2010/03/29

日経電子版(大きな可能性)

前回の記事のポイントは日経電子版の戦略設定および価格設定に問題あり、という内容でした。そこで今回は、思考を発散させてみるために、Web版の新聞の可能性について考えてみます。

先に結論から述べると、新聞のWeb化には大きな可能性があるのではないか、ということです。



前回の記事の最後で、日経が電子版の提供をしたこと自体には評価していると記しました。なぜそう考えたかというと、次の2点からです。
(1) 既存の無料Webニュースモデルを有料モデルとした
(2) Web版新聞は可能性がある



■ 無料から有料モデルへ

Web版の新聞を無料から有料としたことは、書籍「フリー」(クリス・アンダーソン著)で紹介されているフリーモデルのうち、「三者間市場」と「フリーミアム」から説明ができます。

つまり、これまでのWeb配信が広告をつけることで成り立っていたモデル(三者間市場)から、日経電子版の一部の有料会員からの支払いで成り立たせようというモデル(フリーミアム)への転換です。もちろん、日経電子版にも広告掲載があり、正確には「三者間市場+フリーミアム」というビジネスモデル転換になります。



■ Web版は顧客情報の宝庫

次に、Web版の新聞には大きな可能性があるのではないか、という点です。この「大きな可能性」を説明する前に、まずはWeb版と紙版との違いから整理したいと思います。

違いを一言で表現すると、「顧客の顔がわかる」ことです。顧客の顔とはすなわち、読者の属性情報がデータベース化でき、さらにどんどん蓄積できるということです。具体的に読者属性にはどんな情報があるかをてっとり早く考えるために、5W1Hの5Wから整理してみます。なお、データベースの情報元は登録情報や、記事アクセスログです(ログが取得できることが前提ですが)。


○ Who
読者がどういう人か。この基本情報は、有料or無料会員になる際の登録情報からわかります。実際に登録しましたが、性別・年齢や住所以外にも、(任意ですが)職業や年収、興味のある情報を登録するなど、これだけでもその人の基本属性がデータ化されます。

○ When
読者がいつその記事を読んだか。読者はそれぞれIDが割り当てられますが、IDごとのアクセスログを見れば把握できます。朝の出社前、昼休みの時間帯、夕方、夜など、ログさえ解析できれば一発でわかります。

○ Where
どこにいる時に記事が読まれたか。モバイルでアクセスされた場合、(現在はできなくても)GPSを使えばどこからアクセスをしているかがわかります。PCでも公共の無線LANであれば特定できそうですし、IPアドレスからも把握できてしまうのかもしれません(ここはあまり詳しくないので推測ですが)。

○ What
どの記事が読まれたか。これもアクセスで簡単にわかります。実際に日経では「My日経」というコンテンツがあり、ここで言うWhatとWhoのデータからその人に最適な記事を抽出していると思われます。

○ Why
なぜその記事を読んだか。現在の技術だと意識データのデータ化までは難しいかもしれません。仮にやるとしても、記事がアクセスされた後に付帯質問として「なぜ読んだか」を簡単な選択肢から選んでもらうことも考えられますが、読者と新聞社側の双方に手間がかかるため、現実的ではありません。ただ将来的に、意識データまで読者には無意識的に取得できれば、データとしてはおもしろいと思います。

以上、5Wから整理しましたが、これらのデータが継続的に蓄積される結果、読者の詳細な属性がデータベース化されます。これが今までの紙版にはない大きな違いで、電子版の強みになるはずです。



■ 顧客情報の価値

では、このように「顧客(消費者)の顔がわかる」とどんな可能性が期待できるのでしょうか。最も恩恵を受けそうなのは、広告だと思います。一言で表現すると、「記事連動型のOneToOneマーケティング広告」です。もちろん、紙版にも紙面やチラシによる広告は存在します。しかし、新聞社側には読者の属性があまり把握できないために、その広告効果も限定されているのが現状ではないでしょうか。もちろん日経であれば、ビジネスマンをターゲットとした広告展開が考えられますが、一口にビジネスマンと言ってもその趣向は千差万別です。

そこで、電子版の詳細な読者属性データベースです。上記のような5Wレベルまで把握できていれば、いわゆるOneToOneマーケティングの展開が期待できます。文字通り一人一人にあった広告が自動でカスタマイズできるはずです。例えば同じ年齢でも住む場所や職業、年収などの組み合わせの数だけ、広告パターンができそうです。

さらにWebのいい点は、クリック数など広告効果測定もできるので、読者にささったかどうかも把握できることです。



■ Web版の大きな可能性

さて、ここまで主に日経電子版を想定してきましたが、読者属性のデータベース化が実現できれば他紙にも十分可能性があるように思います。なぜかというと、日経はその名の通り経済ニュースのウェイトが高く、記事連動型の広告を打つにしてもその範囲が限定されてしまうかもしれません。その一方で、朝日や読売などの一般紙であれば記事の話題は幅広く、スポーツ紙であればスポーツや芸能情報が充実しているため、記事に連動した広告も、日経とは違った内容で掲載できそうです。(つまり日経電子版広告とは差別化できる)

例えばですが、「今年はおいしい秋刀魚が獲れそうだ」みたいな記事を読みなんとなく食べたくなった時に、そのすぐ横に「○○で獲れたおいしい秋刀魚」とかの通販広告が目に入り、かつ朝の間にクリックすれば当日届くみたいなサービスであれば、自分だったら迷わず注文してしまいそうです。このへんは、楽天あたりとコラボすればノウハウもありそうで、いろんな工夫ができそうです。

まだまだ色々考えられてきりがないですが、要は何が言いたいかというと、新聞をWeb化することで時々刻々と読者情報、つまり広告主にとっての消費者情報が集まり、その属性への連動性の高い広告が打てる、ひいてはここ最近減少傾向にある新聞広告も拡大する可能性があるのでは、ということです。

逆に考えれば、広告費により無料でWeb配信が引き続きできるかもしれません。ただし、その場合は、無料会員登録と称して属性登録が必要&ログ解析の同意を取られそうですが(タダより高いものはない)。


そんなわけで、冒頭で述べた通り、新聞のWeb化も情報の活用次第では、日経だけでなく他紙にも大いに可能性があると思ってしまい、今後の展開に注目しています。


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