2015/03/28

書評: Google vs トヨタ - 「自動運転車」 は始まりにすぎない (泉田良輔)




競争ルールとイノベーションについて考えさせてくれたのが、Google vs トヨタ - 「自動運転車」 は始まりにすぎない という本でした。興味深く読め、一気に読み終わりました。



いま自分たちが競っている市場の競争のルールは何か


この本で印象的だったのは、イノベーションは 「既存の競争ルールの無効化」 という考え方でした。以下、本書からの引用です。

「米国の自動車メーカーがトヨタに勝つためにはどうすればよいか」 と聞かれれば、何と答えるだろうか。

日本人であれば、「エンジンの燃料効率を改善してシェアを奪う」 とか、「工場のキャパシティを拡大して生産台数を増やす」 とか、「GM とフォードを足せば、トヨタを超えるのではないか」 といった答えが返ってきそうである。

しかし、米国でイノベーションの何たるかを理解した人たちは、「いま自分たちが競っている市場の競争のルールとは何か」 を考えるのである。(中略)

市場のリーダーでない場合には、「その競争のルールを無力化する方法」 を考える。(中略)

日本人の回答は、競争のルールを理解するところまでは同じだ。しかし、いまある競争のルールの中で器用に走り切ろうとしてしまう。


イノベーションが起こるのは自動運転車


本書では、自動車のいまの競争ルールを変え、イノベーションが起こるのは 「自動運転車」 だと言います。

なぜイノベーションが起こるかと言うと、競争ルールをより上位レイヤーに変えるからです。上位レイヤーでの競争に変わるとは、自動車という製品単体 (ハードウェアだけ) の競争から、ハードとソフトの競争になり、さらには社会インフラ全体までに及ぶことです。


自動運転車の2つの設計思想


本書では、自動運転車の設計思想には大きく2つがあると説明されます。オートパイロット (Autopilot) と、自律運転 (Self-driving) です。

オートパイロットは、運転の主体者は人間であり、人の運転を機械がサポートするという考え方です。飛行機でも使われている方式です。テスラ CEO のイーロン・マスクはこの考え方です。

一方のセルフドライビング (自律運転) とは、グーグルが2015年現在で開発を進めているような最終的には人が運転操作には関与せず、機械だけで運転ができてしまう方式です。


自律運転が実現すれば


自律運転を実現させるためには、単に自律運転車を開発し公道を走らせるようにしただけでは足りません。

なぜなら、自律運転車が移動手段として機能するためには、社会インフラ全体が自律運転車に適用されていないといけないからです。

もし実現すれば都市や町全体の、世の中の仕組み自体が大きく変わります。例えば、自分が車を運転しなくて済むので、車で移動する感覚は今のタクシーのようになります。行き先を伝えるだけで、あとは勝手に目的地まで運転してくれるでしょう。

車内の雰囲気は、今の車の前座席と後部座席にきっちりと分かれるというよりも、もっと家の部屋のようなパーソナルスペースになると思います。そう考えると、自律運転車での移動中は外出というよりまだ家にいる感覚で、目的地に到着して初めて外出したという意識に変わるかもしれません。

自律運転車が普及した時、今までは通勤に電車を使っていた人が自動車通勤に変える人が増えそうな気がします。道路上に自動車が増えるので渋滞をどう緩和するか (自動運転により渋滞最小化をどう実現するか) もさることながら、通勤後の駐車スペースの問題が出てきます。

駐車スペースを解決する手段としては、会社付近の駐車場を増やすよりも、自律運転車で出勤後も駐車せずに、車だけをそのまま道路に走りさせ続け、会社を出る頃に呼び寄せることかもしれません。

日中に車をただ走らせているだけではもったいないので、自分が会社にいる間はタクシーや運搬トラックとしての役割で有料で使ってもらうような有効利用もあり得ます。

一方で、車内がよりパーソナルスペース化するならば、他人とシェアしたくないと考える人もいるでしょう。自律運転車をコンパクトにして、道路や公共スペースにおける一台あたりの占有率を下げることが解決策になるでしょう。




都市デザインの競争へ


人が運転せずにコンピュータだけで運転が成立すると、他にも様々な影響や変化が起こります。つまり、自動車における競争が、単に自律運転車の開発だけではなく、都市デザインの競争になるのです。

オートパイロットではなく、Self driving car (自律運転車) を見据えているグーグルは、自分たちで都市そのものを設計するようになっていくのかもしれません。

ちなみに、グーグルの CEO (2015年現在) であるラリー・ペイジは、現在の空港の仕組みに不満を抱いており、自分たちで今とは全く違う空港をデザインできないかを考えていることを示唆しています。

参考:Larry Page Wants Google To Build A Super-Efficient Airport The Rest Of The World Can Copy | Business Insider


都市デザインだけではなく、都市と都市を結ぶ 「都市間デザイン」 もグーグルが実現したい未来の1つなのでしょう。


自動車が社会そのものを変えるか?


自動車が自動運転車に変わっていけば、単にハードウェアが変わるだけではなく、人々の移動方法に影響を受けて都市全体が変わります。社会インフラという複合システムが変わっていくのです。

本書では、グーグルに対抗できる数少ない存在としてトヨタを挙げています。

自動車がフックになり、社会をどう変えていくのでしょうか。



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多田 翼 (書いた人)


外資系 IT 会社にて 「シニア マーケティングリサーチ マネージャー」 (LinkedIn) 。

1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身。学生時代は京都。家族4人で東京23区内に在住、2人の子どもの父親。気分転換は毎朝1時間のランニング。

書いている内容は、所属組織や会社の正式見解ではなく個人の見解です。