2015/03/07

書評「振り込め犯罪結社 - 200億円詐欺市場に生きる人々」(鈴木大介)

2000年代の前半頃より社会問題として続く「振り込め詐欺」。

当初は「オレオレ詐欺」と呼ばれ、その後 2004年に「振り込め詐欺」と名称が変わりました。




認知の徹底、警察や金融機関での対策がなされるものの、被害は減るどころか、むしろ依然として増え続けている状況です。

2014年の被害総額は、振り込め詐欺が約376億円。振り込め詐欺以外の特殊詐欺は約184億円で、合わせて特殊詐欺全体では、被害額は約559億円となったようです。2014年は初めて年間500億円を超えたとのことで、前年に比べ被害額は70億円(14%)も増えていることになります。(振り込め詐欺を始めとする特殊詐欺の被害概況)

さらに、2015年に入り1月の特殊詐欺被害額は約38億円。これは前年の14年1月よりも8億円増えています。(「特殊詐欺」被害 1月だけで38億円に|NHKニュース)

被害額は増え続けています。

【図解・社会】振り込め詐欺など特殊詐欺の被害額推移

09年に被害額が一度減っています。背景は、警察の広報活動と詐欺組織摘発を強化し、銀行も振り込み額の上限(ATMでの現金振り込みの限度額は10万円に)を設けるなど、様々な対策を講じた結果でした。被害額を約50億円まで抑えられています。

しかし、その後は一転して増加し続けています。

また、2014年は未然に阻止した額が296億円でした。阻止額も増え続けているのは、それだけ対策が進んでいると言えます。

一方で、被害額が阻止額の2倍近くあり、仮にもし阻止できずに被害にあっていたとしたら、被害額は単純計算で860億円となっていたことになります。

■詐欺加害者への取材から、実態を描いた書籍「振り込め犯罪結社」

振り込め詐欺はなぜ撲滅できないのか。

10年以上も社会問題として認知され、警察や金融機関での対策も続けられています。しかし、被害額だけを見ると減るどころか増え続けているのが現状です。

振り込め詐欺の実態を、詐欺加害者(犯行側)への取材から明らかにしているのが、「振り込め犯罪結社 - 200億円詐欺市場に生きる人々」という本です。

著者の鈴木大介氏が、振り込め詐欺をやっている/いた多数の人たちに取材をした内容をベースに書かれています。

もっとも、これが全容ではないでしょうし、この本が上梓された13年末から1年あまりが経ち、15年初めの今とは状況が違っている部分もあるでしょう。

例えば、ここ最近は、犯行グループが現金を受け取る手段として宅配便やレターパックを使う「送付型」が激増しているとのこと。これは本書では出てこなかった受け取りパターンです。

それでも、振り込め詐欺の実態は、一般的な報道等で知ることができる内容よりも、非常に多くのことが書かれています。

■振り込め詐欺の卓越した組織化

振り込め詐欺の犯行側の特徴を一言で表すと、キーワードは「組織化」です。本書を読むと、それも非常に高度に洗練された組織だとわかります。以下は本書の紹介文からの引用です。
振り込め詐欺実行犯の正体は、裏の金融ビジネスとしてフランチャイズ化された「犯罪結社」である。
その組織は、集金係である「ダシ子・ウケ子」、電話専門部隊「プレイヤー」、組織を統括管理する「番頭」、出資金のかわりに配当を受け取る「金主(オーナー)」という役職に分かれており、あくまで利益を追求する理念や組織論は、もはや一般企業がぬるいと思えるほどに卓抜したものだった。

振り込め詐欺は、(やろうと思えば)単独での犯行もできてしまいます。自分で電話をかけ、自分の口座に振り込ませる、もしくは直接会ってお金を受け取ったり、指定した宛先に送金してもらう。

しかし、実態は単独犯ではなく、犯行プロセスでの各種役割が明確になり、高度な組織ができていました。

本書では、卓越した組織になっていったのは、犯行グループが「いかに自分たちが捕まらない」ようにするために、あらゆる手段を尽くした結果であると指摘します。

組織の構図はピラミッドになっていて、各層の役割がありました。
  • 金主(オーナー):自らの資金 / 経験 / 人脈を使い、犯罪を行なうための事務所、道具に使うレンタル携帯等、振り込ませる口座、電話をかける名簿を提供する。犯行から得たお金を「番頭」と折半
  • 番頭:電話担当のプレイヤーを確保し、育成し管理する。事務所の店長や中間管理職のような存在。金主と得たお金を折半
  • プレイヤー:電話担当。複数の役割があり、「おれだけど」と最初に子や孫の役割であるアポインター、警察/弁護士や被害者側を装って振り込ませるクローザーなど、プレイヤー内でも役割がある
  • 出し子/受け子:集金担当。口座に振り込ませたお金をATMから引き出す「出し子」、被害者から直接お金を受け取る「受け子」。対面に強く演技力が求められる受け子に対して、使えないと判断されると出し子として扱われる
  • 道具屋:名簿、他人名義の携帯電話、口座等の振り込め詐欺に必要な道具を取りまとめ提供
  • 研修講師:プレイヤー育成の専門家。電話のかけかたなどのマニュアルを教える

組織内の縦のラインとして「金主 - 番頭 - プレイヤー - 出し子/受け子」があり、横のつながりとして「道具屋」と「研修講師」がいる構図です。

著者は、自らの取材を通して、振り込め詐欺組織の実態が明らかになり、次のように書いています。同じく本書からの引用です。
徹底的なセキュリティ意識やプレイヤーの育成と選抜のシステムは、完全に会社組織である。それどころか高度に管理された、「伸びる企業」そのものだ。
(中略) それにしてもどこぞのビジネス誌に紹介したいような、管理・人材育成・人心掌握のコンビネーションではないか。

振り込め詐欺グループで特徴的なのは、こうした縦と横の直接のつながりが、意図的に分断されていることです。

具体的には、最上位の「金主」が直接やりとりをするのは「番頭」のみです。金主は、実際に犯行電話をかける「プレイヤー」や集金担当の「出し子/受け子」とは一切の直接のやりとりはありません。プレイヤーも、出し子/受け子とは直接関係は持たないよう分断されています。

出し子/受け子が集めたお金も、直接番頭には渡りません。例えば、出し子 → 出し子の管理者 → 私設私書箱に送金 → 番頭、と言った流れです。さらには、間にコインロッカーを使ったりと、複雑な経路をたどります。

これがまさに、犯行グループがいかに自分たちが捕まらないためにあらゆる手段を尽くした結果。

捕まるリスクが最も高いのは、組織の下位の層である「出し子/受け子」です。上位層はそこからのつながりを断つことで、組織の末端だけが捕まり、自分たち上は決して捕まらない。いかにして生き延びるかを突き詰めてできあがった組織でした。

著者は次のように記します。
この構図を理解したとき、僕は絶望的な気分になった。振り込め詐欺の組織化は、とんでもない「悪しき構造」を日本に作り出してしまったのだ。
振り込め詐欺は、何度でも蘇る。最も逮捕リスクの高い集金役が逮捕され、プレイヤーが逮捕され、最悪番頭までもが逮捕されたとしても、頂点である金主たちが逮捕されない限りは、組織の再構築は可能だ。
一般人までもがプレイヤーに流入し、集金役は社会の貧困層や累犯者などをいくらでも用意でいる。当たり前の話で、組織の中低層の人員は、みな「仕事と収入」を求めて、詐欺に加担するからだ。

■「いかにして捕まらないか」から「騙すための手口の過激化」へ

冒頭で詐欺被害の推移を見た時、被害額は今なお増え続けている状況でした。

著者は犯行グループへの取材を通して、振り込め詐欺の業界自体が常に進化していることを聞きます。他の組織のやり方を常にチェックし、お互いの情報が流れる中でパクリ合い洗練されていく。他が捕まれば反面教師とする。こうして全体がレベルアップする、と。

本書では、振り込め詐欺を高度な組織化にした世代を「第二世代」と呼んでいます。第二世代の特徴は「いかに捕まらないか」を追求した帰結としての組織化でした。

それをさらに進化されたのが第三世代です。彼らが推し進めたのは「騙すための手口の進化」でした。

例えば、名簿情報から電話をかける相手の情報として、電話番号だけではなく住所や、さらには子や孫の住所と電話番号、勤務先や所属部署まで把握するようです。

住所情報から家を直接下見し、時には自宅に押しかけ脅す。車で拉致し銀行へ直行し、その場でお金を引き出させる手口。

さらには、同じ相手から何度も被害に合わせることも厭わない。被害者は自分が詐欺にあっていると認識しているが、それでも暴力が恐いために金を引き出せる。これは詐欺というよりも恐喝に近い手口です。

★  ★  ★

本書を読み進めていくうち、振り込め詐欺については「これだけ社会問題になってもなお被害に合うのは、騙されたほうが悪い」などとは決して言えない実態があると思えてきます。

電話をかける時の手口(詳細なマニュアル)、ターゲットを定め下見/直接自宅まで来られ、恫喝/脅迫され、暴力によってお金を取られる。

こうした現実が積み重なり、今なお詐欺の被害額が増加し続けているのです。被害者の中には、報復を恐れ被害届すら出せない方もいるのではないでしょうか。だとすると、被害実態はわかっている以上に大きいことが予想されます。

本書のあとがきで、著者が鳴らす警鐘です。
虐待家庭に育った者、貧困の中で小学校にまともに通わせてもらえなかった者、施設に育ち親を知らぬ者。詐欺の末端層や初期のオレオレ詐欺のプレイヤー層は、まさにその「阻害された者たち」だった。
だが、詐欺の現場には徐々に現役大学生、大卒者、そして一般企業の経験者までもが流入してゆき、その様相は初期とは一変した。もはや振り込め詐欺は「進路」「転職先」の一つですらあるように感じる。
それほどまでに、日本は貧しい国になってしまったのだろうか。
改めて思う。詐欺組織の隆盛の背後にあるのは、日本の格差社会、高齢者に偏重する資産、末端まで行き及ばぬ経済回復や、伸び悩む雇用、そして軽視される社会的弱者や子どもたちへの福祉だ。
振り込め詐欺「結社」。そんなものを生活の場としなければならないような人々がいることそのものが、日本の真の闇なのだと思う。




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多田 翼 (書いた人)