今回はビジネス小説を取り上げます。
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書籍 「象の墓場 (楡周平) 」 はフィクションではあるものの、変化する市場の中で過去の成功体験に縛られ、衰退していく大企業の現実をリアルに書いた小説です。
読者は読み進めるうちに、ビジネスでの教訓が得られる1冊です。
今回は、この小説からの教訓として、「イノベーションのジレンマ」 というテーマで紐解きます。
本書の概要
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物語の時代は1990年代前半から2000年頃の設定です。
主人公である、世界最大のフィルム会社ソアラ (モデルはコダック) の日本法人に勤務する最上栄介は、デジタル製品の販売戦略担当を命じられました。
小説では1992年のことで、当時は銀塩 (ぎんえん) フィルム全盛の時代です。最上は半信半疑のままデジタル製品の売り込みを模索します。写真業界にデジタル化の波が押し寄せるものの、ソアラは市場の変化に適応できません。
ソアラというグローバル大企業が、デジタルカメラ化の変化に飲み込まれていく様子を1人のビジネスパーソンの視点から描いています。企業を取り巻く環境の変化に対応できず、巨象が崩れていきます。技術の進歩によって衰退する産業と超優良企業の転落をリアルに描く物語です。
わりやすい逆転劇は描かれず、どんでん返しやハッピーエンドのような展開も期待できない内容です。しかし、特にメーカーに長年勤めている立場で読めば、主人公たちの奮闘や葛藤には身につまされる思いを抱けて、物語に引き込まれていくはずです。
イノベーションのジレンマ
楡周平の著書 「象の墓場」 は、世界最大のフィルム会社ソアラとその社員である最上栄介の物語を通じて、ビジネスにおける 「イノベーションのジレンマ」 を鮮明に描いています。
イノベーションのジレンマを描く小説
銀塩フィルムの全盛期を生きてきた主人公は、デジタル製品の販売戦略やマーケティングを担当することになりますが、その難しさに直面します。
デジタル化によって業界全体が急激に変化する中で、既存のビジネスモデルを変えることができません。
完成されたビジネスモデルのもろさ
完成度の高いビジネスモデルほど、実は外部環境の変化に弱いというもろさを持っています。
小説でのソアラは、デジタル化が起こるまでは安定した市場の中にあり、収益性が高く、系列会社や取引先の多くの企業とも良好な関係にありました。しかし、市場の前提が覆るような技術革新が起こると、エコシステムが巨大であるために新しい技術やビジネスモデルへの転換は極めて困難になるのです。
特に、従来のビジネスが莫大な利益を生んでいる場合、自らそのビジネスモデルを壊すことは並大抵のことではできません。何より、収益が低くなり、かつ既存の取引先やパートナー企業も不要になるような新しいビジネスに移行することは、企業にとって合理的な選択にはならないわけです。
外部環境の変化への対応
書籍 「象の墓場」 では、外部環境の変化に適応できないグローバル大企業の姿が描かれています。
良くできたビジネスモデルを構築し、収益性の高い事業構造という完成度が高すぎたがゆえに、環境の変化に適応できませんでした。まるで 「ゆでガエル」 のように環境変化や自身の衰退に気づかず、気づいたときにはどうしようもない状況に陥っています。
なんとか生き残りを図ろうとしますが、自分たちの保身やビジネスモデルの維持にとらわれるあまり、自ら変われず沈んでいくのです。
この小説には、「新しい技術や市場の需要に目を向けず、あるいは気づいていても気づかない振りをし現状維持に固執することは、長期的に見て企業の衰退を招く」 という教訓が込められています。
企業や個人のレベルでも現実を把握し、とりわけ不都合な真実を直視し、市場や消費者、顧客ニーズを察知する重要性を示しています。
小説での葛藤から学ぶ
ソアラの主人公・最上栄介という1人のビジネスパーソンの目線から描かれたこの物語は、架空の話でありながらも、実際のコダックという会社をモデルにしているので、現実のビジネスをリアルに表現しています。
主人公の葛藤は、多くのビジネスパーソン、中でも製造業に携わる方にとって共感を呼び、考えさせられる示唆を与えてくれるでしょう。小説での物語は、ビジネスの世界における変化や適応の必要性と、時代の変化に翻弄される人間の言動や内面の心理を描いています。
まとめ
今回は、ビジネス小説 象の墓場 (楡周平) を取り上げ、読んで考えさせられたことをご紹介しました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 「象の墓場」 は、市場の急激な変化に直面するグローバル大企業のフィルム会社ソアラの物語を通じ、イノベーションのジレンマを描くビジネス小説
- 既存の事業資産や成功体験にとらわれ、完成度の高いビジネスモデルがゆえに外部環境の変化に対応できず、少しずつだが確実に衰退していく過程をリアルに表現している
- 現実の中でも不都合な真実を直視し、環境変化や顧客ニーズの変化に敏感であるべきビジネスへの教訓を、主人公たちの奮闘や葛藤を通して学べる
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