投稿日 2024/04/28

時代を超えて愛される秘訣。サントリー 「ザ・プレミアム・モルツ」 が CM と対規模プロモーションに力を入れる狙いとは?

#マーケティング #定番商品 #CM

新商品に注力したくなりますが、長年愛されている定番商品の魅力を再発見することは、見落としがちなマーケティングの大切な活動です。

今回は、サントリー 「ザ・プレミアム・モルツ」 の事例を取り上げます。

定番商品を活性化させるのはなぜ重要なのか、そして、その方法について、プレモルの CM やキャンペーンなどのマーケティング施策から解説します。

ザ・プレミアム・モルツの CM



サントリーの 「ザ・プレミアム・モルツ」 の CM 「週末のごほうび」 シリーズは、アニメーションと実写の二段構えで、俳優の大泉洋さんと広瀬すずさんがそれぞれ週末にビールを楽しむ姿を描いています。

未顧客の購買が増加


シリーズの中でも広瀬さんを起用した 「すず登場」 篇は、CM 総合研究所発表の2023年7月度の新作 CM の好感度トップ10で3位に入りました (参考情報) 。

サントリーはこの CM を 「新たな CM 放映前後で、普段手に取っていないお客様 (購買頻度が月1回未満の方) の購買者数が大きく伸長した」 と評価しています。

CM での 「4つの仕掛け」 


プレモルの広瀬すずさんが出演した CM には、4つの仕掛けを入れたとのことです。

  1. CM にアニメーションを使用
  2. 国民的タレントの酒類初 CM で話題化
  3. 「#すずのビールは何ビール?」 で話題化
  4. 交通広告や旗艦店でのリアルな接点作り

順番に補足しますね。

✓ CM にアニメーションを使用
  • アニメーションだと子どもっぽく見える可能性があったため、プレモルらしさと新しさを兼ね備えた感覚を作り上げた
  • グラフィックアニメーションを使用し、プレミアム感を出すための洗練された描写に

✓ 国民的タレントの酒類初 CM で話題化
  • 広瀬すずさんは今回の CM が初の酒類 CM だった
  • 広瀬さんの起用が注目され、CM の新規性と話題性を高めた

✓ 「#すずのビールは何ビール?」 で話題化
  • 「すずのビールは何ビール?」 という銘柄を予想するティーザーキャンペーンを X (旧 Twitter) で実施

✓ 交通広告や旗艦店でのリアルな接点作り
  • JR 東日本や東京メトロなどの車内広告、新幹線ホームのポップアップショップ、ビアバー 「The PREMIUM MALT’S HOUSE」 を広瀬すず特別仕様に装飾
  • CM のメッセージを複数の顧客接点から伝えた


定番商品の活性化


ではサントリーの 「ザ・プレミアム・モルツ」 の CM やキャンペーン施策から、学べることを掘り下げていきましょう。

すでに知名度のある商品をプロモーションする狙い


プレモルは、2003年から日本のプレミアムビール市場を牽引してきた存在です。コンビニやスーパーではどこでも売っているのを見かけ、居酒屋などの飲食店でも販売されています。

すでに多くの人に知られているブランドですが、ではなぜサントリーは、テレビ CM や大規模なプロモーションを展開するのでしょうか?

想起と飲用シーンの拡大


その狙いは、認知だけにとどまらず、消費者に 「ザ・プレミアム・モルツ」 のことを想起してもらうことにあります。

プレミアムビールとしての存在感を示すと同時に、消費者の 「こういうシーンでプレモルを飲みたい」 と思ってもらう機会を増やすことを目指しているわけです。

これまではプレモルは長く 「金曜日の晩さん」 を飲むシチュエーションとして強調してきました。最近は 「週末のごほうび」 をアピールしています。

週末と聞けば、人によって土日も週末と捉える人もいるでしょう。平日の週の最後の日だけの金曜日から、土日も入れた週末にもプレモルの飲用シーンを広げようとしているのです。

定番商品の活性化


サントリーの 「ザ・プレミアム・モルツ」 の事例から学べるのは、「定番商品を活性化する重要性」 です。

つい新商品に目がいきマーケティング等を注力したくなりますが、それと同じくらい、時にはそれ以上に定番商品にも力を入れることが大事です。

定番商品は一般的には売上に占める割合が大きい存在です。定番商品はこれまでの売上がありお客さんもついていますが、今後もそうだとは限りません。

定番商品といえども何もしなければ、お客さんから次第に忘れられたり、シーン (カテゴリーエントリーポイント) で思い出してもらえなくなり、やがては縮小し衰退してしまうのです。

サントリーはここを理解しているからこそ、テレビ CM だけではなく、CM オンエアに向けての SNS での盛り上げ施策、リアル施策を大規模に展開するほど力を入れたのでしょう。

ターゲットシチュエーションの特定と商品価値の再解釈


定番商品を訴求するために、まずは商品を使ってほしいお客さんのシチュエーションの中から 「ターゲットシチュエーション」 を定めることが重要です。

次に、その顧客文脈において商品のどの側面や切り口がお客さんにとって魅力になるかの 「価値の再解釈・再定義」 を行います。

このアプローチで前提になる考え方は、想定するお客さんの 「顧客文脈」 がまずあり、そこに売り手側が 「再解釈した商品の顧客価値」 を合わせにいくというものです。これはビジネス用語の1つである 「PMF」 という Product Market Fit の概念にも通じます。

お客さんからの商品を使うことで得られるであろう価値への期待や約束 (特に新規購入の場合) 、または顧客価値への再現 (継続購入の場合) に対して、その価値でこの価格ならお金を払っていいと思ってもらうことに、マーケティングの役割があります。


まとめ


今回は、サントリーの 「ザ・プレミアム・モルツ」 の CM やキャンペーンなどのマーケティング施策から、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 定番商品の活性化は新商品の開発・展開と同じくらい、時にはそれ以上に重要。何もしないと人気に陰りが出かねないので、売上の大部分を占める定番商品を継続的に活性化させる必要がある

  • 商品を使ってほしいお客さんの利用シチュエーションを特定し、そのシーンでのお客さんにとっての商品価値を再解釈・再定義する。顧客文脈に商品を合わせにいき、顧客価値を訴求する


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。