2010/03/10

マーケティングスタディ:書籍「生命保険のカラクリ」

大手出版社である文芸春秋のある取組みが話題を呼んでいます。昨年10月に出版した新書「生命保険のカラクリ」(岩瀬大輔著)を、インターネット上でPDFにより全文無料で読めるようにするというものです。

著者は既存の生命保険には次の2点の問題点を挙げています。(1)従来の生命保険の高コスト体質、(2)売り手と買い手との間に存在する情報の非対称。この全文無料公開の試みは、作者の「もっと多くの人に読んでもらいたい」という強い希望で実現したようです。

今回は、この書籍の「フリー」という試みをマーケティングの視点から整理してみました。使用したフレームは「図解 実践マーケティング戦略」(佐藤義則 日本能率協会マネジメントセンター)で紹介されている以下の2つです。

(1)プロダクトフロー
(2)マインドフロー



■プロダクトフロー

プロダクトフローには、前提となっている考え方があります。それは、「購買には心理的な障害がある」というもの。どういうことかと言うと、「財布の中身と相談する」という表現があるように、(衝動買いは別として)何かを買う時には何かしらの迷いがあります。これが「心理的な抵抗」のことです。

プロダクトフローの説明ですが、売りたい商品・サービスを3段階に分けて考え、以下のような3つのステップを設定しています。(図1)


つまり、いきなりスキンケアセット商品を買うのは抵抗がある消費者でも、このプロダクトフローの3段階を踏むことで、「購買への心理的抵抗」が下がります。よって、本当に売りたい商品(スキンケアセット)を買ってもらえるというわけです。

このプロダクトフローに「生命保険のカラクリ」を当てはめると、(1)あげる商品:無料PDF、(2)売れる商品:書籍、になりそうです。

それでは、(3)売りたい商品は何かと考えてみると、「生命保険」になるかと思います。もちろん、筆者の目的はまずは生命保険について様々な人々に知ってもらいたいという思いがあるはずですが、現実的なビジネスとしては、生命保険の販売があるのではないでしょうか。



■マインドフロー

マインドフローというのは、AIDMAのような商品認知~購買~リピートまでの購買ステップのことです。「図解 実践マーケティング戦略」では、7つのステップを定義しています。(図2)






ここで、前述のプロダクトフローである、(1)無料PDF(あげる商品)、(2)書籍(売れる商品)、(3)生命保険(売りたい商品)、をこのマインドフローに当てはめてみました。モデルは、無料PDFで知り、詳細を書籍から読み、生命保険を購入した場合のフローです。(図3)





図から、生命保険についてまずは知ってもらうために、本だけではなく無料PDFのダウンロードにより、効果的に施策が実施されていると思いました。



今回取り上げた「生命保険のカラクリ」の著者である岩瀬大輔氏は、ライフネット生命の副社長です。今後のライフネット生命と、書籍のフリーあるいは電子化については注目したいですね。



※参考情報

日経ビジネス「この本、丸ごと無料です」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20100225/213027/

生命保険 立ち上げ日誌 書籍は「フリー」になるか
http://totodaisuke.asablo.jp/blog/2010/02/27/4910657

現代ビジネス 対談 岩瀬大輔×坪田知己
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/280?

「生命保険のカラクリ」PDF全文ダウンロード (2010/4/15まで)
https://f.msgs.jp/webapp/wish/org/showEnquete.do?enqueteid=20&clientid=12820&databaseid=czs

生命保険のカラクリ (文春新書)

図解 実戦マーケティング戦略

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多田 翼 (書いた人)


外資系 IT 会社にてマーケティングリサーチ マネージャー (LinkedIn) 。

1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身。学生時代は京都。家族4人で東京23区内に在住、2人の子どもの父親。気分転換は毎朝 8km のランニングとピアノ。

書いている内容は、所属組織や会社の正式見解ではなく個人の見解です。