。

■最後に

以上を整理すると、iCloudはアップルの次のデジタルハブ戦略の主役を担う存在であり、Siriはデバイスに話しかけ必要な情報を得るというアンサーエンジンです。iCloudとSiriという新しい機能が2つ追加されたiPhone4Sは、後から振り返った時にアップルの転換点だったと言われる製品になるように思っています。


※参考情報

「iPhone 4S」の顧客満足度、iPhone史上最高の96%に――ChangeWave調べ|ITmedia ニュース
Survey Finds 96% of Customers Satisfied with iPhone 4S|MacRumors
New Owners Survey Shows iPhone 4S More Popular than its Apple Predecessor|ChangeWave Research
iCloudで携帯電話以来の大変化が起こる...それは未来のコンピューティング|ギズモード・ジャパン
『iris. (alpha)』~iPhone 4Sの「Siri」機能がAndroidに登場!?音声アシスタント機能を体験~|andronavi

2011/11/27

公式伝記「スティーブ・ジョブズ」から読み解くアップルのマーケティング哲学

Steve Jobs先週は1週間の休みを取り、ペルー旅行(メインはマチュピチュやナスカの地上絵)に行ってきました。ペルーは日本から見て地球の裏側に位置し、移動はさすがに長時間になりました。ペルーへ行くだけでも成田-LA-リマ(ペルー)と、乗り継ぎ時間も合わせると24時間を超えます。そんな長いフライト時間だったのであらためてゆっくり読めたのはスティーブジョブズの伝記でした。(スティーブ・ジョブズ Ⅰスティーブ・ジョブズ Ⅱ

■What creative people could do with the computers

ジョブズの生き方、人生観はすでに過去にエントリーしています。
あらためて考えさせられるスティーブ・ジョブズの死生観|思考の整理日記
スティーブ・ジョブズの死生観とシンプルへの追及|思考の整理日記

伝記を読みそれ以外で印象的だったのは、アップルがMac、iPod、iPhone、iPadなど世界を変えることになる製品を次々に世の中に送り込んだストーリーでした。私自身が新規事業開発のプロジェクトに参画していることもあり、開発経緯の話がおもしろかったです。本書で、特に印象的だったフレーズがあります。

It was designed to celebrate not what the computers could do, but what creative people could do with the computers.
焦点をあてるべきは、コンピュータになにができるかではなく、コンピュータを使ってクリエイティブな人々はなにができるか、だ。

(英文は原作より。訳は日本語版(Ⅱ)p.74より)
※ちなみに、原作は手元にないのですが、ペルーへの乗り継ぎ地点のLA空港の売店に原作本が売っており、せっかくなので上記の文章をお土産に帰ってきました

この表現はアップルの考え方をとてもよく表していると思います。普通であれば「コンピュータになにができるか」、つまり自分たちがつくったものの機能や特徴をユーザーに最大限アピールすることに注力します。しかし、アップルのやっていることはもう1歩踏み込んだところまで考え、実行しています。それが「コンピュータを使ってクリエイティブな人々はなにができるか」。すなわち、単に機能だけを伝えるだけではなく、どんな人たちが使うかを想定し、そのユーザーがどうやって手に取り、さらには利用シーンや使用目的までも考えるのです。だから、「コンピュータになにができるか」にとどまらず、「人々になにができるか」まで力を注ぐ。言い換えれば、アップルはユーザー体験にまで焦点を当てている。スティーブジョブズの伝記では、ジョブズが「ユーザーのことを考えるから、体験全体に責任を持ちたい」という言葉が紹介されています。おそらく、アップルではプロダクトの設計や開発段階からユーザー体験まで深く議論をしているのではないかと思います。

アップルがユーザー体験を重視する考え方は、例えばiPadのCMでもまさにその通りのメッセージを私たちに訴えています。iPadというデバイスが主役ではなく、あくまでユーザーがiPadを使って何ができるかを伝えようとしているように思います。

iPad2 CM 日本版 2 Apple|YouTube

■アップルのエコシステムとユーザー体験

音楽プレイヤーのiPodの開発でもユーザー体験を重視する姿勢が描かれていました。iPodをリリースする前、ジョブズたちは既存の音楽プレイヤーが複雑でとても使いにくと思っていました。もっとシンプルに、もっと使いやすく。そして結論はPCの中にあるiTunesをハブとし、iPodを同期させることでした。iPodはあくまで衛星的な存在であり、曲のプレイリスト作成などの機能をiTunesのみで可能とし、iPodには同期させるだけ。iPodでできることをあえて制限したのです。ジョブズはこの形を「複雑な部分をあるべき場所に移ってゆけた」と表現します。

PCを「デジタルハブ」とするビジョンをジョブズが描いたのは2001年でした。音楽プレイヤーだけではなく、その後のiPhoneやiPadもPCと同期させるという関係性をつくります。PCを中心としたエコシステムであり、とてもうまくコントロールされているのです。

ところがジョブズ自らがこのエコシステムを壊していくことになります。デジタルハブと置いたPCを他のデバイス同様のレベルに降格させ、替わりにデジタルハブとして位置付けたのがクラウドでした。伝記にはクラウドをハブとする構想は2008年ごろに抱いていたことが書かれ、そして2011年6月のWWDC(世界開発者会議)の講演で新しいサービスであるiCloudとして発表されます。2000年代がPCであり、次の2010年代はクラウドがハブとなるのでしょう。アップルのデジタルハブという戦略はぶれることはありませんが、技術や時代に合わせてPCからクラウドに自らで移行しているのです。それもこれも、より使い勝手のよいサービスにしたいという思いから。ハブをクラウドにするという変化の底にはユーザー体験があるのです。

■「全てが一体となって機能する」というアップルのコンセプト

とはいえ、ハブをPCからiCouldにするという変化はまだまだ移行期にあると感じます。iOS5へのアップデート後に実際にiCloudを使っていますが、アプリの取り込みやバックアップの実行は依然としてPC経由でもやっています。今のところハブはPCとクラウドの2つが併存している。この状況はジョブズの言う「抜群の使い勝手」にはもう一歩という感じです。

iPhone、iPadなどのアップルの製品を使っていて感じるのは、「全てが一体となって機能する」使いやすさです。PCに入っているiTunesを中心にしていた世界では、同期させるのは手動でつなげる必要がありました。これがデジタルハブという中心が完全にiCloudになる時、気づけば全てが一体となっているはずです。勝手に同期してくれる分、人々は「なにができるか」に集中できます。「コンピュータになにができるか」ではなく、「人々になにができるか」。これからのアップルにもこの姿勢を期待したいです。


※参考情報

あらためて考えさせられるスティーブ・ジョブズの死生観|思考の整理日記
スティーブ・ジョブズの死生観とシンプルへの追及|思考の整理日記
iPad2 CM 日本版 2 Apple|YouTube
iCloudで携帯電話以来の大変化が起こる...それは未来のコンピューティング|ギズモード・ジャパン

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2011/11/19

Google+でプロダクト全体最適を進めるグーグル

Googleと言えばネットで何かを検索する時には当たり前のように使いますが、それ以外のサービスも色々と利用していることに気づきます。仕事とプライベートのスケジュール管理にはGoogleカレンダーは外せないですし、他にもGmail、Google Reader、Googleドキュメント、などと挙げていくと1つのアカウントで様々なグーグルサービスを活用しています。

■ここ最近のGoogleの動き

ちょっと前になりますが、これら多くのグーグルサービスがデザイン変更をしました。デザインだけの変更であれば新しいデザインも使っていればそのうちに慣れるものの、機能が変わってしまいそれが自分にとって使いづらくなってしまうと前のデザイン(機能)のほうがよかったのに、なんて思ってしまいます。ここは無料で使っているので文句はあまり言えず、一定のデザイン変更期間(新旧両方が使える)が終われば、強制的に新デザインに移行されます。

もう1つ、最近のグーグル関連の大きなニュースとしては、Google Musicのリリースがあります。

Google Music is open for business|Official Google Blog

これまではβ版だった音楽サービスの正式リリースで、主な特徴は、所有している曲は2万曲まではクラウド上に無料保存可能、Android MarketというiTunes Storeのようなマーケットから購入でき、1曲は0.99~1.29ドルで100円以内で買えるイメージです。購入対象曲は現在は800万曲、近々1300万曲まで増えるとのこと。曲のファイルはMP3の320kbps。

印象的だったのは、大手レーベル3社とインディーズレーベル1000社がパートナーになっている、Google+との連携で共有しやすい仕組み、それとオフライン状況でもデバイス保存分は聞くことができること。あとはアーティストとの連携強化も。日本への展開時期は未定のようです。Google Musicにより、グーグルは音楽サービスでもiTunesやAmazon Cloud Playerとぶつかることになります。

他に話題になっていたのは、Google+で企業ページの「Google+ Page」のリリースもありました。

Google+ Pages: connect with all the things you care about|Official Google Blog

リリース段階の時点で、トヨタやユニクロ、ペプシなど、20以上の企業ページが開設されたようです。これはFacebookページと似ていますが、Google+ Pageの特徴はグーグルの強みである検索と強力な連動させている点にあります。Direct Connectという機能の追加がそれで、グーグルで検索でをする際に、企業名やブランド名の前に「+」を付けて検索すると、その企業のGoogle+ Pageをサークルに入れることを推奨するページが表示できるようになりました。

■Google+統合という全体最適化

ここまで、最近のグーグルの動きとして、各種サービスのデザイン変更、Google Music、Google+ Pageを見てきましたが、これら共通していることがあります。それは、全てでGoogle+との連携がされていること。

デザイン変更ではGoogle+のそれと同じイメージになり、Google MusicではGoogle+への共有機能も追加されています。これらの意味することは様々なグーグル提供サービスがGoogle+が軸となる統合で、この動きがGoogle+がリリースされてから一気に動き出していると感じます。

Google+に関して、グーグル幹部のNikesh Arora氏(chief business officer)がある公聴会で印象的な発言をしていました。

Google+, for us, is not a social network, It is a platform which allows us to bring social elements into all the services and products that we offer. So you have seen YouTube come into Google+; you’ve seen Google+ with ‘direct connect’ go into our search business. We are trying to make sure we use social signals across all of our products... It’s not just about getting people together on one site and calling it a social network.”

我々はGoogle+は「ソーシャルネットワーク」とは位置づけていない。Googleが提供する全サービスにソーシャルの要素をもたらすプラットフォームである(YouTubeとGoogle+の連携や、グーグル検索におけるGoogle+のDirect Connectなど)。我々は、人々を一つの場所に集めそれをソーシャルネットワークと呼ぶのではなく、ソーシャルの信号をGoogleの全製品にわたって使えるようにしようとしている。

Google+ 'is not a social network'|Telegraph

すなわち、Google+を使ったあらゆるサービスの連携・統合であり、要するにグーグルは何をしているかというと、Google+をベースにしたグーグルのあらゆるサービスの全体最適化だと思いました。実はこれまでのグーグルの各サービスは、それぞれがバラバラにつくられ提供されていたと思います。これまでのグーグルの特徴をよく表していて、ほんと自由にやっている印象でした。そういう意味では各サービスごとの部分最適がされていて、Googleラボを覗けば新しいサービスが次々にベータリリースされていました。実はこのGoogleラボもGoogle+のリリース後にクローズされています。

More wood behind fewer arrows|Official Google Blog
やっぱり気になる「Google Labs」の閉鎖|ZDNet Japan

Google+への統合と合わせてと考えると、これまでのグーグルが発散型でサービス開発・リリースをしてきたのに対し、Google+のリリースを境に「選択と集中」に舵を切っているのです。

■Googleの方針転換でどう変わるのか

グーグルのこうした動きはとても興味深いものです。Googleが生まれ変わろうとしていると言っても過言ではないように感じます。とはいえ、現時点ではこの方針転換は始まったばかりで、Google+への統合と言ってもユーザーにとっての目に見える変化はGoogle+に簡単に共有できるような仕組みがあることや、デザインがGoogle+のように次々に変わっていることくらいです。

ただ、ユーザーの見えないところではおそらく確実に動き出しているのでしょう。例えばデザインの変更を見ても、ただ単に見た目だけをGoogle+にしただけでは当然ないでしょうし、その裏にある設計思想というか、どうすればGoogle+と連携し統合できるか、それはグーグルにとって、またユーザーにとってどういうメリットがあるのか、等々がGoogle+を軸にした横断的な検討・開発がされているのではないでしょうか。

グーグルというのは、図のような無料でサービスを提供する代わりに、膨大なユーザーデータを取得し、それをさらなるサービスの利便性向上や、ユーザーデータをグーグルの主要ビジネスモデルであるネット広告事業に活かしている。この集まってくる膨大なデータ活用がグーグルの本質的な部分であり、であればここ最近のGoogle+への統合もより一層のユーザーデータ取得のためだと思います。それがひいては広告事業での売上および利益増加につなげたいということ。



あるいは、もしかしたらネット広告事業への収益依存を変えていくのかもしれません。これはちょっと考えてみたのですが、まだ自分の中でどういう具体的な戦略が考えられるかが見えていなくて、広告収入ではなくユーザーから直接課金するのか、ユーザーは個人なのか企業なのか。課金モデルは具体的には何かなど、もう少しグーグルの動きを見ていけばわかってくるかもしれません。

いずれにせよ、方向転換をしつつあるグーグルは気になりますし、その中心に位置しているGoogle+がどうなっていくのかにも興味があります。


※参考情報

Google Music is open for business|Official Google Blog
More wood behind fewer arrows|Official Google Blog
Google+ 'is not a social network'|Telegraph
Google+ Pages: connect with all the things you care about|Official Google Blog
やっぱり気になる「Google Labs」の閉鎖|ZDNet Japan
Google Labsの閉鎖は、Googleによるイノベーションの歩みを止めるのか?|TechCrunch Japan


2011/11/06

失敗を評価する4つの視点


Free Image on Pixabay


失敗学を提唱する畑村洋太郎氏の著書が、回復力 - 失敗からの復活 です。



この本には、人は誰でも失敗をしてしまうこと、だからこそ大切なのはそこからどう失敗を捉え、考え、行動するかが書かれています。


失敗を評価する4つの視点


本書で印象的だったのは、著者が紹介する失敗を評価するための4つの視点でした。

2011/11/03

TVチェックインサービスIntoNowがもたらす新しいTV視聴体験

ツイッターのタイムラインでは、TVの話題が流れていることがあります。その中にはまさに「今見ている番組」のツイートも見かけます。そんな今見ている番組をツイッターやフェイスブックに共有するためのサービスにIntoNowがあります。このIntoNowに今回新しい機能が追加されたのですが、その内容がちょっと興味深かったので、そのあたりを中心に書いています。

■IntoNowとは

IntoNowというのはiPhone/iPad・Android用アプリです。使い方は簡単で、テレビを見ている時にアプリ上のボタンを押すとアプリがその番組を自動認識します。あとはツイッターやフェイスブックで見ている番組を共有するだけです。(ちなみにIntoNowは今年4月にYahoo!に買収されています)

あいにくIntoNowは日本では使えないので(米国向けサービス)、YouTubeなどで動画を見るくらいしかできないのですが、動画を見る限り本当にボタンを押してから数秒で自動認識し、番組名が表示されています。これは百聞は一見にしかずなので、以下の動画を見るとイメージがつかみやすいです。

IntoNow from Yahoo! for iPad|YouTube

IntoNowがとてもユニークで、かつ個人的に興味深いと思っているのは、TV番組の音声だけで見ている番組を自動認識をする仕組みです。具体的には、アプリが見ている番組の音声を記録し、その音声情報と独自に構築している番組音声情報のデータベースと照合させます。そして、認識させた結果(見ている番組名)をアプリに表示させるのです。

IntoNowがすごいのは、このプロセスをわずか数秒でやることです。つまり、数秒以内にまさに今放送されている番組の音声情報をインデックス化したデータベース構築と、ユーザーのアプリから送られる音声情報をマッチングをしその結果を返すことの2つをしているのです。

■IntoNowに新しく追加されたわくわくする機能

IntoNowのアプリはこれまではスマートフォンだけだったのですが、今回新たにiPad用アプリがリリースされました。これだけ聞くと、スマートフォンでできたことがタブレットでもできるようになったと映りますが、実は今回のリリースではなかなかおもしろい機能が追加されているのです。

実は上の動画の後半でその紹介があるのですが、これまでは主に自動認識をさせるのが何の番組かだけだったのが、その番組に関連する情報までもわかるようになっています。例えば、プロ野球の試合を見ていてIntoNowで認識させると、試合のスコアや経緯の詳細、各選手の成績などの情報や、試合に関するツイート情報がアプリ上に表示されます。もちろん、これまでのスマホ用アプリでできた、ツイッターやフェイスブックへの共有も同じ画面からできます。あるいはここからは想像と期待も込めてですが、ドラマであれば登場している俳優のプロフィールであったり、もしかしたら着ている服やアクセサリーなども簡単に確認ができ、さらには気に入ればその場で買えるなんてこともできるようになるかもしれません。バラエティ番組で考えると、番組内で紹介されたお店、スイーツなどの商品、訪れたことのない名所など、関連する動画や説明などの情報が向こうからやってきてアプリ上に表示されるイメージです。

見ている番組が自動認識され、そして関連する情報までも提供される。この間にユーザーがすることはアプリ上のボタンをたった1回押すだけで、数秒後にはアプリ上に表示されるのです。グーグルでの検索や他の複数のアプリを使う必要などもなく。

IntoNowはTV番組に「チェックイン」するためのアプリです。これまでのチェックインをする目的は、はソーシャルメディアへの共有にあったのではと思いますが、今回のiPad用アプリのリリースで関連する情報を手に入れるためという新たな目的が加わったことになります。TVを見ながら、手元のiPadでボタンを押すだけで関連する情報が手に入り、それが数秒で自動的にできるというのは、今までにないTV視聴体験だと感じます。

■考えられる課題

そんなユーザー体験がIntoNowアプリでできるのはおもしろそうですが、課題もあると思います。大きくは2つで、1つ目がTV音声認識です。スマホやタブレットでTVの音を記録するということは、同時にTV以外の音も拾ってしまいます。家族の会話やペットの鳴き声、家のまわりの音も混じってくるケースも考えられます。その中で番組認識に必要な音だけをどれだけ正確に認識できるか。

2つ目の課題は、音声で番組を認識できたとして、その番組に関連する情報がどれだけ提供できるかだと思います。一口に関連する情報と言っても、ユーザーに必要な情報でなければ逆効果になってしまいます。さらに言えば、同じ関連情報でもユーザーによっては欲しかった内容であり、他のユーザーにとっては不要となることもあり得ます。アプリのボタンを押して関連情報も含めた結果を返すのは長くても10秒ちょっととのことで、これだけ短時間で実現するためには自動化されているはずで、いかにユーザーにとって目利きされた情報が提供できるか。これが2点目の課題になるのではないでしょうか。

■タブレットでIntoNowを使う価値

このように課題はありそうですが、それでも先のイメージ動画を見ると今の自分の環境ではできないテレビの見方ができ、日本でリリースされていないのが残念です。今回のiPadアプリのリリースにより関連情報の提供を開始するわけですが、これはタブレットの画面の大きさをうまく活用した事例とも言えそうです。同じことをiPhoneなどのスマートフォンでやる場合、画面の大きさが十分ではないので、画面をトントンして拡大させたり、スライドさせたりなど、拡大/縮小・移動を繰り返していると、テレビのほうに集中できないような気もします。だからiPadというタブレット用のアプリで実装されていることに価値があるんだと思います。

IntoNowの特徴はTVの音声だけで番組認識と関連情報の提供をする点にあると思いますが、これが実現できるのは高い音声認識技術と、放送されている番組をリアルタイムで独自に収集しデータベース化しているからです。特に番組音声のデータベース化は相当の投資が必要ではと思います。ましてやアメリカ以外の国でサービスを開始するためには、その国のTV番組をゼロから集めないといけません。そんなことを考えると、IntoNowが日本でもリリースされるのはなかなか難しいのかなと、ちょっと残念に思います。


※参考情報

IntoNow - Connect with your friends around the shows you love
IntoNow App Turns iPad into ‘Intelligent’ TV Companion | Gadget Lab | Wired.com
Yahoo Brings Intelligent Social TV App IntoNow To The iPad; Adds Content Feeds And More | TechCrunch
Share your TV habits with Yahoo's IntoNow app, now on the iPad | Digital Media - CNET News
リアルタイムウェブとチェックインの可能性を考える|思考の整理日記
IntoNow from Yahoo! for iPad|YouTube
IntoNow iPhone App Review - AppVee.com|YouTube


2011/10/29

高機能一辺倒へのテレビにはあまりワクワクしなくなったので、そろそろ次のテレビに期待したい

先日の24日にスティーブ・ジョブズ公認の伝記が発売されましたが、書かれていた内容で話題を呼んでいたのは、ジョブズがTVへの取り組みに強い意欲を持っていたことです。
Jobs's final plan: an ‘integrated’ Apple TV|The Washington Post

■ジョブズのTVへの熱意

書かれていたことは確かに興味深いものでした。ワシントンポストから引用したものがこちら。
“He very much wanted to do for television sets what he had done for computers, music players, and phones: make them simple and elegant,” Isaacson wrote. (引用者注:Isaacson氏はジョブズ公認伝記の著者)
Isaacson continued: “‘I’d like to create an integrated television set that is completely easy to use,’ he told me. ‘It would be seamlessly synced with all of your devices and with iCloud.’ No longer would users have to fiddle with complex remotes for DVD players and cable channels. ‘It will have the simplest user interface you could imagine. I finally cracked it.’”
これを読むと、ジョブズはコンピューター(Mac)・音楽プレイヤー(iPod)・携帯電話(iPhone)で成し遂げた、シンプルでエレガントなユーザー体験をテレビでも実現したいという熱意を持っていたことがうかがえます。ユーザーが持っているiPhoneやiCloudとも連携させることも構想していたようです。とにかくシンプルで、誰でも使えるようなテレビです。

そして最後にこう言っています。「I finally cracked it(その方法がついにわかった)」。crackというのは、この文脈では「暗号を解読した」みたいなイメージですが、ジョブズがこのように言ったとすればかなり具体的なイメージを描いていたのではないかと思います。ただ、「その方法」がどんな内容なのかは残念ながら、今回のジョブズの伝記には書かれていなかったようです。

■What is "I cracked it" for the next TV?

では、ジョブズはどのようなテレビを思い描いていたのか。上記のジョブズの言葉の中にはTVのリモコンについて不満を抱いていたことがわかります(No longer would users have to fiddle with complex remotes for DVD players and cable channels)。となると少なくともリモコンはもっとシンプルで使いやすいものになるはず。余分なものを徹底的にそぎ落とし、本当に必要なものだけしか残さないジョブズの哲学にも近い考え方です。

とすると、iPodのような本当に必要なボタンだけしかないリモコンになるのでしょうか。確かにそれは十分にあり得ることだと思います。自分の家にあるTVのリモコンを思い浮かべると、本当にたくさんのボタンがあるのに実際に使うボタンは最低限に限られます。中には一度ども押したことのないボタンもある。そういうのを割り切って削っていけば、かなりシンプルなリモコンにできそうなものです。

テレビを操作するのに別にリモコンではなくてもいいのでは、という発想で考えると違ったテレビのコントロールの仕方もでてきます。それがiPhone4Sで搭載された音声認識のSiri。つまり、直接テレビに話すことでコントロールするという考え方です。このSiriについては、実際に海外のブログとかを読んでいると、TVへの統合への期待がかなり高い印象を持ちました。Siriについてはまだ実際に使ったことがなく、YouTubeや使った人の書いたブログとかを読んだ印象ですが、「明日の天気は」「○○に行くにはどう行ったらいい」という質問にも的確に回答するなど、なかなかおもしろそうな機能です。Siriは単に人間の話した言葉を正確に聞き取ることだけではなく、質問やリクエストを理解しその答えを提案するというのは、既存のボイスメモやボイス検索とは大きく異なると思います。テレビにSiriがあれば、「野球が見たい」と言えば野球中継を映してくれ、もしかすると、「ちょっと退屈なので何か笑える番組を見たい」とテレビに話しかければ、ユーザーの好みや過去の視聴履歴などから、その人に合った番組を提案してくれるかもしれません。人によっては漫才などのお笑いかもしれないし、別の人には落語なんてことも。そこには、TV番組欄を見て今の時間に何がやっているかとか、適当にチャンネルを変え見たい番組を探すザッピングなどはもはや不要です。

音声認識のSiri以外だと、アップルは離れたデバイスを動かすのにジェスチャーを使うことを研究しているという話もありました。これも既存のリモコンだけに比べて、テレビの使い勝手を大きく変えてくれるかもしれません。ただ、SiriはすでにiPhone4Sに実装されていることに比べ、こちらはまだ少し先の話になりそうですが。
Apple exploring 3D gestures to control devices from a distance|AppleInsider

■そろそろフレームを変える時

あらためて考えてみると、今私たちの身の回りにあるテレビへの操作は、ほぼ100%リモコンを使っています(リモコン以外だと主電源のON/OFFくらい)。その状況でいろんな機能が次々に追加される一方でリモコン操作という形式が変わらなかった結果、とても使いにくいリモコンになってしまいました。とにかくボタンが多い割に実際に使うボタンは多くなく、わかりにくく使いづらいのです。

ところが多くのテレビメーカーはそこにはあまり注力していなく、より大きく、高画質な美しい画面、あるいはそれ専用の眼鏡を用意し3Dという立体的に見ることができる画面を実現し、ユーザーに提案してきています。これはよりいい機能を追加するという足し算の発想ですが、本当にそこにユーザーのニーズがあるのかは個人的には疑問です。さらなる高性能よりも利便性なのではないでしょうか。

番組配信の仕方もアップルは変えるのかもしれません。iCloudとも連携するということは、単に放送される番組を見るだけではなく、過去の番組も含めて見たい番組を見たい時に、その状況に適切なデバイスで見られるようになるのでしょう。家で見る時はリビングのアップルTVで、自分の部屋のベッドではiPadで、電車で続きを見る時はiPhoneで、といった感じで、アップルが得意とするユーザーに必要以上の設定をさせることなく、全ての端末が一連となって機能する仕組みです。

直感的な操作性に優れたテレビ、自分の好きな番組を好きなように見られるという、ユーザーにとって何が本当に価値があって、それに対して自分たちが提供できることは何か、これを徹底的に考え抜いた結果、ジョブズの頭にはすでにそのテレビは完成していたのではないでしょうか。

■次のテレビへの期待

こんな情報がありました。次のアップルTVは2012年あるいは13年頃にリリースされるというものです。
Apple Could Release TV Set in 2012 [REPORT]|Mashable
Apple Looking to Launch Siri-Enabled Television Set by 2013|MacRumors

アップル以外にも、グーグルとTVの話題も見かけました。方向性はアップルTVと似ており、シンプルにし利便性を高めるというものです。
An Update on Google TV|Google TV
Google TV gaining Android Market, simpler interface with new update|AppleInsider

昨今はTV離れが言われ、実際にそうしたことを示すデータを見かけることもありますが、少なくとも自分の身の回り、家族だったり、ツイッターやフェイスブックを見ていると、テレビの話題で盛り上がっていることが少なくありません。なんだかんだでテレビって、みんな好きなんだなと感じます。そんなテレビでイノベーションが起こるのか、そしてそれが私たちとテレビの関わりを変えてくれるのか。近い未来にその答えがわかる日がやってくるのかもしれません。


※参考情報

Jobs's final plan: an ‘integrated’ Apple TV|The Washington Post
Apple exploring 3D gestures to control devices from a distance|AppleInsider
Apple Could Release TV Set in 2012 [REPORT]|Mashable
Apple Looking to Launch Siri-Enabled Television Set by 2013|MacRumors
An Update on Google TV|Google TV
Google TV gaining Android Market, simpler interface with new update|AppleInsider


2011/10/22

Amazonに期待したい「書籍+iTunes Match」という読書体験

ようやくという感じですが、ちょっとわくわくするニュースです。日経新聞の報道によると、アマゾンが年内にも日本での電子書籍事業に参入するとのことです。
アマゾン、年内にも日本で電子書籍 出版社と価格詰め|日本経済新聞

日経が単独でスクープをするようなニュースはやや不安になることもあるのですが、記事を見るとPHP研究所とは契約に合意し、小学館、集英社、講談社、新潮社などととも現在交渉中とわりと具体的に書かれており、アマゾンの電子書籍での日本進出が今度こそはと期待できる内容です。

■3層で強みを持つAmazon

すでに日本国内では電子書籍の市場は存在し、少なくない企業が参入を果たしている状況で、具体的には右表のような状況です(引用:上記日経記事)。とは言っても市場規模は650億円程度(10年度)で、書籍・雑誌全体での約2兆円規模に比べるとまだまだ小さい印象です(数字は同じく日経記事から)。

ニーズがあると思われるににもかかわらず普及が進まないのは、1.そもそも電子書籍というコンテンツが少なく、2.電子書籍端末の互換性も十分ではなく、3.購入するマーケットも乱立しているという、コンテンツ・端末・マーケットプラットフォームという3層それぞれでユーザーにとって魅力を感じないからではないでしょうか。結局、紙の本を買う方が総合的には良く、それに比べて電子書籍で読むということにメリットが感じられないのです。

ところが、これがアマゾンであれば違います。もちろん、前述のような幅広い出版社との契約合意が前提ですが、電子書籍は自社サイトを通じて提供されます。それもPCだけではなく、タプレットやモバイルからブラウザかアプリのどちらからでも買えます。端末についても、専用のキンドルがあり、キンドルを持っていなくてもiPhone/iPad、Android用のアプリも提供しているので、幅広い端末から読むことができます。アマゾンのジェフ・ベゾスCEOは端末やサービスを普及させることを重視し、利益の回収は普及後でいいという経営戦略の持ち主と言われます。アマゾンから販売されるタブレットPCであるKindle Fireの定価は199ドルで、実は製造コストはそれ以上の209ドルではないかという情報もあります。これは1台売るごとに10ドルの赤字が発生します。Amazon’s $199 Kindle Fire Costs $209.63 to Make [STUDY]|Mashable
これは1例ですが、日本においても参入すると決めた以上は、コンテンツ・端末・マーケットというアマゾンの電子書籍サービスをまずは普及させるような展開をしてくるはずです。だからアマゾンの国内参入は、ようやく本命がきたかと期待したくなります。

■Appleが提供するiTunes Matchの意味

ところで、これは現在はアメリカのみ利用可能なのですが、「iTunes Match」というアップルのサービスがあります。iTunes Matchは、自分が持っているCDからiTunesに取り込んだ音楽を、iTunesミュージックストアで提供している楽曲と照合させ、マッチすればその曲はiPhone・iPad・iPodなどの全端末でダウンロードできるようになるというものです。つまり、iTunesに入っている自分でCDから取り込んだ曲でも、全てミュージックストアから買ったものとして扱われることになります。

一見するとこのサービスはあまりメリットがないようにも映ります。ダウンロードした曲もCDから取り込んだ曲も、自分が聞く時にはどちらも好きな音楽には違いないのですから。ただ、iTunes Matchが興味深いのはその考え方にあると思っています。というのは、iTunesマッチがなければ、すでにCDで取り込んだ曲でも同じ曲をiTunesミュージックストアから買ってダウンロードする場合、1曲150円とかのコンテンツ料金が発生します。CDもダウンロードも同じ曲にもかかわらずです。ところがiTunesマッチでは、「すでにCDで買っているんだから、同じ曲をミュージックストアからも別途金額は発生せずにダウンロードできますよ」という考え方。同じ曲にCDとダウンロードとに二重でお金を払うのではなく、「その曲を聴く権利を買う」というようなイメージです。

■「書籍+iTunes Match」という読書体験

話がアマゾンの電子書籍からiTunesマッチに逸れていたので、電子書籍に戻します。もしiTunesマッチのような考え方が電子書籍に適用できればどうなるでしょうか。考え方は「その本を読む権利を買う」こと。具体的には、今手元にあり参考にしている「iCloudとクラウドメディアの夜明け」(本田雅一 ソフトバンク新書)という書籍を紙の本で買えば、電子書籍版でも同じ本が手に入るというイメージです。この本を読む権利を買ったということなので、一度紙で買えば電子版を別途料金で払う必要がなくなる。逆のパターンもあり得るので、電子版を先に買って紙の本を後から無料で入手するという感じです。仕組みとしては、アマゾンの個人IDで紐付し、どの本を買っているかの管理することになります。

電子書籍を読んでいての印象ですが、紙の本と比べメリット/デメリットがあり、どちらの形式が絶対的に良いという感じではありません。紙は持ち運びや本の中から必要な情報を取り出すのに難がありますが、速読性や全体像の把握は紙が勝ります。電子書籍コンテンツや媒体はまだまだこれから仕組みも技術も進化するのでしょうが、それでも紙の本は一定程度は存続するのではないかと思います。将来的には主流は電子書籍になるのかもしれませんが。であれば、上記のような書籍でもiTunesマッチのような仕組みがあれば、一読書好きとしてはかなり魅力があります。大事なのは、読書をするシーンや目的に合った読書の仕方が用意され、各個人それぞれがストレスなく享受できることです。読みたい本を、読みたい時に。アマゾンにはそんな読書体験の実現を期待したいのです。


※参考情報

アマゾン、年内にも日本で電子書籍 出版社と価格詰め|日本経済新聞
Amazon’s $199 Kindle Fire Costs $209.63 to Make [STUDY]|Mashable
Appleの「iCloud」と「iTunes Match」でできること|ITmedia エンタープライズ
「黒船」アマゾン来襲を前にして日本の電子書籍は壊滅状態|エコノMIX異論正論


iCloudとクラウドメディアの夜明け (ソフトバンク新書)
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2011/10/16

TVのながら見とマルチタスク

アメリカ調査会社のニールセンがある調査結果を発表していました。
40% of Tablet and Smartphone Owners Use Them While Watching TV|Nielsen

■TV視聴中のスマホやタブレット使用状況

それによると、タブレットPCを持っている人のうちおよそ4割の人がTVを見ながらタブレットを同時に使用しているそうです。スマートフォン所有者も同様で、一方で、TV視聴中に使ったことがないのは12-13%程度という結果になっています。

引用:40% of Tablet and Smartphone Owners Use Them While Watching TV|Nielsen

なお、数字だけ見るとなかなか興味深い結果が出ているのですが、この調査がどういう人たちから得られたデータなのか(たぶんアメリカ人だとは思いますが)、母数が何人なのか、年齢や男女構成比など、詳細情報が載っていなかったのが残念です。これらの基本情報以外にも、そもそも毎日TVを見る人がどれくらい存在するのか、タブレットやスマホの所有率など、上記の数字を見るにあたっての前提もあるとよかったなと思います。詳細情報は個別での問合せフォームが用意してあるので、そこから入手できるのかもしれませんが。

というわけで、調査結果の数字を見るうえで前提情報が不足していてやや気持ち悪い感は残るのですが、上記グラフの下段の横棒グラフでは、タブレット&スマホ所有者がTVを見ながら実際に何をしているかの結果が出ています。最も多いアクションとして、TV番組やCM中にメールをチェックすることが挙がっており、次いで番組やCMと関係ないサイト等を見ていたり、SNSを使っていたりするようです。

これらに比べて比率としては小さいのですが、番組に関する情報検索が29%、流れたCMの商品についての情報検索が19%となっているのには少し驚きました。特に、後者の見たCMに興味を持ち、詳しい情報を探すのが2割弱もいる。この人たちがその後にどういった行動を取るのか、例えば詳細情報を見ただけで終わるのか、見つかった情報をSNS等でシェアするのか、あるいは記憶に残り実際に買うことになるのかは気になるところです。

■TVのながら見とマルチタスク

ニールセンの調査は、TVを見ながらタブレットやスマホを使うという「マルチタスク」がどれくらいされているかの調査です。自分自身のことを振り返ってみると、ノートブックPCだけだったころは、そういえばTVとPCという状況はそんなにありませんでしたが、TVを見ながらiPhoneやiPadを使うという行動はかなり普通にするようになりました。ただ、正確に言うと手元でiPadを使っている時はTVからの音はあまり頭に入っておらず、実際のところは本当に「マルチタスク」かと言うと、ちょっと疑問だったりもします。感覚的には、TVの内容と関連のあることならまだしも、番組やCMとは無関係な情報をiPhoneやiPadで見ている場合はほぼシングルタスクと言っていい状況に思います。

このマルチタスクについて、Dener大学のJim Taylor博士によると以下の2つが満たされる場合は有効であるとしています。
・どちらか一方のタスクは集中する必要がない
・各タスクを行なうために使う脳の部分が異なること
Technology: Myth of Multitasking|Psychology Today

どういうことかと言うと、例えば、クラシック音楽を聞きながらの読書は効果があるものの、歌詞のある音楽を聞きながらの読書では、どちらも脳の言語処理が必要になるためにマルチタスクにはならないそうです。もっとも、個人的な感覚としては歌詞付きの曲でも歌詞の部分も単なる音として(歌詞の意味をほとんど気にしない状況)聞いている状態では、読書の邪魔にはならないようにも思いますが。

ニールセンの調査結果に話を戻しますが、このマルチタスクへの指摘を踏まえると、番組やCMの最中にTVはついていても実際はメールチェックや無関係なサイト閲覧をされるというのは、一見マルチタスクな状態かもしれませんが、実質的にTVを視聴されていないのと同じ状況です。TV番組制作側やTVCM広告主にとっては望ましい視聴状態ではないことは言うまでもありません。コンテンツ配信側としては、いかに視聴者の興味を引き付けられるか、あるいは、放送内容と関連するフェイスブックやツイッター等のSNSとの連携をいかに設計でき、TVだけで終わらない水平展開が今まで以上に必要になってきそうです。


※参考情報

40% of Tablet and Smartphone Owners Use Them While Watching TV|Nielsen
How People Use Smartphones and Tablets While Watching TV [STUDY]|Mashable
Technology: Myth of Multitasking|Psychology Today
Why Multitasking May Make You Less Productive|Mashable


2011/10/10

あらためて考えさせられるスティーブ・ジョブズの死生観




2011年10月5日、スティーブ・ジョブズが亡くなりました。

おそらく多くの人がそうであったように、第一報を知った時はにわかには信じられませんでした。

ツイッターのタイムラインはジョブズのことで埋まり、海外のニュースやブログも次々に報じてました。そしてアップルが同社の HP 上に掲載した内容を見た時、ようやく現実だとわかりました。「Steave Jobs 1955-2011」と終止符が打ってあったからです。

その日以来、ジョブズに関する様々なブログやニュース記事を読みました。普段は通勤中などある程度まとまった時間がある時は本を読んでいます。先週後半はジョブズ関連の記事が中心でした。それくらいいろんな人たちがジョブズについてあらためて取り上げていたので、目にとまりました。

読んだものとしては海外のものが多かったですが、日本語でもIT系のブログではそれまで自分が知らなかったジョブズのエピソードがいくつか書かれていました。あらためてジョブズのことを知ることができる記事もよかったです。

多くのジョブズ関連の記事や動画の中で、最も印象に強く残っているのが、2005年に米国スタンフォード大学卒業式の祝賀式で卒業生に向けて行われたジョブズのスピーチでした。

Text of Steve Jobs' Commencement address (2005) |STANFORD UNIVERSITY

■ Steve Jobs Stanford Commencement Speech 2005

スピーチ内容は、ジョブズの生き方や考え方のベースになっている人生観そのものだと思います。上記のリンクはスタンフォード大のHP上に掲載されているスピーチ原稿です。できれば英語原稿のまま一読されることをおすすめしますが、日本語の字幕付き動画や日本のブログでも日本語訳が取り上げられているので、こちらでもいいかもしれません。

Apple創始者・スティーヴ・ジョブスの伝説のスピーチ(1)|YouTube(日本語字幕付き動画1)
Apple創始者・スティーヴ・ジョブスの伝説のスピーチ(2)|YouTube(日本語字幕付き動画2)
スティーブ・ジョブスの魂。STAY HUNGRY, STAY FOOLISH|ASSIOMA(スピーチの日本語訳)

このスピーチは相当有名なのでご存知の方も多いと思いますが、内容を自分なりに整理すると次のようなものです。

  • 起:点と点をつなぐ(バラバラの経験であっても将来それが何らかのかたちで繋がる)
  • 承:好きなことを仕事にする
  • 転:ジョブズの死生観
  • 結:卒業生へのメッセージ 「Stay hungry, stay foolish.」

■ ジョブズの死生観

このスピーチの中で最も強い印象に残ったのが、ジョブズの死生観でした。

ジョブズは17才の時、次の言葉を知り衝撃を受けたと言います。「来る日も来る日もこれが人生最後の日と思って生きるとしよう。そうすればいずれ必ず、間違いなくその通りになる日がくるだろう」。

その後、ジョブズは毎朝欠かさずに鏡の中の自分と対話をするようになります。「もし今日が自分の人生最後の日だとしたら、今日の予定は、本当に私のやりたいことだろうか?」と。この質問に対する答えが「No」という言う日が続くと、そろそろ何かを変える必要があると考えたそうです。

スピーチでは、すい臓ガンを患い発見した際には医師たちから余命が3-6ヵ月であると告げられたことも触れています。これをジョブズは「死の支度をしなさい」と受け取ります。しかし、その後の診断で、この時のジョブズの腫瘍は極めて稀な形状で手術をすれば治せるものだったようで、無事に成功しています。

ジョブズの死への考え方が印象に残ったのは、「死は我々全員が共有する終着点」と捉えており、さらには「死はおそらく生が生んだ唯一無比の最高の発明品」としていたからです。死によって、古きものを一掃して新しきものに道筋を作っていく働きのあるものと言います。

毎朝、今日という日を人生最後の日だと考える、つまり、自分が死と隣り合わせにあることを忘れずに思うこと。ジョブズはこれまで人生を左右する重大な選択を迫られた時には常に、決断を下す最も大きな助けになったとスピーチで語っていました。

■ 死への絶望という記憶

私自身はここまで明確な死生観を持っているとは思いません。それでもジョブズのスピーチの中で印象に残り、かつ共感した部分は間違いなく死についてのところでした。

日常生活のちょっとしたタイミングで自分の死を意識することがあります。朝玄関を出た時に、ふと今日自分が死ぬともうこの家には帰ってこないと思ったりするといったようにです。

初めて死を意識した幼稚園か小学校に入学した頃くらいの時でした。ちょうどその前に、「人は死ぬともう二度と生き返ることはない」ということを教わりました。

それよりも以前は死ぬことについては知っていたものの、なんとなく時が立てば生き返るものだと勝手に思っていました。それが、死んでしまうと、どれだけ時間がたっても永遠に生き返ることはない、この「永遠に」という時間に終わりがないという意味が幼いながらに分かった時に、初めて絶望的な気持ちになったことを今でもよく覚えています。

しばらくは自分の親や兄弟、友達とか先生には絶対に死んでほしくなかったし、何よりも自分がいつか死んでしまうことがとても怖かったです。夜になるとついそのことを考えてしまい、朝方まで寝られなかったことは一度や二度ではなかったように記憶しています。

それでもまだ小さい子どもだったので、学校が楽しかったりだとかでいつの間にか深刻に思いつめることはなくなりましたが、ふとしたタイミングで思い出すのは前述の通りです。

ジョブズがスピーチで言った、自分の死を意識することで人生の岐路に立った時に決断する手がかりになるということはわかります。人生は一度きりであり、変な迷いがなくなり、そう思うことで吹っ切れます。

だから、ジョブズのスピーチが印象に残ったのです。さらに、ジョブズが亡くなった直後というタイミングでした。ジョブズの死生観の部分が最も印象的だったのは必然だったのかもしれません。

■ Focused on his family first

ジョブズは毎朝欠かさずに鏡の中の自分に問いていました。「もし今日が自分の人生最後の日だとしたら、今日の予定は、本当に私のやりたいことだろうか?」と。ジョブズが亡くなった後に読んだいくつかの記事の中に、以下がありました。

Steve Jobs knew his time was short, focused on family first|AppleInsider

そこには、自分の余生が残り少ないことを悟ったジョブズは、その時間を最も大切なこと-ジョブズの最愛の妻と子どもたちと過ごす時間に費やしたと書かれていました。ジョブズに残されていた時間が愛する家族との素晴らしい時間だったことを願うばかりです。


※参考情報
Remembering Steve Jobs|Apple
Thanks, Steve|jonathan mak
Text of Steve Jobs' Commencement address (2005) |STANFORD UNIVERSITY
Steve Jobs Stanford Commencement Speech 2005|YouTube
Apple創始者・スティーヴ・ジョブスの伝説のスピーチ(1)|YouTube
Apple創始者・スティーヴ・ジョブスの伝説のスピーチ(2)|YouTube
スティーブ・ジョブスの魂。STAY HUNGRY, STAY FOOLISH|ASSIOMA
「ハングリーであれ。愚か者であれ」 ジョブズ氏スピーチ全訳|日本経済新聞
Steve Jobs knew his time was short, focused on family first|AppleInsider
スティーブ・ジョブズの死生観とシンプルへの追及|思考の整理日記


2011/10/01

目から鱗だったエネルギーの本質

ここ最近読んだものに、「エネルギー論争の盲点―天然ガスと分散化が日本を救う」(石井彰 NHK出版新書)という本があります。この本の趣旨は、3.11の東日本大震災以降に見られる「原発vs再生可能エネルギー」という議論は不毛であり、今後のエネルギー供給の安定性と二酸化炭素削減を両立するのは天然ガスの活用と資源分散型のスマートエネルギーネットワークをいかに確立するか、というものです。

全体的に読み応えのある内容だったのですが、特におもしろかったのが「そもそもエネルギーとは何か」という根源的な部分の話でした。エネルギーが現代社会に果たしている役割や人類の歴史との関係など、エネルギーに関して本質的な論点が取り上げられており、ここがあらためて考えさせられる内容でした。目から鱗な話だったので、今回のエントリーでは本書で書かれていた内容を中心に書いています。

■現代社会とエネルギー

本書の内容は「なぜエネルギーが重要なのか」という問いから始まります。これに対して筆者は次のように説明します。エネルギー供給、特に安くて安定した大量のエネルギー供給がなければ私たちが暮らす現代文明は一日たりとも維持できない。

どういうことかと言うと、現代人の生活はあらゆるモノに囲まれていますが、これらを生産あるいは輸送のために膨大なエネルギーが使われています。ここでいうモノとは食品、衣服、家・建築物、紙、ガラス、化学・薬品、道路・鉄道、車・船舶などのありとあらゆるものですが、本書によると、日本の場合、モノの生産に全エネルギー消費の約半分が、輸送や配送も含めると全エネルギー消費の3分の2という量となるようです。

もう少し現代文明について考えてみます。現代文明の特徴として、都市部への人口集中と高度に組織化された産業システムの2つあると筆者は言います。都市部に人口が集中することで、例えば私たちが口にする食料を都市部だけでつくりまかなうことはほぼ不可能です。生活に必要な資源も同様です。だからどう対応しているかと言うと、都市の外部で食料が生産され、日々運ばれてきています。上下水道や道路網など私たちが当たり前に使っている社会システムを維持するためにもエネルギーが消費される。都市部への人口集中とそれを可能にするこうした高度な産業システムを支えているのがエネルギーなのです。私たちの生活は大量のエネルギーを消費することが前提で成り立っているわけです。

■人類の歴史とエネルギー

本書では、人類の歴史という観点からエネルギーの説明も書かれていました。筆者は文明化とはエネルギーの多消費化であり、かつエネルギー源の高効率化であると言います。

まずは多消費化から。人類史において、文明化の段階はいくつかありますが、大きくは農業開始、産業革命、現在の情報革命です(このあたりの話は「情報社会のいま ―あたらしい智民たちへ」という本がおもしろかったです)。エネルギー消費で見ると、農業社会に比べ産業革命により3~4倍に増加、さらに産業革命開始時と現在では、エネルギー消費は40倍に増えているのだそうです。(もちろん、この間に人口も増えているので当然社会全体でのエネルギー消費は増えるわけですが、一人当たりエネルギー消費で見ても4倍と増加している)

エネルギーの高効率化について。産業革命前はエネルギー源の主流は薪炭でした。それが、産業革命で石炭が使われるようになり、その後はより効率のよい石油というエネルギー源に移り変わります。本書では、エネルギーの効率さを比較するために「エネルギー算出/投入比率」という指標が用いられています。これは、1単位のエネルギーを取り出す(算出)のに、何単位のエネルギーが必要になるか(投入)という比率です。例えば産業革命以前の主流エネルギー源だった薪炭ではこの比率が2~3倍だったものが、石炭で40~50倍まで効率がよくなります。つまり、1単位の石炭があれば、40~50単位の石炭が取れるということです。これの比率が石油では中東などの巨大油田ではなんと100~200倍ともなるようです。2010年にメキシコ湾で石油会社BPが原油を海に流出させてしまう事故が起こりましたが、これは見方を変えればBPが流出を止めたくても、油田から自ら勝手に噴出してしまうくらいの算出効率の良さであるがために起こったものでした(という記述が本書にありあらためてその算出効率の良さを実感させてくれました)。ちなみに、太陽光のエネルギー算出/投下比率は10倍、風力は15倍程度と説明されています。

■ストックなエネルギーとフローなエネルギー

本書では、以上のようなそもそもエネルギーとは何かという話が、人類の歴史と絡めてあらためて説明されています。それを踏まえ、今後のエネルギー政策をどうするかという論点に移っていきます。このあたりを理解すると、「原発or再生可能エネルギー」という二元論では、私たちの社会を支えているエネルギーの全体像を捉えていないことに気づかされます。つまり考えるべきは原発でも再生可能エネルギーでもない化石エネルギー源の有効活用です。もちろん、長期的には化石エネルギーという過去の地球の資産とも言えるエネルギーの比率を下げ、再生可能なエネルギーでまかなっていくような姿が望ましいでしょう。ただ、現時点で再生可能エネルギーが主流になるのは非現実的であり、原発分の代替にもなり得ません。

現代文明は、前述のように高度に組織化され都市部に人口が集中するという社会システムで、維持するために大量の高効率なエネルギーを投入しています。主流なエネルギー源は石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料で、これは太古の昔から現在にわたって蓄積され濃縮された、いわば貯金のようなストック的なエネルギーです。これに対して水力、バイオ、太陽光・熱、風力などのエネルギーは毎月の収入のようなフローなエネルギーです。貯金に頼らず毎月の収入エネルギーだけで暮らしていた産業革命前と、毎月収入と貯金までも使って築き上げた現代社会。私たちが享受している生活は身分相応以上の贅沢な生活と言えます。しかしだからと言ってもはや産業革命以前の生活に戻れるわけはなく、であるが故に考えるべきは今の主流である化石エネルギーをいかに効率よく使うか(エネルギー供給側での省エネ)、安定的に供給が継続できるような発送電の仕組みのはずです(一方で環境に負荷をかけないという視点も必要)。本書を読むことで、そんなことをあらためて気づかされたように思います。






情報社会のいま ―あたらしい智民たちへ
公文 俊平
エヌティティ出版
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2011/09/17

やっぱりグーグル先生の考えることはすごい。Googleローカルショッピングという挑戦

グーグルが実店舗の商品の価格や在庫情報を検索できる「Googleローカルショッピング」の提供を開始したと発表しました(11/9/16)。
Google ショッピングで実店舗の商品を検索|Google Japan Blog

■Googleローカルショッピングとは

このサービス内容をもう少し見てみます。

(引用:ヨドバシやマツキヨの商品、1200店の価格をグーグルで在庫情報も|日本経済新聞(2011/9/16))

上図は日経新聞からの引用ですが、現時点ではヨドバシカメラやマツモトキヨシホールディングス、良品計画など流通大手7社と組み、全国の実際の店舗にある商品価格や在庫情報をネット上で見られるようになっています。Googleマップと連携することでその店がどこにあるかや、電話番号・店舗までのルートも表示。実店舗での販売商品だけでなく、ネット通販サイトでの価格・在庫情報もわかるので、ユーザーは実際の店舗からネット上の店舗まで商品情報を簡単に比較することができます。

Googleローカルショッピングは無料でユーザーに提供されています。そして、小売の参加料も無料のようなので、グーグルにとっては直接このサービスでお金を稼ぐという位置づけではないようです(ページ上の広告表示はありますが)。ここにグーグルの哲学を見ることができるのですが、あくまで情報を集めてきて整理をし、それを使うユーザーを増やすという考え方。つまり、「世界中の情報を整理する」というミッションに沿って、マネタイズはユーザーを増やすことでそこに表示させる広告効果を高めることを通じて実現するというものです。

このローカルショッピングの特徴だと思うのが、店舗の商品価格や在庫情報を小売側から提供を受けている点です。というのも、グーグルはどちらかというと情報は自分で集めてくる傾向があり、例えば、Web上の情報はクロールロボットを徘徊させることで、ストリートビューはカメラ付きの自動車を実際に走らせていますし、Googleブックスなんかも自分たちで書籍をスキャンしています。このようにオンラインもオフラインの情報も自分たちの手で集めているのですが、ローカルショッピングにおいては小売から提供してもらっています。グーグルは12年末までに参加企業を100社程度まで増やすとしているようですが、拡大するにあたり、「精度を重要視している。急速に拡大したいが、密にやりとりして、クオリティを担保できればやっていくという形でパートナーを増やす」(グーグル プロダクト マネージャーの鈴木宏輔氏)という方針のようです。
実店舗の商品価格や在庫も検索できる「Google ローカルショッピング」|CNET Japan

■参加する小売側の狙いはOnline to Offline

このCNETの記事にはさらに、ヨドバシカメラ取締役副社長の藤沢和則氏の次のようなコメントがあり、小売側にとっても参加する意義があることがうかがえます。「店頭でスマートフォンを見て、ネット販売の価格と比較して帰ると言う方もいる。(Google)ローカルショッピングで『実際の店舗も安い』と分かってほしい。ネットのほうが実店舗より安いという“都市伝説”を崩していく」。

ちょっと前からO2O(Online to Offline)という言葉をよく見るようになりました。意味は、オンライン上にある情報がオフラインでの購買行動に影響を与えるというようなことですが、イメージとしては、お店に買いに行く前に価格コムなどで口コミ情報の価格情報を見て、口コミ評価の高い商品を最安値のお店で買う感じです。PCだけではなくスマートフォンなどのモバイルにも対応していることも考慮すると、GoogleローカルショッピングはまさにO2Oを促すサービス。上記のヨドバシカメラのコメントも、Online to Offlineにつなげる内容だということに気づきます。小売にとってローカルショッピングへの参加は無料とはいえ、グーグルへこれまでは(ネット上には)非公開だった情報を提供することになります。もちろん、今後は自分たちの競合他社も同様に情報を提供することになる可能性があり、グーグルのサービス上で情報が透明化されることで間違いなく価格などの競争が激しくなるでしょう。ローカルショッピングはまさに小売とグーグルの二人三脚という感じですが、一方でリスクも存在するのだと思います。

■Googleの挑戦

Googleローカルショッピングでは商品が、どこに・いくらで・どれだけ売られているかの情報や店舗の地図や電話番号がGoogleマップ上に表示されます。これをグーグルが整理した情報としてユーザー側に提供する、うまく循環すれば、ローカルショッピングを見たユーザーが店舗に足を運び購入し、次もローカルショッピングを使うという形が生まれます。何か買う時はグーグル先生にちょっと聞いてみるという人が増え、使用頻度も上がること、そして参加企業も拡大し実店舗からというオフライン情報がさらに集まってくる、これがグーグルが描く当面のゴールイメージでしょう(このへんをKPIで目標設定しているのではと思います)。

あらためてローカルショッピングというサービスを通じてグーグルがやっていることを整理すると、これまでは自力ではなかなか取得できなかった実店舗からの情報を、小売から日々定期的に提供してもらえる仕組みが構築できたことになります。ネット販売の情報であればオンライン上なので情報を集めやすいことに比べ、集めにくかったオフラインの情報が手に入る。それも小売からオフィシャルな形で。実店舗の情報がオンラインに取り込まれ、Googleマップなどの既存のオンラインサービスと連携することで価値が生まれる。当然ここにGoogle+などのグーグルが持っているサービスともつながってくるのではないでしょうか。グーグルにとってはこのローカルショッピングは意味のある一歩だなと感じます。グーグルはまた1つオフラインの情報をオンラインに引き込もうとしているのかもしれません。

※参考情報

Google ショッピングで実店舗の商品を検索|Google Japan Blog
ヨドバシやマツキヨの商品、1200店の価格をグーグルで在庫情報も|日本経済新聞(2011/9/16)
実店舗の商品価格や在庫も検索できる「Google ローカルショッピング」|CNET Japan
ヨドバシやマツキヨなどの店頭在庫をググれる「Googleローカルショッピング」始動|Gigazine
Googleがローカルショッピングの検索機能を公開。近隣店舗の商品価格と在庫情報が調べられる|TechCrunch JAPAN

2011/09/04

スティーブ・ジョブズの死生観とシンプルへの追及


2011年8月24日、スティーブ・ジョブズがアップルCEOを退任することを明かしました。その内容はアップル全社員に宛てた短いメールに書かれていましたが、アップル社員だけではなく世界の人々にとってニュースとなりました。

■ Steve Jobs Stanford Commencement Speech 2005

アップルのCEOという立場から退いた今、あらためて考えさせられたのがこれでした。2005年に米国スタンフォード大学卒業式の祝賀式で卒業生に向けて行ったスピーチです。

Steve Jobs Stanford Commencement Speech 2005|YouTube
スティーブ・ジョブスの魂。STAY HUNGRY, STAY FOOLISH|ASSIOMA(日本語訳)

あらためてスピーチ内容を見ると、ジョブズの原点というか、生き方や考え方のベースになっている内容だと思いました。このスピーチは相当有名なのでご存知の方も多いと思いますが、内容を整理すると次のようなものです。

  • 起:点と点をつなぐ(バラバラの経験であっても将来それが何らかのかたちで繋がる)
  • 承:好きなことを仕事にする
  • 転:ジョブズの死生観
  • 結:卒業生へのメッセージ 「Stay hungry, stay foolish.」

■ ジョブズの死生観

このスピーチの中で最も強い印象に残ったのが、ジョブズの死生観でした。

ジョブズは17才の時、次の言葉を知り衝撃を受けたと言います。「来る日も来る日もこれが人生最後の日と思って生きるとしよう。そうすればいずれ必ず、間違いなくその通りになる日がくるだろう」。

その後、ジョブズは毎朝欠かさずに鏡の中の自分と対話をするようになります。「もし今日が自分の人生最後の日だとしたら、今日の予定は、本当に私のやりたいことだろうか?」と。この質問に対する答えが「No」という言う日が続くと、そろそろ何かを変える必要があると考えるのだそうです。

スピーチでは、すい臓ガンを患い発見した際には医師たちから余命が3-6ヵ月であると告げられたことも触れています。これをジョブズは「死の支度をしなさい」と受け取ります。

しかし、その後の診断で、この時のジョブズの腫瘍は極めて稀な形状で手術をすれば治せるものだったようで、無事に成功しています。

ジョブズの死への考え方が印象に残ったのは、「死は我々全員が共有する終着点」と捉えており、さらには「死はおそらく生が生んだ唯一無比の最高の発明品」としている点です。死によって、古きものを一掃して新しきものに道筋を作っていく働きのあるものと言います。

毎朝、今日という日を人生最後の日だと考える、つまり、自分が死と隣り合わせにあることを忘れずに思うこと。ジョブズはこれまで人生を左右する重大な選択を迫られた時には常に、決断を下す最も大きな助けになったとスピーチで語っています。

私自身も、ここまで確固たる死生観とはいかないものの、日常生活のちょっとしたタイミングで自分の死を意識することがあります。朝玄関を出た時に、ふと今日自分が死ぬともうこの家には帰ってこないと思ったりします。特にこれは東日本大震災の後はいつもよりも自分の死を意識する頻度であったりリアリティが強くなりました。

ただ、その後は仕事で忙しかったりするとかで自分の死が頭から離れていくこともあり、時々しか頭をよぎらなくなるのですが。ジョブズの言う、自分の死を意識することで人生の岐路に立った時に決断する手がかりになるということはわかる気がします。人生は一度きりというか、変な迷いがなくなり、そう思うことで吹っ切れます。

■ 本当に必要なこととシンプルさ

ジョブズに戻します。ジョブズは死を意識するとともに、今やっていることが「本当に自分のやりたいこと」かどうかを自問します。おそらく、アップルのCEOをやめる決断をしたことも、これと同じプロセスを踏んだのだと思います。

自分のやりたいこと・大切なことにフォーカスするということは、裏を返せば不要なことは除外するということになります。本当に必要なことだけを取り組む、あるいは残すという考え方は、突き詰めていけば「シンプルさ」にいきつきます。

今自分の手元には、ジョブズのつくり出したiPhoneとiPadがあります。

あらためて手に取り、その他のITや家電製品と比べるとその形状のシンプルさが際立ちます。iPadの正面にはホームボタンというたった1つのボタンがあるだけです。側面を合わせてもスリープボタンなどボタンやスイッチ部分は5つのみです。

本当に必要な機能に極限まで絞り込んだ結果だと思いますが、ここにジョブズの哲学を感じることができます。

徹底してシンプルを追及すること、それはつまり本当に必要なことだけを取り組む姿勢、その背後にはジョブズの死生観があります。ジョブズの功績は、複雑性が増す現代社会で「シンプル」なプロダクトとユーザー体験によって世界に驚きを与え続けたと言えるのではないでしょうか。


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多田 翼 (書いた人)


外資系 IT 会社にて 「シニア マーケティングリサーチ マネージャー」 (LinkedIn) 。

1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身。学生時代は京都。家族4人で東京23区内に在住、2人の子どもの父親。気分転換は毎朝1時間のランニング。

書いている内容は、所属組織や会社の正式見解ではなく個人の見解です。