投稿日 2010/08/06

書評: リ・ポジショニング戦略 (ジャック・トラウト / スティーブ・リブキン)

「リ・ポジショニング戦略」(ジャック・トラウト、スティーブ・リブキン 翔泳社)という本を読みました。リポジショニングやリデザインは、今の自分の仕事におけるテーマと言っていいものです。


■ポジショニングとリ・ポジショニング

両者を簡単に説明すると以下のようになります。

ポジショニング : 潜在顧客の脳の中にあるあなた自身のイメージを、ほかと差別化すること
リ・ポジショニング : ポジショニングイメージの刷新

ちなみにリポジショニングについては、本書では次のように説明されています。「市場の消費者の心を変えるのではなく、消費者の心の中の認識を少しずつ調整していくものだ」。一度消費者が持ったイメージというのはなかなか変わらないというのは同意できる考え方です。著者は、リポジショニングにおける大事な点は一貫性であり、あきらめずに同じことを何度も続ける必要があるとしています。


■「戦略BASiCS」に見る一貫性

書籍「経営戦略立案シナリオ」(佐藤義典 かんき出版)では、戦略策定のための「戦略BASiCS」というフレームが紹介されています。BASiCSはそれぞれ以下の要素の頭文字をとったものです。

◆Battlefield(戦場・競合)
どこで戦うか。戦場は顧客の心に中に存在する選択肢。よって、競合を決めるのは顧客である。

◆Asset(独自資源) & Strength(強み・差別化)
戦略は、自らの強みを活かして差別化していくことが基本。差別化するとは、競合より高い価値を顧客に提供することである。差別化を長期的に支えるのが「独自資源」。つまり、独自資源と差別化は連動する。

◆Customer(顧客)
顧客の価値に合わせ、経営戦略も顧客の視点で考える。

◆Selling Message(メッセージ)
「価値」を伝えるメッセージ。差別化ポイントを価値に翻訳して顧客に伝えるもの。

この戦略BASiCSを考える際には、5つの要素の「一貫性」が非常に大切であると著者は説明します。例えば、顧客を絞ると、戦場(市場)や顧客が決まります。同時に、自らの強みが差別化され、強みは独自資源によるものでなければいけません。また、顧客へ届けるメッセージも差別化が顧客にとっての価値を表現する必要があります。


■リ・ポジショニングと戦略BASiCS

「リ・ポジショニング戦略」を読んでいて、ふと「戦略BASiCS」が頭に浮かびました。リポジショニングは「言うが易し行うが難し」だと思いますが、リポジショニングを考える際には戦略BASiCSがヒントになるかもしれません。例えば、独自資源や強みにそぐわないリポジショニングであれば、いずれはその地位は失われるはずです。自社の強みに合ったリデザインであっても、そもそもとして顧客にとっての価値は少なく魅力的でなければ、単に自社の強みを自慢したいだけにしか映りません。

ポジショニングをすることで顧客に選ばれたとしても、いつかは陳腐化してしまいます。リポジショニングに成功したとしても、一度くらいではいずれ陳腐化するのでしょう。

「リ・ポジショニング戦略」の帯には、次のような言葉が書いてありました。「マーケティングは人々の認識との戦いである」。今思うのは、戦いの修飾語に「終わりのない」という言葉がつくのかもしれないということです。



投稿日 2010/07/31

今さら電子書籍を考える

米アマゾンは7月28日、キンドルの新機種を発表しました。同社のベゾスCEOによると、ダウンロードと読書をさらに容易にすることで、アップルのiPadとの差別化を図るという考えを示しています。興味深いのは、ツイッターやFacebookとの連携機能が加わり電子書籍にもソーシャルの流れが見えてきたことです。また、日本語を含む複数の言語が新たに追加されたようです。

今回は、少し今さら感もありますが電子書籍について考えたことを記事にしてみます。


■電子書籍の所感

このパラグラフの前提として、現在の自分の電子書籍端末は、スマートフォン(iPhone)とPCだけです。本当はiPadなどのタブレットPCやキンドルなどの電子書籍専用端末から読んだ上で述べたほうがいいのですが、今の電子書籍に対する印象は概ね以下の通りです。

(1) 速読しづらい
本を読むということだけに特化すれば、紙の本が圧倒的に優れていると思います。ケータイ小説などは別ですが、ある程度の文量になると一定時間内に読める量では紙の本に分があります。また、ページをめくるという行為が紙のほうが繰りやすいことも関係していそうです。(紙の本は三次元で読書できるのに対して、電子書籍は二次元です)

(2) 紙のほうが頭に入りやすい(理解しやすい)
これは(1)とも関わってきますが、電子書籍で読んでいると内容が頭に入ってきにくい時があると感じます。電子書籍を読むということに慣れていないだけだといいのですが、本の内容にもよりますが理解度でも紙と電子書籍で差があるように思います。

(3) 電子書籍は読むより保存に向いている
(1)(2)も合わせて考えると、電子書籍の強みは「保存」と「検索」です。紙という物質で存在するのに対して、電子書籍はデータで保存できます。故に電子書籍端末に紙では持ち歩けないほどの量を入れておくことができ、データであることで検索との相性も良い。例えば、後からあらためて読みたい箇所を探すのは、紙の本では苦労することが多い一方で、電子書籍なら検索で一発で探せるはずです。


■日経電子版モデル

さて、今年に入り日経新聞が新たに電子版を創刊しました。電子版を読むには、電子版のみを購読するか紙+電子版をセット(Wプラン)で購買するかのどちらかです。

この紙+電子版をセットで売るというビジネスモデルは書籍にもあってもいいかもしれません。というのは、上記の電子書籍の3つの所感を踏まえると、紙と電子書籍は自分の中で役割が異なるので、であれば両方買うのはありだと思うからです。役割が異なる点を少し具体的にイメージしてみると以下のようになります。
 ・ 紙の書籍:基本読むのは紙のほうで
 ・ 電子書籍:旅行など紙を持ち運びづらい場合に紙の代用として。保存用

ちなみに日経Wプランは紙の新聞購読料金に追加1000円で紙と電子版の両方なので、だいたい25%プラスでお金を支払うイメージです。日経電子版は紙の新聞にはない情報が含まれていることを考えると、例えば本の定価のプラス20%くらいの値段で紙の本+電子書籍が買えるのではれば個人的に結構魅力です。あるいは、紙の本を先に買って内容がよければ後から電子書籍を買えば、電子形態で保存しておき、紙の本は売ってもよさそうです。

(もっとも、自分で本を「自炊」するという手間をかければいいという気もしますが)


■マトリクスから考える本との関わり

ここまで考えてきた電子書籍の役割を考慮し、位置づけを整理してみました(図1)。



横軸は自分にとってのストックかフローかどうか。フローは返却したり売ったりと、常に手元にはない状況を指しています。縦軸は上質か手軽かで分けていますが、上質は自分にとって思い入れのあるものであったり、貴重な資料など。今のところ、こんな具合で本との関係ができればなと思います。

こうしてあらためて見てみると、自分が読む本という形態が電子書籍だけになるという状況は当分はなさそうな気もします。技術が発達し電子書籍端末で紙並の読み方が可能になったり、電子書籍でしかできない体験(ソーシャル機能による本を通じた今までにない「つながり」)ができるようにならない限りは。


投稿日 2010/07/27

リバース・イノベーション

■カギはリバース・イノベーション

「これからの時代は先進国中心の研究体制では勝ち抜けない」。日経ビジネス2010.7.19の「賢人の警鐘」では、ゼネラル・エレクトリックCEO(最高経営責任者)のジェフリー・イメルトが抱く危機感から始まります。

では、どうするのか。カギは「リバース・イノベーション」だと言います。

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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。