2011/03/08

個人情報という価値を考えてみる

アメリカの位置情報サービスの1つであるLooptのCEO・Sam Alnmanによれば、1981年以降に生まれた世代はオンライン上のプライバシーに対する意識がそれまでの世代と明らかに異なるとのことです。(参考記事:People born after 1981 have lower privacy standards, Loopt CEO says | Hillicon Valley

今回のエントリーでは、若者がプライバシーをよりオープンにする傾向が見られる点、消費者自らが個人情報を売る事例(海外)、これらを踏まえ個人情報という価値をあらためて考えてみます。

■(はじめに)個人情報を記事で扱うことの前提として

なお、本エントリーでは、個人情報保護法令で定める個人情報に必ずしも厳密に当てはまらないものも扱っています(どこまでが同法令が定義する「個人情報」かの判断が難しいため)。

個人情報保護法令での定義
生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)

■若い世代では個人情報をよりオープンにする?

上記の引用記事では、1981年以降生まれ世代のプライバシー意識についての主張の明確な根拠は書かれていませんでしたが、おそらく、自社の位置情報サービスから得られた知見なのでと推測します。1981年生まれの世代は今年は30歳になりますが、1981年生まれのBefore/Afterで異なるかはどうかは別にして、30才前半くらいから下の世代では、ネットや携帯が子供や中高生の頃から身近な存在であったことがそうしたプライバシー意識を形成しているのかもしれません。

そういえば、書籍「デジタルネイティブが世界を変える」(ドン・タプスコット 翔泳社)では13~33才までの若者を「ネット世代」と呼んでいました。生まれた時から身の回りPCやネット、携帯電話などのデジタルテクノロジーが存在し、それらを利用するのが当たり前と考える若者で、彼らの行動基準はそれ以前の世代と著しく異なると指摘しています。思うに、子どもの頃からネットへのアクセスをし大量の情報に触れる、メール等の手段も活用し、リアルとネットの境界を意識しないようなコミュニケーションを「普通に」してきた世代。それ以降の世代からすると、特にネットやモバイルへの価値観が大きく違うように見えるのでしょう。

位置情報サービス、ツイッターあるいはフェイスブックなどのSNSを使っていて感じるのは、多くの人が自分の登録名を実名でしていたり、プロフィール、顔写真など以前であればプライベートだから見せなかったような情報まで公開していることです。日本では特に、ツイッターの流行以降にこの傾向が強くなっているように思います。

ではなぜこうした実名やプロフィールなどの個人情報を公開するのでしょうか。個人的に思うのが、個人情報を非公開とするメリットよりも、公開するメリットのほうが大きいからだと思います。ツイッターや原則実名のフェイスブックでは、実名を公開していることで、親しい友人などとつながりやすくなる、というのが1つの理由なのではないでしょうか。

それを示すように調査会社マクロミルが実施した「Facebookユーザ500人 利用実態調査」では、「Facebookのよいところは何ですか?」という設問に対して、2位:実名なので知人を見つけやすい(37.2%)、3位:実名なので情報に信憑性がある(34.8%)と実名によるメリットが挙げられていました(n=500 ※全てフェイスブックユーザー)。

■自らが個人情報を売る (より積極的な事例)

プライバシー情報である個人情報を、もっと積極的に活用する事例がウォールストリートジャーナルの記事で紹介されていました。「Web's Hot New Commodity: Privacy | THE WALL STREET JOURNAL」(ウェブでのホットな商品はプライバシー)

記事では、人々は自分たちの個人情報の価値を新たに認識し始め、情報保護を強化することもあれば、一方で価値があるのでで売ることもある状況を取り上げています(As people are becoming more aware of the value of their data, some are seeking to protect it, and sometimes sell it.)。

具体例としてイギリスのケースですが、ロンドンのアラウ社では集めた4,000人分の個人情報を販売し、情報を提供した個人には売り上げの70%を手数料を支払っているとのこと。個人情報を提供したSequeira氏は次のようなコメントを残しています。「見知らぬ人に自分の車をタダで上げることはしないのに、どうして個人情報をタダで提供する必要があるのでしょうか。」("I wouldn't give my car to a stranger" for free, Mr. Sequeira says, "So why do I do that with my personal data?")

■個人情報への認識の変化?

興味深いと思ったのは、個人情報を個人が自らが売り物として扱っている点です。もちろん、ちょっとした小遣い稼ぎ程度のものでしょう。それを考慮しても興味深いと思うのは、個人情報への認識が変わってきているのではないかと感じたからです。

その理由は次の通りです。従来であれば個人情報というのは極力開示しないもの、提供するとしても何かしらの商品・サービスを享受することと引き換えにしていたものでした。例えば、ウェブでアカウントを作るためには名前やメールアドレス、場合によっては住所なども登録しますが、これはそのサービスを使うことへのギブアンドテイクです。一方の個人情報を売ることは、それによってサービスなどを直接受け取るのではなく、お金をもらうわけです。つまり、個人情報が価値があるものとして売ることのできる商品として成立しているケースだということです。ここが結構おもしろい。

■個人情報という価値

それでは、どうして個人情報が売れるのでしょうか。それは個人情報を売る側の認識の変化とともに、個人情報へのニーズも存在するからです。実は個人情報というのは、商品やサービスを売る側からしたら、喉から手が出るほど欲しい情報だったりします。個人情報というと名前や住所、メールアドレスが思い浮かびますが、これら以外にも、性別や年齢、職業、家族構成、居住住宅形態、耐久財保有有無に加え、趣味・嗜好、価値観、行動特性なども、例えばマーケティングを考える上では消費者情報として貴重なものです。

これに加え、会員カード履歴などからわかるその人が何を買ったかの購買情報や、GPSも利用してどういった場所に訪れたかの位置情報、TV広告や新聞・雑誌広告への接触情報、あるいはネット上での広告接触、そして、メディアコンテンツへの関与としてテレビ視聴率、PC/モバイルからのネット視聴など、これらの消費者情報は蓄積していくことで意味のあるデータに、活用次第では非常に価値のある情報となっていきます。だからサービス提供側の企業は時にはお金を払ってでも欲しい情報であり、こうした需要があるということで前述のアラウ社などの個人情報販売代理店のようなビジネスも成り立つのでしょう。

さて。最後に思うのは、個人情報というのはその価値を活かすことも悪用することできる、いわば諸刃の剣だということです。自分の個人情報が売れると知っても、それでもなお抵抗感があるのは、自分の情報がどのように使われるかが見えないからではないでしょうか。例えば発生する不安として、メールアドレスであれば迷惑メールが大量に送られてくるのではないか、住所であれば必要でないダイレクトメールが送付されるのではないか、もっと深刻なものとしてクレジットカード番号であれば偽造などの犯罪に巻き込まれてしまうのではないか、等々です。

こうしたことへの懸念がある程度払拭されない限り、個人情報販売が定着するのはなかなか現実的ではなさそうです。ただ、前述のようなそれまでの世代に比べてプライバシー公開の抵抗感が小さいような世代が増えていけば、もしかしたら個人情報への認識が変わっていき、売れるような商品として扱われることになるのかもしれません。


※参考情報

個人情報保護法令
People born after 1981 have lower privacy standards, Loopt CEO says | Hillicon Valley
Facebookユーザ500人 利用実態調査|マクロミル
Web's Hot New Commodity: Privacy | THE WALL STREET JOURNAL
Allow Ltd.


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