三越伊勢丹ホールディングスと富士通が、協働で行なった取り組みが興味深かったのでご紹介します。2011年のもので、店頭販売やサービス力をどう強化するかの事例でした。
接客力を科学的に分析することで、お客様へのサービスの質を向上 (株式会社三越伊勢丹ホールディングス様)|富士通
取り組みの背景
取り組み背景の問題意識です。該当箇所を引用します。
百貨店も商品力だけでは生き残れない時代。将来にわたって安定的な収益をあげていける構造に転換する必要があり、そのためには従業員一人ひとりが夢とほこりをもって働ける企業風土を醸成していかなければならない。接客販売力を強化することで、販売力を競争力に変えていく必要がある。
三越伊勢丹ホールディングスの課題は、どうやって接客販売力を強化するのでした。
優秀な販売員の売上は、一般的な販売員の何倍にもなるとのことです。接客販売力は経験やノウハウなど個人の力量に依存しがちな能力です。
優秀販売員のノウハウの体系化は幾度となく実施してきましたが、できることには限界があったとのことです。三越伊勢丹ホールディングスによれば、
どれくらい店頭に立っていたか、どのくらい接客していたかを目視で確認したり、アンケートを採って調査をしてみても、『ホスピタリティが大事』といった抽象的な結論は出るものの、定量的な調査・データ分析には時間や労力がかかるため、具体的な施策への『仕組み化』には至りませんでした。
課題は見えているものの、それを解決するはずの調査方法と結果が課題解決につながらず、具体的なアクションにできかったわけです。
「優秀な店員 vs 一般的な店員」 の比較調査
三越伊勢丹ホールディングスと富士通が行なったのは、店頭販売員の店頭での 「行動データ」 を収集し、優秀な店員と一般的な店員で比較分析をすることでした。
販売員の接客回数、接客時間、動線といった販売員の実行動データをスマートフォンを使っての測定です。データから店員の行動を見える化し、たくさん売る優秀な販売員と一般的な販売員の動きの特性の違いがわかりました。
✓ 優秀な社員 vs 一般的な社員
- 優秀な販売員: 普通の店員に比べて動きは明らかに少なく、売り場を見わたせる位置でじっくり全体を見ている。「いける」 と思った時に動き接客
- 一般的な販売員: 店内をまんべんなく動き回っているが、無駄な動きが目立つ。入ってきた顧客を見逃すことが多かった
出典: 富士通
なぜ優秀な店員は動かないのか
この調査結果からの発見で興味深いと思ったのは、優秀な販売員と一般的な販売員の違いが単に行動量の多さだけの違いで終わっていなく、もう一歩踏み込んでいることです。
優秀な店員はあえて動かない理由は、動かずに売り場全体を常に見ているからでした。
分析結果が興味深いのは、単に優秀な店員は動かないという結果だけではなく、一歩踏み込んだ理由まで深掘りされていたからです。ここがポイントで、課題解決となる具体的なアクションにつなげています。
調査から課題解決となるアクションへ
単に行動データを集計しただけでは、得られた結論は 「優秀な販売員は店内を動かない。だからあまり移動しないようにしよう」 という課題解決策をミスリードします。
行動データを収集し、集計し分析や考察をした調査結果として、「売り場全体を観察する」 「顧客が入ってきたことを見逃さない」 ことがインサイトとして重要です。店内を無駄に動かないのは、これらを実践したからにすぎないのです。
行動データ活用した興味深い事例
三越伊勢丹ホールディングスではこれまでは課題がありました。優秀な販売員のノウハウを体系化するために、従来はアンケート調査をやったものの抽象的な答えしか得られず、打ち手につながらないという問題意識です。
アンケートという被験対象者への意識データではなく行動データをうまく活用し、問題解決を試みた興味深い事例です。行動データでファクトを見つけるだけではなく、構造的な要因を掘り下げて洞察を得ています。
今回の事例ではやっていないかもしれませんが、行動データでわかったことや新たな仮説を、アンケート調査という意識データで補完するやり方もあるでしょう。
こうした行動データと意識データの組み合わせは、応用ができそうです。
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