2010/02/24

マーケティングで見る浅田真央とキム・ヨナ

バンクーバー五輪で女子フィギュアのショートプログラム(SP)が行われました。結果は浅田真央が73.78点で2位、キム・ヨナは78.50点で1位。報道結果でしか知りませんが、二人ともノーミスでの非常にハイレベルな演技だったようです。

この前の日曜だったかと思いますが、「NHKスペシャル 浅田真央 金メダルへの闘い」という番組が放送されました。浅田真央とそのライバルであるキム・ヨナの今シーズンに焦点を当てたもので、見ていて思ったのが、二人の取り組みの方向性が対照的だということです。

簡単に書くと、次のようなものでした。


■浅田真央

浅田真央とタラソワコーチが目指したのは、一言で言うと「ジャンプと表現の両立したスケート」。もともと浅田真央の代名詞がトリプルアクセルであるように、ジャンプが得意な選手です。一般的にジャンプが得意な選手というのはジャンプとジャンプの間の「つなぎ」の部分ではどうしてもパフォーマンスが落ちるそうです。それを、つなぎの部分でも完成度を高くすることで、レベルの高い構成にする戦略。放送内で紹介されていたのは、これまで女子のフィギュア選手では、ジャンプか表現のどちらかに強みを持つ選手しかいなかったようで、それだけこの挑戦は難易度の高いものになります。

つまり、浅田真央の演技は、自分がやりたいことをとことん目指す考え方です。


■キム・ヨナ

一方でキム・ヨナとオーサーコーチが目指したのは、一言で言うと「観客を引きつけるスケート」。もともとキム・ヨナが得意だった演技力に加え、映画007のテーマ曲を使うことで、いかに観客や審査員に効果的に見せるかという戦略です。これは個人的な想像にすぎませんが、北米大陸で開催されるオリンピックに007という曲は非常に相性がいいように思います。もしですが、開催地が例えばドイツのような国だった場合、もしかしたら選曲が変わっていたかもしれません。

話を戻すと、キム・ヨナの演技は、観客や審査員にいかに満足してもらうかという考え方です。



さて、マーケティングの考え方に、「プロダクトアウト」と「マーケットイン」という2つの考え方があります。簡単に説明すると以下のようになります。

■プロダクトアウト

技術やサービス、思い入れなど提供側主導の発想・行動で売っていくという考え方です。これは、すでにあるもの・作ったものから売り方を考えることになります。例えば、独自技術にもとづく商品・サービスを持っているので、市場に投入すれば売れるという考え方になります。

■マーケットイン

一方で、消費者の視点やニーズを重視し、顧客の求めるものを作り売っていくという考え方がマーケットインです。例えば、商品開発の段階から市場調査や消費者インタービューなどを行ない、消費者のニーズを探りながら作るという考え方です。


ちなみにプロダクトアウトとマーケットインについて、「マーケティングではプロダクトアウトからマーケットインへの発想転換が大事である」と言われることがあります。この背景には、成熟市場では顧客である消費者のニーズをいかにとらえるかがカギとなるというものがあるようにおもいます。

しかし、個人的にはプロダクトアウトとマーケットインはオンオフの関係ではなく、両立させる考え方が正しいのではと思っています。というのは、独自技術やノウハウに基づく差別化された商品・サービスを、それが価値があると思ってくれる顧客に提供すること、つまり前者がプロダクトアウト的発想で、後者がマーケットインの発想なのではと考えているからです。



ここまで、浅田真央とキム・ヨナ、プロダクトアウトとマーケットインという2つの対比を書きましたが、テレビを見ていて思ったのが、「浅田真央:プロダクトアウト」、「キム・ヨナ:マーケットイン」という発想でオリンピックに望んでいるということです。

マーケットインの考え方が優れているようにも思えますが、その一方で消費者は必ずしも自分のニーズが明確になっているとは限らないこともあります。例えば馬車が主流だった時代に登場した自動車、電話は家の中に固定されるものだった時代に登場した携帯電話、これ以外にもインターネットやiPodなども同じで、それまでになかった時代に果たして誰がこれらのようなものをニーズとして持っていたでしょうか。イノベーションとは時として、我々の想像をはるかに超えるものとして登場するものではないかと思います。



日本時間の26日(金)の女子フリー、浅田真央とキム・ヨナのライバル対決はどのような結末が待っているのでしょうか。


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多田 翼 (書いた人)